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《神》の古具使い  作者: 桃姫
終焉編
328/385

328話:空李VS刃奈SIDE.HANA

SIDE.HANA(was Devil King = dæmonium)


 かつて……遥か昔、私が【魔王】と呼ばれるよりも昔のこと。飛天王国に、1人の少女が招集されました。白城事件の関係者であり、事件以降、植野(うえの)春夏(はるか)さんが面倒を見ていたという、当時、齢が2桁に届いたかどうか、と言う少女。招集された時点で14歳。そして、【帝華】と言う誉れ高き称号を手にした、その少女の名は、――希咲(きさき)雪美(ゆきみ)。後に、時空間統括管理局理事六華直属・烈火隊の一門に就任する最強の魔法使いの1人。


 その頃の私は、ただの篠宮初妃で、【魔王】でも【武神】でもなく【武神の娘】でした。だから、彼女のような存在にあこがれを抱き、研鑽をする日々を送ります。そして、その頃に、飛天王の妹……後に烈火隊の四門として雪美さんとペアを組むことになる刹那さんの誘いで、初めてあの御方に出会ったのです。


 遥か空、雲が上の天上。そこに、我が神、蒼刃蒼天様はいらっしゃいました。一目、見たときより、その存在の虜となった私は、いつしか、国のために戦う誉れ高き称号よりも、彼の御方のために戦う存在で在りたいと強く願うようになりました。【帝華】と言う称号ではなく、神の御力となる為に戦った証が、欲しくなったのです。


 そして、長き戦いの末に、私が賜ったのは【魔王】と言う称号でした。【武神】などと言う、我が神を差し置いて《神》などと名乗るつもりはありませんでしたし、【天使】よりは、よっぽど私らしい称号だと思い、我が神に恥ずかしながらもそのことをお伝えすると、大変お喜びになられて、私に鎧と角と剣、そして、誓約を授けてくださりました。


 その頃、我が神の元へ、チラチラと雪美さんが姿を現すようになりました。時に真面目な態度で、時に軽薄な態度で、どちらの心が真意か理解できないほど、……人が変わったと思うほどの態度の違いに当時の私は困惑していました。特に、軽薄な態度の時に私に向けるあたたかな視線に戸惑うほかなかったのです。まあ、後に分かることですが、その軽薄な態度の時は、我が母であったということなのですが。2人は、たまに、異世界に一緒に行くこともあったようですね。


 まあ、その頃の私は、雪美さんの正体もよくわかっておらず、我が神の過去に関係する方なのかと思い、失礼ながら過去を探ることになりました。その過程で、天宮塔騎士団(レクイア)の方々のことを知りました。その中に居たのが天海空李さん。天海覇王が末裔にして、天宮塔騎士団(レクイア)の副団長を務めていた人です。



 そして、その出会いは、もしかして、運命を大きく捻じ曲げてしまったのではないか、そう思わざるを得ません。例え、その出会いが――悠久聖典に記されたことであったとしても。


 霊峰・紅獄死骸(こうごくしがい)。霊峰とは、神々の住まう山。信仰の山であるのに、なぜ、そのような物騒な名前がついているのか、と言うと、この山に祀られている神が覇王であったから。兇極覇王、天海覇王、燚赫覇王の3人が祀られし山。その覇王たちの偉業とそれを為した時の屍の山より、そう名付けられたのです。


 そして、そこに住まう天海覇王の末裔の1人が天海空李さんでした。

 何の因果か、それこそ、まるで、運命や理に導かれるように、私と彼は婚約したのです。その前に、もう、我が神が、私に御子を授けてくださっていたので、どうしたものかと悩みましたが、どうにか切り抜けた後に、蒼司さんを出産、その後に、天海さんとも子を儲け、空麻が生まれます。


