350話:紫雪VS秋世SIDE.Shixue
SIDE.Shixue
人間はつながって生きていく。それが私が局で働いて知ったことです。人と人がそのつながりを持っているがために、生きることが出来る。それは、人が人であるために必要なこと、だと私は思います。もし、生まれ落ちたときに、何者もなくとも、それでも、つながりを持たずに生きられると、私は信じていました。でも、人と触れ合ううちに、それが理想で欺瞞だったことに気付いたんです。
「それで、貴方と私が一緒の人物ってのはいまいち信じられないんだけれど、それでも本当なんでしょう?」
目の前の私たる天龍寺秋世は、私にそう問いかけてきました。秋世は、重要な部分だけすっぽりと抜け落ちてしまっている状態だから、仕方がないのかもしれません。別に愚かしいとか頭が悪いとか思っているわけではありません。むしろ、其処に頭が行かないのは必然な安ですよ。転生などの概念を信じられないのはその部分がすっぽり抜けていて、そこに意識が向けられないからです。分からないのではなく認識しない。概念として理解はしても事実として認識しない。客観的にそれはそういうものだと言っても、そのものを本質的にとらえられないのでしょう。
「ええ、そうです。私は貴方で、貴方は私。そのもの、というわけではありませんけどね。貴方には貴方の歩んできた過去があるのでしょうし、私にも私の過去があって、それが魂が同じだから……いえ、私の魂を内包しているからと言って、別に貴方が消えてなくなるわけではありませんから」
そう、互いに消えてなくなることはないのです。あくまで共生することになる。まあ、どちらかに強く引っ張られていったらその限りではありませんが、それこそ、互いに理解し合っているならあまりないでしょう。どちらかの自我が欠けていなければ、ですよ。
「そりゃそうでしょうけど、いまいち自覚がないのよ。私と貴方の類似性もないし」
秋世の言葉に私は苦笑をしそうになるのを堪えて、彼女にどう説明しようか考えました。そもそも、蒼天さんや無双さんがどうにかしておいてくれればよかったんですけどね、流石にあの人たちばかりに頼っていられませんから。下の階には緋葉さんや明日葉さん、深紅さんなんかも感じられますね。さらに響花もいるようですし、デュアル=ツインベルさんまでもいるみたいです。この塔はどうやら私と無双さんと蒼天さんの業が重なり合うように顕現しているようですねぇ。この塔を顕現させた人が相当のやり手だったのか、それとも偶然か、どちらかは分かりませんが、それゆえに、これだけの重たい人物たちがここに集結したのでしょう。
「魂の質が限りなく近かったのでしょうね。人が信じられない、そう思っていたことはありませんか?」
そう、それこそ昔の私のように。無双さんや蒼天さんに出会う前の愚考の私のように、彼女もきっとそのはずです。だからこそ私は……、
「ええ、確かに、そう思っていた時期もあったわ。まあ、その後清二さんに出会って変わったんだけれど。あ、清二さんってのはさっきの2人の祖父に当たる人よ」
あの2人の祖父……なるほど、つまりは、あの2人の血を遡って持つ、二重神性存在。だからこそ、私と秋世は類似しているのですね。私に絆を教えた人たちの血が両方流れていたんですもの。
「やっぱり似ているというか、あの人たちの血は、やはり優しい血なのですね。いつの時代も……」
ただ純粋にそう思ったのです。蒼天さん、無双さん、あなたたちの血は子孫にきちんと受け継がれる物でしたね。私は子をなさなかったので分かりませんが、それでも残るものがあるのは素敵なことですよ。
「似てるってどの辺が?」
秋世はそんな風に問いかけてきます。そう、どんなふうに似ているのかは、ゆっくり語るとしましょう。
「昔、私の生まれた世界は、戦争が絶えませんでした。銃などは流行っていませんでしたが、だからこそ、斬り合いや殴り合いなどの怒りと殺意に身を任せた戦争がいつまでも続いていたのです。そんな世界と戦争に辟易しているところに逆月さんが声をかけてきて、私は門番になりました」
そう、あの世界は、どうなっているのか、それは知りませんが、スーパーメイドの1人である「あいす」が主人を見つけて、銃器を使って戦争を終結させたと聞きましたね。
「そして、そこで人々に触れあって、私は人間が戦争をするばかりのものではないことを知るのです。時に気高く、時に優しく、時に美しく、人々はその人生を生きることができて、それは人が人と繋がっているからなのだと知りました」
