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《神》の古具使い  作者: 桃姫
終焉編
358/385

358話:塔の外のその先へSIDE.GOD

 あの塔での戦いから、速いもので2日が過ぎようとしていた。塔が崩壊してから、しばらくの間は、異常がないか、チーム三鷹丘の面々が密かに監視していたがおそらく、世界の崩壊は免れたという結論に至り、もう解散している。龍神が見張っているから、何かあっても大丈夫だろう。


 フィーラはあの後、どうなったのかは分からない。けれど、塔の跡地には【鮮花(あざか)】だけが残っていた。それが何を意味しているのか……。少なくとも俺は、あれが、遺品だとかは考えちゃいない。フィーラは生きていると、そう思っている。


 今は授業時間中だが、俺は1人で、ある場所へと向かっていた。秋世たちには、秘密で、行かなければならないと思っている場所があるのだ。姉さんも誘ったが、姉さんは「あんたと違って、死後もだいぶ干渉してたからいいわよ」と断られてしまった。刃奈も、姉さんが行かないということで、拒否していた。


 さて、実に何年ぶりかもわからないけど、行くとするか……。そんなことを考えながら、三鷹丘学園、生徒会室のドアの前、ごく普通の扉にカードをかざした。扉を開けた、その向こうは生徒会室ではなかった。


「どなたかしら?」


 薄ら鋭い声だが、声のかわいらしさで相殺されてしまっている。金髪のショートヘアの美少女を俺は知っていた。どことなく天導に似通った顔立ちなのは当然だろう。


「初めまして。三門に用事があってきたんだけど、いらっしゃるかな?」


 俺はそう声をかけた。そう、この場所は、烈火隊三番隊舎。あのユノン先輩とのデートの日に雷花に貰ったカードを使用したのだ。あのカードは、扉さえあれば、どこでも自分の隊舎に扉をつなげられるゲートカード。昔、紫雪の使っていた自分用アストラルゲートを、開発主任の火野海里が長い年月で解析して作ったものだ。


「姉さんに?姉さんなら、もう直に帰ってくるでしょうけど、その前に、貴方の所属と会う理由を言ってほしいわね」


 彼女は天導(てんどう)風菜(ふうな)、役職は副隊長だ。相当な実力者だし、双子の兄の疾風(はやて)とユニゾンしたときの2人は隊長の雷花を上回るというほどだ。


「風菜、構いませんよ。彼はお客さんです」


 俺の後ろから聞こえてきたのは、雷花の声だった。丁度帰ってきたところらしい。そして、俺に軽く挨拶をしてから風菜の方に寄っていく。


「彼は、青葉紳司くん。かつての名を六花信司さんと言って、私達の家を救ってくれた大恩人ですよ」


 そう笑いかける雷花にあきれ顔の風菜。何を言っているんだというような顔をしていた。そこに、ノックの音が響く。重なる来客に、風菜はため息を吐いた。


「今度はどなたですか?」


 少しイラつきながらも、扉に問いかけた。そして、扉から入ってきたのは、俺もよく知っている人物だった。


「ああ、少々用があって参ったんだが、何か取り込み中か?」


 おいおい、貴方が「参った」なんて言わないでくださいよ。それに自ら赴くのもやめてほしい。貴方には貴方の地位や役目があるんですから。


「っと、こいつは……!お前かっ!ははっ、生きていたのかい!いや、甦ったの方が正しいのか!いやぁ~!本当に、!ああ、言葉がでないなっ!」


 赤い翼をはためかせて、そう笑う彼は、()の知っている、記憶の中の人物と全く変わっていなかった。


「ええ、お久しぶりです。御壮健そうで何より。少し報告がてら訪れたのですが、よもや、会いに行く前に会いに来られるとは……」


 畏まった物言いだが、それに雷花や風菜が驚くことはなく、むしろ、別のことに驚いているようだった。


「なっ、飛天王(・・・)!なぜ、わざわざこのような場所に!呼びつけて下されば、参りますのに!」


 風菜は困惑していたが、この人の行動に一々疑問を持っていてはどうにもならないさ。俺は苦笑しながらも、王に話す。


「このたびは、見苦しくも、この世に再び生を受けて、そして、天宮の塔が崩落し、全てが潰えたことを天宮塔騎士団長として、報告に上がりました」


 その言葉に、風菜は意味が分からなさそうに、雷花は意味が分かってハッとして、王は盛大に笑った。


「そうかそうか、あの塔はつぶれたのか。それで、お前は、天宮塔騎士団に復帰する意思はあるのか?一応、団長は永久欠番になってるが」


「いえ、僕にはその気はありませんよ。姉として同じように生を受けた無双ちゃんも同意見で、過干渉する気はない、という結論に至りました」


 俺の言葉に、今度こそ絶句する我らが王。苦笑しかできない俺は、どうしようもなかったが、王は、逆に苦笑いをした。


「君たちは、本当に驚かせてくれる。しかし、彼女もいっしょに生まれ変わるとは、君たち3人はよっぽど惹かれあう何かがあったんだろうね。まあ、でなくては君らは共になかったんだろうが」


