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《神》の古具使い  作者: 桃姫
終焉編
338/385

338話:第二十五階層・風の音が聞こえるSIDE.GOD

 由梨香を見送り、前へと進む。階段を昇る足音は、最初にこの塔に入った時よりも随分と減ったように感じる。いや、減っているのだがな。あれだけいた仲間も、今や、俺、姉さん、じいちゃん、ばあちゃん、秋世、律姫ちゃん、タケル、紫炎だけとなってしまった。


 次は誰の業なのか、と思案をしていると、その時、風が吹く。上の階から強い風が流れ込んできたようだ。何かがいる。そんな予感がヒシヒシとした。知らない【力場】だ。階段を昇る。その途中、姉さんにも目くばせをするが、姉さんも知らないようだった。俺も姉さんも知らない相手、と言うのは、少なからずあった。だからその例に洩れず、今回も誰かの業だが分からないというものだろう。一番可能性があるのがタケルだろうか。魔法少女系の業もあるだろうし、何せ【呪腕】の娘だ、ほかならぬ業がいくつあってもおかしくない。


 そして、次のフロアに足を踏み入れた瞬間に、凄まじい風が吹き荒れた。暴風、そう呼んでもおかしくない、まるで、風が意思を持って、俺たちを敵視しているかのように。侵入を拒むような風を受け流しながら、フロアを見ると、そこには1人の青年がいた。


「あー、ったく、ついてねぇなぁ……。通りで朝から風が五月蠅かったわけだ。こんなことになるなら、久々に会おうって言ってきた祈先輩の誘い断るんじゃなかったぜ」


 そんな風に頭を掻く様は、非常に面倒臭がっているように見える。気だるげな、その風貌の奥に、ナニカを感じ取った。


「それとも(はく)()あたりと、探検に行くべきだったか?」


 そんな風に呟きながらため息を吐く青年は、俺と同い年くらいだ。鷹之町第二高校の制服によく似た、けれども違う制服を着ている。


――誰の業だ……?


 俺は、仲間を見回すが、誰一人として彼のことを知っている素振りをする人間はいなかった。姉さんすらもピンと来ていないともなると、完全に八方ふさがりだぞ?


「あ~、もう、こうなったのも姫聖(ひめき)の奴が悪いんだよ」


 現実逃避するようにぶつぶつと言い続ける青年の呟いた名前で、やっとつながった。これは、誰の業かと問われれば、俺と律姫ちゃんの業なのだろう。


「そうか……、そう言うことだったのか」


 そう呟きながら、彼の方を見た。今、彼が挙げた名前を俺は知っていた。ここにいる中でその名前を知っているのは、俺だけだろう。


「お前、姫聖の知り合いなのか」


 そう、姫聖。その名前を俺は聞いたことがあった。だからようやくつながったのだ。それが無ければ誰の業かすらわからないままだっただろう。


「ん、ウチの後輩を知っているのか?」


 後輩、ねぇ……。どうやら、彼と姫聖は、俺と律姫ちゃんのような関係に当たるのだろう。先輩後輩ってだけじゃないように感じるし。


「ああ、ウチの娘だよ。俺と律姫ちゃんの間に生まれる。青葉(あおば)姫聖(ひめき)。青い葉っぱに姫は聖いと書くんだ」


 俺の言葉に驚いたのが青年と律姫ちゃん、呆れたのが秋世、他のみんなは我関せずといった様子。そして、律姫ちゃんが恐る恐る、と言った様子で俺に問いかけてくる。


「あた……わたしとの間に生まれる子って、その……、まだ、そういうことしてないですし……先輩と、その子供ができるんだったら嬉しいですけど、その……」


 しどろもどろの律姫ちゃん、そして、それを訝し気に見る青年。そう、子供を産んだと目される方がこの慌てようなのだから疑いたくもなるだろう。しかし、俺の言葉を思い出したのか、彼はこういった。


「生まれたや産んだ、じゃなくて『生まれる』って言う未来形だったよな。つまり、あんた等がこれから姫聖の両親になるってことだよな。だが、それはおかしくないか?時間軸がぶれてるじゃねぇか」


 そう言う青年に、俺は言う。どう説明するのが一番早いかと考えてから、まあ、要領は悪くなさそうだし何とかなるだろうと踏んで普通に言うことにした。


「ここは、運命の塔、夢幻の塔、そして夢見櫓。この塔に時間は関係ない。その運命の元、必然的にここに集められる。偶然や運命ではなく必然として呼ばれるんだよ。過去現在未来、そう言った時間軸を無視してな」


 その言葉をあっさりと理解する青年。どうやら、そこそこ不思議なことには慣れているようで、特にそう言ったことを不思議に思わず受け止めている。


「アリッサの【運命、もしくは必然たるもの、其はその呼びかけに答えぬ、此は汝の名を叫ぶ】みたいなものか。あれを自然現象としてとらえるとこうなるのかよ……。あ~、面倒な上にきな臭いとか、あー、また、あいつになんか言われるのか」


