347話:ダリオスVS清二SIDE.Grandfather
SIDE.Grandfather(with Blue…)
さてはて、この男がダリオスっていうのはいまだに信じられないな。あの偏屈そうなじいさんが、昔はこんな姿だったのか。しかし、紳司の奴はやっぱり謎が多いな。親し気に話していたし、知り合いのようだった。暗音も暗音で謎が多いがな。
(まあ、そんなもの考えても意味ないよ。それよりも、前に集中すべきじゃない?)
聖の言葉に同意する。あいつらのことはどれだけ考えても無駄でしかないからな。俺の届かない領域にいるのは間違いないだろう。王司や紫苑さんなんかよりもさらに高みの何かだろう。
それよりも、今は、目の前のダリオスを倒す方が先だ。ダリオス・ヘンミー。かつて、俺が高校生だった時に戦った男だ。そう、俺の人生における、最も危うかった戦いともいえる。しかも、この塔で戦ったのだ。
そう、あれは今からどのくらい前だっただろうか。美園と付き合う前、生徒会に入ってしばらくした後だったもんな。かつて、美園を路地裏で刺した男や、アーサー達《聖王教会》、龍神の元での白羅との修行、青森でのラクシアとダーインスレイヴの件、不死鳥の一件、天龍寺家での護衛生活、美園と義母さんたちとの話、《魔堂王会》や煉巫との戦い、そして、塔へと挑んだダリオスとの戦い。よくもまあ、あの短い期間で、こんなことが在ったな、と今思い返しても、そう思ってしまう。
そのダリオスとの戦いは、本当にギリギリだった。俺と聖の全力でも届かないあの戦いには、みんなの本気で挑んで、《古具》が進化して、ようやく勝ったんだ。長い戦いの果てに、ようやく勝利を掴んだ。
「ダリオス、俺たちは、あれから、随分と成長した。だから、俺は、お前に挑むぜ」
(お兄ちゃん、行こうか。わたしたちの本当の力をっ!)
そう、俺と聖の本気を、今この場で見せつけてやる。そして、ダリオスを倒してこそ、俺たちは初めて成長したのだと言える。
「【蒼刻】!」
俺は体内に7つの【蒼き力場】を構築する。それと同時に、聖の【蒼き力場】も融合して、俺の体内には合計で14の【蒼き力場】が展開されているのだ。普通の【蒼刻】の倍の量だからと言って精製量も倍になるわけじゃない。累乗化していく【蒼き力場】は、その力を通常よりも跳ね上がる。
「蒼き血潮……ブルー・ブラッド。蒼刃の一族に伝わる固有の技か。一族のモノのほとんどが発現しうることから、あの一族の血には何かあるのではないかと言われていたな」
そう、聖も、そして、王司も紳司もおそらく暗音も、使うことが出来る。それは、血縁の関係だろう。まあ、紫苑さんのように、俺の家系じゃなくても使えるのはいるが家系図を辿れば、紫苑さんの家と蒼刃の家が繋がっていた。たぶん、そこから生じたものなんだろうな。
「《殺戮の剣》、《切断の剣》ッ!!」
そして、俺は《死古具》と《聖剣》を手に、その名を呼んだ。俺の持っている力だから。
「《聖覇にして殺戮切断の剣》!」
そして、そこに俺の中に流れている【蒼刻】の【蒼き力場】を限界まっで注ぎ込んでいく。青色を纏ったそれは姿かたちを先ほど紳司へと渡した剣へと変えていく。
「《蒼天の覇者の剣》ッ!」
通称、《神デュランダル》。神のデュランダル。そう、この剣は全てを切る剣だ。そして、それを体現する名こそ「デュランダル」。
(これは、わたしたちの力……。お兄ちゃんとわたしが持つ、最強の力っ!)
そう、俺と聖は一心同体。たまに、離れてどこかに行くこともあるが、基本的には一緒に居る。だから、分かる。聖の中の……裡なる龍の力が剣へと流れ込んできている。
そう、世界も空間も概念も全てを切る剣と、世界も時空も全てを終わらせる終焉の龍の力が合わさった時、それはいったいどうなるだろうか。それは想像に難くない。本当に全てを消し去るだけの力となるに決まっている。
「《終焉の蒼き王の剣》」
蒼と黒、混じり合う光が、ぐるぐると螺旋を描くように、剣の周囲を回っていた。刀身には歪な世界の文字で、終焉を告げる言葉が刻まれている。
「この力……、魂レベルの領域干渉で、魂の奥にある別の魂の第六龍人種の力を引き出しているというのか?!」
ダリオスは驚いているが、この程度、俺たち兄妹なら普通にできる。だから、行こうぜ、聖。圧倒してやる!
