355話:紳司VSフィーラSIDE.GOD
本日2話目です。前話をご覧になっていない方は1つ前に戻ってください。
《神々の宝具》の本当の意味、それはとても単純なことだった。《古具》を創ったのは誰だっただろうか。それは蒼刃蒼天という名の神だった。《神々の宝具》の訳について、俺は無理やり整合性を取って「神の祝福」としていたが、それは違った。「神からの祝福」と言うことではなく「神への祝福」だったのだ。
蒼刃蒼天と言う名の神から、それぞれの神へと送られた祝福、それゆえに「神々の宝具」が「神への祝福」と言うものになる。
そう、この世界を構築する上で、それぞれの神話の神に祝福を送ったのが、神々への祝福だったのだ。それゆえに、元を辿れば、これらの力は創造主である蒼刃蒼天のものである。そして、この《古具》自体は「神々を祝福した」というものを具現化した、つまり、《想像の創造》の劣化版と言うか簡易版、すなわち、そのものの力を宿していた。青葉紳司が蒼刃蒼天の力を宿していた、それが偶然だろうか?いな、偶然ではない。蒼刃蒼天が《古具》と言うシステムを用いて設定していたものだったのだ。そして、俺は、今ここにいる。
「世界は狂いだした、とお前は言ったよな。確かにその通りだ。そして、俺は、この世界にいる上で【彼の物】から外れた影響で、この世界に恐ろしい《終焉》が来ることを予期した。それをどうにかするために《古具》と言うシステムを構築したんだよ。来るべき、生まれ来る始祖以外でもそれに対応できるために。
世界の均衡が崩れているのに予定通り始祖が生まれるとも限らなかったからな。そうして、この世界には様々な危機が訪れた。予期した終焉がダリオスだったのか、白城王城だったのか、それともお前だったのかは知らない。だが、おそらく、この世界は安定しただろう。だから、今、この瞬間を持って、《想像の創造》の《古具》を与える部分として使われていたものを解放する」
ずっと、《想像の創造》は、この世界の根幹として使われていた。だが、もう必要がないはずだ。いつまでもいなくなった蒼の神のルールに縛られている必要もないだろう。無論、突然《古具》使いが生まれなくなったら困惑するだろうが、きっと大丈夫なはずだ。それに天然ものの能力使い達なら自然に発生するだろうしな。
「まるで、貴方がこの世界を創ったみたいないい方ね。まあ、いいけれど、それを解放したら、どうなるというのかしら」
【天兇の魔女】は俺に問いかけてくる。俺は、ニヤリと笑いながら、その質問に答えるのだった。
「つまりは、俺の欠けていた全てのパーツがここにそろったんだよ。だから、全力で行くぜッ!」
瞬時に、全身から【蒼き力場】が溢れだす。体内に7つの【蒼き力場】が生成されて累乗されて膨大な量の【力場】となった。そして、その勢いのまま、全てをぶつけに行く。
「《無敵の鬼神剣》ッ!」
手に握る《無敵の鬼神剣》を一気に振り下ろす。それを【天兇の魔女】は【鮮花】で受け止める。
「《神王の雷霆》ッ」
瞬時に俺の全身を覆う雷がカウンターの効果を伴って天罰と共に、【天兇の魔女】に襲い掛かる。彼女はよけようとするが、雷の速度には間に合わない。
「【鮮花】!」
瞬間、刀の名前を呼んだ彼女の周囲に何かが展開されて、雷を全て防いでしまった。どうやら魔法系に対する防御はできるらしいな。ならッ!
「《破壊神の三又槍》ッ!」
破壊力ならこれが一番高いからな。こいつで一気に粉砕しようとする。しかし、槍の先を上手い具合に刀の腹で受け流す。上手いな。
「《必中の帰槍》ッ!」
逸らされるのなら、必ず当たる攻撃を使えばいい。だから、この槍ならば届くはずだ。そして、届いた。しかし、ずらされる。右腕に宛てるはずが、右腕を掠るだけだった。これは、運とかではなく、「執念」だろう。
「その程度の武具を適当に振り回すだけでは、私には勝てないわよッ!」
その通りだろうな。だが、俺が、《蒼王孔雀》ではなく《古具》を使っていたのにはわけがある。俺の力の劣化版である、この《古具》を思うように使い、ほとんどの力のロスを為しにしていた。そして、俺の身体からあふれ出る莫大な【蒼き力場】は全て、《蒼王孔雀》に集めていたのだ。
蒼刃の《剛力》を最も効率よく使える剣こそが、特注品の《蒼王孔雀》なのだから、全てをこの剣へと寄せていた。全ては、《蒼王孔雀》で決着をつけるために。
「俺は戦士ではなく、創造者だった。だが、俺は戦うんだ、己が信じるモノのために」
そう、戦士ではなく鍛冶師だった、戦士ではなく騎士で創造者、戦士ではなく鍛冶師、戦士ではなく一般人、あくまで、戦士ではなくそして、創造するもの、想像できるものとして生まれた。
「行くぜ、《蒼王孔雀》ッ!」
あの時、3人にそれぞれ贈られた武器が、今や、久々に、全員の元へと返ってきた。それを喜びながら、俺は、この剣を振るう。
踏み出しざまの抜剣から、そのまま切り伏せる。たまりにたまった【蒼き力場】は斬撃となって打ち放たれた。
「クッ……」
転移の魔法で、【天兇の魔女】は一瞬にして、部屋の端へと避けた。流石は得意としているだけあって詠唱も口上もフィンガースナップや魔法陣すらなしで、転移を成功させるとはな。
