360話:エピローグSIDE.GOD
窓辺に腰を掛けながら、沈み行く夕日を背に、俺は待っていた。来てくれるだろう。いや、来ないということはないはずだ。しかし、これから俺が言うことを、彼女がどう思うかしだいで、これから呼んでも来てくれるかが変わってくるだろうな。そんなことを考えながら、誰もいない教室で、1人、待っていた。
静けさを増し、外からの声も聞こえなくなってきたころ、廊下を歩く上履きの足音が聞こえてきた。どうやらきたようだ……。俺は覚悟を決める。
カラカラと戸を開けて入ってきたのは、茶髪に緋眼と蒼眼の少女。その名前は花月静巴。そして、かつての名前を七峰静葉。俺の前世の婚約者だった。
「どうかしましたか、青葉君……、っと誰もいないみたいね。なら、こっちでいいかしら、紳司」
俺は頷きながら、彼女を見やる。暮れる夕日で逆光になっている彼女からは俺の顔がどう見えているだろうか。
「なぁ……静巴。俺は、さ……お前のことが好きなんだ」
俺の言葉に、微笑む静巴。それは喜びでも、拒絶でもなく、知っていると言うような顔だった。それも、全てを見透かしているかのような。
「ええ、知ってるわ。そして、これから貴方が何を言うかも分かるわよ?」
そんな風に苦笑する様子は、かつても静葉を思い起こさせるには十分だった。茶色の髪を少しいじりながら、こんな風に言う。
「そもそも、前世では、逆だったのよ?そう考えれば、私が反対する要素はないでしょう?他の子たちがどうかは知らないけど、少なくとも、そんなにあなたを思う気持ちが柔な子はいないでしょうね」
ああ、言われてみれば、前世ではフィーラ以外の妻は、どちらももう1人夫を持っていたな。どうやら、その立場が逆になったようだ。
「はぁ……、お前はなんでもお見通しだな。その通り、俺は、みんなが好きだ。だから、全員を選ぶことにした!」
その言葉ににっこりとほほ笑む静巴。言葉に満足した、とでも言いたげな顔だった。そして、俺に向かって言った。
「まあ、ハーレムを作るのはいいけど、この現代社会でどうやって維持するのかしら。それこそ政治的な介入もしようと思えばできなくはないでしょうけど」
そこはもちろん俺に考えがある。じゃなきゃこんなことは言わないさ。誰か1人に決めていただろう。俺は、それを静巴に教えた。
「なるほど、そう言う手があったわね。面白いじゃない。まあ、そう言うわけで、わたしは賛成よ。まあ、頑張って頂戴ね」
ウィンクを飛ばしながら静巴はそう言った。
学校の屋上は、少し風が強かった。少しばかり肌寒いが、フェンスに寄り添って待つ。下校していく生徒の姿すら見えなくなっていた。そこに銀朱の光を漏らしながら、薄赤髪の女が現れる。三鷹丘学園教師の天龍寺秋世だ。
「よぉ、秋世。来たか」
秋世は、少し怒り気味の様だったが、俺の顔から何かを察したのか、眉根を寄せて真剣な顔つきになる。
「どうしたのよ、こんなところに呼び出すなんて」
怒りは消えて、ただ完全な疑問として、俺にそう問いかけてきた。だから、俺は単刀直入に言うことにしたのだ。
「なあ、秋世……愛してる」
俺の言葉が理解できずに、一瞬考えた秋世は、すぐさま顔をゆでだこのように真っ赤に染め上げた。ここが乙女だったらりんごのようになどと言うのだが、秋世だからゆでだこで構わないだろう。
「なっ、なっ、ななっ!」
フリーズしてそんな言葉を繰り返す秋世。そして、しばらく「な」を繰り返していたが、ようやく平常に戻ったのか、俺に言う。
「そ、そそ、そんな、教師と生徒で恋愛なんて、ましてや年齢差35くらいあるのに、でも、その、あの」
指をもじもじとさせながら、そんな風に言う乙女チックな秋世。こりゃ、「りんご」の方がよかったか?
