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《神》の古具使い  作者: 桃姫
終焉編
356/385

356話:鍛冶師と魔女SIDE.Feere

 え~、本日3話目です。前話や前々話を呼んでいない方はお戻りくださることを推奨します。

SIDE. Feere.Bressendes=springfall


 零れ落ちる雫。それが血か涙か……私にはわからなかった。ポタリ、ポタリと地面にそれが堕ちるまで、まるで時間が止まったのではないかと思うくらいに途方もなく長い時間が雪流れたように感じだ。手から滑り落ちる【鮮花(あざか)】。その黒い刃紋を描く刀身からは彼の血が滴り落ちてくる。


――ああ、私は……


 思わず震えた自分の手を見る。手は血で濡れていた……塗れていた。血を吐く彼の笑顔が、あの人の笑顔と被る。


――あぁ……、あぁ……!なぜ私は気づかなかったのか……!


――あぁ、間違いない!あの人は彼の中で生きていた!


――あぁ……やっと……やっとやっと……見つけた、見つけた!やっと見つけた!


 泪が溢れて視界が霞む。けど、……けれど、霞むと彼が見えなくなる。それは嫌だ。もう目を話したくない。二度と見失いたくない。無理やりと泪を引っ込ませる。


 気が付けば、つい数瞬前まで死力を尽くして殺そうとした相手を、回復魔法で癒していた。もう私自身の魔力も底を尽きそう。けれど、彼は……、彼こそは愛しい人。大事な人。クラマ……クラマ・トウジョウ。


「フィーラ……」


 愛しい彼が、愛おしく、その口で私の名前を呼ぶ。あぁ……変わらない。あの頃と何一つ、変わらない。私達はやはり愛し合っていた。昔、……そう遥か昔、私達の日々が蘇る。カーンカーンと響く鉄を打つ音。それを傍らで聞く私……。愛おしい日々。閨を共にし、共に暮らし、過ごし、笑いあった、そんな輝かしい日々。もう二度と叶わない、もう一度得たい、そんな日々。


「フィーラ……、あの日、あの時、あの最後に伝えられなかったオレ(・・)の言葉を……君に、今届けよう……」


 そう言って、重い体を浮かし、私の耳元に口を寄せて囁く。私の心臓はバクバクと跳ね上がるように、今にも飛び出るんじゃないかと思うくらいに速く動いていました。そのまま出てくるか、いっそ止まるんじゃないかと感じるくらいに、一瞬、心音で全ての音が掻き消さてしまうくらいに。


「愛しているよ、フィーラ」


 その言葉に、押しとどめていた泪が再び溢れ出す。そして掠れる声を搾り出しながら彼に精一杯の気持ちを込めて言う。


「私も……愛しています。あの時からずっと……」






 そして通じ合った2人の思いは、過去へと遡る。あの、遥か昔の激動の時代に。私が魔女となることを選んだ、その頃へと。


 現在は管理世界として時空間統括管理局が統治している世界……第26世界「ノエル・ノイラ」。しかし、管理世界になる前、そこはよくある「剣と魔法の世界」とか「科学の発達した世界」とか「荒廃した世界」とか、そう言ったものとは違い……いいえ、違うくはなかったけれど、違った。

 剣も魔法もあった。科学もあった。荒廃していた。そう、それらすべてが揃っていた。第66次神魔大戦。人族・魔族・神族による三つ巴の戦争がずっと続いていた世界において、人間は魔法とは別の戦う力を見つける。それが科学。神の物でも魔の物でもない、人間としての力を手にした彼らは、そのうちに魔法と科学を融合させていく。そんな世界で、昔ながらの「刀」を打っていたのが燈篠(トウジョウ)眩真(クラマ)と言う鍛冶師だった。


 彼は生産する側の人間なので戦争には参加せずに、戦争のために武器を作らされていた。そして、私は、戦わされていた。生まれながらに高い魔力をもっていた私は、魔法兵として戦場を闊歩し、神や天使、悪魔や魔族と戦っていた。本来、私とクラマは出会うことなどない、決して交わることのない存在だった。


 しかし、私は、長く続く戦争に嫌気がさし、魔女となることを決意する。「魔女」とは、魔法兵だったのに戦場から逃亡した女につけられる蔑称である。そして、逃げ出した私が、兵士たちに追われるときに出会ったのがクラマだった。


「おい、其処の……、追われているのか?」


 それが初めての会話。今でも鮮烈に覚えている。フードを被った女を追いかける兵隊。どちらが悪いのかと言えば、当然、兵隊よりも私が悪者に見えるはずだった。だからこそ、衝撃だったのだ。


