353話:王花VS暗音SIDE.D
※前話とタイトルが同じなのはわざとです
それこそ、先ほどまでの闘いってのは、王花と無双の闘いってのだったわけよ。何を言っているのか、ですって?じゃあ、聞くけれど、先ほどまでのあたしは茶髪だったわけよ。地面を蹴ろうとも何ともなかったわけよ。服もただの制服だったわ。
「死んでもらいます、ねぇ、随分と大口をたたくじゃないの、王花」
あたしはそう言いながら【蒼刻】を発動する。髪が蒼く染まっていくわ。瞳も蒼。そして、一歩踏み出せば、地面が割断される。足元から這い上がる影が衣服となって、あたしを包む。さらに、あたしの中の紫を一気に開放するわ。
【蒼紫の力場】。それが体中で展開される。これこそが、あたしという存在の真骨頂。幾度となく繰り返した転生によって得た力を解放する。無双はその一部に過ぎないのよ。これこそが、あたしの全て。ここからが、あたしの本番ってやつよ。
「なっ、何が……ッ!」
王花が同様するけれど、あたしは、両手に握った《琥珀白虎》に魔力を込める。刀身が振動してしまうくらいに込めた魔力を一気に解き放つわ。
「叢雲流・奥義『天之羽々斬』」
真っ白な光の束、とでも言うべきものが2つに分かれて、王花に目がけて襲い掛かる。王花は咄嗟によけようと後ろに跳躍したわ。そこにあたしは畳み込むように攻撃を叩き込む。
「叢雲流、終技『紫雨太刀』!」
上へと切り上げられた斬撃が、下へ向かって雨霰のように降り注がれる。それを避けるのは王花でも無理よ。そして、斬撃が落ちている間はあたしがフリーになれるから自由に移動できる。
「紫雨流、旭技『天月の型・絶火の守』【紫燃えたる雨】」
《琥珀白虎》から濃紫の【力場】が迸る。それを横に薙ぐように薙ぎ払いながら打ち放ったわ。まるで、広がる炎の様でもあり、雨粒が落ちてはじけるようでもある。
「【天より来たれ、我が栄光の巨壁にして城壁】!
【その名を我が元に開放せよ】!
【白き城の城壁】!!」
王花を囲うように突如現れた巨大な壁があたしの攻撃を阻んだわ。なるほど、あれは【白王】の家に伝わる何かってところかしら。大仰な壁は、まるですべてを考えて設計されたかのような綺麗な石積のアーチなどで見張り穴が有り、本当の城の城壁なのがうかがえるわ。組積造の特徴はアーチとかだからね。
「まさか、この力まで使わされるとは思いませんでした。隊長の【絆】ですか?」
あたしはまだ【絆】の力は使っていないんだけどね。まあ、いいわ。しかし、あの攻撃を阻む壁ってのはどれだけ強いか、考えると恐ろしいわ。
「【天より来たれ、我が栄光の宝剣にして王剣】!
【その名を我が元に開放せよ】!
【白き城の王剣】!!」
謎の衝撃波と共に、王花の元に、大きな剣が現れる。あれが、アルカンダリア……、【白王の剣】、別名【始源の原石】なのね。その鋭い刃先は白く染まっていて、眩く輝いている。
白は加法混色、あらゆる光を反射させた末の色。黒は減法混色、あらゆる色を吸収した末の色。あたしの黒刃とは対照的ね。
「【雷天、雷光、雷帝、雷神、幾多なる雷よ、我が元に彼の物へと降り注げ】」
おっと、王花の魔法ね。この子、基本的になんでもそこそここなすからねぇ……、所謂万能タイプってやつ?秀でた芸はないけど、全般をこなせるタイプ。それこそ将美とかと同じようにね。どれも5段階で4くらいの能力があるからいるといろいろなところで役に立つってやつ。でも、本人は秀でたものがないのを結構気にしていたけれど。
「おっと」
あたし目がけて王化の魔法の白い雷と上空の紫の雷が混じって、あたし目がけて降ってくるわ。でも、あたしは避けない。だって、雷だもの。
――バリバリィ
帯電するようにあたしの手元に球体状の塊となってとどまる。雷はあたしを……いいえ、私、というよりも、私の記憶する四代目天辰流篠之宮神を気づ付けることが出来ない。それゆえに、雷は避ける必要性がないのよ。
あの子は、基本的に、幼いながらに強い意思を持つ、芯の強い子だったから。私達、過去の天辰流篠之宮神の力も未来の天辰流篠之宮神の力も引き出せるにも関わらず、ほとんど頼らずに、白炎を封じた刹那と一緒に世界をぶち壊したのよ。まあ、そう言う頼らない姿勢だからこそ、授けられたのでしょうね。そんなあの子の持つ力こそ、雷を統べる力、【雷握】。第六龍人種でもないにかかわらず雷を纏い、雷を食べ、雷を吐くことのできた唯一の人間よ。おそらく、紅蓮の王とかと同じ類の異常者でしょうけど。