「だけどな……」
俺の言葉に、秋世は、何か言われることを悟ったのか、少し悲しそうな顔をしていた。けっこう早とちりをするよな、こいつ。
「俺はお前を含めて、みんなが好きだ。だから、全員を選ぶことにした!」
面を食らったような顔をする秋世。しばらく理解できなかったようだが、理解したのか、珍妙な顔をする。やっぱり乙女じゃないから「ゆでだこ」で十分だ。
「はぁ?!全員って、そんなハーレムみたいなこと、現代日本でできるわけないでしょ?!」
と、そんなことを言う。根本的に、本来言うべき点とはずれているのだが、本人はそれに気づいていないのだろう。秋世は紫雪だったときからそうだったから。
「ってことは、できるなら認めるってことだよな?みんなを選ぶことに反対しているんじゃない、それが現代日本でできないことに対して言っているんだろ?だったら、できるなら、お前は賛成するんだよな?」
俺の言葉に、自分の発言と思考を考える秋世。しばらくの間の後に彼女は頷いた。だから、紫雪と一緒になった彼女になら理解できる俺の考えを彼女に言うのだった。
「確かに、……それなら不可能じゃないわね。でも、大丈夫なの?」
俺はしっかりと頷いた。
真っ暗な生徒会室。そこで、俺は、自分の席に腰を掛けながら何をするでもなくぼーっとしていた。ゆったりと時が流れるのを感じる中、ドアが開かれる。ドアの向こう、最初に目に入ったのは鮮やかな桃色だった。そんな髪色をした人物が入ってきて電気をつける。
「きゃ、ちょっと、紳司、中にいるんなら電気くらいつけなさいよ」
そんな風に言うのは、市原裕音先輩。俺の幼馴染の関係者であり、そして、京都で、彼女の家の問題を解決したのも、今は昔に感じてしまう。
「ユノン、好きだよ」
いつもは市原先輩と呼んだり、ユノン先輩と呼んだり、デートの時のようにたまにフランクに話したりはしていたが、呼び捨てることは滅多になかった。だけど、今日は、特別だ。
「え……ちょ、え……」
困惑に目を回すユノン。今は特別。心の中でも呼び捨てる。この思いが本物であることを伝えるために、精一杯の気持ちを込めて、そう言う。
「そ、その……わ、……私も、その、紳司のことが好き」
頬を染めながら、伏し目がちに言うユノン。誰かに引け目を感じているような、そんな感じがする。俺は、そのまま、ユノンに言う。
「だけど、俺はユノンも含めてみんなが好きだ。だから、全員を選ぶことにした」
そう言って、ユノンの身体を抱きしめる。抱きしめられて、一瞬、頭が真っ白になったようだが、徐々に、頭がしっかりとしてきて理解をしたようだ。
「え、それって、みんなって、ミュラーとか、みんな?」
「ああ、そうだよ。みんなだよ」
俺の言葉に、どこかホッとしたような表情のユノン。そして、全てを納得したように、俺に向かって言う。
「私1人じゃ満足できないなんて、紳司はスケベねぇ……。でも、まあ、貴方がそう言う人だって、最初っから分かってたもの。だから、いいよ。私は認める」
桃色の髪をたなびかせながら、生徒会室で、俺とユノンは笑い合う。
3年生の教室と言うのは少し緊張する。誰もいないと分かっていても、どことなく、俺たちの教室とは別の雰囲気を纏っているのだ。どうせ、一年もしないうちにここをつかうことになったのだから、緊張なんてしていられなかったんだろうけど。
そんなことを考えながら、沈んだ夕日を見て、浮かぶ月を見やる。しっとりと照らす月は雄大だった。そんなことを思っていると、開きっぱなしの扉から、眩い金髪が教室に入ってきたのが分かる。月明かりでも煌めくその荘厳さは、思わず触れてみたくなる。
「どうしたの?」
そんな風に声をかけてきたのは、ミュラー・ディ・ファルファム先輩。美しさの中にかわいらしさを併せ持つ美女だった。俺は、彼女に、少し変わった言い回しをする。
