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《神》の古具使い  作者: 桃姫
終焉編
332/385

332話:ミュラーVS火ノ音SIDE.HONONE

SIDE.HONONE


 はてさて、「世界とは如何なものか」、それは友人がよく口にしていた言葉で、また彼女はこうも言っていました。「世界なんてクソよ。何があるかわかりゃしないし、思い通りなんてなるわけない」とそう。その友人の紫色に透き通った髪は美しく、その紫の瞳は何よりも深く感じました。ああ、彼女こそ、最強だ、と、誰もが称賛する。それが、私の友人、希咲雪美。この世で最も死と無縁だと思っていた彼女もあっさり死に、私も死んだ。それが全てだったんですけど、なぜか私はここに居ます。生きているのか、それとも死んでいるのか。それすらも分からないで、ここにいるんですよ。


 ありえないことに、実体も記憶もあります。幽霊でもなければ、ゾンビでもない。そのままの人間としてここにいるんです。これは夢か現か。それとも、……始まりの炎を……サクノの炎を宿しているからでしょうか。


 原初の炎。この世は、九柱の神より創造されたものです。最初に生まれたのは(サクノ)(ノーティス)。その原初たるものを司っているのですから。


 全てを見通す力……九柱の神が持つそれは、私の中にもあります。友人たちは面白がってソナーだのレーダーだのと言っていましたが、雪美は、「神の目(フリズスキャルヴ)」などと名付けました。フリズスキャルヴ……オーディンの高座。世界を見通す力。彼女らしい名前の付け方だと思うと同時に、彼女の奥にいる……あるいはあるというべき存在を見てしまいます。茶色の神。九柱とは異なる神にして外法の神。最強の中にいる最強。おそらく、人類の最高到達点であり、それを越えた存在は、もはや例外に他ならないのでしょう。


 その真意を見るまでに至らなかったのは、私が見るのを辞めたからなのか、相手が拒んだからなのかは分かりません。それでも、彼女の奥にいる彼女は、何を思っていたのかが分かります。


 ――どこまでも、絆を……


 そう願い続けていました。世界を信じ続けて、世界を救うべく、世界と契約をして、世界の神の座に至った存在。そして、雪美は……


 ――どこまでも、希望を……


 そう願い続け、死んでいきました。おそらく、死んでからもそう願っているのでしょうね。いえ、彼女のことだから、生き返ってきてもおかしくないですけど。そう言う規格外をやってのけるのは彼女の特徴のようなものでしたから。


 ――どこまでも、死を……。どこまでも、みんなを……。どこまでも、恋を……。どこまでも、昔を……。どこまでも、憧れを……。どこまでも、全てを……。どこまでも、呪いを……。どこまでも、愛を……。


 そう願い続ける者たちが、彼女の跡を継いでいくのだと、それは、もう、「神の目(フリズスキャルヴ)」で知ったことですから。無限に転生を繰り返し、その時代の世界を救う神たる者。


 さて、話が逸れました。今は、何故、ここにいるか、何のためにここにいるか、と言うことですね。「神の目(フリズスキャルヴ)」で見てみましょう。


 ここは、夢見櫓の塔。そして、私は門番。相手は、ミュラー・ディ・ファルファム。ミュラー・ディ・ファルファム……。この子から感じるのは……私の……炎の神(サクノ)の炎ですね。でも、その奥の深淵から、何か、途方もないものを感じます。そう、終わりの炎のような……終焉、全ての終わりを司るがごとき、悲しい炎が。始まりと終焉の両方を持つ子、ミュラー・ディ・ファルファム。彼女はまるで、太陽みたいですね。眩き光の奥に暗き闇を持つ。見るには美しく、光を与えてくれるけれど、触れると熱く、身を焼いていく。その運命は、太陽の祝福。それは、いずれの未来かで太陽神を呼び寄せるでしょう。そして、彼女が宿すのは、宵に出る月の子。太陽があるから月は光る。その体現です。


 そして、ここで待ち構えていれば、雪美の奥にいた、あの人もここへとやってくるのが分かります。その事実が私の心臓を鷲掴みにしたように、一瞬、全てを止めますが、なるほど……。運命、なのでしょうかね?


