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《神》の古具使い  作者: 桃姫
終焉編
343/385

343話:雷司VS紫炎SIDE.RAIJI

SIDE.RAIJI


 はぁ……いつものことながらに、厄介ごとに巻き込まれる。俺の宿命とでも言わんばかりに、厄介事(むこう)からこっちにやってきやがる……。そのことを自覚したのは、高校1年の時の事。この頃は、月乃とはいつもながらに一緒だったのだが、後の友人となる煉夜とは出会う前だ。この頃、煉夜は行方不明となっていて、休学していたので出会う前と言うか出会えないというか。


 まあ、とある事件が起こって、それを解決するのに、また事件が起こり、と都合4回ほど繰り返したということなんだが……。


 その後、煉夜と出会ったのも、事件がきっかけだったし、どうやら俺はそう言った星の下に生まれてきてしまったのだろう。これが父さんからの遺伝なのか、それとも違うのかはおいておくにしても、俺自身としては面倒なことこの上ない。しかも、師匠である母さんと試合わないといけないというのが本当に面倒だ。


「雷司。貴方は、明津灘の武術をどこまで収めましたか?」


 母さんの問いかけ。母さんなら知っているだろ、と思ってから、そう言えば、この母さんは俺を生む前の母さんなんだと気づく。ふむ、なら、もしかしたら勝てる可能性もあるなぁ……。


「【明津灘流古武術】奧伝だ」


 そう、俺は奧伝扱いだ。奥義をいくつか覚えているにとどまっているからな。母さんは、どことなく、俺のことを見て、深く息を吸った。


「では、見せましょう。……今ままで、どうせわたしがあなたの相手をして鍛えていたのでしょうけど、おそらく見せたのは、奧伝から皆伝程度でしょう」


 その言葉に、俺は疑問を覚える。母さんは確か【明津灘流古武術】の皆伝のはずなのだ。皆伝とはその流派の奥義を全て伝授されたことを意味する。そして、母さんもそこまでだと言っていた。それに、それ以上なのだとしたら……それも、俺を生む前の時点でそこまでだとしたら、母さんが当主になっているはずだ。しかし、そうではないとなるとどういうことなんだろう。


「やはり、説明はしていませんでしたか。……ここでわたしが説明をすることを、未来のわたしが知っていたから言わなかったのか、それとも、何らかの事情で言うのを控えていたのかは知りませんが、ここで教えましょう」


 そう言った母さんは、いつもと違う構えを取る。あれは……、【明津灘流古武術・剣派】の構えだ。しかし、その手に剣も刀もない。どうする気だ……。


「【明津灘流古武術】奥義……砂場岱多(さじょうたいた)


 引き気味に構えた両手を右腰に当てている様は、まるで居合のそれだけど……分からない……どう動いてくるんだろう?


――一瞬だった。気が付いたら、右手が目の前に迫っていた。


 慌てて俺は、回避行動に移る。……が、気づいたときには遅かった。右手は囮だ。体を捻るように伸びてきた右手の所為で、体の後ろに引かれた左手が勢いよく前へと突き出される。


「ぐっ……」


 一応、左腕で攻撃を受け流そうとしたが、反応が遅れたせいで中途半端にしか流せずに左手がしびれている。参ったな……このしびれは中々取れないやつだぞ……。


「【明津灘流古武術】奥義……河獅未那(がしいまな)


 っ……このタイミングで追撃、それも河獅未那かよっ!こりゃ、相当やばい……ってか、殺す気じゃないのか?!とにかく回避しなきゃ、やられる。


 河獅未那、踏み込みと同時に相手の足を掬い上げて、柔道の払いのように相手のバランスを崩して倒しこみながら、その腹部と肩に一撃をいれて、できるならば、意識を奪いながら肩を外すって言う技だ。さて、どうするかな……。


「【明津灘流古武術】奥義……芙月舞九(ふづきまいく)


 俺の技は芙月舞九(ふづきまいく)。奥義を伝授されるうえで一番に伝授されるものだ。なぜならば、この技を覚えなくては他の奥義を伝授されるときに、奥義をその身で受けることが出来ないからだ。そう、この技は受け身の技。

 母さんの踏み込みと同時に来た足払いを、重心の移動で往なしながら体の中心……急所を守るように腕で守りながら、体を縮こまらせる。


「なるほど、守りは上々ですね。だったら……。

 【明津灘流古武術】奥義……獅死皇雷(ししこうらい)


 またも知らない技だが、名前的にかなりやばいやつであることは間違いないだろう。どうするか……またも芙月舞九(ふづきまいく)で往なすという手もあるが、防御の上から突き崩すものだと、ノックアウトだ。受けて死なないことはできるが、受けて流して返せるわけではないのだから。


 そして、判断の決めかねている間、それが隙となったのだろう。母さんの容赦ない攻撃が襲い来る。砂場岱多(さじょうたいた)と同様に、気づいたら右手が迫っていたけど、囮でもなんでもない。だから、その攻撃を右手で弾きかわそうとした。しかし、右手で跳ね除けようとした瞬間に、それを掴まれたのだ。

 はがそうとしてもはがれない……だが、このままだと不味い。掴むということは、そこから投げるのでも固めるのでも、どうすることもできるのだ。掴まれたらどうするではなく、掴まれないようにするのに徹するべきなのだ。だから掴まれた時点で、何らかの攻撃を食らうのは決まったも同然。痺れる左手でどうにかしようとするが、やはり力が入らないからどうにもならない。