「月が綺麗ですね」
「死んでもいいわ、なの」
俺の言葉にスッと返すあたり、よく学んでいるのか、それとも、たまたまそういう知識があっただけなのか。
「でも、シンジ君は、きっとみんなに『I love you』とささやいている気がするの。そして、みんな『yours』と返すの」
どうやらミュラー先輩にも見抜かれているようだった。そんなにも俺って分かりやすいのかな?そう思いながらも、ミュラー先輩に言う。
「その通り、全員が好きです。だから全員を選びました」
俺の言葉に、納得するようにうなずく先輩。そして、俺のことを抱きしめた。ミュラー先輩の胸が思いっきり顔に当たっている。
「日本人は奥ゆかしいかもしれないの。でも、あたしは日本人じゃないの。だから、全力で勢いよくいくの」
そう笑うミュラー先輩の笑顔は、月の光を受けて煌めく金髪よりも輝かしかった。
昇った太陽が、上から俺を照らす。少し眩しい午後の昼下がり、公園のベンチに座る俺は、誰もいない公園の中で、木陰で涼むようにぼーっとしていた。そこに、歩いて寄ってきたのは、愛らしい格好をした冥院寺律姫ちゃんだった。
「やぁ、律姫ちゃん、こんにちは」
俺の言葉に、笑って頷き返して「こんにちは、先輩」と言う。律姫ちゃんは、俺の隣に座った。そっと手をつなぐ彼女。少し前までは、こちらに触ることすらためらっていたのに、今はもう、ためらうことすらなくなった。
「ねぇ、律姫ちゃん、……俺はさ……」
俺が何を言おうとしたのかを察したのか、律姫ちゃんは、にっこりとほほ笑んで、その言葉を制した。
「分かっていますよ、先輩、わたし……いえ、あたしとの恋の話ですよね」
何かを悟っているかのような彼女。微笑みながら、俺の手を握る強さが増す。そして、俺に寄り添うようにもたれかかる。
「先輩はきっと、全員を選ぶんだろうなぁーって、なんとなく思っていたんですよ。あの人と塔で戦ってから、そうなんだろうって」
ああ、彼のことか。そう言えば名前を聞きそびれていたな。まあ、次にもし会うことが有ったらその時に聞くとしよう。
「姫聖、それが君と俺の間に生まれる子供の名前さ。まあ、もっとも、1人とは限らないんだけどね」
そう、他にもいる可能性はある。それは、誰でもそうだろう。俺が聞いている以外にももっといる可能性が大いに有り得るんだから。
「姫聖……、うちの……冥院寺のしきたりに則った名前の付け方ですよね。長女は先に姫、次女は後に姫。じゃあ、もう一人は、どうしましょうか」
「そうだな、静姫とかがいいんじゃないかな」
そんなことを話しながら、俺たちは笑い合う。昼下がりの公園に、俺たちの笑い声は続くのだった。
夕日を見ながら壁に寄りかかる。揺れる影を見ながら、日が落ちていく様子をぼーっと眺めていた。そして、瞬きをしたつかの間、俺に近寄ってくる人物を視認した。夕日の逆光で見えづらいが、それが、俺が待っていた人物だというのはすぐに分かった。休日だというのに制服姿の彼女は、明津灘紫炎。
「遅くなったね、ごめん」
随分と自然にタメ口を利けるようになったなぁ、と思う。未だに時折丁寧語になるが、それでも、だいぶマシになっただろう。
「いいや、待ってないよ」
そんな風に笑いかけて、俺と紫炎は手を握り歩き出す。ゆっくりとした足取りで、夕暮れの道を2人で歩く。
「……なんとなく分かってるとは思うんだけどさ。紫炎、夏休みの話を覚えてるか?」
俺の言葉に、紫炎の握る手がじんわりと汗ばんでいるように感じられた、いや、汗ばんでいるのは俺か?それともお互いなのかも知れない。
「ええ、もちろん。……ということは、実行に移しているんですよね。わたしはもちろん賛成ですよ」
