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《神》の古具使い  作者: 桃姫
終焉編
359/385

359話:エピローグSIDE.D

 あの運命の塔……夢見櫓の件から1年半、あたしは、つい先ほど、鷹之町第二高等学校を卒業した。一年前に桜子や不知火、十月たちは卒業して行ったので、今回は、あたしや輝讃ちゃん、怜斗の卒業となるわ。紫麗華は、まだ1年間残っているはずだけれど、あたしの卒業に合わせて転校と言うかたちで、学校を辞めた。


 そして、あたしたちは、これからとある場所へと向かうことになっているわ。東京郊外にある、朱野宮家屋敷跡。かつて繁栄した朱野宮家の屋敷の跡地よ。つまり、緋葉の子孫たちの住んでいたはずの屋敷ね。


 何故そんなことになっているのかと言うと、全ては不知火に起因しているのよ。不知火とは、あいつが卒業後もそれなりに親しくしていて、そして、今回の件は、不知火が引き受けた、というか、なんかよくわからないけど、調べなきゃならないことになった調査なのよ。


 本来は、不知火と十月と晴廻だけで行く予定だったんだけれども、何やら不穏な感じがするという十月の言葉から、あたしらの同行が決定したわ。


「じゃあ、零桜華、留守番よろしくね。紳司たちがいないから、誰か留守番に残しておきたいのよ」


 零桜華を留守番として残して、あたしは東京の郊外にある朱野宮邸に向かうわ。無論、電車よ。ちなみに、怜斗、讃ちゃん、輝、桜子、紫麗華は、十月が車で迎えに来る算段になっているので別行動中。機能の段階ではあたしも車で行く予定だったんだけどね。やや気になることがあるから、敢えて別行動にしたわけであって、あたしが団体行動が苦手とかそういうわけではないわよ。

 んで、その気になっていることってのを調べに、ちょいと寄り道をすることにしたんだけれど……、どうやら、いるようね。


 道端に、赤い着物を着た美少女が立っていたわ。長い茶色の髪と、それを結わう椿のあしらわれた簪。姫椿(ひめつばき)家の家紋が刺繍された羽織を羽織って、赤い和傘をさす。それはとても絵になっていて、こんな住宅街じゃなく、京都の小道とかでやれば写真を撮って売れそうなほどに。


「どうやら美雪(みゆき)に生まれ変わる前に、あたしに会いに来たようね。大丈夫なのかしら?確か、愛しの……相坂(あいさか)君、だったかしら?彼に会いに行った方がいいわよ?」


「ええ、もちろん会いにいきますわ。ただ、その前に一度見ておきたかったのです。わたくしという存在の生まれた意味と、その原点に立つ方を、一目でいいから」


 そう……、あたしに会いに来たのね。私と言う存在が生んでしまった業ともいうべき彼女があたしに会いにくるなんてね。


「そう、じゃあ、次の……美雪によろしくね。覇たる翼の行く先は、美しい雪の世界……。本当に彼女の名前は自分の運命を言い表しているわよね。何せ、その次に行くのが冬華なのだから。美雪の再来と呼ばれる彼女へと至る冬華の前が美雪ってのもね」


 そんなことを言いながら、あたしは思いをはせる。この世界に、あたしがいる意味を。全てが始まった、あの時から、随分と時間を重ねてしまった。あいつと私の全ての始まりから幾度もの転生を経て、そうして、此処にいる。……あいつは、今どこで何をしているのかしらね。


「入れ違いで、貴方にお客様のようですね」


 彼女の言葉でハッとなるわ。そして、気が付けば、椿の花を一つ残して彼女の姿は消えていた。入れ違うように、歩いてくるその姿に、あたしは息を呑む。知っていたからよ。


零祢(れいね)……?」


 そう、見間違えるはずもないわ。何せ、あたしの……八斗神闇音の息子である七夜零祢なのだから。でも、時間軸上、零祢が生きているのはあり得ないわよね。いえ、まあ、静と言う前例があるので、何とも言えないけれど、零祢の人生で、そんなことになるようなことになったとは思えないんだけれど。あったとしてもそれはあたしの死後ってことで、この姿で……18歳くらいの姿であたしの前に現れるなんてことがあるはずがない。


「久しぶり、なんていうのもおかしな気分な気がするけど、久しぶりだね、母さん」


 あたしのことを母さんと呼ぶ彼は間違いなく、零祢だわ。姿形、声、そして、雰囲気と【力場】がそれを物語っている。


「零祢、あんた、どうして生きているのよ。いえ、この感じ、生きているというよりも……生かされているのかしら?」


 【力場】に重なるようにつながる別の【力場】。その【力場】からは、呉菜ちゃんのものとは別に、それもあたしの知っている【力場】だわ。


「アリー……アルアリスなのね。そう、そういうこと……。なんとなく分かったわ。貴方は生きているのでも生かされているのでもなく、そう言う事象になっているのね」


 いろいろとおかしなことになっているわね。でも、全ては……あの時につながっているのだとしたら……。きっと……。


「伝言を預かってきただけ、みたいなものだからね。アルアリス・フェルナンドからの伝言だよ。『世界の終わりで待っている』だそうだけど、母さんは、いつも厄介ごとに巻き込まれているみたいだ。もっとも、このことに俺がかんでいるのも単なる偶然だけどね」


