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《神》の古具使い  作者: 桃姫
終焉編
349/385

349話:番外・門番の過去と宿命

 かつて、色の名を持つ一族が覇権を争った後のこと、1人の男がある組織を立ち上げる。男の名前はケリュシュネイト・逆月・リューラッハ。その男には不思議な力が在った。「時空間を渡る力」。本来、人間は、その世界を逸脱することはできないとされていたのに、彼は生まれつき、その殻を打ち破っていた例外である。そして、彼が組織したのが、後の世に、最高峰の時空間組織と言われる「時空間統括管理局」である。


 彼が直々にスカウトした人間は数多くいる。主に初期のメンバーと言われる面々は彼の推薦だ。統括局次長の【レリックフレミアの聖女】ファリア・レーシスや統括副長の【漆黒の兎姫】ヴァルガリア・デュッセンド、人事管理部長ルシエラ=帝、管理副部長ファルシア=帝など、名だたる面々がいる中に、彼が最も強く推薦した人物がいた。それは、自分と同じ可能性を秘めているという理由からだ。


 本局門番係、紫雪(シシェ)。門番を務めたのは、これまでの時空間統括管理局の歴史上において、彼女ただ1人である。それゆえに、門番と言ったら、彼女のことを指す。


 最初、彼女はあまり乗り気ではなかった。しかし、彼女は、時空間統括管理局で働く中で、その仕事にやりがいを見出していく。時空間統括管理局には数多の人間がいる。それこそ、初期の状態だけでも本当に多くがいた。世界管理委員会や本局の各部署の他にも、創設1年目に第一世界と認定したフェニックスの人間や2年目に第二世界に認定した飛天の人間、そして、飛天に設置した烈火隊の人間など、年を重ねるごとに人は増えていく一方だった。そう言った人々を覚えること、それが彼女の生き甲斐になっていく。人と人が繋がっていく、その素晴らしさは【絆】と言う言葉になる。


 彼女は時空間統括管理局に来る前にいた世界にて、少しの間一緒に暮らしていた少女に問われたことがある。


「人はなぜ生きるのか、なぜこんなにも脆いのか。同族同士で殺し合うなんて愚の骨頂だと思うのだけれど」


 妙に大人びた黒髪の少女は夜紅魔(やくま)と言う魔人と結婚する。そんな少女に向かって紫雪は、笑いながらこう返したのだった。


「響花、人間は確かにくだらない。けどね、奇跡も起こすことがある。だから、私は、そんな人間を信じているんですよ。『人間は捨てたもんじゃない』とそう言えることを信じて」


 後に少女は、彼女の偉業を見て、「人間も捨てたもんじゃない」と言う言葉を発した。それは、紫雪のこの時の言葉を真似たのだ。


 それから、彼女は、時空間統括管理局で働くうちに、人間が捨てたものではないことを1人の女に教えられた。その名前は篠宮無双。人の身で在りながら異常ともいえる存在であった。彼女を捨てたものだと言えたら大したモノどころではないだろう。それゆえに、彼女は人間に対する考えを改めるのだった。


 そして、多くの人と仲良くなる。頼まれた異界での用事で黒減(こくげん)と言う男と知己になるなどを経て、随分と長いときを時空間統括管理局で過ごした。そんなある日、不思議な少女が紫雪を訪ねてくる。紫雪の《銀朱の時ヴァーミリオン・タイム》に興味を持ったという少女は、見た目通りの年齢ではなく、それどころか、九柱の神が死ぬ以前の九世界より生き残る例外の1人だった。アリッサ・ィラ・マグナスケセド。【最果ての召喚者】と呼ばれるようになるものだ。彼女は紫雪に弟子にしてほしいと懇願した。本来は弟子を取る気のない紫雪だが、あまりにも熱心に頼み込んでくるもので、渋々応じることにしたのだった。


「では、これから教えるのは【固有空間】の魔法【箱庭、我が朋友が暮らせし小箱、其の家にして此の家】です。これさえ使えるようになれば、貴方の召喚獣を別の世界からではなく、自分の世界から呼ぶことが出来、時間の短縮等になります。自分の世界と言うのは自分そのものですからね」