「まだ終わらないぜ!」
畳みかけるように、【天兇の魔女】に向かって、斬撃を打ち放って、それを囮に、踏み込む。なぜだろう、フィーラは、右に避けて、側面を魔法で狙ってくるような気がする。
「【灼熱の檻】……還元の天空、覇者は空から地上を見下ろした。弐式魔法陣、天武・改。【灼魔の龍涎】!」
猛烈なマグマのようにドロッとした炎の塊が俺の方へと飛んでくる。それも予想通りに、彼女が右に避けて、俺の側面を狙って、飛ばしたものだ。だから、予期していたので、瞬時に、その炎を剣で弾き落とす。
「チッ、弐式魔法陣、天武・改。【縮魔拡神】」
感覚を狂わせる感覚系の魔法。ものの大きさや感覚が変わってしまうので、当たると思っても当たらなかったり、逆にまだ距離があると思っても近かったりと、精神に直接作用してくる厄介な魔法だ。搦め手が得意なだけあるってもんだ。
だが、俺にはまるでこの魔法を食らったことがあるかのように、その全ての変化がつかみ取れる。そうなれば意味をなさない魔法だ。
「なっ、まるで、魔法の効果を把握しているかのように……。貴方、一体何?さっきの【灼魔の龍涎】の回避といい、まるで、この対処を知っているかのように……」
そりゃ、俺も聞きたい。まあ戦闘中に神経が鋭くなって、直感するなんてことはいくらでもあるんだけどな。しかし、今回のこれはいくら何でも行き過ぎだ。
「まあ、どうでもいいわ。このまま、私は貴方を倒す。貴方という素体が手に入ればいいのだから、生死は問わないことにするわッ!」
【鮮花】で俺を一刀両断しようとばかりに切りかかってくる。それを《蒼王孔雀》で受け流す。そして、切りかかる。が、魔法で反撃しようとしているのが分かったので、一気に距離を取るために、後ろに跳んだ。
――しかし、俺は、そこで選択を間違えていた。
全てがスローモーションに見える。魔法は囮だ。俺の斬撃と同様に、いや、こっちはもっと単純に、魔法を打つというブラフで、その実は別のことを狙っていた。まんまと引っかかったという後悔と、これではどうしようもないという諦め。
【天兇の魔女】の持つ【鮮花】の切っ先がこちらを向いて、勢いよく迫ってくる。【突き】、ただ単純だが、威力は高い。外した時や当てる場所を間違えれば無意味どころか、逆に追い詰められかねないが、決まった時の威力はあり得ないほどに高い。
そして、諦めた、その時、脳裏をよぎったのは、知らない記憶と知っている記憶、入り乱れた何かだった。
――じゃあ、……最後に一つだけ。もうじき、闇に包まれる最悪の夜が訪れるでしょう。一歩違えれば、君は死ぬかもしれない。
そんな史乃さんの言葉が頭の中に甦る。ああ、そうだ。あのとき、彼女はなんて言っていたんだけ?ミュラー先輩とのデートの前だ、そう、駅前で会った彼女は俺に何か助言をしてくれたはず。
――だから、最後に■■■■のことを思い出してあげて。それが悲劇となるか、愛劇となるかは君しだいだからね
そうだ、そう言っていた。「■■■■」、なんて言っていたっけ?そう思い出せそうだ。俺は、確か、静葉だと思ったんだ。もしくは静巴だ、と。そう、そして、初妃だ。もしくは刃奈。そう、思い……出した。
――だから、最後に「愛する人」のことを思い出してあげて
そう言っていたんだ。それだけじゃない。俺の頭の中で引っかかっていた全てが氷解していく。
宴が図書室で自分の正体を俺に明かした時に、俺は、不可解なことを感じたはずだ。それは何だった?
――なるほど、実の娘ではなかったのか。まあ、納得だな……うん?俺はなんで納得したんだろうか。よくわからないが、フィーラが誰かと結婚していることが想像できなかった。
それはなんで想像できなかったんだ?そうだ、それは、あいつが誰を愛しているかをよく知っていたからだ。
由梨香と遊園地に行く前に待ち合わせていた時に俺は何かを感じていた。そう、何だっただろうか。
――まだ、太陽が昇ってきたばかりの東の空に見える頃合い、その場景にどことなく覚えがあった。待ち合わせながら朝の景色を見上げていた、そんな記憶が。――俺が待っていたのは……誰だ?……■■■■?静葉?魔王?姉さん?
そう、誰だったか思い出した。俺があの日、待っていたのはフィーラだ。あいつが、俺の素材収集に付き合うって言ったから……だから、朝っぱらから待っていたんだ。
俺はなんで、No.0に不快感を覚えたんだろうか。それも、なんとなく思い出してきたような気がする。
――どことなく既視感のある声に、胸の奥がもやっとしたような気がするが、一体、誰の声だ?
そうもやっとしたのは、それもそのはずだ。俺を……オレを殺して、そして、あいつとオレを引き離した張本人だったんだから。
そうだ、やっと全部を思い出した。そう、俺には、まだ、前世があった。六花信司でも、蒼刃蒼天でもなく、もう一つの前世が。
――そう、俺は、燈篠眩真だったんだ。
それが分かると、自然と肩の力が抜けて、刀を受け入れる覚悟ができる。そして、受け入れるように手を……腕を広げながら、彼女に笑いかけた。