「お返しするわよ」
そして、雷のボールをそのまま王化に向かって投げつける。途中で解放された雷は、そのまま一直線に巨大な雷の柱となって王花へと迸った。
「【白砂、白衝、白動、白天、白々たる白よ、我が元に彼の物へと襲いかかれ】」
おっと、今度は別の魔法で雷を逸らすみたいね。そして、そのまま一直線にこっちに攻撃を飛ばしてきている。これは、実体がある攻撃みたいだから、壊すのが手っ取り早いんだけど、数が多いわ。
「その形は砂であり、触れれば衝撃が、動かせば痛みが、如何なることもかないませんよ。斬ったところで砂なので、どうにもなりませんしね」
なるほどね。なら、大威力ので吹っ飛ばすっていうのが定番だけれども、じゃあ、こんな回避の方法はどうかしらね。そう思いながら、あたしは……私の中の三代目天辰流篠之宮神の【眼】を借りる。
「【死の眼】」
実体があろうが無かろうが、殺すことの出きる瞳。嘆きの赤色を示す血染めにして死染めの色が顕現して、目の前の攻撃を跡形もなく消し去ったわ。
「魔眼の一種にして、覇眼の一つ……?!隊長がなぜそれを!」
覇眼ってのは、覇王の瞳にして、覇者の証、永劫たる究極の秘宝、九世界の猛者が一人、ファムーズ・デュランメニス皇の持つ11の瞳の総称よ。【死の眼】、【弄の眼】、【緋の眼】、【無の眼】、【■の眼】、【■の眼】、【盗の眼】、【負の眼】、【兜の眼】、【法の眼】、【■の眼】の11個。その目達は宿主を変えようと、その目の中にデュランメニスを宿していて、永遠にデュランメニスは彷徨い続けているわ。そして、その代償として、その目には英知が込められている。だからこそ、秘宝とも呼ばれ、その目の英知を解読できたものは、九世界の根幹たる秘密の1つを知ることが出来るとされているわ。
「さて、何故でしょう?」
意地悪く肩を竦めてそう言ってやった。はてさて、あたしは、あたしの全てを王花にぶつける。だから、あれをしましょうか。
「行くわよ、グラムファリオッ!グレート・オブ・ドラゴンッ!
篠宮無双の血脈を継ぎ、紫雨零士と八斗神闇音の魂を受け継ぎし者、青葉暗音の全てを解き放つ……!超究極奥義・改!」
ちなみにこの「超究極奥義・改」のネーミングは、昔遊んだ関西弁の馬鹿な幼馴染のよく使っていたものよ。別に元があるわけでもないのに「改」ってついてた方がカッコいいっていう発想が馬鹿よね……亞月。
「無双流・叢雲流・紫雨流・闇音我流……混流」
全ての流派の極意をまとめてそこにつぎ込む。あたしの全てをそこに突っ込んだと言っても過言ではないわ。本当の意味での奥義だもの。
「【|全てを染め上げる蒼紫の武神】」
きっと、王化には何が起こったか分からないでしょうね。それほどの攻撃が、王花を襲った。一応、あの子も死なない程度に頑張るでしょうし、言いたいこともあるから、死に切らないように注意をしているけどね。
そして、後には、ボロボロになった王花だけが残ったわ。さて、と。王化には言わなきゃならないことが在ったのよ。
「王花、貴方は、絆を……多くのつながりを馬鹿にしていたわね。そして、孤高こそが強さだと言った。そして、王はそうあるべきだと言っていたわ。でもね、王花、それは間違いなのよ」
王花は、こちらを睨みつけて、ボロボロの身体を引きづるように、掠れた声を絞り出すように、あたしに言った。
「間違って……ない。それこそが、すべて……王は、そうあるべき……です」
王花はそう言うけれど、それは土台無理な話よ。だから、あたしは王化に告げる。あの時から言おうとしていた言葉を。
「王ってのはね、多くの者の上に立つ存在よ。多くの者の上に立つには、多くのつながりが必要何よ。王とは何か、民の上に立つ者よ。民無き王は王にあらず。孤高は何も与えないわ。王を目指すなら、孤高になることだけはいけなかったのよ」
そう、独りぼっちの王は、ダメよ。独りよがりの王もね。王は、皆を考え、皆と共にある者。強者と王者は同義ではないのよ。弱い王もいれば、強い奴隷がいるように。
「じゃあね、王花。安らかに眠りなさい……、これで、終わりよ」
ストン、と《琥珀白虎》の片方を王花の胸に落とす。それだけで、王花は光の粒となって消えていった。
さて、と、あとは紳司だけね。あの子はどんな戦いをしているのかしら。そんなことを考えながら、あたしは、地面に腰を下ろしたのよ。
え~、遅くなりました。申し訳ありません。