 それからしばらくのことでした。天海さんが死なずに死んだのは。おかしな表現だとは思いますが、事実なのです。肉体は死んでいないのに、魂は死んだ。故に、その体には天海さんは既にいない。けれど、肉体が死ななかったのです。腐らず、焼こうと燃えず、その死はおかしいとしか思えませんでした。まるで、何らかの異常が、異形が、怪異が起こっているとしか言えず、そして、その死ななかった肉体に、肉体を欲した魂たちが寄っていくのは道理。霊峰・紅獄死骸(こうごくしがい)には3人の覇王のほかに、屍の山が眠っています。怨念、亡霊、妄念、妄執、恨み、辛み、妬み、嫉み、怒り、恐れ、怖れ、畏れ、様々なものが渦巻く地獄釜の底。それら幾千万の亡者たちはその肉体を椅子取りゲームのように奪い合う。ただ1人の勝者になろうと、犇めきあう。そして、規格外だったのは天海覇王の器でした。空っぽの器のキャパシティは莫大なほどがあった。幾千万の魂をその身に取り込むほどに。


 そうして、今目の前に居るあれが生まれたのです。もはや、それは人ではないもの。死者の入れ物と言う概念。死と言う現象。怪しすぎるし、常とは異なる、怪異。


「刃奈、俺たちは先に行く。だから、後で会おう」


 我が神の御言葉が、その御心遣いが胸に染み入ります。だからこそ、戦いに勝たねばなりません。前回のようなことがそうそう起こるとは思えませんし、だからこそ確実に内滅ぼさなければならないのです。前回は、霊が霧散するという怪現象のおかげで助かったものの、今回ばかりはそうもいかなさそうですから。


「青葉君、立原先輩、僕はちょっと限界のようだから、ここで休まさせてもらうとするよ。おいて行ってくれ」


 真琴がそう言います。まあ、しばらく動けないかも知れないでしょうから、仕方のないことですが、巻き込まれない位置にいてくれるのなら気にしません。


「刃奈……気を付けてね」


 最後に母は、そっと私の肩に手をかけ、そう言って振り返らずに階段へと向かっていきます。さて、私は、今目の前に居るモノをどうにかしなくてはいけませんね。さあ、行きましょうか。


「【黒炎の剣】、【漆黒の鎧】、【魔王の角】……我が元に再び顕現せよッ!」


 手元には、黒い剣、体には、黒い鎧、そして頭に角、背には羽。そして、誓約も再び私の元に戻ります。これより、私は【魔王】に返り咲いたのです。


 【魔王】とは何か、如何なる称号か。世界よって異なりますが、飛天王国において、その称号を持つ者は、悪ではありません。【帝華】、【久遠】、【桜姫】、様々な称号が有りますが、それらの中に悪に与えられるものはありません。

 【魔王】、その称号が意味するのは、統治者、そして、渇望者。多くを求め、多くをもたらした者に与えられる称号です。ですが、私が望んだのは我が神の為、そして、私がもたらしたのは我が神の敵を葬り去ったという事実だけです。それでも、王は、私にこの称号をくださいました。「神を欲し、神の敵を払う、これほどまでに大きなものを求め、大いなるものをもたらしている人はいないだろう」と。それゆえに、私は【魔王】であっても、民の為の【魔王】ではありません。我が神の【魔王】なのです。


「天海さん、貴方の身体を……今から《殺します》。許してください。でも、いつまでもああしているのは、貴方も望んでいないのではないですか?いえ、そんな問答をすることも必要ないですよね。貴方がそうすることを望んでいないのは知っていますから。だから、《殺します》」


 優しさに満ち満ちた、それが天海さんに対する感想として多くあげられるものでしょう。そして、その彼が、こうして、死の概念を振りまくだけのものになっていることを望むとは思えません。だから、その体を《殺します》。もうすでに死んでいる人を《殺す》。矛盾することですが、でも、殺さなくてはなりません。あれは、ゾンビでも妖怪でもない、死なない身体に亡霊が入った存在。怪異。


