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《神》の古具使い  作者: 桃姫
終焉編
354/385

354話:最上階層・魔女と鍛冶師SIDE.GOD

 俺は、階段を一歩、また一歩と踏みしめるように昇っていく。次で、ようやく終わる、その思いと共に、この上には嫌な思い出もある。だが、それらを含めて、今の俺がいるのも分かっていた。全てをかみしめながら、俺は、頂上にいる【天兇の魔女】の元へと向かっていくのだった。この戦いを速く終わらせよう。その一心で、手に《蒼王孔雀》を握りながら。


 そして、重厚な扉のその先には、一人の女がいた。金髪をなびかせながら、その狂気に染まった目で、こちらを見た。そして、そいつは言い放つ。


「ようこそ、運命の塔の頂点へ。この世界を壊す、そんな貴方がここまでたどり着くのをどれほど心待ちにしたか」


 鈴とした声をどす黒く染め上げて、彼女はそう言った。黒いローブは魔女然とした彼女の姿をより黒く、狂気的に見せていた。


「俺にとってみれば来訪者はお前の方なんだがな……、まあいい。そんなことよりも、一応、問おう。お前の目的は何だ?」


 一応聞かされているし、散々推測もした。彼女は、狂気的に笑いながら、何故そんなことを問うのか、というような目でこちらを見ながら答える。


「そんなもの、決まっているじゃないの。この世界の……全ての世界の滅亡よ。そのためには、【彼の物】から逸脱して行かなくちゃならない。そのための鍵が、貴方と、その姉だったというだけ」


 やはり、世界の滅亡。だけれど、その奥には、別の何かの目的が秘められているように思える。それがおそらく、No.0の言っていた「死んだ人間に執着している」と言うのに繋がっているのだと思うんだが、その辺はよくわからない。しかし、それを考えると、妙に胸がざわつくような気がするのは、俺が何か知っているからなのか、何かに気付きそうなのか。その辺は、自分でもよくわかっていない。


「世界の滅亡、ねぇ……。俺には、あんたは、もっと別の、もっと大事な目的のために動いているように感じられるんだけどな」


 鎌をかけるというよりも、俺自身のことを確かめたくて、そのために問いかけた様なものだ。本当に何かがあるような気がするんだが……。


「貴方には何もわからないわ。けれど、もし、本当にそう思っているのなら、私に協力してほしいものね」


 肩を竦める彼女に対して、俺はどう反応して良いのかが分からなかった。けれど、とうしてか、同情だとか呆れだかとか、そう言った感情は全く浮かばない。自分でも不思議なくらいだった。


「そう言えば、娘も十分に世話になったみたいね」


 俺の反応が変なのを妙に思ったのか、微妙な顔をしてから、彼女は俺にそう言った。娘、つまり宴のことだろう。そう言えば、この塔の前にいるアイツを見たっきり、塔の中では会っていないな。


「ああ、随分と世話をしたな。しかし、その娘は今どこにいるんだ?」


 俺の問いかけに対して、彼女は、先ほどとは別に今度は本当の意味での肩を竦めて困った笑みを浮かべる。


「さぁね、あの子は私も今何をやっているかはしらないわ」


 知らない、だと……。じゃあ、あいつは、この塔に入って何を為そうとしていたんだ?いや、そもそも入っていないのか?どうなんだろうか。そもそも、宴は、【天兇の魔女】の娘と言う以外に何かがありそうな気がしてならないんだ。それが何かは全く分からないが、この間の夏休みの図書室での最後、あれは、宴とは別の何かだった、そう思えてならない以上、彼女には何か秘密がある。それも、もしかしたら【天兇の魔女】すら気づいていない秘密が……。特に、イシュタルと買い物に行った時に会った舞沙花(まいさか)(れい)と名乗った猫耳少女、おそらくレイキュリア=マイシュ・タルードと言う名前の彼女とのつながりや、「概念」、「理」と言う単語など、いろいろと気がかりなものがある。


「さて、そろそろ……」


 そう言いながら、【天兇の魔女】はフィンガースナップで、魔法陣を出して、そこから黒と赤の模様の柄と、黒い鍔、黒い刀身に紅の刃紋、とても美しい刀が出現した。そこからは、凄まじい練度と時間と魔力がかけられたというのがヒシヒシと伝わってくるだけの執念ともいえる何かが見て取れた。


「あれが【鮮花(あざか)】」


 その美しさに思わず見とれてしまう。そう、あの刀は【妖刀《花》シリーズ】の4振り目。間違いない。あれほどの刀が他にあるとは思えない。だから、思わず鳥肌が立っているのを感じながら、その刀を凝視する。


