表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《神》の古具使い  作者: 桃姫
終焉編
336/385

336話:第二十四階層・メイドというものSIDE.GOD

 階段を昇る前から、この先に何がいるのか分かっていた。俺の前世……六花信司の頃に知り合った奴であり、その化け物さ加減は俺がよく知るところであった。噂に聞くところによると【血塗れ太陽】と互角に戦えるだけの力を有しているらしい。管理局とは敵対している中で、直接的に戦った人物としてはかなりの強者であり、きちんと局のデータバンクにも入っているだろう。


 その人物こそ、シュピード・オルレアナ。名高きスーパーメイドの1人であり、【月龍天紅】の異名を取る。そして、由梨香は、そのシュピード・オルレアナの弟子であるのだ。【混沌に塗れた紅の月カオス・オブ・レッドムーン】。そうも呼ばれる彼女が仕えたのはただ1人だけだ。ライア・デュース。かつて、俺に刀を打つように言ってきた人物であり、【月光神紅】の異名を持つ男。


 この塔に集うのは、やはり、因縁と言う名の宿業を俺と姉さんを中心に皆に割り振っているようだ。本当に、シュピードが相手ならば、かなり危険な戦いになるだろう。


「……やはり、師が自分の業と言うことでしたか。こうなるとは思っていても、実際になると、やはり恐ろしく感じます」


 由梨香は、表向きは何もないように見えるが、微かに震えている。まあ、あいつが恐ろしいのはよくわかる。海の上を走る忍者みたいなやつだし、化け物みたいに強いし、そして、怒ると怖い。


「俺の知るアイツは、あの世界の住人だったころのアイツだけだから、それ以降の活躍は聞いただけだが、さらに強くなったんだろうな。あの国を……クーベルリアを征服した後、外界に主人たちと出て行ったんだが……」


 俺が知っているのはそこまでだ。強く、強く、強かった。主人ももちろん強かったが、メイドであるシュピードの方が段違いで強い。一種の例外と呼ばれるものだろう。


「クーベルリアって……、あのクーベルリア帝国?」


 そうか、姉さんの頃でもまだ残っているんだな。リリアちゃんの残したあの国が。禁国と呼ばれていた、あの国が。


「そうだよ、クーベルリア帝国。その帝国が禁国から帝国に戻った時の王の兄こそ、シュピードの主人のライア・デュースだったんだ」


 甦るのは、あまり思い出したくもない記憶が混じった、あの頃の記憶。静葉が剣帝になってすぐの、まだ、英二と結婚する前の頃の記憶だ。


「え、でも、皇帝一族はウィンザー家じゃなかったっけ?」


 そう、ウィンザー。アリア=ウィンザーとリリア=ウィンザー。よく知らないが、リリアちゃんは孤児院に預けられていたのをライアの父が助けたっていう話を本人に聞いた。結構重い話を、本人は何事もないように語るのだから、結構印象に残っているのだ。まあ、彼女にとっては、本当にどうでもいい話だったのかも知れないがな。


「リリアちゃん……、帝国復刻時の皇帝は、髪の色が金だったせいで、邪悪信仰の強い禁国上層部に孤児院に送られていたんだ。それを偶然、ライアの父親が預かったために、ライアとリリアちゃんは兄妹と言うことになっている」


 俺の言葉に、姉さんは「へぇ」と呟いた。姉さんは、そもそも、直接、ライアやシュピードと対面したことはないはずだ。姉さんも、その前世においても、如何な状態でも、直接の対面は記録にない。


「あの【血塗れ太陽】と互角ってんだから、相当強いんでしょうけど、その辺がいまいちわからないわね。どのくらい強かったの?」


 どのくらい……ねぇ……。たぶん、殺り合った絶対負けるってことは分かるんだけど、それ以上の戦いは、俺は見ていないからな。得物も何を使うか知らないし。ナイフは取り合えず使うっぽいけど、それが主武器かどうかと聞かれると……、どうなんだろう。


「正直に言うと分からない。あいつが本気で戦っているところにほとんど会ってないからな。そもそも、本気を出し始めたのは、世界の外に出てからだろうし。俺が知っているのは、ライアとアリアの出会った頃までだからな。その後、世界を出たはずだからなー」


 そもそも、俺が認識できていないくらいの化け物だからな。六花信司は、あくまで鍛冶師だからな。そんな海を走って、数日の距離を数時間に縮めるような化け物の底を測るのは無理だろう。その気になれば、世界そのものを破壊できる……烈火隊初代一門、二門や二代目一門クラスの化け物だったのは間違いないだろうけど。


「クラスアップ組かしらね?てか、その域なら、たぶん、境地に至っているでしょうけど、さてはて、4つのどれかに『会った』方かしら、それとも『会わなかった』方かしらね」


 愛藤愛美の時にも言っていた、あの話か。俺は、よくわかっていないが、何かあるらしい。姉さん曰く、俺は運命、姉さんは気合、らしい。ようするによくわからん。


「クラスアップねぇ……、そういや、姉さんは、何段階までできる?」


 ナナホシ=カナは5段階、剣姫が何段階か知らんけどそうとうできる、そうなってくると、姉さんとかはどのくらいのクラスアップができるのかが気になるんだが……。


「【蒼刻】抜きだと、あたしのクラスアップは2段階よ。どれの状態でもね。元が高すぎるからクラスアップがしづらいのよ。それに、【究極力場到達点】には至ってる……まあ、てかその位置を越えたから座につけたんだけど。現状だと、あんたも、あたしもクラスアップはできないでしょうね」