「え、ええ。追われているわ」


 私の言葉に、彼は、手に持っていた刀を颯爽と抜き放った。禍々しく迸った刃紋は赤く龍がうねっているかのようだった。


「【絶花(ぜっか)】」


 その刀を振るう。それだけで、兵たちは、動きが止まって、まるで、壁ができたかのように、彼らはこちらへと意識を向けられなくなった。


「その意識と空間を絶たせてもらった。しかし、まあ、性能の実験としては十分なものになったな」


 そう笑う彼。刀を鞘へと納めると、こちらを見る。どういうつもりだろうか、と問いかけようとした、その時、彼が言う。


「なぁ、君は魔女になったってところだろう?一緒に来ないか?オレと一緒に暮らそうよ」


 こうして私とクラマは、……魔女と鍛冶師は共にあることになった。魔女となった私を、支えてくれた。


「オレはクラマ・トウジョウ。鍛冶師をしている」


「私は……フィーラ。フィーラ・ブレッセンド=スプリングフォールよ」


 永劫に続くと、この時は、そう感じた。戦争の中にも癒しはあると、そう感じられた。なのに……。

 それから16年。第69次神魔大戦の勃発。そこに介入したのは時空間統括管理局世界管理委員会のNo.0と言う名を名乗る女だった。その本名を綺羅々・ワールドエンダー。世界を終焉に導く者。


「クラマ……!」


「分かってるよ、フィーラ。一緒に生きよう、生き残ろう!」


 2人で戦場と化した街を駆ける。13振りの刀を持ちながら、2人で……。そこに立ちはだかったのは、綺羅々・ワールドエンダー。戦争を止めると言いながら、虐殺をするモノ。


「ふんっ」


 一瞥、そして、数瞬にして、綺羅々・ワールドエンダーに吹き飛ばされる。クラマは次元の狭間に、私は、世界の果てに。その時に呪いをかけた。


「絶対に……私は絶対にあなたを許さないっ!このフィーラ・ブレッセンド=スプリングフォールがいつかあなたの首を刈る。その時まで覚えていなさいっ!」


 そして、私の魔力は世界の果てで濁り腐る。闇へと、悪へと……。そうして、私は、世界の果てを掌握する。そこに居城を作り、【滅びの刻を待つ者(カルク・クウェイダー)】を結成した。綺羅々・ワールドエンダーを殺すために。しかし、その目的はいつからか、神を殺すことへと変化していった。




 私と彼は、……こうして、再び巡り合えた。それが運命か、偶然か、それとも、狂った世界の影響か、そんなのは分からない。だけど、私達は、今、この時を一緒に居る。


「フィーラ……」


「クラマ……」


 2人で、見つめ合う、その時、地面が大きく揺れた。地面、というよりも、この塔が崩れ始めているのが分かる。この塔の限界、おそらく、もう、他の彼の仲間たちは外へ出ているはず。そして、この崩壊は、この塔そのものが消えてなくなるほどの崩壊。崩壊してしまえば、周りの時空間を巻き込んで倒壊するでしょう。そうなれば、この塔が出現している世界も……彼の住む、彼の今の大事なものがある世界もつぶれてしまう。


「クラマ……貴方は、塔の外に出て……。私は、この塔を出現させた責任があるの」


 そう、この塔は、私のわがままで呼び出した。だから、この塔を最後まで見届けるのも私の役目。


「駄目だ、フィーラ。一緒に行こう」


 手を伸ばして来る彼を、私は、突き飛ばした。そして、そのまま転移魔法陣へと押し込む。私は、この塔と心中する義務がある。だから、


「――せっかく会えたけど、じゃあね、クラマ」


「――フィー」


 彼は、言葉の途中で外へと転移していく。もし、また会えたなら、その時は……、そんなことを考えながら、私は、壁に寄りかかる。


 思い起こすのは、彼の顔ばかり。重い体は、寄りかかることすら許さず、地面に伏す。このまま、この塔と共に果てる、そう思って、ため息を吐く。その時、ひたひたと歩み寄ってくる足音が聞こえた。この部屋には、誰もいないはずなのに。そこで、私は1つの可能性に思い至る。


 うっすらと目を開けて、そのようすを確認して、其処に染み出るように湧きだしたのは、三鷹丘学園の制服に、青い髪と赤いマフラー。そう、


「フェスタ……」


 私は、そう娘の名前を呼んだ。

 え~、というわけで、本日は怒涛の3話連続投稿。あたしが書き溜めをしないのはよくわかっていると思うので、言いますが、この最終話を除いて、今日、まったく白紙の状態から書き上げました。この話だけは、どう終わるかのプロットが有ったので、既に半分以上で来てましたけどね。あと数話程度で、終焉編とエピローグを終了させる予定です。

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