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《神》の古具使い  作者: 桃姫
終焉編
352/385

352話:王花VS暗音SIDE.D

 空白の時間がしばらく続く。互いに、出るタイミングを見計らっているため、じっと、その時を待っている。そう、あの時と同じように……。そして、一際大きい紫雷が地面へと迸った瞬間、あたしたちは同時に動き出したわ。


 瞬時に間合いを詰めて首を狙ってきた王花を左の刀で受け流しながら、どてっぱらに右足の蹴りをぶち込むわ。王花はそれを後ろに跳ねて避けながら、刀を突きだして振り上げる。素早く身を引いたけど、あたしの茶髪は何本か切られてしまったわ。


 体勢が崩れそうになるのを後ろに宙返りして、距離を取ることで隙を与えず乗り切る。そこに、突っ込むように突きをかまして来る王花。


「藍那流《斬刺花(さざんか)》」


 超高速の連続突き。しかも、鋭い斬撃となって跳んでくるわ。こりゃ、避けるよりも捌いた方が速いでしょうね。左手を逆手に構えて、右手はそのままにして構える。無双流にある型っていうか構えの1つ。

 高速の突きを直撃しそうなものは右手で払いながら、斬撃を左手でアッパーするように切り裂いて消すわ。どちらも普通に構えていると、両側に払って、真ん中が空くから、常にどっちかの手が真ん中を守れるように、片方を逆手に構えているのよ。


「チッ、藍那流《崩閃花(ほうせんか)》」


 空間を切り裂く一撃が、あたしに向かって放たれた。瞬時に右手の刀を左手に渡して、思いっきり右の拳(・・・)で、その斬撃を打ち消したわ。


「どこまでもでたらめな……っ!」


 【究極力場到達点】に至っている人間ってのは普通とは違うのよ。そして、王花は至っていない側の人間なのよ。だから、ここまででたらめなことはできないだけど、他の到達者なら可能よね。


「藍那流《躑躅切(つつじぎり)》」


 体を捻るようにしながらかがんで、気づけば王花は逆手に刀を持っているわ。これは……、あたしは咄嗟に体の前に刀をクロスさせる。そこに衝撃が襲うわ。回転するように斬撃を伴った攻撃を両手の刀で受けきったのよ。


「ぉらぁっ!」


 距離を開けるために、力任せの一撃を思いっきり地面に叩き込んだ。それを避けるために、後ろに跳躍する王花。予定通りね。


「無双流・天儀(てんぎ)双劉牙(そうりゅうが)》」


 二閃の斬撃が王花に向かって駆け抜けるわ。王花は、体の中心の急所は避けられるように刀でカバーしつつ受け流した。けれど、ダメージは0って訳ではなさそうね。


「藍那流《禁黙犀(きんもくせい)》」


 今度は一点突き。しかも、途中で、握りを緩くして、柄の端に手を移動することで距離を稼ぎつつ、刺さった瞬間に押し込みやすいようにしているわね。流石は暗殺剣術ってとことかしら。


「ハァッ!」


 迫ってきた突きを弾き返して、攻撃に移ろうとするわ。でも、その瞬間、王花もまた動いていることに気付いた。


「藍那流《紫緋花(あじさい)》」


 弾かれた刀を手放して、そのまま逆の手の逆手に持ち替えて、再び迫ってきたわ。すっごい面倒なんだけど、下に叩き落とす。

 それを予期してか、軌道を変えて、あたしに当たらない向きにする。叩き落とされて武器を無くすのはきついってことかしらね?


「藍那流《千本桜(せんぼんざくら)》」


 《斬刺花(さざんか)》よりも細かい斬撃の雨霰。こりゃ、避けるのも捌くのもきついわね。仕方がない、ちょっくらやってあげますか。


神握(しんあく)


 物凄く久々に使うわね、この技も。体がついてこられるか心配だけど、やるっきゃないっしょ。全身に力を籠めるわ。


 この神握っていうのは、いわゆる、縮地や神行法と呼ばれる技の全身版よ。あれは、魔力とかで瞬間的に出力を上げて高速で移動するわけだけど、この技は、全身をとにかく魔力でブーストかけて、速くなるって技。


