345話:翠龍王VS美園SIDE.MISONO
SIDE.MISONO(Dragon Slayer)
はてさて、私はどう戦えばいいのでしょうかね。1人で戦うのも久しぶりになりますからね。いつもは青葉君……清二君が一緒ですから。しかし、いまだに慣れませんね。昔の癖で青葉君と呼んでしまうのは。紫苑さんもそうなので、この辺は似た者義親子と言うところですがね。
目の前に現れる全身が薄翠の結晶でできているようなドラゴンが現れます。まるで、翡翠でできた様な、そんなドラゴンが。
「懐かしい匂いがしたと思ったら……なるほど、あの女の関係者と言うことか」
そんな風に、ドラゴンが言いました。あの女……、その言葉に首を傾げますが、隣にいた孫娘の暗音さんが何かに気付いたように笑います。どうやら何か知っているようですね。
「やっぱり、あの子が【水晶の心臓】と戦った時に会っていたのね」
ニヤリと笑う暗音さん。どうやら、何かではなく、全てを知っている様子ですが、それを語ろうとはしていませんね。
「ああ、我ら三体を前に勇ましく『三体まとめて相手をしましょう』と言ったのをよく覚えている。そして、そう言うにたる実力を持っていた」
そんな会話を交わしている暗音さん。ドラゴンを相手にこんなにも話せる度量は、一体いつ培ったのでしょうね。たったの十数年で身につくものとはとてもじゃないですが思えません。相当昔から、そう言う風に、強大な何かと話し、そして、そんな適当な態度をとっても許される力を有していたとしか考えられないんですよ。
「ええ、強かったものね。あのアリッサの師でもあったのだから当然だけれど。彼女が居なければ、今あるはずの世界の何割かがなくなっていた可能性も大いにありうるし」
誰の話なのでしょうか。暗音さんは懐かしむようにそう呟いてはどこかを見ているような気がしました。いったいどこを……。
「可能性が有り得るんじゃなくて、実際そうだっただろう?彼女が3つの世界を犠牲にしてでも、あれを止めなかったら、少なくとも、局がなくなっていたしな」
紳司君も何やらいろいろと知っているようですね。うちの家系……と言うよりも、青葉君……清二君の血と言うか、相変わらず規格外な子たちですね。
「まあ、そうね。っつっても、あたしやあんた……それから、まあ、上位に位置していた人間は死ななかった可能性も高いでしょうね。あの時、あの子が別の選択をしていたら、あの事件も起きずに、きっと、死ぬこともなく、雪美達の登場も遅れていたでしょう」
何の話か分からないですけど、おそらく、私では届かないような高みの話をしているのでしょう。つまりは、孫は、そう言ったところにたどり着いているということですが。
「そうだな。あの事件は、あっさりと出られたところに難点があったしな」
「警報鳴って、こっちは出られないけど、通常の大出入り口は今まで番人がいたこともあって、警報とは無関係だったもの。それを突かれて、あの馬鹿が突っ走ったのよ」
懐かし気に語り合う孫たちは、どこか、私よりも年上に見えました。それこそ、はるか長い時を生きて、私達を子供でも慈しむような目で見ているような、そんな感覚。
「む、貴様ら……そうか、道理でおかしな匂いがすると思うたら、鬼帝の双剣と馬鹿の大剣か?」
「その呼ばれかたしたの、一回か二回程度よ?よく知ってるわね。ま、紳司の方はよく呼ばれてたけど、ふふふっ」
笑う暗音さん。はてさて、この世界には……いえ、世界には、不思議が溢れています。彼女も、いえ、彼女たちもまた、その中の一つと言うことでしょうかね、
「さって、そろそろここはばあちゃんに任せて、俺たちは先に行くとしようか。秋世、ちゃんとついて来いよ」
紳司君が笑って、そのまま進んでいきます。秋世もそれに続いて、暗音さんもその後を追うのですが、清二君はこちらによってきました。
「ふ……美園。ここは任せる。また、後で会おう」
「分かっていますよ」
いまだに「副会長」と呼ぼうとしてしまう清二君とはやっぱり似ているのかもしれませんね。さて、強大な龍を相手にする時がようやく来ましたか。
「《刀工の龍滅刀》」
私は手に持つ《龍滅の剣》に重ねるように《刀工の龍滅刀》を発動します。そして、《龍滅の剣》を包むように龍を殺す力の付与された剣が生まれていきます。