(おっけー、お兄ちゃん!)
俺は、剣を構える。それに合わせて、ダリオスもまた、不思議な形の銃を構えている。さあ、戦おうじゃないか。
「ハッ!!」
俺は、踏み込みざまに切り上げる。蒼と黒の光が、剣の射程を大いに伸ばして、ダリオスに届く。それをダリオスは、銃身で跳ね除けた。そして、そのまま、あらぬ方向に銃弾を射出する。
「ニア、コントロールは任せる」
ダリオスはそう言うと、態勢を立て直して、瞬時に銃口をこちらに向けた。それと同時に、横から先ほどの銃弾が意思を持っているかのように動いて、俺の方やってくる。
チッ……、また面倒なことだ。追尾型とかっていうよりも、それ単体が意思を持っている銃弾と言うところか?飛んでくる銃弾を良ければ、ダリオスの新たに発砲する弾にやられるし、かといって、直接ダリオスを攻撃すれば飛んでくる弾にやられる。だったら、ここは、両方に攻撃するっきゃねぇよなァ!
「ハァアアアアッ!!!」
剣に纏わせた光を広範囲に伸ばして、ダリオスに攻撃しつつ銃弾を落とした。ダリオスは後ろに避けたが、俺はそのまま追撃するようにダリオスを追って踏み込んだ。
「馬鹿がッ!」
ダリオスは、銃の妙なフォルムの部分から刃を出現させた。あの変な形は、剣としても使えるようにってことだったのか。いや、だが、普通、銃剣は銃身に剣を付けるが、これはよくわからないな。なんでこんな中途半端なところから剣を……?
「射出!」
ナッ……?!驚いた。現れた刃が射出されて、こちらに向かって飛んできた。それもかなりの速度で、だ。まずいな、このままだったら体を貫かれちまう。
(まかせて、お兄ちゃん!)
聖が言った途端、刃があらぬ方向へと吹き飛んだ。どうやら聖が何かをしたようだ。助かった……が、さて、とここからどうやって攻撃するかな……。攻めると銃による二方向攻撃で返り討ちに合う。かといって、防戦に出ても、それ以上の数の銃弾で攻められて終わるだけだ。
「普通なら、こういう時に頭でも捻って方法を導くんだろうが、俺はコイツしかねぇんだよ!!」
そう言いながら、ダリオスに突っ込んでいく。そう、俺にできるのはこれだけ。それは何かっていうと……
「力押しだけなんだよッ!!」
そう、俺は大抵のことを力押しだけで解決してきた。頭もそれなりに使うが、基本は、火力で全部ぶっ潰すからな。武器からしてそれがよくわかるだろう?なんたって、全てを切る剣と殺戮の剣が武器なんだからよ。
「ぐっ……なんという馬鹿力。この辺は、あの男によく似ているなっ!!」
ダリオスのよくわからない言葉を聞き流しながら、俺は、全力で突っ込んでいく。もう、これで押し切るしかないだろう。俺ならいけるはずだ。だから、思いっきり突っ込むのみだ。後ろや横から攻撃が来ようとも関係ない!
「ハァアアアアッ!!」
ダリオスへとまっすぐに突っ込み、ダリオスは、銃で反撃をしてくる。ただ、余裕がないからか別の方向に打つことなどなく、こちらをしっかりと捉えていた。
「祈りを捧げろ――ハルビオナ!!」
そして、銃身がまるで大きな口のようにぱっくりと開いて、そこから巨大なエネルギー弾が放出される。俺の勢いとエネルギー弾、どちらが打ち勝つか。それしだいで結果の変わる勝負だった。
「負けねぇええ!」
(負けないよ!)
俺と聖の心は重なり、そして、エネルギー弾を切り裂くようにして、俺の蒼と黒の入り混じった突撃がダリオスへと届く。
「グハッ……、ふん、負けたか……。強くなったな」
腹から血を流しながら、そう呟くダリオス。そして、ダリオスの身体は徐々に透けていっている。還るのだろう。
俺は、その消え様を見送りながら、上のことを考える。俺たちの孫のことはあまり心配していない。規格外な2人のことだ、生き残るだろう。だけど、秋世は、……大丈夫だろうか。




