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《神》の古具使い  作者: 桃姫
終焉編
339/385

339話:律姫VS翔SIDE.SHO

SIDE.SHO(with wind of…)


 世界には超能力ってのが当たり前に存在していた。昔、日本が戦争で大敗して以降、ずっと研究して、実現に嗅ぎつけたのがそれだ。今でこそ、全世界にその技術が知れ渡っているが、しかし開発国の日本が現在でも一強だ。そのうち覆されるにしても、日本の重大性は変わらないだろう。


 んでもって、日本には超能力を開発するための学校がいくつもあって、そのうちの1つ、能力開発高校に通っている。中学時代は能力開発高校付属中に通っていた。俺の人生で、最も激しかったのは、おそらく、その中学時代だろう。祈先輩と親しくなったり、白や鬼と出会ったり、アリッサと戦ったり、……とあの頃は、本当に慌ただしかった。


 高校に入ってからは、祈先輩とは別の道に進んでいるから会うことも減ったし、その代わりと言っては何だが、後輩の姫聖もできた。姫聖とは高校に入ってからの知り合いだからな。あんまり詳しくは知らないが、常にシルクの手袋で手と腕を覆っている。


 そもそも、俺がこんな奇怪なことに巻き込まれる要因を作ったのは姫聖だ。今日はいろいろと予定が重なっていたのだが、どうしても話したいことがある、と言うので、それを優先した。そうして、待ち合わせのいつもの屋上についた瞬間、これだよ。挙句に、姫聖の母親と戦えってんだから意味不明だ。


――おい、風よ。これも俺の運命ってやつなのか?


 そう問いかけるが、風は答えてくれない。風に問いかける、とただ聞くとおかしなやつだが、俺は実際に風の声を聴くことが出来る能力を持っている。でも、これは超能力ってやつとは違う天然ものだ。俺の超能力は、【風翔飛】と言う風を操るものではあるが、声までは聞けない。


 そう、俺は……俺と幼馴染は特異な存在だった。風の声を聴ける俺と、雨に未来を見るあいつ、それぞれ天然に力を持っていながら、人工の超能力にも目覚めていたのだ。天然の能力者である白や鬼、人工の能力者である祈先輩。俺たちはどちらでもなかったのだ。


「改めまして、冥院寺律姫です。自覚はありませんが、あたしの娘が世話になっているようですね」


 どことなく、姫聖の面影を感じる人物。確かに、姫聖の家族と言われたら信じるだろうな。それくらいに似ている。顔が同行ではなく、雰囲気や、その体内に渦巻く何かが近いのだ。しかし、あいつは、【殲滅】、【偽王の虚殿】以外にもう1つ切り札があると言っていた。そして、それは風によって、つかめていた。それを彼女からは感じない。っつーことは、その切り札は父親からの遺伝だったんだろう。向こうからはしてたし、その隣の女からも、その奥の男からもしていた。一族に伝わる秘術とかそんな感じだろうかな。


「ああ、よろしく頼む。大した力のない俺だが、経験だけはそれなりに積んできているものでな。戦力としては微々たるものだが、それでも、有事に戦うことくらいはできるのさ」


 だてにアリッサと戦ったわけではないからな。特に「ラグナ」は……ヤバかった。


「経験……ですか。あたしも、長い間、こういった力を身に着けていますけど、戦う機会はあんまりなかったので」


 ここで気になった。なんでこの人敬語なの?俺の後輩の母親ってことは、俺よりも年上、いや、自覚がないってことは、その過去かもしれんが。


「別に敬語じゃなくてもいいぞ。ああ、俺はこういう性格だから、相手が年上だろうと敬語なんてものは使わんがな」


 俺の言葉に、しばし考える姫聖の母、律姫さん、だったか?敬語は使わんが、さん付け喰らいはする。いくら何でも馴れ馴れしすぎるからな、距離感ってのは大事だ。


「えっと、ちなみに、年齢は……?」


 なんでそんなことを聞くんだろうか。まあ、見た目も、姫聖同様、小柄だし気にするのも分からなくもないがな……。


「16……今年で17、だな」


 俺の答えにビクつく律姫さん。なんだ、俺は別におかしなことは言っていないと思うんだが……。


「あたしは、今年で16、年下です」


 あ~、だからか、それを本能的に感じ取っていたのか、敬語だったんだな。別に敬語じゃなくても全然かまわないんだがな……。そう言えば、さっき、姫聖の父の方を「先輩」と呼んでいたな。その辺は親子だから似てるってことだろうか?


「まあ、人それぞれ、敬語を遣おうが遣うまいが自由か……」


 そんなことを思いながら、俺は、風を纏う。【風翔飛】、風を意のままに操り、風を己がものとし、風を操る力。


「――片風、終の舞」


 アリッサとの戦いでは、あっさりとスースル・クルスっていう巨大兎に破られてしまったが、一応、これが俺の闘いの常套手段なもんでな。


「冥院寺外法【殲滅】」


 ……ッ、何だよ、あの【氣】は……?!ああ、アリッサは【力場】っつってたっけか?その【氣】が、今の一瞬で、とんでもない量、あふれ出てきた。俺の知る限り、姫聖の言う【殲滅】は、相手の中に【氣】を作って、肥大化させる技。肥大化で、相手のキャパを越えれば、崩壊する。そう言う技だったはずだ。


「冥院寺の家には、古文書や秘伝書の類が有りましたが、父の代でほとんどが燃やされてしまっていたので探すのに苦労しましたが、先輩の役に立つために、あたしが、何とかして見つけた外法。遺伝により弱った【殲滅】ですが、かつての冥院寺はもっと強かった。その頃の【殲滅】たりうる【殲滅】をあたしは持って生まれてしまったんですよ」