にっこりとほほ笑む紫炎。これから忙しくなりそうですね、とそんなことを言いたげな表情だった。
俺たちは、ゆっくりと歩いていくのだった。沈みゆく日を背にしながらゆっくりと、ゆっくりと……。
その日は、晴れやかな空だった。もう冬も近いというのにも関わらず、季節が戻ったかのような、少しじめっとした暑さが身を包む。どんよりとした気分になるが、それでも、俺は、空き教室で、彼女が来るのを待っていた。しばらく待つと、このクソ暑いのに、わざわざメイド服を着こんだ桜麻由梨香がやってきた。
話を切り出す前にしばらくの間、由梨香が俺の汗を拭いたり、乱れた服を整えたりと、世話を焼く。そして、それが終わって、ようやく話が始められる状況になる。こうやって2人きり、もしくは事情を知る生徒しかいないときは、俺の世話をとにかく焼くのだ。
「なぁ、由梨香……」
俺の言葉に、由梨香は、拝聴しますとでも言わんばかりの真面目な態度で俺の言葉を聞く準備をする。そして、続きを促すように言う。
「どうかしましたか、紳司様」
由梨香の言葉に、俺は何と言うか少しだけ迷う。由梨香に関しては「ついて来い」と言えばついてくるだろうし、「紳司様のおっしゃることに反対などおそれおおい」などと言って、反対もしないだろう。だが、それでいいんだろうか。
「由梨香は、……」
俺が言おうとした言葉を由梨香が珍しく遮った。笑顔で俺の言葉を止めた由梨香は、微笑みながら言うのだった。
「紳司様、確かに自分は、紳司様に反旗するつもりはございませんが、それでも、よくないと思うことは言います。主人が道を違えないようにするのも自分達メイドの役目ですから、なんでも言うことを聞くイエスマンのような存在ではないのです。
それに、紳司様が考えていらっしゃることは、誰も不幸にしないようにするために、紳司様が最善をつくした末に思いつかれたことです。紳司様の優しさは、誰よりもこの自分が知っているのですから、紳司様のこの考えに反対する気はございません。
しいて言うのであれば、メイドの身分ではありますが、その末端に自分と言う存在も交えてくだされば、何も言うことはございません」
由梨香には御見通しってわけか。まあ、そうだろうとは思ったけど。俺ってそんなに分かりやすいんだろうか。
「じゃあ、由梨香は賛成なのか」
「ええ、もちろんです。反対する理由もありませんので」
きっぱりと由梨香は言った。その断言が心強く、俺の心に響くのだった。
宿直室には、現在、誰もいない。それもそのはず。今は昼休みだ。当直の教師も夜にならないとこの部屋は基本的に使わないのだ。俺は、そこで待っていた。
「ごめんね、あのー、青葉君、おそくなっちゃった」
入ってきたのは、橘鳴凛先生だった。橘先生にも話をしておこうと思ったからな……。さて、たぶん、俺の知っている面子の中で、一番常識的な判断ができる人間だからな。もしかしたら反対される可能性があるな、と思う。
「いえ、大丈夫ですよ」
まだ、昼休みが始まって5分程度。前の授業の片づけをやって、ここに来たらそのくらいか、もう少し遅くてもおかしくないだろう。
「そうかな。大丈夫ならいいんだけど。でも、なんのようなの?」
橘先生は、俺にそう問いかける。なんて説明するべきか、一番悩むところだろう。単純にハーレムとか言ってもなぁ……。
「先生は、重婚についてどう思いますか?」
だから、ハーレムに対する思想をそれとなく問いかけてみることにした。いや、全然それとなくではないんだが。
「え、何、急に?重婚……っていうと多重婚約のことだよねぇ。青葉君は、そう言うのに興味があるような年頃?日本では認められていないし、認められている国もほとんどないと思うけど。将来的に日本をそうしたいの?確かに、舞子さんならできなくはなさそうだけど」