 そして、奪われた右手を取り、脇に腕を挟んで足を絡めとって、動きを完全に封じてきた。そのまま、左手の攻撃が炸裂する。


「ぐがっ……」


 意識が一瞬跳びそうになったが、それが痛みで戻ってきた。くっそ、痛い。いや、武道の訓練に痛みはつきものだけどさ。それでも、今回はかなりやばいって。


「【明津灘流古武術・無派】奥義……永雨之血界(ながうのけっかい)


 【明津灘流古武術・無派】?!聞いたことのないぞ!母さんは基礎の【明津灘流古武術】の皆伝だったはずだ。22の奥義を全て伝授されたってことだけど。そのほかにも【明津灘流古武術・剣派】の26の奥義、【明津灘流古武術・槍派】の16の奥義、【明津灘流古武術・忍派】の48の奥義とか、その他いろいろあるのは聞いていたけど、【明津灘流古武術・無派】なんてものは一度も聞いたことが無い。


「改めて名乗りましょうか?【明津灘流古武術】皆伝にして、【明津灘流古武術・無派】極伝、明津灘紫炎です」


 極伝……つまり、極技まで伝授された……その流派の全てを知るほどの実力者。でも、母さんは明津灘の当主ではなかった。それはどういうことだ。確か、京都にいる当主でも【明津灘流古武術・剣派】極伝だったはず。つまり、当主が継いだ後に母さんが【明津灘流古武術・無派】極伝になったのなら継がなかったのも分かるが、母さんが高校生の時は、じいちゃんが当主のはず。つまり、当主はまだ皆伝だっただろう。


「さあ、どこからでも打ち込んできてください」


 にっこりと笑う母さん。と言うか、先ほどの永雨之血界(ながうのけっかい)とやらがどういうものかわからないからな。打ちこんでこいってことは、防御系かカウンター系の技なんだろう。


「【明津灘流古武術】奥義……苦句絶句(くくぜっく)


 左手が仕えないので、右腕一本で放てる奥義を使う。フェイントを織り交ぜたしならせる腕の動きで、どこにターゲッティングしているかを悟らせないようにする技。

 それを母さんは全く避けも流しも止めもしない。そのまま、攻撃をその体に受けた。間違いなく当たった感触もあった。つまり、母さんにまともに打ち込んだのだ。


 そう、……打ち込んだはずだった。なのに母さんの身体は無傷どころかよろめきもしなかった。確かに当たったはずなのに。


「【明津灘流古武術・無派】奥義……不忍之池贄(しのばずのいけにえ)


 そして、母さんの新しい技。また何をしているのかが分からない。けれど、何かしたんだろう。どうすればいいんだ……。俺は何をすべきなんだ?


「もう、何をしようとダメ、ですよ」


 そう言った瞬間に、母さんは俺の視界にはいなかった。


「【明津灘流古武術・無派】は本来存在しない流派。それゆえに、これをいくら極伝まで極めようと、当主になる資格はありません。しかし、この【明津灘流古武術・無派】と言うものは、相手の攻撃を全て無効化したり、相手の防御を貫通して攻撃を与えたり、と、そんな少し異常なものでしてね、かつては、秋雨さんと言う方も使っていたそうです」


 母さん、そんなのも使えたのかよ。マジで強いな……。負けだ、負け。一回も買ったことないし、やっぱり、昔の母さんでも母さんは母さんだな。強すぎる。


「雷司、それでは、戻ったら、わたしがまだまだ鍛えると思うので、頑張ってくださいね」


 ちょ、母さん、まだ鍛える気なのか……やれやれ。あぁ……、まあ、強くならなきゃいけないし、仕方がないか。





 そんなことを考えていると、気が付けば、元の部屋に戻っていた。スマートフォンから着信の音が響く。


『おい、雷司、急に、急に電話が切れたから驚いたぞ、大丈夫か?』


 こんな電話をかけなおす余裕があるのかな、と思いながら、友人との電話に応じることにした。


「ああ、大丈夫。ちょいと厄介ごとに巻き込まれて戻ってきただけだから」


『厄介事って、お前が電話を切ってから10秒と経ってない時点でかけなおしたんだが?』


 ああ、そうか、時間は流れていないのか。まあ、いいか。さて、どう説明するのが一番か。煉夜なら察してくれそうだけどな。


「ちょいと時間と空間を飛び越えた事件でね。それよりも、風魔は大丈夫なの?」


『おう、どうにかしてるところだ……と、おい八雲!』


 電話の向こうで友人は何かに呼びかけた。「コーン」と狐のような鳴き声が響いているが、どういう状況なんだろうか?


『チッ、きな臭いな……。雷司、悪い、一旦切る。後でかけなおすから!』


 そう言って、煉夜は電話を切ってしまった。彼も彼とて、俺と同じく厄介ごとに好かれるようだ。そんなことを思っていると、満面の笑みの母さんがやってきた。ああ、これは……。


「修行の時間ですよ」

 え~、大変遅くなって申し訳ありませんでした。いろいろと忙しい時期に重なってしまったこともあり、中々にパソコンに触ることすらままならないような状況になっていましたので。

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