 なるほど、家の古来に伝わるモノ、つまりは天然ものか。姫聖もそうだと薄々思っていたが、やはり天然の能力者一族か。日本ではほとんど潰えたと聞いていたんだが、存外、アリッサも適当なことを言うな。


「外法ねぇ……。この感じ……」


 肥大化した【氣】を周囲に拡散……いや、周りの物をなんでもかんでも【氣】を肥大化させるってところか。かなりまずいな。


「片風――間の舞」


 周囲に風を拡散して、こっちに来る被害を最小限にとどまらせる。【氣】と風の闘いである。俺は、ここに、生来の力をも加える。


「風、力を貸しやがれッ!」


 風を呼び、風の声を聴く。それ故に、風に力を借りることもできる。これが俺の持つ本来の……いや生来の能力だ。


「ぐっ……、つかめる距離にまで行けたら……」


 そうだろうな。相手に触れたら、向こうの勝ちが確定するだろう。よほどキャパシティのある化け物でもない限りは、体が耐え切れずに死ぬだろう。その点、何か、姫聖は、キャパシティが豊富なのか、【殲滅】を自分に使っていたこともあったな。ただ【氣】が上がるだけ、と言っていたが。


「悪いが、この壁の防壁は、破れないさ。こいつは【氣】でできたもんじゃないし、コイツそのものに【氣】を発生させることはできないから」


 そう、これは、触れないようにした時点で、俺の勝ちだ。無論、他にも切り札がある可能性もある。だが、その様子もなさそうだ。


「ふむ、戦いとは、引き際も肝心。先輩も、勝てとは言わないし、生きて帰ってこいだけでしたし、……負けを認めましょう」


 向こうの宣言と共に、俺の身体が淡く光った気がした。





 そして、気づけばいつもの屋上だ。ここは、……そうか、姫聖と待ち合わせしていたんだったな。そう思い空を見上げると、屋上の扉が開いた。


「あ、先輩、もう来ていたんですか」


「あれ、今日は珍しく速いね」


 やってきたのは姫聖だけじゃなかった。幼馴染も一緒だ。黒い髪と黒い瞳と黒い制服の中にシルクの白い手袋は目立つな、姫聖は。幼馴染に関してはいつもの、としか言いようがない。


「ああ、まあ……な。ふむ、それよりも、姫聖」


 俺は、先ほどまでのことを引きずっているのだろう。普段ならそんな考えには至らないのだが、この時ばかりは、つい、言ってしまう。


「なんですか、先輩?」


 急な問いかけに、姫聖は目をパチクリ。幼馴染すら、少し驚いた様子だ。まあ、普段、俺から問いかけるなんてことは滅多にないから仕方がないんだがな。


「お前の両親って、どんな人なんだ?」


 その問いかけに、訝しむような喜ぶような、そんな不思議なリアクションを見せた。なんで喜んでんだ?


「まあ、変わり者、ですね。丁度、父も珍しく家に居ますけど」


 なるほど、あの様子、多忙そうなのも無理はない。あの中でも特異そうだったからな……。そう言う変事に巻き込まれることもおおかろう。


「ふ~ん、姫聖ちゃんのお父さんは滅多に家にいないんだ?」


 幼馴染が姫聖にそう問いかけた。ていうか、茜、普通、他人の家の事情まで突っ込んで聞くか?


「ええ、母は暇ですけど、父は忙しいみたいで」


 そう言う姫聖のその背後、屋上の扉があるためにあるペントハウスの上に、その姿があった。その気配を感じ、俺は、そこを見る。つられて、姫聖、幼馴染も続いた。


「誰が暇ですか!姫聖、そういうこと言っていると、そこの先輩さんに、貴方の普段の行動を全部報告しますからね」


 強大な【氣】を感じる。あれから、随分と時間が経ったのだろう、そう思わせる雰囲気。しかし、見た目はさほど変わっていない。


「初めまして、……いや、久しぶり、かな?」


 そう問いかけてきたのは父の方だ。姫聖が、「え?」という顔をしたのが見て取れた。いつの間に知り合ったんだろう、っていう顔だな。さっきだよ、さっき。


「俺にとってはさっきぶり、だけどな」


 俺の言葉に、苦笑する姫聖の両親。そして、しばしの沈黙のやり取りの後に、姫聖母が口を開く。


「今しがた、と言うことですか。でも、あたしにとっては、もう、彼方。また仕合うのも一興と思うくらいですがね。今なら、あの風の防壁も突破できるでしょうし」


 そう不敵に笑う様子で、本当に時間が流れたんだ、と実感する。


「それもいいかもしれないな」


 俺はそう呟いた。


「そう言えば、君。ついぞ、あの時も忘れていた。名前は、なんていうんだい?」


 ああ、俺も名乗り忘れていたな。


風音(かざね)……(しょう)だ」


 尤も、旧姓ならば篠宮だが、何もそこまで言う必要もあるまい。そう思いながら、再会と言うか、何と言うか、よくわからないものに苦笑を浮かべる。

 え~、遅くなりました。と言うわけで、律姫ちゃんの話が終わり、あと少しと言うところまできましたね。ちなみにここまではシュピードの外伝を除き2話ずつの構成でしたが最後3人は3話か4話になりそうですね。


 今回登場の翔、茜、あと名前だけの祈先輩なんかは、姫聖の出る物語の前日譚、「和~風の音~」と言う自分の作品の登場人物です。昔、某お絵かきサイトの小説投稿に連載したこともありますが、もう消した後ですね。

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