 そして、それによって、全ての斬撃を避けることが出来るのよ。ただし、全身に魔力を送り続けるから魔力切れにもなるし、体への負担も相当大きいわ。しかも制服の裾をちょこっと持っていかれちゃったじゃない。


「藍那流《仙刃掌(さぼてん)》」


 攻撃が全部外れた王花は、刀を自分の元に寄せてから、回転をかけて迫ってきたわ。しかも、回転の合間に突きを放ってくる。うかつに近づけばグサリかスパリかの二択っていうのがつらいわね。

 まあ、こういうのの攻略方ってのは昔から決まっているんだけどね。つまりは、回転の時に死角になる真上を突く。神握の状態のまま一気に跳躍して、そのまま跳び蹴りをかまそうとするけど、寸でのところで避けられた。


「藍那流《雛罌粟(ひなげし)》」


 刀身が一瞬見えなくなり、そして、気が付けば迫ってきていたわ。首を振って躱すけど、かなり危ない。今のは読めなかったわ。そして、王花は勝ち誇ったような笑みを浮かべて、数歩分後ろに跳躍する。


「隊長……、やはり、貴方は……わたしよりも弱い。剣技についてこられていないのがその証拠です。わたしのほうが強いんですよ」


 この子は何を言っているのかしらね。王花があたしよりも強い、ですって?勘違いも甚だしい。気づいていないのか挑発なのかは分からないけれど、やはり、この子は鋭い癖に抜けているわ。


「あの時だって、わたしは貴方を殺しているんですよ。そう、あの時から、わたしは貴方に勝っていた。だから、また、貴方はわたしに負けるんです」



 あの時、私と王花の最後の決戦の時の話よね。そう、確かに、あの時、私は負けたわ。でも、……。


――ゴロゴロォ!


 そんな雷鳴を合図に、私達は、同時に剱を抜き残りの距離を駆け抜けた。それこそ、さっきと同じように。そして、開幕から最後の技を放つ。


――無双流秘奥義《絆》


 私の編み出した無双流の最高奥義、それを放って、一方、王花も、自分の奥義を放ったのよね。


――藍那流《椛咲乱》


 そして、私の刃は王花に届かず、あの子の刃は私に届いた。それ故に、私の身体にはその技で致命傷がついたのよ。


「隊長……。やっと、やっと完成しました。貴女を超えるための剣。藍那流。椛が散るように消えてください」 


 私の身体から飛び散る血飛沫。かなりの量の出血。薄れゆく意識、そんなことを覚えているわね。そして、この時から契約は少しずつ動き出していたのよ。


「昔、言っていましたよね。相討ちでも殺せればいいって。でも。隊長。貴女は、私と相討つことすら叶わなかった。つまり、私が最強と言うことで……」


 そこで、王化の言葉は止まったわ。それもそうよね。足元から凍り付き始めていたのだから。次の器たる雪美の魔法で、王花は彫像のように凍らされてしまうのよ。てか、まあ、雪美の意識を乗っ取った私がやったことなんだけれど。




「わたしこそが最強なんですよ。この世界の王たるものは、わたしです!」


 ここまでくると哀れにしか思えないわよね。そもそも、この世界の王たる存在と言うのは、王花でも誰もなく、ただ1人、あいつだけよ。最強の存在と言うのもあいつのことかもしれないわ。あたしですら本人に会ったのはただの1度だけなんだから分からないけれど、この世界の王は、彼でしょうね。

 【魔城(くるったせかい)(しゅじん)】、そう、この世界の王たる人物、第一級特異点、王花ではどうあがいても、勝つことはできないでしょうね。あれはそう言う存在なのだから。


「だから、隊長、貴方にはここでとっとと死んでもらいますッ!!」


 どうやら、きめに来るみたいね。はぁ……じゃあ、いっちょ、やったりますかね。まったく、王花は気づいていないってのが本当に間抜けなのよ。いえ、むしろ篠宮無双たるやが最強と言う認識をしてくれているのでしょうね。そして、それに勝ったと。だからこそ、無双より強い者は存在しないという思いがあるからこそ、王花はそこに至れない。本当に残念よ。さて、強調するように、わざと言っていたのだけれど、刀で切られたのは「何色の髪」だったかしら?私が反撃したときに地面はどうなっていたかしら?私の今の格好はどうなのかしら?

 そう、そう言うことよ。

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