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《神》の古具使い  作者: 桃姫
終焉編
346/385

346話:第二十九階層・蒼き清浄なる世界へSIDE.GOD

 俺たちは、ばあちゃんを下の階に残して、次の階を目指していた。はてさて、こういっては何だが、俺は、この上にいる人物の【力場】を良く知っていた。おそらく、じいちゃんもよく知っているだろう。俺はあいつに殺されて、じいちゃんはあいつを殺した。そう言うことだ。そして、さらに、その孫が、俺に挑みに来たのも、最近のことながら、もう、随分と前に感じる。


 強い意思と飽くなき探求心、そして、野心を持つ、そんな男だった。だから、あいつは、俺に挑んだ。俺の模倣をした。そして、俺……僕とここで相打った。恨んでないし、そう言う運命だったのだとも思うさ。


「じいちゃん、次は、たぶん、じいちゃんの番だね。それも相当因縁深い」


 俺はそうじいちゃんにいった。じいちゃんも頷いたことから、気づいてたようだな。なら話は早い。あいつも、きっと上で待っているだろうからな。そんなことを考えながら、階段を昇ってくと、次のフロアへと到達する。





 そして、階段のその先にいたのは、一人の偉丈夫だった。俺が最後に見た彼は老人となっていたが、それよりも前、若い頃の彼だ。靡く金髪に、鋭い目つき、着こなした白衣は研究者と言うよりもモデルのようだ。


「ほう、そういうことか。一度終わった人生、だが、何があるか分かったものではないな」


 悟ったようにつぶやく彼は、こちらを見て、胡散臭い笑顔を作る。相変わらずな男だ、と思いながら、俺は「僕」として、彼に話しかける。


「人生なんてものは、そんなものなんじゃないのかな。こうして、この塔で死んだ2人が、昇る者(チャレンジャー)待ち受ける者(キーパー)として再び会うことになるなんて言うのは思ってもみなかったけど」


 俺の言葉に、彼は肩を竦めた。懐かしいな……、この感じ。そう、彼と、そして、ニア。3人の懐かしい日々が蘇るようにも思える。


「まあ、こちらとしても懐かしく思うよ。そうじゃないか、ニア」


 彼が呟くと同時に、背後に幽霊のように白髪の女性が現れる。ニア・セレナーデ、本名、小夜村(さよむら)ニア。日本人とロシア人のハーフだ。


「ええ、いつ振りかしら、『(ボーフ)』」


 久しく呼ばれていなかったその名前を彼女は呼んだ。しかし、ニアもいたのか、と思ったが、そこで気づく。じいちゃんは蒼刃聖大叔母さんと一緒だ。そう、これは、彼とニア、じいちゃんと聖大叔母さんの組み合わせの業なのではないだろうか。


「さあ、いつ振りだろうかな。相当昔だったからね」


 俺が肩を竦めると、彼女よりも彼が反応を見せる。ため息を吐くように、彼は、俺に向かって言った。


「少なくとも、数百年以上は経っているんじゃないのか?お前と私が最後にこの塔で在ったのも、相当昔、ニホンがエドだったころだろう?」


 ニアが生まれたのが、鎌倉時代である。ただし、苗字があることからも分かるように、ニアの母親は鎌倉時代の人間ではなかった。それが原因の迫害により、逃げたのが中国……当時は明。そこから元……モンゴルへと渡り、ロシアへと移り、そこで、結ばれたのちに、ギリシャまで行き、ニアが生まれた後に、両親は他界した。その後、養子としてイギリスの人間の下へ行き、小夜村と言うのがあれだったので、セレナーデと名付けられて、ニア・セレナーデとなったのだ。その後、日本で言うところの安土桃山時代に当たる時代にニアは他界して、その後、俺と彼の闘いもあった。彼と決別したのも、ニアが他界したころからだろう。


「それにしても、君も、随分と若い姿で現れたね、――ダリオス」


 そう、彼の名前はダリオス・ヘンミー。かつて、僕を殺した男の名前だ。僕の《聖剣》や《古具》を模倣して《死古具ダリオス・アーティファクト》なるものを作りあげた張本人なのだ。


「やっぱり、こいつがダリオス・ヘンミー……」


 じいちゃんが戸惑いも混ざったような声でつぶやいた。まあ、そうだろうな。じいちゃんがあったのは、もう老人になったダリオスだろう。あの頃に比べると、このダリオスは随分と落ち着いていて、それでいて姑息さを感じさせないだろう。そう、彼も彼で、俺……僕との戦いの後に、いや、その前からか、結構ひねくれてしまっていたから、それがなくなるとこんな具合だ。


