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《神》の古具使い  作者: 桃姫
終焉編
326/385

326話:英司VS静巴SIDE.SHIZUHA

SIDE.SHIZUHA(with 1st SWORD KING)


 相変わらずというか、何と言うか、懐かしい雰囲気に、わたしはとても居心地のいい気分になったわ。あっと、まあ、状況が状況だけに心の中も敬語ではなく、普通になってるわね。昔に感化された、ってところかしら。まあ、いいわ。この方が、今は、良い気がするから。


「それにしたって、まあ、懐かしいわよね。しかも、わたしの腰に差さっているのが連星剣(ミツボシ)ってのが、もう、なんともね」


 ちなみに、【神刀・桜砕】は紳司が既に自分の中に一体化させてるから今は持ってないし。この武器の現状と言い、3人そろっている状況といい、あの頃を感じさせてくれるわ。


「あれ、その言い方だと連星剣(ミツボシ)はしばらく差してなかったみたいだけど?」


 あ、そうね、こいつは知らないんだったっけ?いろいろと面倒ね。どう説明すればいいのかしら。まあ、簡単に言えばいいかしら。


「わたしは、信司と結婚する前に、静に連星剣(ミツボシ)を預けて、剣の道は引退してたのよ。そっからは信司の打った【神刀・桜砕】っていう刀が主体だったわ」


 刀、と聞いて、英司は「へぇ」と感嘆の声を漏らしたわ。そりゃそうでしょうね。剣王……剣舞の王たる英司は……八塚英二はよく知っているでしょうから。剣と刀では型も扱いも全く異なるってことを。だから、意外なんでしょうねぇ……。


「ま、でも、現代で、身体がそこまできちんとできてないから、刀主体だと、そりゃ雑魚には負けないけど、限界があったからね。剣主体に戻すつもりで、それの練習もしてたわ。静が偶然、わたしの前に現れなかったら、たぶん、ガレオンの【魔剣・グラフィオ】を紳司から借りて使ってたでしょうね」


 あれもあれで良い剣ではあるんだけれど、重いのと装飾がわたしの好みとは違うこともあって、使いづらいのよね。好みの剣っていうか、単に慣れの問題だと思うんだけど、体に馴染んでるのが、この連星剣(ミツボシ)なのよね。ずっと使ってたってだけじゃなくて、何かあるのよね。


「さて、長話したいのも山々なんだけど、俺たちは前に進まなきゃならないんだ。英司、……また、いつか会おうぜ」


 ふふっ、紳司らしいですね……。この時だけは、静巴としての気持ちが前に出たのかしら。ま、いいわ。さて、こっちも、戦わなきゃならないものね。……ん、わたしは1対2なのかしらね。


「どうやら、私は、邪魔みたいですから、端の方で結界魔法でも張って見学しています」


 あら、えっと……姫咲百合花さんだったかしら。さっき、紳司がそう言っていたような気がするけど、自ら邪魔だと察して退いてくれたのはありがたいわ。どうやら魔術型のようだし、接近戦ができないのなら、撃たれる前に切り倒せるもの。ちなみに、ナナナなんかだと、格闘術もできるし、腕力とか化け物並みだから中々、接近戦で倒すのは難しいわ。アルデンテは接近戦に持ち込まれた時のための緊急待機呪文(ストック・スペル)をあらかじめ準備しているし。ま、あの2人は普通の魔導師や魔術師とはケタが違うから何とも言えないけれど。


「んじゃ、僕が異世界で学んだあらゆる手段をも使わせてもらうよ。これでも、現世でもいろいろと苦労をしてきたもんでね。織ほどじゃないけれど、それなりに戦闘はできる状態まで持ってきてるんだ」


 そう言って、大剣を構える英司。あの大剣、ただの剣じゃないわ。業物ね。……紳司が見たら食いつきそうな気がするけど……刀じゃないから大丈夫かしら?まあ、それにしても、まるで、烏みたいな黒色の剣ね。それに、迸る魔力に交じって、何かの【力場】を感じる。あの剣、魔物……いえ、魔獣の系統を物質剣(リアライズ)化した特殊精製剣マギファナイズブレードの類ね。紳司が創れないタイプの武器ってやつよ。