 そう、俺ができないことは分かっていた。でも、姉さんならもしかして、と思ったんだが、どうやら無理らしい。何らかの事情があるようだけど、その辺はよくわからないんだよな。【蒼刻】もクラスアップの一種ではあるんだが、別種のものだし……。まあ、単純なクラスアップよりも強くなるからいいんだけどさ。


「てかクラスアップの理論がいまだによく理解できないんだよな。あれ、どういう理屈なのさ」


 強くなるってことは分かっているんだけど、それ以外のことがよくわかっていないんだよな。段階分けもよくわからないし。


「あ~、ぶっちゃけると、神が設けたプロテクトって言うところかしらね。本来持っている力を常に出しっぱなしだと本人疲れるし、場合によっちゃ、いるだけで世界が崩壊しかねないような強さを持つ奴だっているのよ。そう言うのがそう言うことにならないためにあるのがクラスアップってやつ。だから、アップとか言ってるけど、本来は力が上がるんじゃなくて、解除されるだけなのよね。

 んで、段階分けだけど、こっちは本当によくわかっていないわ。ただ、……剣姫みたいなのは例外と言うか、その存在そのものが世界群を崩壊させかねないような存在は、意図的なブロックでしょうけど、修行の末に、底力が上がった場合なんかも、おそらくそう言う段階分けとして追加がされるんでしょうね。と、言っても、普通は1、2段階くらいで多くても3段階だけどね」


 ああ、大体、周りでもそんなものだった。他にも闘気解放とか、いろいろあるが、ようするに、本来、あるはずの【力場】発生源を封印していて、それを解除することで【力場】の量が跳ね上がっているってことだろう。その点、【蒼刻】はないものを7つ生み出しているから、おかしなものだ。ってことは原理的に言えば、【蒼刻】とクラスアップって言うのは別物なんじゃないだろうか?


「まあ、今のも一説で、そうと断言できる要素があるわけでもないんだけど。それよりも、由梨香は、シュピードとやり合えるだけの力があるの?相手は、スーパーメイドなんでしょう?あいすとかも知ってるけどショタコンでバケモンよ」


 そこショタコンって言う必要あったのか?あいすっていえば、あのスーパーメイドあいすか。3人のスーパーメイドの1人とは言え、姉さんと面識が有るなんて聞いていないぞ。


「スーパーメイドねぇ……、3人で、世界100個分の戦力って聞いてるけど本当なのか?」


 俺の言葉に、答えたのは姉さんではなく由梨香だった。どうやら、由梨香は何か聞かされていたようだ。


「確かに、そのようなことを師はおっしゃっていました。『わたくしたちが集えば、何人たりとも敵ではない。けれど、あいすはともかく、もう1人は狭間にいるから、二度と会うことはないでしょう』と」


 狭間……?狭間と言えば……、まさか……、いや、まさかな。あれが、人を……たとえスーパーメイドだとしても、人を受け入れるとは思えない。


「狭間ねぇ……、噂のアレ、だとしても、次元や境界同様、乖離してるんじゃないの?干渉しないって言われてたわよね?」


 姉さんも同じことを想像したようだけど、それにこたえる者はいない。真相を知る者がいないからだ。無論、誰も……おそらく、この世界群に生きとし生けるもの……【彼の物】ですら、その答えを知らないだろう。そう言う存在が「有る」、或いは「いる」とされている。


「っと、そろそろ、対面の時のようね。無駄な考え事は頭の隅に追いやっておきましょう」


 姉さんの言葉通り、次のフロアが見えてきた。その圧倒的な力も感じられる。ああ、懐かしい。根っこは全然変わってない。あの時、ライアと共にいた、あいつだ……。





 階段を昇り切る。見えてきたのは、呪われた都市。そう、そこは、……クーベルリア禁国の王都だった。禁呪に支配された帝国の末路。それがそこに、確かに存在していた。


 その中央に立つのは、メイド服の女。紛うこと無き、シュピード・オルレアナだった。


「あら、由梨香、お久しぶりですね」


 そう笑う彼女。その様子に、由梨香は少しだけ困惑したようだった。


「お元気そうですね。どこか、晴れやかな顔をなさっています。師よ」


 晴れやかな顔……ああ、そう言えばそうだったな。再会、できたって聞いたような気がする。だからだろう。


「本当に、元気そうじゃねぇか。相変わらずだな、シュピード」


 俺の言葉に、目を丸くしたシュピード。ハッ、面白いものが見れたな。こいつの顔が見られるなんて、ラッキーだ。


「よもや、この地で、貴方と再会しようとは思いませんでした、六花信司さん。運命は流転するようで、ライア様は誠様に、アリア様はアロウス様に、わたくしだけが変わらぬままに、時間が流れ、皆、再びわたくしの前に顔を出してくださるとは」


 シュピード、そうか、お前だけは死んでいないんだものな。その言葉は、どこか嬉し気で在りながらも寂しげだった。

 え~、遅れました。申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