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《神》の古具使い  作者: 桃姫
終語編
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369話:和道武門伝 始まりの物語

――いつまでも、こんな日が続くと思っていたんだ。


 高校2年、春。俺、青葉(あおば)雷司(らいじ)は、幼馴染の九鬼(くき)月乃(ゆえの)と共に、復学したという生徒に会いに行くことになった。なんで3ヶ月間行方不明だったらしく、そこに興味を持った月乃が俺を誘ったのだ。確か、名前は雪白(ゆきしろ)煉夜(れんや)。妹の火邑(ほむら)ってのは、鷹之町第四中に通っているらしいので妹の知り合いだ。


 3ヶ月と言えば、1年の4分の1、と言うと短くも感じるが、よく考えればかなりの長い時間だろう。普通なら3ヶ月もの行方不明、いろいろな事件に巻き込まれたとかだろうか?家出にしても3ヶ月は長いだろうしな。


「やあ、君が雪白煉夜かい?」


 俺の第一声はそんなものだった。すると、まるで、生気のないような、気力がない様な彼は俺の方を見た。


「ああ、そうだが、お前は……誰だ?」


 訝し気にしてはいるが、それでもやる気がなさそうだ。まるで、世界の全てがどうでもいいと思っているような、そんな瞳をしていた。


「俺は、青葉雷司。こっちは九鬼月乃。君がいなかった3ヶ月について、興味があって話を聞きに来たんだ」


 俺の言葉を聞くなり面倒臭そうなものを見るような目をしていた。そして、ため息を吐きながら、彼は言う。


「覚えてない。気がついたら3ヶ月経っていた」


 ……3ヶ月、実を言うと、俺には引っかかっていることがあった。まさかとは思っていたが、これは黒かも知れないな。


「そうか、覚えていない、か。まあ、君がそう言うならそうなのだろう。だけど、1つだけ確認したいことがある」


 俺は、父さんから貰っていた唯一のカードを切ることにする。これは、あくまで賭けでしかないんだがな。


「なんだよ」


 そっけない態度の煉夜だが、俺は、少しタメながら彼に言う。この言葉で反応が見られれば、おそらく……


「クライスクラ……この単語に聞き覚えはないか?」


 バッと俺の方を向いた。まるで、信じられないものを見るかのような目で、俺を見ていた。さっきまでの死んだような目はどこへやら……


「おい、どこでその単語を……いや、その名前を?!」


「やっぱりビンゴかよ。おいおい。お前の3ヶ月は何年だ?」


「100年だよ」


 かなりの食い違いだな……。だからこそ、あんな目を……?いや、それだけではない虚無感のようなものを発しているような気がするんだがな……。彼はいったい……何を抱えているんだ?


「で、どこで知ったんだよ。クライスクラのことを……」


 クライスクラ……その単語は、父さんから聞いたものだ。しかし、これが一致したのイは本当に偶然であり、そもそも、父さんは煉夜のことを知らないはずだ。


「父さんが言っていたんだ。乱れがあって、その原因は、クライスクラへの移動と帰還。最初の乱れから3ヶ月後にまた乱れがあった。もしかしてとは思ったけど、君のことだったか」


 俺の言葉に、煉夜は、考えこむように眉根を寄せて、そして、しばしの時を置いて、応えた。


「もしかして……いや、六人を解放した禁忌の少年ではないはずだ。ということは、偶然か……いや、他にもいたということだろうか?」


 六人、禁忌……どうやら、クライスクラでいろいろとあったようだな。まあ、それはさておき、俺の目的だった3ヶ月については聞けたことになるんだが、少し気になることも出てきた。


「そういえば、1つだけ聞いておきたいんだが、クライスクラでキッカと言う名前の人物に会わなかったか?」


 少しの間をおいてから、煉夜は、確認の意味も込めるように言う。


「キッカ・ラ・ヴァスティオンのことか?」


 ……やはり、クライスクラに居るのか。ホド……8番目の座位に立つ者が。二度と会うことがないとは思うがな。


「キッカって確か、雷司の……」


 月乃は知っているんだもんな。俺とアイツの関係性について。そう、キッカ・ラ・ヴァスティオンとは俺の運命の相手である。運命の相手と言っても、婚約者だとかそう言うことではない。


「知り合いだったのか?アイツ、確か、龍殺しの王だったはずだが」


 ラ・ヴァスティオンは龍殺しの代名詞、当然だろうな。むしろ、龍以外と戦うのは無理だろう。


「幻獣ガベルドーバを倒すときに【緑園】と共にアイツも力を貸してくれたからな」


 【緑園】……?二つ名か何かだろうか?ガベルドーバってのも聞いたことないし。


「いや、まあ、あの頃は、大規模な力押しを覚える前だったからな。今度、戦うことがあれば、俺と【緑園】だけで圧倒できるだろう」


 そんな風に言う煉夜。キッカ・ラ・ヴァスティオン、……紫龍(しりゅう)橘花(きっか)について、俺は、おそらく、煉夜よりも詳しいだろう。紫龍……それは死龍からの変字。龍殺しの一族特有の【オレンジ色の力場】をして、オレンジ色の髪をしている。


