342話:第二十七階層・灼熱炎火武門演舞SIDE.GOD
タケルを置いて、上の階を目指す俺たち。次の業の相手は誰のものか、と考えるが、おそらく紫炎のもので間違いないだろう。明津灘の業……どんなものだろうか。京都司中八家関連か、それとも【神代・大日本護国組織】関連か、魔法少女独立保守機構関連か。あの家はどうにも大きな規模の組織が関わっていることが多いからな……。
そんなことを考えながら進んでいると、次の階には思いのほかあっさりとついた。扉が開くと。そこに一人の青年が、片耳にスマートフォンを当てた状態で現れた。
「おい、煉夜!クッソ……どうなってんだよッ!」
何やら真剣味を帯びた口調でスマートフォンに叫ぶ青年は、どことなく見覚えのある雰囲気だった。ああ、なるほど、京都司中八家関連でも、【神代・大日本護国組織】関連でも、魔法少女独立保守機構関連でもなかった。俺と紫炎の関連だったのか……。
「おい、雷司」
俺はほぼ勘だが、その青年のことを呼んだ。たぶん、この名前であっているはずだ。間違っていたら、……その時はその時だろう。俺の呼んだ名前に、紫炎と青年が反応を示した。
「あ、父さん!母さんも!丁度良かった!煉夜の奴と電話してたら変な光に巻き込まれてここに来ちゃったんだけど、どうなってんだよ?あ、煉夜ってのは友達。母さんは知ってるよな?」
首を傾げる紫炎。まあ、知らないだろう。俺と雷司の時間軸はだいぶずれているはずだ。少なくとも10年から20年くらいはずれている。
「えっと……?」
紫炎は苦笑気味に、俺を見ていた。嬉しさ半分、困惑半分、と言ったところだろう。まあ、青なんかの前例があったためか、すんなりと受け入られている感じがする。
「悪いな、雷司。俺たちは、お前の知っている両親よりも20歳ほど若いんだ。タイムスリップ……と言うよりも、収束かな?」
俺の言葉に、雷司は納得したようにうなずいた。どこか納得するに足る何かがあったのだろう。
「なるほどな……、これが噂に聞く運命の塔ってやつなのか……。ってことは、俺は母さんと戦うために呼ばれたってところかな?
あ~、煉夜との電話の最中に呼ぶことはないと思うんだけどな……。あいつも忙しそうだったし、月乃の方にも電話しなきゃなんないのになぁ……」
どうやら、この塔……夢見櫓のことは雷司も知っているようだ。俺か紫炎が話したのか、それとも別の要因なのかは知らない。
「ってか、此処にいるのはみんな家族だけ、か……。はぁ……、面倒だなぁ……。父さん、これパスとかないの?」
家族だけって秋世もいるんだが……。まあ、いいか。一々突っ込んでいてもキリがないし。しかしパスか。ないんじゃないだろうか?
「無理だな。ある程度の力があるならできないこともないが、それこそ、【終焉の少女】とかそう言う例外レベルだけだな」
俺の言葉に、残念がる雷司。【終焉の少女】で分かるんだろうか。そも、雷司の知識がどこまであるのかもわからないが、ある程度のことまでは知っているんだろうか。その辺は今聞いても分からないところもあるから、良いとしておこう。
「俺じゃあどうしようもないレベルってことか……。はぁ……いろいろ厄介なぁ……。そもそも、もうないはずだったのになぁ……」
そんなことを呟きながら空を仰ぎ見る雷司の瞳には何が映っているんだろうか。この厄介な状況を、把握して、理解しているようではある。それなのにどこか他人事のようでもあるのだ。
「まぁ、呼ばれたのが紫水や紫風じゃなくてよかったと思うべきか……」
紫水と紫風、と言う言葉に、紫炎がピクリと反応した。この前の祭りの日に、紫炎が口にした名前だったからだ。
「俺も時間が無いから早く済ませて帰りたい……んだが、もしかして、ここは時間が隔絶されているから元の世界に戻ったら1秒たりとも経っていないとかなら、そこまで急がなくてもいいな」
どうなんだろうかな。その辺は微妙だ。俺自身は、この塔に業として呼ばれたことが無いから全く分からない。
「雷司は、何をそんなに急いでいたんだ?」
早く戻らなくちゃいけないというからにはそれなりに事情があるんだろう。やはり、それなりに修羅場を重ねているということだろうか。
「いや、正直に言って、俺自身には関係のないことなんだが、友人がいろいろとヤバイ状況だったらしくてな。それに、俺自身の方は、高校一年の一件を除けば、あんまり過激になっちゃいないからな」