なるほど、そう言う手もあるな。俺の考えていた方法とは別だが、こちらもこちらで現実的な案だともいえる。俺の方は非常識ではあるしな。
「いえ、それとは違うんですけど、例えば、好きな相手が2人いたとして、どっちも幸せにするにはどうしたらいいかなって言う話ですよ」
俺の言葉に、「う~ん」とうなる橘先生。割と真剣に考えてくれているようだ。それが逆に申し訳ない。
「少女漫画なんかではこういう時は、結局1人にしぼっちゃうことが多いんだけど……わたしは別に、みんなを幸せにするために、みんなと結ばれるっていうのもいいと思うんだ。少女漫画でもそう言うのが無いわけじゃないんだけど、やっぱり、少女漫画って紆余曲折、いろいろ迷っても、『やっぱりあの人が好き』って分かって、その人と結ばれるんだよ。
でもね、それは、女の子だからなの。読んだことはないけど、少年漫画って……結局誰とも決めずに終わったり、ハーレムを形成しようとしたり、そういうのもあるんでしょう?」
偏見だ、少年漫画にも誰かに決めるものはある。てか、数で言えばそっちの方が多い気も……いや、一番多いのは誰にするか決めずに終わるやつだけど。
「だからさ、君は男の子なんだから、みんなを幸せにする、なんて豪語してもいいんじゃないかな?」
橘先生はそう言った。この人は、秋世や由梨香なんかとは違うタイプの親しみの湧きやすい先生ではあるが、やっぱり先生なんだなぁ、ってのがよくわかった。
「じゃあ、先生。……俺のハーレムに入りませんか?」
だから俺は笑いながらそう告げたのだった。嬉しそうな、泣きそうな、そんな顔の橘先生をなだめるのは、昼休みが終わっても終わらなかった。
ここは、遥か空。揺れる雲が分かる。そんな場所に、俺と篠宮刃奈はいた。かつて、僕と初妃がそこに居たように、そこに居た。
「我が神……まあ、予想通りとはいえ、随分と好まれているようですね」
そんな風に刃奈は言う。まあ、全部見られていた、というところだろうな。
「それで、お前は反対なのか?」
「そんなわけがないじゃないですか。分かっていることを聞くのは旦那様の悪い癖です よ?」
こうして、俺のハーレム計画は動き始めたのだった。
某日、俺たちは、城下町に立っていた。緊張感のある面持ちの面々を引き連れながら、なつかしさをかみしめる俺と静巴。実に幾百年の時を経て、俺たちは、帰ってきた。
「おい、貴様ら、此処で何をやっている!」
俺たちの転移に気付いてか、衛兵がやってくる。ここは、剣と魔法の国、剣帝王国。さらに言うならば、王都・第一都市の中央に近い場所である。秋世の転移を使って、俺たちは今日、ここにやってきた。
大きくそびえたつ城は、昔と変わっていない。街並みはやや変わっているが、やはりそれでも変わらないものがあるというのがよくわかる。
それにしてもこいつ、そこそこできるな。俺たちには届かないレベルだけど、寄ってきた衛兵は、中々強い。静巴は連星剣に手をかけて、そして何かに気付いたようだ。
「もしかして、貴方、リオネス・リラノスの家系じゃない?」
確かによく見ると面影が無くはないな。リオネス・リラノスは、俺たちの時代の騎士団長で、三席のジーグレッド卿が本気を出しても勝てない相手だったというほどの人物だ。
「ああ、そうだが、それが何だというのだ」
衛兵はイラついているようだが、俺たちとしては、懐かしくも不思議な気分だった。さらにそこに1人の白銀の鎧の騎士が寄ってくる。それを見て、衛兵は慌てて姿勢を整えた。
「だ、団長、どうしてこちらに?!」
衛兵は少し怯えた様子で、騎士に言った。騎士は苦笑しながら衛兵に手で「楽にしていい」と指示を出し、兜を取った。