「どうしたのかしら?刀が珍しいというわけではないでしょう?」


 笑う彼女の言葉をどこか遠くに聞きながらも、ほとんどの神経をあの刀へと向けていた。隙があるかないかで言えば、隙のありすぎる格好だっただろう。今、フィーラが攻撃をすれば、間違いなく死ぬ。そう分かっていても、俺は、その刀を見る。


「珍しいか珍しくないか、ということで言えば黒い刀身の刀は相当珍しい。あまり作られていない上に、残っていないからな。しかもそれほどの逸品はまずお目にかかれない。触って、じっくりと鑑賞したいほどだな」


 俺の傑作達も負けていないという自負はあるが、それでも、あの刀を前に、堂々と比べてみろと言えるだけの自信は無い。完成され、洗礼された流麗な刀。それがあれなのだから。

 もはや、あの刀は、鍛冶師そのものと言っていいほどまでに魂が込められているように思える。もちろん、そんなことをすれば、鍛冶師は死んでしまうことが多いのだがな。例えば、俺の友人だったナオトも最後は、自分の最高傑作に、魂を含め、全てを捧げたというからな。


「それにしても13振りある【妖刀《花》シリーズ】の1振りをこんなところで見ることが出来るとはな」


 ここで、自分で言っていて、どこか違和感を覚えた。無意識だったが、何かが変だった。だが、何が変だったかが分からない。

 その答えは、俺ではなく、【天兇の魔女】が指摘してきたことで、ようやくわかったのだった。


「ちょっと、待ちなさい。なぜ、貴方が、この刀のシリーズの合計数を知っているの?」


 それは、真剣な問いかけで、狂った目が、この時は珍しくまっすぐ射抜くような目に変わっていた。そして、その通りだった。俺は、魔法少女独立保守機構で、初めて【鮮花】の話を聞いたときは、あの刀のことを何も知らなかったはずだ。どんなものかもよくわからないから実物を見たいと喚いたくらいなのだから。


「……俺自身も分からないんだが、なんとなく、ってやつなのかもな」


 そんな風にいった。いや、言ったというよりは呟いたというのに近かったのかもしれないが。それが誤魔化されたようで気にくわなかったのか、【天兇の魔女】は少々ご立腹だったが、分からないものは分からないんだから仕方がないだろう。


「っと、そんな会話をしているうちに、こっちも準備ができたみたいだ」


 そんな風に【天兇の魔女】に話しかけた。それは話題を変える意味もあったが、本当のことでもあった。【天兇の魔女】は【鮮花】を呼び出すのが戦う準備だったようだが、俺の方は、まだ準備が整っていなかった。いきなり戦っていたら万全じゃなかったんだが、話で時間を稼げて助かったぜ。


「準備ができた……?何の話をしているのかしら?」


 そりゃ分からないだろうな。見た目にも【力場】にも何の変化も見られないのだから。だけれども、それは密かにずっと動いていた。それは……


「権能の完全復帰を確認。緋葉や静巴のおかげで復帰がだいぶ早まったが、ちょっとまだ戻り切っていなかったから不安だったんだが、扉の前まで付けば、どうせ、外にいるのはバレるだろうし、時間稼ぎをするなら、対面できる中の方がいいと思ってな」


 そう、徐々に戻りつつあった権能だが、完全とは行かなかった。それが、たったの今、完全に戻ってきたのだ。それゆえに、戦う準備が終わったと、そう告げた。


「権能、何のこと?でも、何のことだろうと関係ない。貴方を倒して利用させてもらうわ」


 【天兇の魔女】は【鮮花】を握りしめる。対する俺も、戦うために、背にかけなおした《蒼王孔雀》ではなく、《神々の宝具(ゴッド・ブレス)》から《無敵の鬼神剣(アスラ・アパラージタ)》を呼び出す。

 ドクン、ドクンと心臓の音が聞こえる。権能が復帰した今なら分かる。俺の《古具(アーティファクト)》の本当の意味が。


 初めて《古具》を手にした後、何度か疑問に思ったことが在った。《神々の宝具》がなぜ、神の祝福と言うものなのか。神様たちが俺に力と言うものを祝福して与えてくれているのかと思った。だけれど、それは違う。


 この《古具》には本当の意味……いや気づいていないだけで、その意味は最初からそうだったのだろう。《古具》の名称と読みの違いには本当に理由があるのだということが改めて感じられた。だからこそ、《蒼王孔雀》ではなく、まずは《古具》で戦うのだ。



「さあ、戦いを始めようか」

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