修羅場は一回こっきりか、それでも、既に修羅場をくぐっているっていうのが俺の子供っぽいところだよな。だからこれだけ落ち着いているのか。それに、武道の修練は積んでいるようだ。イシュタルの言葉にも「武道を極めた」とあるのは伊達ではないようだ。
「はぁ……どうやら、紳司君の部分を多く受け継いだようですね。……先が思いやられます」
紫炎が額に手を当てて悩まし気に呟いた。悪かったな、事件に巻き込まれやすい体質で。だが、姉さんみたいに知らず知らずに事件に首を突っ込んでいくような体質じゃないくてよかっただろう。
「ああ、母さん、今でも、『雷司は本当に紳司君に似たんですね……はぁ』と呟くからなぁ……」
しみじみした様子の雷司。しかし、そちらのつぶやきの原因は、主に雷司の方だろうから、俺に言われてもな……。
「はぁ……親子そろって……。でも、わたし……やっぱり紳司君と……」
紫炎は何やらぶつぶつと呟いている。はて、さて、こうなってくると、まあ、雷司の居る世界と言うのは今後の可能性の一つに過ぎないはずだろうけれど、なんだか、実現しそうではある。しかし、それは青の時も思ったし、まあ、青は俺が関わっていなくても実現するから置いておくにしても、姫聖とかも実現しそうというのがよくわからないところである。いや、俺の思いを具現化したらそうなるのだろうけど……。さて、「三界連盟の盟主・青葉煉司の父であり、また天明煉紅と謳われた青葉紅司の父でもあり、金翼の天使と結ばれる七峰青の父でもあり、メテオトルテの半身を妻に持つ青葉宵司の父にして、黒天白者の異名を持つ青葉裕司、武道を極めた青葉雷司、世界を崩壊させるほどの力を宿した青葉姫聖、異界に召喚されたのちに革命を起こす青葉紳由梨など」と言うイシュタルの貰った予言。さらに示唆されているのが、史乃さんの言っていた「ナーシェ」、ユノン先輩のお母さんが言っていた「裕華」、雷司の言う「紫水」と「紫雷」。どう考えても、やっぱり剣姫の言っていた10人を超えている。剣姫自身、剣姫の知る限りで、と言っていたからには、やはり知らない誰かがいるんだろうなぁ……。
「そう言えば、父さん、先に聞いておきたかったんだけど……」
雷司が急にそう話を切り出した。何の話だろうか。俺は、内心で首を傾げながらも、雷司に笑いかける。
「なんだ、なんでも聞いてみろ」
大抵のことには答えてやるつもりだ。まあ、知っていることならだけども。未来のこととか聞かれても俺は答えられないし。
「風魔って知ってる?」
唐突過ぎる問いかけだが、そのくらいなら知っているだろう。むしろ雷司も知っているから聞くまでもないんじゃないかな、と思うんだが。そこら辺のインターネットなり書物なりを調べればいくらでも出てくるんじゃなかろうか。
「どういう意味だ?相模の獅子と謳われた北条氏康を筆頭に、北条家に仕えていた相模を拠点に置く素破乱破……草……と言うか忍者だな。有名なのが風魔小太郎だろうが、こんなことが聞きたいわけじゃないだろう?」
相模の獅子、北条氏康。有名な戦国武将だ。現在の神奈川とかその辺に当たる。氏康の時代では、甲斐の武田や越後の長尾と言った有名武将が西側に、東側にも北側にも有名な武将が陣取る中で戦い抜いた武将だ。そこに仕えたのが風魔と言う忍たちだ。集団行動を得意としていたという説などがある。
「ああ、まあ、その辺は知っているんだけど、なんでもその子孫というか末裔と言うかが、いまだに生きているようで、ちょっと友達が付けられているらしいんだよな。他にも無伝とか言う家とか、よくわからん奴に狙われているらしいんだが……」
末裔……?まあ、その辺は世界によってよりけりだろう。だが、無伝……、おいおいまさか……。いや、決まった話ではないし言わないでおこう。
「流石に一世界のことに関しては分からなんな……。しかし、忍者がいる世界か……。司中八家とか魔導五門とかの関係もある程度発展しているんだろうな」
陰陽師とかな。それに引っかかるのは、ユノン先輩のお母さんの言っていた
「ただ、明津灘家のお嬢さんと同じ世界で、暮らしているはずでしたね。『雷司君たちとは交流が無い』とあの子が言っていたのが聞こえていたので、同じ世界と言うだけなんでしょう」と言う言葉。つまり、雷司の居る世界には裕華がいるはずなんだけどなぁ……。
「なぁ、雷司。裕華って知ってるか?」
俺の言葉に、雷司は、「ん?」と首を傾げてそして答えた。
「ああ、煉夜が言っていた市原家の俺の親戚ってやつか」
……どうやら、ユノン先輩のお母さんの言は正しかったようだ。はぁ……。いろいろと混乱するなぁ……。
え~、遅くなりました。申し訳ありません。




