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《神》の古具使い  作者: 桃姫
聖剣編 SIDE.GOD
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37話:図書室の先輩

 またも、ファルファム先輩の回想が入った様な気がしたが、まあ、気にしないことにしよう。


 昼の休憩時間に俺は、図書室に本を返しにきていた。本、というのは、この間、謎の先輩から渡された「神々の図鑑~神様は女の子~」である。入り口の端末で調べると貸し出し手続きはされていない様なので、元の棚の位置に戻しておいた。


 いくつか読みたい本が無いわけでもないが、授業も近いので、あまり読む時間はなさそうだな。俺は、そう思いながら、一冊の本を手に取り、席に着いた。本のタイトルは、「聖道学」という書だった。


 パラパラと読み始めて、興味を引かれて、じっくりと読みふける。なるほど、興味深いな。いろいろな意味でタメになる。


「ん?」


 気づけば、目の前に本が積んであった。それも5冊も。いくら本を熟読していたからと言って、目の前に人が来て、本を積めば気づかないはずもない。しかし、そうは言っても現に目の前には本が積まれている。


「いつのまに」


 いつの間に積んだんだ、と呟こうとしたが、それは途中で止まった。本の並び順が、気づけば変わっていた。それと本のタイトルもさっきまであったのが一冊消えて、別の一冊が追加されていた。


 時間停止能力……?


 俺は、そんな風に考えてみる。まあ、時間停止能力が有るのなら、このくらいのことは造作もないだろうな。


 そういえば、ずっと疑問であったのだが、時間停止能力というのは、一体どういう力なのだろうか。


 例えば、この世界を構成する物の全ての時間が止まれば、空気もその場所から動かないので吸うこともできないだろうし、光も止まっているから何も見えなくなる。

 そうなれば、生きていけないはずだ。それに対して、例えば、人間や生物の思考や動きだけを止めるのならば、人間は確かに止まったように感じるかもしれないが、自転も公転もする。つまり、停止が解除されたら時間が経っていて違和感を覚えないほうがおかしい。


 では、光や空気は動くのにそれ以外が止まっている、などという都合のいい力が存在しうるのだろうか。結論として、存在するのかもしれない。


 まあ、そうすればいろいろやり放題だしな……。いいな、それ。


 しかし、まあ、これが時間停止じゃないと仮定して、そうなると、なんだ?認識をずらしているのか……。


 相手の盲点(もうてん)に入るとか、その辺の石ころ程度にしか認識されなくなるだとか、透明になるだとか、色々似たような作用はあるがそういった類の力なのかもしれない。


「なるほど、な」


 そして、ここにきて、俺は理解した。図書室、本、そして、認識できない相手。これらのことから、先日の朝に出会った先輩のことを思い出した。あの髪を青く染めた「べき」と語尾に付けたがる先輩だ。


 しかし、どこに居るか分からんな。おそらく席に座って本を読んでいるのだろうが……、目測で、座高を割り出してみる。


 ふむ、大体の位置は分かったが、さて、どうするか。前回はどうしたんだっけな?


「しかたない」


 俺は、すばやく立ち上がると、先輩が座っているであろう席の後ろ側へ回り込み、割り出した座高から、胸の位置を見極め、肩から抱くように鷲掴む。


――むにゅん


 手になじむ、そんな感触を感じながらも、気がつけば、俺の眼前に染めた青髪が現れていた。生え際が茶色っぽいので元来は茶髪なのだろうか。それと暑苦しそうなマフラー。前にあったときは、まだ外なので許容範囲だが、室内でも、この時期にマフラーをしているとは相当である。


 女性特有の鼻につく甘い香り。それが俺の鼻腔をくすぐった。


「ふむ……」


 俺は、この先輩の胸を堪能するように、数度に亘って揉んでみた。ふむ、秋世と違って、声を漏らさないな。感度の違いってやつか?


「……今すぐやめるべき」


 掠れる様な上擦った声を上げた先輩。どうやら何も感じていないってわけではなさそうだった。


「セクハラ」


 凄い可愛い声でそう言われた。何この人、可愛い。頬を薄紅に染めて、上目遣い(俺の位置上必然的)で見てくる様子に、思わず可愛いと思ってしまった。

 手を胸から離して、向かいの俺がさっきまで座っていた席について、いいわけをする。


「いや、悪い。ちょっと確かめてみたかったんだ」


 いるのか、いないのか、それを確かめたかったがためにこのような暴挙に出てしまったのだ。うん、そうだ、だから、胸を揉んだのも仕方ないことだったんだよー。


「胸の大きさを確かめたかったのなら警察に行くべき」


 あ、勘違いされた……。いや、まあ、この状況で確かめたかったからと言ってもそうなるわな。


「いや、ちゃんといるか確認したかっただけだ。おっと、先輩には敬語を遣ったほうがよかったか?」


 そういえば先輩だったんだよな……。敬語を遣ったほうがいいかも知れない、と思い聞いてみた。


「構わない。それよりも揉みしだいた責任をとるべき」


 責任を取れって、どうすりゃいいんだ?特に用事は無いから何か面倒を押し付けられる程度なら構わないんだが。


「まあ、別に責任を取るのはいいが……」


 しかし、まあ、この人はどういった力を使って消えているんだ?それが先に聞きたいよな。


「先に、どうやって消えていたのか教えてくれ」


 いや、まあ、俺が条件を付けられる立場でないのは知っているんだが、気になることは知りたいのだ。


「《存在の拒絶(ノット・ファウンド)》」


 「Not.Found」、だって?見つからないってことか?

