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《神》の古具使い  作者: 桃姫
終焉編
331/385

331話:第二十二階層・轟炎と劫炎の熾天SIDE.GOD

 階段を昇っていると、どこか、揺れ動く、炎にも似た、莫大な魔力と【力場】を感じた。それは、【紅蓮の王】の時とは違い、どことなく、感じた覚えのあるものだった。だが、全くの同質というわけでもなく、それらを混ぜ合わせたら丁度そんな感じになるな、と言う感想程度だが。そう、これは、以前感じた、火々夜(かがや)燈火(とうか)炎魔(えんま)火弥(かや)さんに似たものだ。しかし強さが圧倒的に違う。だから、足して二で割るのではなく、足したもの……混ぜ合わせたもの、と言う表現をしたのだ。だが、誰のものだろうか。炎、と聞いて連想できるのは、もう、この場には1人しかいない。


 ミュラー先輩の業だろう。そこまではいい。じゃあ、相手は誰だ。関連性で言えば、聖王教会だろうが、あそこにこれだけの大きな力を持つ者がいるとは思えない。だとしたら、誰だ……?まさか……、ここで俺の中に1つの仮説が出来上がった。その可能性は十分にある。と言うよりも、この状況なら、それが最も有力だろう。そう思うだけの予想ができた。


 だが、俺は、その人物の姿かたちはもちろん、概要すら知らない。知っているのは、たったの2つ。名前と強さだけ。いや、いろいろと思い起こせば他にも出てくる。何せ、その人物は【氷の女王】世代の魔法使いの1人なんだから。だから、姉さんのほうが分かるはずだ。あれが誰の【力場】か、それを姉さんが口にするのを待つ。姉さんは、気づいたようで、そして知っているようだった。


火ノ音(ほのね)……?」


 その一言で十分だった。やはり、俺の予想通りで、そして、これなら、抱いた感じにも説明がつく。――炎魔(えんま)火ノ音(ほのね)。炎系最強の魔法使い。【轟炎の魔女】。ミュラー先輩の持つ聖剣、《劫炎の剣》は、その炎魔火ノ音の炎を使って作り出されたものだから、業として出てくるには十分な理由がある。つまり、ミュラー先輩が戦わなくてはならないのは、炎系最強の魔女、と言うことになる。正直言って勝てる保証はない。【氷の女王】の世代の魔法使いたちは規格外が多いと聞いている。【救世の魔女】雷導寺(らいどうじ)凛菜(りんな)、【轟炎の魔女】炎魔(えんま)火ノ音(ほのね)、【黒減の魔法使い】黒減(こくげん)狂士浪(きょうしろう)、【雷帝の魔法使い】セアト・クランツェ・バルド、【千紅の魔女】(しゅ)(ゆえ)、その他にもたくさんの魔法使いたちがいた、たしい。俺も明確に把握しているわけではない。だが、それらの名は、轟通っていた。魔法を使う者たちはほとんどがその名を知るほどに強かった。


 その中でも様々な名前を持つのは4人。【業火の魔法使い】、【轟炎の魔女】、【爆炎火災フラム・ザ・カラミティ】、【炎魔弾頭】、【赫灼紅燚(かくしゃくこういつ)】、【アグニ・イビル】……。【氷の女王】、【氷雪の魔法使い】、【帝華】、【氷河の乙女】、【氷上の妖精(スノーフェアリー)】、【冷徹の悪魔】……。【救世の魔女】、【慈悲姫(カーテナ・プリンセス)】、【無勝無敗の女】、【恒久平和】、【平等愛者】、【愛に生きる者】……。【雷帝の魔法使い】、【雷帝】、【氷の女王の夫】、【エデンの民の生き残り】、【迅雷刃電】……。化け物と呼ばれ、後世にまで名を遺すであろう4人だ。確か、存命中なのは……雷導寺凛菜以外は不明だったかな。いや【氷の女王】の死亡は確定しているけど。


「しかし、よりにもよって、あの【轟炎の魔女】の魔女を引き当てるとは……、本当にヤバイものしか集まってこないな、この塔は。それともここにいるのがそう言った業を持ってきてしまった者と言うことか?いや、それも違うな。世界や人の縁は、無限に広がっている。時が経てば経つほど、子孫や友人が増えれば増えるほど、縁は増える。だから、あの時、昔よりも遥かに重い業を、僅かなつながりから手繰り寄せているのかも知れないな」


 人が生きていく上で、一人ではない以上、どんな些細なつながりも生まれていく。それは生きているうちに限った話ではなく、生まれる前に名づけてくれた人や母親に影響を与えた人……、数多、死後に死体を見た人、悲しんだ人、残した偉業……、数多、その縁の輪は無限に広がりを見せていく。それは年月を重ねるごとに広がっていくから、過去よりも今の方が凄いものを引き寄せるだけの縁ができていてもおかしくないだろう。


「と言うよりも、ここまでの業を引き寄せているのはあたしと紳司じゃないのかしら。よく考えてみると第一階層はともかく、第二階層は紳司、第八はあたし、とか大半の化け物級はあたしか紳司の知り合いか、知り合うべき存在か、知り合いの知り合いとかじゃないの。となると、故人の業と、あたしらの縁ってのが重なり合うように呼んできているのがいてもおかしくないわよね」