「だから、消えてくださいっ!!!」


 誓約により、消そうとするも消えません。それほどまでに強力な存在と言うものなんでしょう。刃も届かず、ルールも届かず、……。それでも、どうにかしなくてはいけないんですよ。だから、そう思って、特攻をかけようとした、その時、どこからともなく、声が聞こえてきます。この空間に居る、私でも真琴でも、目の前のそれでもない声。聞き覚えのない、不思議な声でした。


「そいつはちょっと決断を早まりすぎだにゃ。ギリギリセーフってところかにゃ?」


 語尾に猫のように「にゃ」とつける曖昧な髪の色をして、猫耳を付けた謎の女性でした。彼女はいったい、どこから現れたのでしょうか。そして、何をしに現れたのでしょうか?


「初めまして、舞沙花(まいさか)(れい)というものですにゃ。どもどもですにゃー」


 この場に似つかわしくない軽薄で軽快な挨拶を交わす彼女。この切迫した状況で、軽い口を叩けるのは大物なのか、それとも脳が無いのでしょうか、おそらく前者ですが。


「あ~、この現象に絡んでるわたしから一つお知らせにゃ。これを倒すのは実質不可能に近いにゃ。馬鹿な4人がいろいろと人の人生を弄った結果生まれてしまった最悪のものにゃ。本来、すっごいお咎めがあったしかるべきにゃけれど、それをできる人が居にゃいがゆえに、わたしがわざわざ介入する羽目ににゃったのにゃ」


 介入……?そもそも4人が人生を弄った……?まさか、とは思いますが、この天海さんがこうなったのは、何者かの介入があったからだとでも言うんですか?


「にゃに者か、と言うよりも、理そのものが歪められて、結果、概念も歪んでしまった結果の副産物にゃ。にゃから、こうしてわたしが出張ってきたんにゃけどにゃ」


 私の心を読んだように彼女は、そう言いました。理そのものが歪められた……それは悠久聖典の内容が描き替えられた、とでも言いたいんでしょうか。


「正確には書き換えようとして失敗したってことにゃ。あと、心は読んでるから安心するにゃ。それで、倒す方法にゃけれど、ちょいとわたしの反則技とあにゃたの誓約を組みわせればできるにゃ」


 心を読んでるでんすか?!っと、まあ、そんなことよりも、倒す方法があるんですね。


「そうにゃ。前回は、わたしの力だけでやった所為で散らすだけに終わったのにゃ」


 ッ?!じゃあ、前回、途中で消えたのは、偶然倒せたからではなく、この人が力を散らせたからってことですか。


「そうにゃ。あ~、ちにゃみに、今は、こうして心を介して会話をしているけれど、そこの彼にはわたしは見えてにゃいから、直接会話すると変な目で見られるから注意するにゃ」


 真琴にはどうやら見えていない、と言うことらしいですが、それは今はおいておきましょう。私の誓約と彼女の力で、あれを倒す。それだけを考えます。


「じゃあ、行くにゃ。さっきの誓約でいいにゃ。それを今から使うにゃ」


 さっきと同じ誓約って、その時から見ていたってことですか、それにしては止めに入るのがギリギリだったようですけど。とにかく、行きますよ!


「消えてくださいッ!!」


 その瞬間、彼女の目があれを捉え、そして、素早く言の葉を唱える。


上方修正(アップデート)断片整理デフラグメンテーション、それから、ごみ箱を空にする(デリート)にゃ」


 まるで、世界そのものが書き換わるかのように、死をまき散らしていたものが消え、純粋なただの死体となりました。まるで、溶けるかのように彼の死体が崩れ、それが燃え上がります。


「腐敗と火葬にゃ。どちらも起こるはずが起こらにゃかったことがまとめて一気に襲ったつけでああにゃったにゃ」


 そう言いながら、彼女は姿を消します。彼女はいったい何だったのでしょうか。そして、彼女の消え様の突風は、灰となった彼を巻き上げ、どこかへと連れ去っていきます。




――ああ、ようやく、解放されたのですね。天海さん。

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