 世界の終わりで待っている。つまりそう言うことなんでしょうね。始まりの日と終わりの日。世界は緩やかに終わりへと向かって進んでいるわ。おそらく、この世界を終わらせるとしたら、きっとべリアル公なのでしょう。それか、概念と理。むしろ、原初と言う可能性もなくはないわ。それともあの引き籠り共(ノーライフキング)か。それとも堕ちし者か……って、これはないわね。確か、配下の召喚獣にされていたらしいし。


「あたしが死ぬまでの間に、世界の終わりとやらは来るのかしらね」


 そう呟くと、零祢は苦笑して肩を竦めるだけ。何よ、その顔は。容赦なくぶん殴るわよ?息子に手加減なんてしないわよ。


「……母さん、父さんを頼んだよ。俺は、やらなきゃならないことがあるからさ」


 零祢は空間に溶けるように消えてしまう。やることねぇ……、まあいいわよ。好きにしなさい。あたしは、そこまでガミガミいうようなタイプじゃないから。自由にやりたいことをやりなさい。まあ、反発してもどうせやるでしょうけど。何せあたしの息子なのだから。


「さて、行こうかしら」


 誰にともなく、呟いて、東京の郊外にある朱野宮邸跡に向かうわ。






 そして、そこにつく。巨大な塀はまるで城壁の様で、入り口には機械による認証が用いられているようだったわ。跡地と言うからには、もうたちの居た後のはずなのに、その機械認証はいまだに稼働中の様で、何とも怪しいわね。


「来たか、青葉君」


 不知火他、全員があたしを待っていたようよ。それにしても、この雰囲気……なるほど、そう言うことなのね。ここに満ちているのは……。


「ええ、遅くなったわ。ちょっと気になることがあって、寄り道をしていたせいなんだけど、まあ、面白い人物にも会えたわ」


 そんな風に言って、あたしはみんなに合流した。それにしても、ここは、濃い(・・)わね。たぶん、社の関係のようだけど。


「それで、どうだい。他の皆は特に何も感じていないようだが、君は何か感じるものがあるか?」


 不知火が聞いてきたわ。特に何も感じていない、ですって?他はともかく紫麗華まで何も感じないっていうのかしら?


「ここは、魔境化しているように思えてね、全然仲間では分からないのよ」


 そういう紫麗華。なるほど、魔境化とは言い得て妙ね。ただし、どちらかと言うと神域化なんでしょうけれどね。これは、世界を構築した力の奔流が、地下を介して、噴き出していることによるもの、っぽいし。


「まあ、何にせよ、行きましょうか」


 あたしは、扉をぶっ壊しながら、奥に進むわ。なんとなくで場所は分かるもの、きっと大丈夫よ。


「行くってどこにだい。そもそも、道が分からないだろう」


 あたしは、本邸とは離してある小屋へと向かうわ。無論、通路は一本じゃないでしょうけど、一番わかりやすいところにしただけよ。


「あの小屋、……。バランスが悪い気がするな。窓の位置がなんかおかしい?」


 怜斗の呟き。ええ、あたしも同じ意見よ。たぶん、あれよね……。だから、小屋に入って、中の書物には目もくれずに一番奥の突き当りの壁まで行く。


「あの、一番端まで来て何を?」


 晴廻の疑問の声に答えずに、壁を横にスッと指で撫でるわ。ストン、と崩れた壁の向こうには階段があった。地下の社……祠へと通じる、階段よね。


「特に罠もないから、足元に気を付けてゆっくり降りるわよ」


 そう言いながら、進んでいく。階段を昇りまくったことはあったけど、地味に長い階段下るのはあまりない経験ね。


「ここは……どことなく神聖な感じがしますね」


 讃ちゃんの呟き。そうね。


「【焔】、【地】、【氷】、【穹】、そして【始祖】。それら5つのファクターが、ここではないここ。別の世界のここで動いた、その力が漏れてきているみたいですね」


 そう言ったのは鞠華。


「ふふっ、そういうことだったのね……。ここには、何もないわ。あるのはただの手紙だけ。いきましょうか」


 そう言って、退室を促すわ。よくわからないけど、とにかく、といった様子で退出していく。あたしは、退出前に、チラリと社の祠の奥に目をやる。黒い髪の聖女がにっこりとほほ笑んだ気がしたわ。






 それから、不知火たちは、特に危険がないことが分かったので調査を続けるというので残ったわ。讃ちゃんと輝はデートへ。紫麗華はナナホシ=カナに用事があるそうよ。残ったのは、あたしと怜斗と桜子だけ。




「ねぇ、桜子、怜斗。……これからも、よろしくね」




 あたしを真ん中に、両側からあたしの手を握る2人。愛しい、2人。ねぇ、緋緒、それに■■■■……、あんたたちは今、何をしているのかしら。






 それからのこと……しばらくして妊娠したあたしは第何子と表現すればいいのか分からないけど、子供を妊娠する。無論、父親は怜斗よ。そして、子供の名前は零音(れおん)。男でも、女でもね。「零」斗と闇「音」、そういう意味でもあり「れいね」とも読むことが出来る名前、故に、そう名付けたわ。


 桜子とも相変わらず。たまに、染井製薬の科学力を結集して、あたしとの子供を作ろうとしてくるくらいにはね。零桜華も元気にしているし、紫麗華も遊びにくる。





 全ての優しい日々。世界の最後は――まだ遠そうね。


                     《神》の古具使いSIDE.D ……END

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