「驚き、というべきか、久しいと笑うべきか、悩ましいところですな、御仁、それに御婦人」
その男は、ジーグリッド・ユリウス。かつての三席だ。俺たちとも顔なじみなので、本当に懐かしい。俺はこの間、会っているがな。
「ジーグ、あんた、その『御婦人』はやめてってさんざん言っているじゃないの。はぁ、まあ、変わりないようで安心したわ」
静巴がそんな風に笑いながら言う。昔なじみに会えたのがよかったのだろう。そうそうこういうことはないからな。
「そうだ、丁度いい。今から、宮廷魔導師顧問代理に会いに行くんだが、御仁方も一緒にどうですか」
顧問代理?ナナナの代理ってことか?ナナナの後任が決まらなくて、あくまで代理でもおいているのだろうか。
「ああ、別に構わないぞ。俺たちも特に行く宛てがあったわけでもないし。どのみち、後でユリウス皇のところを訪ねるつもりだった」
というわけで、ぞろぞろと引き連れて、俺たちは、城へと練り歩き、そして、そこで再開することとなる。
「クラマッ!」
城に入った俺に勢いよく飛びついてきたのは黒いローブの女、そう、その女は、
「フィーラっ!」
飛びついてきたのはフィーラ・ブレッセンド=スプリングフォール。塔での戦いの後に行方不明になっていた俺の前世の嫁の1人だ。
「お前、どうしてここに?」
「あの戦いの後、此処に流れ着いたの。たぶん……せめてもの親孝行ってやつだと思うわ」
そんな風にあの後の話をしながら、みんなにも事情を説明していく。最初こそ驚いたものの、特にその後、受け入れられていったのだった。
「それで、フィーラ、君は、これから顧問に挨拶に行くんだったな。彼らも連れて言ってやってくれ。彼女は、其処の御仁や御婦人とも旧知だからな」
……は?確かに、ナナナは知己だが、え、だって、ナナナはもう死んでるんじゃないのか?
「待てよ、ナナナは……ナナナ・ナルナーゼは生きているのか?!」
俺の言葉に、ユリウス皇は苦笑した。
「彼女も超常の存在だからね。フィーラが目を覚ます前、少し彼女の元に寄ったから昨日の時点で生きていたのは確かだよ。泥酔しているだろうけどね」
泥酔って……まあ、あいつ酒好きだしな。しかし、まあ、生きていたのか……。会いたいな……。
「じゃあ、会いに行くか」
そして、俺たちは、俺の前世の住居へと向かうのだった。
少し騒がしい道中。そして、変わらない……いや、少しボロいが、俺の家がある。
俺は、その扉をノックする。無論、インターフォンなんて言う高尚なものがあるわけがないからだ。
開かれる扉。目に飛び込んできたのは、驚くナナナの顔。
――……ッ、おかえり
――ああ、ただいま
こうして、俺たちは、剣帝王国と言う土地で、全員と結婚した。これから、みんなと幸せな家庭を気づいていくだろう。きっと……、ずっと。
「――みんな、これからもよろしくなっ!」
―《神》の古具使いSIDE.GOD 完―
―《古具》使いシリーズ 完-
-三神物語-三人の神とその子等へ- 完―
Next→-青葉紳司とその子等へ-
え~、というわけで、お待たせしました。これにて《神》の古具使いの本編は完結となります。しかし、まだ完結済みに設定はしません。15話ほど、蛇足を公開してから完結にしようと思っています。
これの次の作品に関しても構想とあと5話くらいまでは出来上がっているのですが、エタビシリーズなので、一作目なのに時系列が最後って言うのは不安なんですが、書きます。内容的には3rdWorldに近いのかな?
《神》の古具使いの終焉編に関する話は、割烹の方ででもします。それでは、これまでご愛読ありがとうございました。ここまでお付き合いいただきありがとうございます。できれば蛇足も読んでいただけると幸いです。