 あ~、なるほど、そう言うことがあり得るのかも知れない。俺が、ツイニー、青とメルティア、剣姫、無貌の王、英司、天海君。姉さんが雷無、【血塗れ太陽】、【夜の女王】、【紅蓮の王】、緋葉と敬介君、無双ちゃん、フルカネルリ、世喰らい、結音さん。


「ま、あくまで可能性に過ぎないから断言はしないし、あんたら天宮塔騎士団だって全容が把握できなかったものを、この場で登っただけで解明できるなんて思っちゃいないわよ」


 まあ、姉さんならやってしまえそうなんだがな。そうなると僕らのかけた年月が全て無駄、なんてなったら、団員に顔見せできんな。そもそも、九世界の遺物だと思われるこれの全容を知っている存在があるのかどうか、甚だ疑問だ。そりゃ、作った存在とかはいるのかもしれないが、生きているのかも分からないからな。そうなってくると、どんなものでどんなシステムなのか、解明できそうにない。


「火ノ音……っていうと、件の炎魔火ノ音?なんか知らないけど、そんな凄い人なの?」


 秋世がそんな風に言った。まあ、秋世が知らなくても無理はないのかも知れない。だが、どのくらい強いか、と問われても、答えるのが難しい。単なる炎の熱量では【紅蓮の王】の方が強いしな。ただ、それでも炎系最強と言われるのは、それなりの魔法を持っているからだし、強いのも事実。


「あ~、そうね。普通の炎の魔法って、特別なのを除けば目の前に炎を生み出したり、炎の剣を造ったり、あとは変わり種でも蜃気楼……姿を欺く系だと思うのよ。そのくらいは分かるでしょう?」


 大体はそうだろう。あと、姿を欺く系は、炎系の蜃気楼や陽炎の他にも、風系なら風装、水系なら全反射や屈折、光系なら光学迷彩、闇系なら影化など、大体の系統に同じようなのがあるからそこまで変わっていないような気がするな。


「まあ、そうね……。あとは、……何かを融かすとか?」


 ああ、確かにそれもできなくもないな。そのくらいなら、簡単な部類に入るんじゃなかろうか。まあ、俺は魔法が使えないから分からないけど。アルデンテやナナナは簡単に、それをやってのけるだろうな。


「あ~、そう言うのもあるわね。で、火ノ音の何が凄いかって言うと、まず、この世の中で、炎の魔法を扱う中の例外は2人だと思ってもらっていいわ。【紅蓮の王】と火ノ音のたった2人だけで。

 あの子を説明する前に、【紅蓮の王】の特異体質について触れるけど、【紅蓮の王】は炎を纏い、炎を喰らい、炎を糧にし、炎と共に生きるという存在だったのよ。まあ、それが炎の巨人の末裔足り得る能力なんだけど。んで、火ノ音は一般人にながらに……あ~、炎魔が一般の家かと言われると微妙だから、まあ、人間として生まれながらに、かしら。まあ、人間なのに、その炎の巨人と同じ能力を有していたのよ。正確には違うんだけど。【紅蓮の王】は炎そのものと言う概念を宿していたけれど、火ノ音は悠久聖典の炎の章(サクノ)のを扱える特異体質故か、炎神と同じ体質だったの。まあ、それがどこまで本当で、どんなものかは本人も把握できていないでしょうけどね」


 流石に、姉さんはよく知っているようで、大体のことを言ってくれた。ちなみに、たぶん、炎神と同じ体質って言うのが【アグニ・イビル】のアグニの部分なんだろう。


「んん?よくわかんないけど、とにかく、凄い人っていう認識でいいのかしら?神と同じ体質とかホントよくわからないけど」


 秋世はやっぱり理解しきれていないようだが、まあ、無理もないか。そも、魔法がほとんどないのだから。世界によって発展が異なるのか、アルデンテやナナナが魔法が使えるように、剣帝王国(アルレリアス)に魔法があるように、この世界に元々魔法が無いように、煉巫さんが魔法が使えるように、世界によって、魔法の有無、その体系、それらが細かく違ってくるはずだ。


「あ……、火ノ音、こっちのこと見てるっぽいわ。さっすがね~。勘知力抜群ってかけた外れ。神の目(フリズスキャルヴ)は伊達じゃないってことよね」


 フリズスキャルヴ。北欧神話のオーディンが座っている場所のことで、そこからは世界の全てが見えるってやつだよな。確か、火ノ音は遠視系のスキルも持っているとは聞いていたが、この塔の中で使えるほどにレベルの高いものだったとはな。


「火ノ音の力は強いわよ。あの子の中の私を見抜くくらいに、目の力はずば抜けているもの」


 姉さんがそう笑った。なるほど、流石と言うかなんというか。噂に違わぬ能力をきちんと持っているみたいだな。いや、噂以上、かもしれない。


「遠視と言うよりは、心眼とかそう言う類の能力なのか?」


「心眼よりは神眼でしょうね。ただし、なんていえばいいのかしらね、普通じゃないのよ。まあ、これは炎の神とかじゃない系の力でしょうけどね」

 え~、大変遅れて申し訳ありません。少し忙しくて滞っておりました。はい。

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