 まったくもって俺たちは、運命とやらに翻弄されるのだろう。いや、結ばれているのだろうか……。


「しかし、よもや……紳司くんが蒼き騎士だとは……。驚きですね」


 雷花は、少々困ったような、嬉しい様な顔をしていたが、その意味は分からなかった。俺は、不意に、近くに現れようとしている気配を察知して、それが見知った【力場】であることに安堵する。そして、出てくるタイミングに合わせて、こういった。


第一未完成人形ノン・クリア・アインツの件とやらは終わったんですか?液梨さん」


 俺のかけた言葉に、王と雷花、風菜は一瞬意味が分からなさそうにしたが、現れた人物を見て、納得していた。一方の声をかけられた液梨さんは、一瞬、固まってから俺を見て、ため息を吐きながら答える。


「青葉紳司か。いきなり転移直後に話しかけられると驚くから止めてくれ。……無事に終わったようだな。すまなかったな、こちらで手を貸せなくて。結局、ツインベルはそちらに行ってしまったようだが」


 申し訳なさそうに言う彼女だが、しかし、まあ、そんなことは割とどうでもいい。結局は、俺たちの試練だったのだろうか。特に、天宮の塔は、天宮塔騎士団である俺にとって……運命ともいえるのだから。


「いや、何ともないさ。俺にとっても、あの塔……天宮の塔に挑んで、全てを更地にできたことは嬉しく思えているからな。あそこで散っていった、数々の部下たち、仲間たちのことを考えると特に」


 あの塔には、いい思い出も、悪い思い出も全部つまっていたと言える。だからこそ、俺は、全てを無に帰せたことが喜ばしいのだから。


「……そうか、ついに。やはり、君は、もっとも神に近くて、やはり神に最も近かった。いや、この場合は、神そのものだったというべきだろうか」


 俺と液梨さんが初めて会った、あのよくわからない世界で、彼女は、俺に「神に最も近く、最も遠い存在……。君とは違うのだよ。君は、神に最も近くて、やっぱり最も近い存在だから。そうだろ、蒼刃蒼天君」と言っていた。そう、彼女はあの時から、俺の中の()と言う存在について分かっていたのだろう。


「貴方は、あの時、自分のことを神に最も近くて、最も遠い存在、と言っていましたね。その意味が今なら分かります。貴方は、……絆殿だったのですね」


 篠宮液梨、その本名は……きっと、死宮(しのみや)(きずな)。俺も話に聞いただけだったからよくは知らないが、おそらくそうなのだろう。


「……、肯定はしないわよ、否定もしないけれどね。あの子の運命を捻じ曲げないためにも、このことは忘れることね、蒼天君(ぼーや)


 女性然とした口調は、普段とは違い母性を感じさせるものだった。やはり、彼女は……、そう言うことなのだろう。


「そうだ、丁度いい。液梨さんには、これを預けておきます。本当なら俺が持っているのが一番いいんですが、鍛冶師が自分の作品を手放さないってのもおかしな話かと思いまして」


 そう言って、取り出したのは【鮮花】。俺の……オレの打った刀だ。忘却の果てにあったオレとフィーラの記憶は、もう全部戻っている。これをいつまでも持っててもいいんだが、それよりは誰かの元に会ってほしい。


「これは……?」


「前にNo.0が言っていた【鮮花】と言うフィーラが持っていた刀ですよ」


 俺の言葉に面を食らったような液梨さん。しかし、渋々受け取ってくれた。一応五星剣(ゴセイ)を持っているから剣を扱う人なんだろうが、彼女が絆殿だとすると、剣術はスーヴェンハール騎士剣術だろう。そして、刀を扱う緋鏡流抜刀術も得意なはずだ。


「分かった、預かろう」


 液梨さんはそう言うと、王の方を見る。何か王に報告があってここまで来たようだ。俺はぶっちゃけ、大体の用事が済んだからな。


「それじゃあ、俺はこの辺で失礼するよ。雷花、またいずれ、時間があるときにでも会いにくるから」


 そう言って、俺は、扉から俺の世界へと戻っていく。さて、これからどうしようか。

 え~、あと、エピローグ2話で終焉編が終了します。暗音→紳司の順番でエピローグです、エピローグだけで15話使ってもよかったんですが、恋戦編と同じように長丁場になりそうだったので、2話にまとめます。そのあと、蛇足として、短編を15話、最後に人物紹介を投稿して、終わる予定です。

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