「驚くのも無理もないだろうな、青葉清二よ。貴様が見たのは、粋がった老人の私だけだろうから。『若気の至り』ならぬ『老気の至り』だろうよ」


 くっくっくと声を潜めて笑うダリオス。ニアも同意するように笑っていた。いや、ニアは老人の方のダリオスを見たことが無いだろう?まあ、いいんだけどさ。


「それにしても、いろいろと懐かしいものだ。お前と話したのもあの時以来となるが、心地よく感じるところがある」


 そんな風に笑う様子は、どこかつきものが落ちたようでもあった。そして、彼はニアに言う。


「ニア、あれをやろう。こいつをアッと驚かせやるために。キミと私の最高傑作を」


 どこか子供が自分の作ったものを自慢するかのように、そんなことを彼は言う。その様子がどこかほほえましくあり、不思議な気分だった。


「ええ、良いでしょう。『(ボーフ)』、その目に焼き付けなさい」


 そして、2人は目を合わせ、そっと息をするように、……心を落ち着かせるようにしてから叫ぶ。



「穿て――メルビオ!」「裂け――アルマ!」



「「捧げよ!――ハルビオナ!」」



 ニアの霊体のような身体が、光を放ち、そして、ダリオスを包むように覆った。そして、光が晴れると、ダリオスの手には、輝ける銃器が現れていた。


「霊体の霊子を言葉で導いて、形を変えさせたのか……。まさか、霊子変換形態(プシオネスアルマ)を完成させていたんだね!」


 霊子変換形態(プシオネスアルマ)、霊体を別の形に変える技術で、普通なら、バラバラにした霊子が元に戻ることが出来ない。それをいかに形状記憶させて、元に戻すかと言うことを一時期研究したことがあった。


「そうだ、どうだ、私の傑作はッ!」


 そのフォルムはどこか前衛的なものではあったが、それでも銃と分かり、なおかつ、美しい曲線や鋭い装飾など、見た目も普通の銃とは違うが、それだけではなさそうだった。


「いや、驚いた。流石だね。独力で、僕の御業にたどり着いただけのことはあるよ」


「ふん、猿真似どころか届きすらしていなかったさ。成功とは言えんよ」


 相変わらず謙虚と言うかなんというか。まあ、いつまでもこんな懐かしむような話をしていても仕方がないからな、そろそろ、先に進むことを考えないといけないだろう。上から感じる【力場】は既に見知った【力場】であり、さらに誰であるかの検討もついていて、誰の業であるかも分かっているようなものだ。だからこそ、進まなくてはならないという思いがある。特に、あいつが上にいるというのが分かっているから。


「さて、と。僕はそろそろ先へと行くよ。ダリオス、ニア、こんな君たちに再び会えたのを思うと、こんな塔でもいいことはあるのだ、と思うよ。多くの命を呑みこみ、僕の死すら与えた、この塔でも、ね」


 そう言いながら、俺は先に進もうとする。それを引き留めたのはじいちゃんだった。じいちゃんは、笑いながら、俺に言う。


「紳司、こいつを持っていけ」


 そう言って、放り投げられた身の丈ほどの大剣をすんなりとキャッチする。とてつもなく重いはずのそれは、俺にとっては軽くて、そして、まるで俺のために打たれたもののように、すっぽりとその手に収まった。


「そいつは……」


「姉さんの時と同様、知ってるよ。蒼王孔雀(そうおうくじゃく)だろ」


 そう、よく知っている。姉さんが琥珀白虎を良く知っていたように、俺も、この剣のことは本当によく知っているんだ。


「そうか、ならいい。俺は、今、お前に渡すべきだと直感したからお前に渡す。別に、そいつが無くても、俺は同じものを生み出せるしな」


 そう笑った。そう、こうして、俺の手元に、この剣が来た。それは……それはただ、剣が俺に渡ったことを意味しているわけではない。

 そう、緋葉の下には緋王朱雀が既にわたっていた。そして、下の階で姉さんに琥珀白虎が渡り、この階で俺に蒼王孔雀が渡った。これが意味していることは……全ての剣や刀、太刀が、本来、持つべき者の下へと戻ったということを意味するのだ。


「じゃあ、いくぞ、秋世」


 俺は、先に進んでいる姉さんの後を追うように、歩きながら秋世に言った。秋世は、そっとじいちゃんたちの方を気にするようにしながらも俺の方へとやってきた。




 そして、俺たちは、先へと進む。次の階へ……、彼の門番の元へと向かうために。

 え~、申し訳ありません。いつものように遅れました。はい。

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