 既に、これと似た現象を体験しているようだ。つまり、既に相当な経験を積んでいる……、その世界の終焉と戦ったことがあるレベルかもしれない。しかし……アリッサねぇ……。


「もしかして、アリッサ=ィラ・マグナスケセド?」


 姉さんが先に青年に問いかけた。そう、俺も全く同じことを考えていた。しかし、俺の知る限り、あのアリッサに、運命がどうとかと言う長ったらしい技は持っていないはずなんだが、彼が未来の人間だということやだいぶ会っていない期間があることを考えると新しい技を生み出していてもおかしくはないだろう。


「なんだ、知っているのか?俺は、仲間と組んで、戦ったんだが、負けたんだよ。あれは規格外過ぎる。【輪転、巡る世界の王宮、其処に住まう鬼帝、此処に住まう神帝、呼びかけに応じよ】とか、あんなん対応できる人間がいるのか?」


 鬼帝に神帝?!あほか。あいつ、いつの間に契約を結んでいたんだよ。あの頃のアリッサの上位で言うならば八王界の一、【覇眼、昏き瞳が映す先帝の行方、其は我を求め、此も其を求む】が限界だったはずだろ。


「よく、あれを相手に生きていたな……。あれがいる世界に娘がいるかと思うと、少し心配になってくるな」


 世界を滅ぼせる存在と言うのは無数に存在している。そして、その無数に存在している存在を一番多く保有している組織は時空間統括管理局か魔法少女独立保守機構だ。しかし、故人で、多く保有している者としていの一番に挙げられるのがアリッサ=ィラ・マグナスケセドである。アリッサの得意とする魔術は、「召喚魔術」と呼ばれる魔術で、さらに独自の暗転魔法で固有空間として、その召喚獣たちを持っている。

 十三幻界、八王界、三帝界、そう呼ばれる世界群の中でも、十三幻界の全ての幻獣と八王界の六までが俺の知るアリッサの保持している召喚獣だった。しかし、今の話を聞く限り、三帝界の二まではものにしているようでもある。「十三幻界の全ての幻獣」と言うくくりにはドラゴンもペガサスもヴァハムートも含まれる。そして、八王界は一つで世界を崩壊させるだけの戦力だ。つまりアリッサは個人で、世界を破壊できる戦力を数多持っていることになる。


 問題なのはその所属なんだが、まあ、昔は故あって、時空間統括管理局にいたんだよ。しかし、ある一件がきっかけで離反した。敵対しているわけではないが、仲間でもない。


「あ~、基本的には無害だから大丈夫だ。なんか、今は、【常闇の城(イルメニシア)】って場所の絶滅したはずの幻獣を狙っているらしくて、当分は機会を伺いながら鍛錬してるって言ってた」


 【常闇の城(イルメニシア)】、か。あいつもあいつで無謀なことをするな……、その辺は師匠譲りってところだろうけど。


「さて、と、まあ、あいつの話はどうでもいいや。長くなりそうだし。それよりも、君は、この塔に呼ばれた以上戦わなくちゃならないんだよ。律姫ちゃんとね」


 俺の言葉に、何か納得するところがあったのか、「あ~」と呟いてから彼は答える。


「この手のものって大体そうだもんな。なら、えっと……姫聖のお母さんだっけか。よろしく頼む」


 そう言った彼の周囲には風が舞っているように思えた。まるで、壁が彼を守るように渦巻いているかのように。


「えっと、わた……あたし、特にそこまで強い異能を持ってるわけじゃないんですけど」


「あ~、俺も、戦い向けの超能力じゃないからな。戦いって言ってもそんな激化するわけじゃないと思う」


 戦い向けの能力じゃない?てか、超能力なのか。なるほど、彼の世界ではそれが一般的ってことか。


「だが、姫聖の母親ってことは【殲滅】と【偽王の虚殿】を使うんじゃないのか?母親からの遺伝だってあいつは言ってたけど」


 【殲滅】と……【偽王の虚殿】、だと……。それが姫聖の超能力として認識されているってことか。【偽王の虚殿】、あれが入ってからも律姫ちゃんには大きな変化が見られないがまさか、そう言うことなんだろうか。あれは元々、姫聖に与えられるために律姫ちゃんに入ったのではないだろうか。


「あたしが持つのは【殲滅】だけです。でも、それだけだと思って甘く見ると痛い目を見ますよ?」


 そう言って手をにぎにぎさせる。俺はその手を取って、律姫ちゃんの耳元で囁いた。


「もし、この塔から帰れたら、本当に姫聖を……なんて考えているだ」


「え、ほ、本当に……ですか?」


 顔を赤くさせる律姫ちゃん。さて、律姫ちゃんから流れ込んでくる【殲滅】の力が少し心地いいくらいだ。さて、とこの戦いの結果よりも、姫聖の方がいろいろありそうだな……。そう考えながら、俺は律姫ちゃんに「任せた」と告げて先を行く。

※暗転魔法=空間転移、空間創設、召喚、空間召喚と言った系列の魔法の総称

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