秋世は私の言葉をかみしめるように聞いていました。やはり思うところが在ったのでしょう。だからこそ、私達は惹かれあった。そう、運命、その道筋が近しいものは惹かれあうのです。
「じゃあ、私達が……貴方が私になることは運命だった……私があんな思いをしていたのは運命だった、っていうのかしら?」
昔ならば、私は即答していたでしょう。「そうです」と。ですけど、今なら即答はしません。いえ、できません、というべきでしょうか。
「運命……果たして、それは正しく機能しているのでしょうかね。かつて、あの頃ならばともかく、今のように理を外れる者たちが多く現れるような時代が本当に決まっていたものだと思いますか。世界は徐々にその運命というレールから逸れて言っているように思えてなりません。そして、その奥には、必然のほかに大いなる意思を感じるのです。私はあの頃から感じていた、その者とは一度の面識ですが、おそらくそうなのでしょう。全てにおける例外中の例外と言われる第一級特異点。彼ならば、おそらく……」
あの男は、世界を……神を倒し、新たなる世界を創造しようとしているのではないのでしょうか。監視という名目で近くにいる4人と1人のことも気になりますし、さらに、ガイア……あれが、彼と共にあるのなら、やはり彼こそが、この世界群の終焉、ラグナロクに現れる革新者なのだと断言できるはずです。
「例外中の例外……?第一級特異点?」
秋世は、彼のことを知らないのでしょうが、無理もありません。私が知っているということは秋世が認識できないということなのですから。
「この世における全ての例外にして【魔城の主】です。いえ、今は彼の話などどうでもいいのですよ。それよりも、秋世、貴方はどうしたいですか?」
どうしたい、とは漠然な問いかけだと、私自身思いますが、しかしそれでも通じるでしょう。実際に通じたようで、秋世は、ためいきを吐くようにして、肩を竦めて私に言います。
「私は私である、それを譲る気はないわ。紳司君を好きになった、この私を変えるつもりもないし」
あら、あの人を好きになるなんて、私とは思えないけれど、まあ、その辺が違うということなんでしょう。しかし、彼との子供ですか……途方もない苦労をしそうな子供が生まれてくるのは間違いないんじゃないでしょうかね。
「ええ、私は貴方を変える気はありません。私を受け入れる、それだけでいいんですよ。
私と貴方は同じであり、違う者です。私は、貴方の中に空いてしまっている穴を埋めるための補填材に過ぎません。積み木で家を作って、1つの積み木を抜いた状態で組み替えた新しい家に足りない何かを補う
ためのおまけに過ぎませんよ」
そう、あくまで、今の本体は秋世なのですから。きっと、みんなそのような葛藤を経て、1つになる自覚をしていくんでしょう。
「【夢、対に重なる鼓動、奇縁の心】」
私は魔法を発動します。秋世を見ながら、この魔法を使いました。使うべくして使った魔法、その効果は、その名前の通り。
「なるほど、そう言うことね。うん、私が貴方で貴方が私ってのは、そう言うことなのね。これが転生って概念。それに、ああ、なるほど、紳司君が蒼天さんで、あの子が無双さんね」
心を映す、それが魔法の効果。そして、私の心が映れば、秋世は全てが分かる。ゆえに、私と秋世は1つになれるのです。
「私達が重なるってのが、転生が完了するってことよね」
「ええ、そして、この塔は、まるでそのために現れたかのようでもありますよね。私達にとっては、この塔が出てこなければ、再び1つになる……転生が完全になるなんてことはなかったのですから」
ああ、私自身の魂が秋世に移って行っているのが分かります。まるで、器を移し替えるかのように。さあ、行きましょう。
「ええ、私たちは1つになる」
「そして、貴方はあの人と結ばれるのでしょうね」
私の見たビジョン。紅司と此方、ああ、この未来がいつか叶うように、私と秋世は生きていくのでしょう。
――あの人と共に……
え~、三神物語シリーズの登場人物の一覧が欲しいという方がいらしたので、三神物語シリーズの最終作であるこの作品の最後にこれまでの三神物語シリーズの登場人物のまとめを作ることにしましたが人数が膨大なので、主な登場人物に関して容姿と簡単な情報を載せたものを本編と同時進行で書いていくので、最終話の頃にはできてたらいいなーと思うので、登場人物のまとめに関してはしばらくお待ちください。