「《砕龍剣》ッ!」
龍を砕く剣。ゆえに砕龍剣。この力を付与されれば、龍を砕く剣が生み出せるのです。それを既存のモノに上掛けするのにはかなりの年月を要しました。でも、形にはなった。そして、さらに、研鑽の末に手にしたのは……、
「《殺龍剣》ッ!!」
龍を殺す剣。ゆえに殺龍剣。付与の重ね掛けと言うことを会得したのです。上手くいかずにどちらかしか発揮されなかったり、どちらも発動しなかったりと言うこともあったのですが、それを乗り越えて、ようやく発動できる段階まで至ったのですよ。
「ほう、強い力を感じる。それも、龍殺しに特化した強い力をだ。貴様、ドラゴンスレイヤ―の家系に生まれているな。そのオレンジ色の【力場】で否応なく分かるのだよ」
このドラゴンは、長命のようですね。それこそ、いろいろな知識を蓄えているほどに。今まで、幾度か、そう言ったドラゴンと戦ったこともありましたが、どれも手ごわく、時には、清二君と一緒に戦ってようやく互角なんていうこともありました。だからこそ、十分に用心しなくてはいけませんね。
「縛鎖の法、天命、天鍵、天災、統べるところの龍、その身を穿ちて、地に伏せよ。
――辰祓流封龍術・改『縛龍封』」
辰祓流封龍術、実家辰祓に伝わるモノらしく、これは母に教わったのではなく、別の世界の辰祓神社で習ったものです。
「ぬ……小賢しい手を使うものだ」
これを使われてもなお、しゃべることが出来るなんて、どれだけの耐性があるんでしょうかね。通常の龍の何倍も強いですよね。恐ろしい。でも、この程度で怯んでいては、あの人の夫は務まりませんからね。
「小賢しくとも、狡くても、術は術。むしろ、使わずに、温存して、全力を出さない方が、いけないことだと思いますがね」
私の屁理屈に、ドラゴンは少し面を食らったように言葉が止まりましたが、すぐに笑いだしました。
「クックック、面白い。そうだな。確かにそうだ。舐められることほど気分の悪いことはない。それに対して、こうも全力を尽くされるのはいいものだ」
器の大きなドラゴンですね。いえ、根本的に人間と刃考え方が違うのかもしれませんけれど。ドラゴンの考えは人間には分からない、などと言われることもあるらしいですし。
「だが、ならばこちらも全力で行こう!【雷牙】」
私の封龍を打ち消し、体に雷を纏っています。これが、龍の力……でも、この龍は、雷属性に特化しているわけではないようですし、複数の属性を使えるタイプと言うのは厄介ですね。
「龍を絶て……辰祓流天剣術奥義、龍ヶ絶」
龍を断つことに特化した辰祓流天剣術の中でも絶つことに特化した奥義。この技を使うことにより、雷を纏っている敵すらも切り飛ばすことが出来ると言われています。封龍術と共に、異世界の辰祓神社で習った龍殺しの御業。
「ほう、龍を殺すための剣か。だが、この身体は、その程度の剣技では到底切ることが出来ないぞ。龍の鱗は途方もなく堅いのだからな」
いいえ、いくら鱗が堅かろうが関係ありません。この技を使えば、本来切れるはずのないものであろうと、その中を絶ち滅ぼすことが出来るのですから。
「【光牙】」
ドラゴンが光を纏います。ですが、私の太刀は既に届きました。龍を滅する力と龍を殺す力、龍を砕く力を備え、それを龍を絶つ一撃として放ったのですから、届かないはずがありません。
「グッ……、これは……、あの女のような圧倒的な強さによる攻撃ではなく、完全に我々を消滅することだけに特化した一撃……ッ!」
そう、対龍に特化した辰祓の一族だからできることです。対魔に特化した市原でも、対鬼に特化した山岸でもない、対龍のためだけの一族。
「なるほど、……ドラゴンキラーの神髄と言う奴か……。面白い……実に面白かった」
そんな風に言いながら、目の前のドラゴンは姿を消していきます。うっすらと透けるように……。
「ふん、なんらば、もう一度、戦いたいくらいの気分だ」
「もう二度と御免ですけどね」
そう会話を交わしながら、ドラゴンは消えました。さて、これで、この塔での私の役目は終わりました。青葉君……いえ、清二君、貴方も、きっと、これから戦うのでしょうけれど、どうか、無事で……。聖さん、清二君を頼みますよ。
え~、遅くなりました。