 雪美と【雷帝】のように、結ばれた運命。炎の神と私のように、つながった運命。私とミュラーのように、戦う運命。

 運命にも様々な運命があります。では、あの人と私はどのような運命で、巡り合うのでしょうね。感じ合う運命、とでもいえばいいのでしょうか。


 もうじきにここへとたどり着く人たちを、「神の目(フリズスキャルヴ)」で感じながら、その到着を待ちます。この狂気の魔女の陰謀渦巻く塔を昇ってきている強者たちを。


「ようこそ、私のフロアへ」


 扉から入ってくる、その瞬間に、彼女たちにそう声をかけます。その目がこちらを捉えた、その時、やはり予想がついていたのでしょう。あの人が……あの人を深奥に宿した人が、私に言います。


「炎魔火ノ音……。やっぱり、貴方なのね」


 まるで今まで見てきて、私のことを良く知っているかのような物言い。やはり、間違いなく、雪美の奥にいた彼女なのでしょう。美しい茶髪の髪を靡かせて、少し鋭い目つきで私をジッと見つめています。私はそれに頷き返しました。


「ええ、初めまして……いえ、お久しぶりです、の方がいいんでしょうか。雪美の奥にいた、貴方と言う存在に対する挨拶にはいささか困るものがあります」


 そう口にしながら、塔を昇ってきた者たちの顔を見ます。様々な人が居ますが、それなりに戦いを経験したことのある人達ばかりのようですね。自ら戦ったものや、巻き込まれた者など、数多いるようです。しかし、その中でも3人は異質なほどの雰囲気を放っていました。1人は、あの人を宿した青葉暗音。もう1人は、その友人を宿した青葉紳司。最後の1人は、――……なるほど、彼女の奥にあるのがうわさに聞く……。驚愕で言葉も出なくなりそうな、そんな……。


「ミュラー・ディ・ファルファム……貴方が私の業ですね。そのことを知っていますよね。貴方の中には私の……サクノの炎が確かに灯っています。それは業になるには十分なほどでしょう。尤も、私は、その奥に隠れた、貴方の哀しい炎の方が気になりますけどね」


 赤薔薇の少女は私を見ます。この雰囲気、悠久聖典を読めるまで至っているようですね。おそらく、あれを読めるのは現状で……私と燈火ちゃんくらいだと思っていたんですけど……。


「あたしの炎はただの炎じゃないの。貴方の炎と身を焦がす炎の2つなの」


 私の炎。つまり、彼女の中のサクノの炎はそのまま私の炎か来ているということでいいんでしょうね。


「ミュラー先輩。ここは任せます。……貴方の『未来』を貰ったんですから、もっと先の未来まで一緒に……」


「分かってるの……」


 2人は丁度、みんなに聞こえないくらいの声量で、そんな甘い会話をしていました。ほほえましいですね。まあ、大丈夫ですよ。私は殺しませんし。「神の目(フリズスキャルヴ)」の所為で、私には聞こえてますけど、他の人には聞こえていないんでしょうね。そして、ミュラーを残し、他の人が次の階へと歩んでいきます。次は……あら、奇遇なことに、次の階も炎が関わっているようですね。地獄の炎が……。


「それじゃあ、戦うの!」


 彼女は制服のシャツを脱ぐとそれを腰に巻き付けます。腕から胸にかけてのびる赤薔薇の呪印。それは炎魔の象徴たる赤薔薇。生まれながらにその身に業火を宿した証です。


「ええ、私の炎と貴方の炎、どちらが熱いか、と言ったところでしょうかね」


 そう言って、私は炎がいつでも出せるように準備します。魔法は……この手の中にありますから。


「《赫哭の赤紅アンリミテッド・レッド》!《赫炎の剣(サクノ)》!」


 彼女の身体の内からあふれ出る哀しい炎。それと同時に、手に私の炎を宿した剣が現れます。美しい……、燃ゆる炎が、輝いて見えます。内の暗き紅炎、外の明るき燈炎。グラデーションのように分かれて、中央で混じり合っている、そんな炎です。