 まあ、普通に考えるなら《古具》ってことか。しかし、なら、何故生徒会に入っていないんだ?


 ってまあ、この能力なら、生徒会側も認識していないんだろう。いや、そもそも、普段からほとんど姿を消しているなら授業とかどうしているんだろう?授業中にいなかったら流石に……、てかそれ以前に出席認定されないから不登校扱いなんじゃないのか?


「ふむ、授業とかどうしてるんだ?」


 一応聞いてみた。まあ、あまり返答は期待していないのだが。


「わたしは、授業にはでなくていいの。特別免除生(とくべつめんじょせい)だから」


 特別免除……。ああ、特別学業免除生か!


 特別学業免除制度とは、国内外、どちらの出身かも問わず、生徒の特色の強い三鷹丘学園では、特殊な成績や功績がある生徒のなかで、それに見合うことが証明され学園長と理事長に認可された場合にのみ授業免除が許可される。許可された生徒は出欠の有無に関わらず卒業できることを認められ、授業の単位を気にしない特例とされる。


 しかし、ほとんどの生徒が特別学業免除制度を利用しようとせず、しようとしても認可されないことがほとんであるために、目の前の先輩は、充分稀有だと言える。


「あ、そういえば……」


 俺は、ふと思い至った。先ほどから、頭の中で先輩と称していたが、俺は彼女の名前を知らない。


「まだ何かあるの?」


 可愛らしい声で俺に言う。きっと声だけで言えば、かなり可愛い天然のアニメ声とかに分類されるやつだろう。


「名前、聞いてなかったな。俺も教えてなかったし」


 そう言うと、目の前の青髪の先輩は、ハッとした。彼女もうっかりしていたのだろう。というわけで自己紹介。


「あ~、俺は、青葉紳司。青い葉っぱで青葉、紳士の紳に司るで紳司だ。2年生だな」


 俺の簡単な自己紹介に、先輩は、頷いた。そして、彼女もまた、俺に名前を教えてくれる。


「わたしは、春秋(しゅんじゅう)(うたげ)。3年生」


 しゅんじゅう……?


 一瞬考えてしまったが、おそらく、年月とか年齢とかの意味である「春秋」だろう。宴は宴会(えんかい)の宴の字か。


(はる)(あき)(うたげ)って言う字であってるか?」


 俺が念のために聞くと、宴は少々驚いた様な顔をした。一発で漢字を理解したのが珍しかったのだろうか。


「うん、そうよ。それにしても驚いた。一回目でわたしの名前の漢字を当てたのは初めて」


 そりゃ、むしろ、こんな言葉を知っている方が珍しい。いちいち、「無駄に春秋重ねて」と言うより「無駄に年を重ねて」と言う方が伝わるに決まっているのだから。


「まあ、知識だけはある。顧問からも『歩く図書館三世』などと呼ばれるくらいにはな」


 ていうか、結局のところ「歩く図書館」はいいとしても「三世」って何だよ。と思ったが、じいちゃん、父さんとも知り合いってことを考えると順当にいって、じいちゃんが「一世」、父さんが「二世」、俺が「三世」なんだろうが……。


「顧問……?部活?」


 そうか、授業に出なくていいのなら集会にも出ないのか。なら、俺が生徒会役員だって知らなくてもおかしくないな。


「違う。俺は生徒会会計でな。生徒会顧問だよ。天龍寺秋世とか言う50歳のおばはん」


 まあ、見た目は20代だがな。まあ、俺は事実しか言っていない。


「誰がおばはんよ」


 頭の上に銀朱の光とともに本が落ちてきた。しかも角が直撃した。痛い。どうやら、秋世が、図書室に入ってきて、俺の話が聞こえ、イラッときて近場にあった入り口近くの本を《銀朱の時ヴァーミリオン・タイム》で俺の頭上に飛ばしたのだろう。


「痛ぇな」


 俺が頭を押さえ、たんこぶになってないか何度か(さす)る。大丈夫そうだな。そして、俺は秋世の方を向いた。


「ちょっと紳司君。もう授業とっくに始まってるんだけど……」


 俺に注意をしつつ、一瞬、後ろにいた宴へ目が行って、硬直した。しかし、すぐに元に戻る。


「一瞬、【蒼刻】かと思ったけど違うみたいね」


 なにやら変なことを言う秋世だがいつものことなので気にしないことにしよう。しかし、宴が髪染めてるのを見て何も注意しないってのも教師としてどうなんだ?


「って、あれ、そこにいた子は?」


 どうやら、秋世と俺が目を離している隙に《存在の拒絶(ノット・ファウンド)》でこの場を離脱したらしい宴。


「幽霊でも見たんじゃないのか?」


 などと茶化し気味で言いつつ、俺は、机の上に置かれた小さなメモ帳の切れ端の丸っこく可愛らしい字を見逃さなかった。


「……『また会いましょう。きちんと責任とってもらうから』、ね」


 俺の小声で呟いた言葉は、秋世には絶対に届いてないだろう。まあ、秋世に聞こえないように言ったから当然なんだが。


 こうして、俺は、謎の先輩、春秋宴と出会ったのだった。

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