 後に一地界、三帝界、八王界、十三幻界といった彼女の世界となるのだが、この時はまだ1つの世界でしかなかった。アリッサは強く、しかし、紫雪はそれ以上の強さだった。ゆえに、アリッサは紫雪の元を離れず、門番の弟子と言う妙な扱いで管理局に所属することになったのである。


 それからしばらくの後、大きな戦いに発展したときに、紫雪は、ある世界への攻撃を負かされる。無論、世界そのものではなく、世界を揺るがす脅威に対しての攻撃だ。サルヴェガーツェ殲滅戦、サルヴェガーツェと呼ばれる種族を狩ることを命令された彼女は、圧倒的な強さでその大多数を殺した。それゆえに、テンペストは彼女を恐れたのだった。

 後に、唯一の生き残りのテンペストは、彼女の転生体に遭う。その時、テンペストは、その特有の特殊な目で、転生体であることを見ぬき恐怖したのだった。


 他にも【水晶の心臓】と呼ばれる龍王と戦ったり、クーヴェンデノッツ事件や、ヴァンペースを経たりして、彼女は、最強の門番として認知されるようになった。

 そんな彼女の最期は壮絶だった。それゆえに、その話は語り継がれている、かと思いきやそんなことはない。なぜなら、彼女の死後、すぐにある事件が起こってしまうからだ。では、彼女の最期について述べよう。


 3つの世界をまたにかけての大戦争が勃発した。通常、このようなことに紫雪が介入することはないのだが、ある事情により、紫雪に回ってきた案件だったのだ。彼女は、行って早々に大戦を片付ける。が、それだけでは済まなかった。

 巨大な時空震が3つの世界を中心に起ころうとしていたのだ。無茶な世界観同士の接続が原因であると今では推測さてているが定かではない。ただ、そのように起ころうとした時空震を、彼女は止めたのである。


 紫雪、彼女の得意な魔法は、《銀朱の時ヴァーミリオン・タイム》からも分かるように、転移と召喚。すなわち空間系の魔法を得意とする。暗転魔法などもその中に入る。そして、彼女は、その全ての力を用いて、3つの世界と自分自身を犠牲にすることにより、その巨大な時空震を止めた。推定規模4000世界と言われた時空震を3世界に留めた功績は受賞ものだろう。しかし、そんな彼女の死後、アリッサは早々に局を辞めてしまう。次の門番にも誘われていたが、蹴っている。それゆえに、今後、時空間管理局において門番は永久に不在となった。そう永久に、である。


 事件はそれがきっかけで起きたともいえるし、それを狙っていたのではないか、と言われている。その事件の名前は「白城事件」。時空間統括管理局史上最悪の損害をもたらした事件と推察されている。なぜならば、最強の女がこの事件で亡くなっているからだ。


 その白城事件において、門番が不在であることがどう関与したか、と言うと、簡単なことである。白城事件では、事件後、緊急システムで全壁にブロックが働いた。しかし、その時点で犯人は外にもう出ていたために、追う者が緊急システムで阻まれてしまうという問題が生じ、犯人を取り逃がしている。だが、門番が居れば、その後犯人は、局から出るために門番の前を通らなくてはならない。門番が止めずとも、どこに行くかはバレる。


 しかし、門番がいない状態ならば、容易に外に出て、しばらく姿を掴まれることがないのだ。そうして、白城事件は起こった。


 その白城事件こそ、時空間統括管理局を揺るがしているのだから、紫雪の死が何を招いたか、というのが分かる。しかし、どのみち、紫雪があの時、自らを犠牲にしてでも時空震を止めていなかったら、壊滅的なダメージを受けていたことにも変わりがない。





 そういう経緯で、紫雪はその生涯を閉じたのだが、その魂はと言うと、バラバラに砕けて、世界を残滓のように彷徨っていた。その欠片は、蒼と茶の血脈に引き寄せられて、ある世界に僅かに落ちる。そうして、宿ったのが、天龍寺秋世と言う人物だった。魂の残滓がなにかに反応する、そんな限りなく少ない可能性を手繰り寄せたのは、紫雪の類稀なる運の良さゆえか、それとも偶然か、世界の摂理が壊れ始めた影響か……それとも、その身に抱える「絆」ゆえか。――それは、神すらも知らない。

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