「――燃ゆる大地。――燃ゆる天空。――燃ゆる大海。


 ――天に煌めく太陽。――地獄の釜より溢れる劫火。


 ――灼熱と轟音が逆巻く天地逆転の天変地異。


 ――熾んに降り注ぐ熾天の炎。――湧き上がる地獄の炎。


 ――因縁と宿業を司る運命をも燃やす業炎は轟音を立て我が身を焼き尽くす。


 ――《界轟の業火ミュリウス・ペングラント》」


 さて、会場は出来上がりです。周囲を劫火に包み込み、彼女との戦いを始めます。直観ですが、同じ呪文を唱えようとしているのが「神の目(フリズスキャルヴ)」を使わずとも分かります。


「「【悠久聖典(アシャノス)第六節】


 ――劫火の章(サクノ)


 ――転節。


 全ての始まり、そして、終焉を告げる【原初の炎】。終息するは白炎。司るは、飛天姫(サクラ)


 【血染眼(ちぞめ)】と【死染眼(しぞめ)】。重なり合う視界の先に【狂った聖女(マリア)】は笑う。


 七つの夜は、終わりを告げ、やがて来る別の孤児(みなしご)へと継ぐ時が来る。


 天から(さか)んに降る炎の雨、――血炎雨(けつえんう)


 さあ、身に纏え」」


 炎を身に纏う……、己を炎と化す悠久聖典に記されたその力。これは、私にとっての切り札も同然なんです。彼女も同然のようですけどね。


炎魔(えんま)来たりて――縛炎(ばくえん)の、


 火炎(かえん)逆巻(さかま)く――業龍(ごうりゅう)の地、


 紫炎(しえん)燈炎(とうえん)桜炎(おうえん)――色とりどりの炎、


 集約する冥府(めいふ)の王へ――届け、


 太陽の弓は――吾が手のもとへ……


 冥界太陽王の弓(アポロン)!」


 私は、炎の弓をその手に出して、炎の矢を番えます。一方で、彼女は、手に持つ私の剣に炎を灯しました。迎え撃つ気満々、と言ったところでしょうか。


「射て、放て――業炎の弓矢!」


 エンチャントを施して、その一矢を投じます。貫け!


「来るのッ!」


 その炎の矢を炎の剣で受ける彼女。受け止められたら私の負け、弾き飛ばせば私の勝ちです。ただ、その剣に込められた程度の私の炎で、止められると思っているのでしょうか?私の上辺の炎をつぎ込んだかのように……薄い神の力でできた剣。だから、……おそらく。





――――轟ッ!!




 激しい轟音と共に、彼女は剣ごと部屋の隅へと吹き飛びます。ただ、それでも、彼女は意識を持っていました。炎と化した体が元に戻ろうと、手元から剣が消えようと、それでも向かってきます。あっぱれ。流石、とでもいうべきでしょうかね?


「貴方の炎、しかと見ました。立派な太陽でしたね。また、会い見えたいものです」


 そう言葉を残して私は、消えます。さあ――どこへ行くのでしょうね。







 ……暗闇の中、紫の輝きを見た気がします。透き通る紫の、深い深い氷の奥のような。


「火ノ音、こんなところで寝ている場合じゃないでしょう?起きなさい。行くわよ」


 聞きなれた美しい声が耳に心地いいです。ああ、そうです、この声は私の希望。希望を求め続けた彼女は、みんなの希望だったんですよ。そうですね――雪美。

 え~、遅くなりました。申し訳ありません。大学が始まるのでその準備等をしていたので執筆時間が大幅に削られてしまったことが理由です。

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