「マシュタロスの外法さえなければ、俺はまだ、向こうだったんだがな」


 煉夜がそう言った。マシュタロス……アシュタロスじゃなくてか?アシュタロスと言えば、ソロモンの72柱のアスタロテのことだが、マシュタロスってなんだよ。


「マイシュ……なんたらの異術ってのが、何か名前を変えて伝わった結果って、【四罪】が言っていたな」


 マイシュ……レイキュリア=マイシュ・タルード?!父さんが言っていた存在のことだろう。こんなところでその名前を聞くとはな。


「それにしても、雪白は、雷司と同様、異常なタイプなのね」


 月乃が言う。おい、誰が異常だよ。俺は父さんや母さんとは違ってまともな人間だっていうのに。


「俺は元来、普通の少年だ。体験が異常だっただけだっての。俺からしてみれば、お前らの魔力が異常で怖いんだが?」


 あ~、それは何とも……。俺は父さん譲りの力だし、月乃は、父さんや母さんも認める潜在能力を持っている。それを彼は魔力と言う表現をしているのだろう。


「いや、ウチの両親の方がヤバイと思うがな……。なんでも世界を救ったことがあるとかないとか言っていて、その力は、俺なんかよりもよっぽどすごいからさ」


 俺の言葉に、煉夜はため息を吐いた。だいぶ、顔がましになってきたな……。


「この世の中にもそう言う超常的なものがあるんだな」


「いや、俺の場合は別と言うか……えっと、ウチの両親は、チョイ訳ありだからな。この場合、この世の定義に当てはめるのはアウトだな。《古具(アーティファクト)》とかはこの世界にはない概念だし。いや、もうシステムが消滅したから、ほとんど消滅したようなものなんだけどな」


 そも、ウチの両親と言うのは……特に父さんの方は例外と言うべき存在だからな。あんなのがうじゃうじゃいたら世界は崩壊するんじゃなかろうか。まあ、伯母さん……父方の暗音伯母さんは父さんよりもヤバイような気がするけど。


「そうか……」


 どことなく落ち込んだ声の煉夜だが、どうしたんだろうか。何か悩みがあるなら解決してやりたいもんだがな……。


「いや、クライスクラが忘れられないんだよ。ぶっちゃけ、こっちよりも長くいたからさ。だから、そう言うのが感じられるんだったらよかったんだが」


 う~ん、この世にもそう言うのが無いわけじゃないんだがな……。まあ、それを教えると首を突っ込んでいきそうだし。


「まあ、言うやつによっちゃ現実逃避とも言うかもしれんが、ゲームでもやってみりゃいいんじゃないのか?そう言う世界を模したもんはいくらでもあるぜ?」


 主にADV(アドベンチャーゲーム)で。まあ、そんな話はどうでもいいんだが、これからが少し心配になるな。


「まあ、これからよろしくな、煉夜」


「……ああ、よろしく、雷司。それから……えっと月乃だっけか?」


 煉夜の言葉に、月乃は、頬を染めながら呟く。


「い、いきなり名前で呼ぶとか気やす過ぎよ」


 その言葉に煉夜は少しまいったような顔をしていた。そして、困ったように頬をかいて、「う~ん」とうなる。


「あ~、あっちでの習慣で苗字とかさん付けとかは慣れないんだよな……。悪かったな、九鬼」


「い、いいわよ、別に。慣れないんだったら特別に名前で呼んでも」


 はぁ~、青春だねぇ……。俺はこういう相手が現れないからなぁ……。キッカ?いや、あいつはない。





 そして、それからしばらくの時が流れる。夏休みに、家でくつろいでいるときだった、スマートフォンに着信が響く。相手は煉夜。この時の素直な感想は珍しい、というものだった。


『もしもし、雷司(らいじ)か?悪いんだが、少し話がある』


 まあ、そうでもなければ煉夜がわざわざ電話をかけてくるなんてことはないだろう。だから、何かがあると察した。


「どうした、煉夜。お前が、わざわざ電話をかけてくるなんて珍しいな。別に構わないぞ。今日はうるさい妹たちも買い物でいないから、ゆっくり話ができる」




 この話は、煉夜の運命が大きく変わったことを示すものになっていく。そして、俺と月乃も、この電話をきっかけに、それぞれの道が分かれていくのだった。だから――いつまでも、こんな日が続くと思っていたんだ。でも、続くことはなかった。


 これは――そんな俺たちの物語。

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