 特殊精製剣マギファナイズブレードは、その名の通り、特殊な方法で創られた剣のことなんだけど、あの剣のように魔物や魔獣、龍なんかを剣に変換したり、封印したりして作る物質剣とか、炎や水、風といった実在してもつかめない属性そのものを剣とする魔法剣(マジカライズ)とか様々種類があるわ。

 ただ、これらは鍛冶師が作る剣のそれとは違って、魔法の力を強く持つことが必須で、習得が困難なために生産効率は非常に悪く、滅多に作られたものは無いわ。信司も習得できなかったし、彼の三大刀匠たちもできなかったというから、並のものではないわ。


「【鴉燕剣(あえんけん)・シャッハノルビー】。魔烏と魔燕を媒体にした特殊精製剣だよ。ダンジョンの奥に封印されていたのを引っ張り出したんだ」


 へぇ……ダンジョン、ねぇ。そんなもの、人生で一回しかお目にかかっていないんだけれどね。あいつと……あの化け物と戦った、あの場所だけ。


「クザン……八法の咎人(アトス・ミノス)灰燼榮樂(ノトリ・メメレト)の魔錬成工師が作ったという話を聞いたけど、地名も人名も、世界のどこにも残っていなかったから事実かどうかは分からないね」


 ふぅん……もしかして、滅んだ世界からの漂流物とかかしらね。まあ、いいんだけど。問題は、それがどんな秘めたる力があるのかってことよ。こういった武器は特殊な能力が備わっていることも多いから気を付けないといけないって信司が昔言っていたわ。


「――紺雷(こんらい)の迸る炎夜(えんや)


 ――金の月と銀の月、


 ――暁の大海と光爛(こうらん)の太陽、


 ――幻夜(げんや)紅骸(こうがい)


 ――愚者の報いを受ける天使、


 ――片涙(へんるい)、万花を咲き誇らせる夢。


 ――【炎天雷花爪(えんてんらいかそう)】」


 呪文を早口で唱える英司。どうやら、異世界で魔法を軽く習ったようね。どういう魔法なのかは知らないけれど、剣が雷撃と炎を纏っているように見えるわ。属性付与(エンチャント)かしら?それとも別の効果があるのか。いわゆる魔法剣士的な存在と殺り合う経験はあんまりないから、ちょっと楽しみなんだけど。


「英司が【炎天雷花爪】を使うなんて、それほどの相手なのですか?いままで、それを敵に使ったのは、さっきのダンジョンボスだけじゃないですか!」


 姫咲ちゃんとやらがやたら目ったら驚いているところを見ると結構ヤバイ技なのかしらね。さて、こっちもちょいと飛ばしていきましょうかね。久々の実戦だけど、いけるわよね。――連星剣(ミツボシ)ッ!


剣帝王国(アルレリアス)、初代剣帝、七峰(ななみね)静葉(しずは)


剣舞王国(アルレリアス)、剣王、八塚(やつか)英二(えいじ)


 互いが名乗りを上げて、剣を抜き構えるわ。尤も、英司は既に抜いて構えていたけれど。


「「いざ、戦えりッ!」」


 2人が同時に叫ぶ、それと同時に戦いの火ぶたが切って落とされたわ。英司の【天冥(てんめい)神閻(しんえん)流】の型通りの剣がわたしに迫る。雷撃と炎、剣で弾けば雷撃が伝い、よければ熱が襲う。なるほど、ずるいわね。ま、本来は、どっちも攻撃した後の追加ダメージなんでしょうけど。


「ま、関係ないけど、ねっ!」


 襲ってくる剣を、剣で受け、そのまま、弾きながら、雷撃を通し逃がすわ。剣を振るうことで、雷の通り道を作って、手まで雷が来ないようにしたのよ。


「ちょ、え、そんなこともできるの?!」


 英司だってその気になればできるでしょう?さてはて、わたしにはできない魔法を使いながらの戦い、どうなるかしら。できれば、楽しませてほしいんだけれど?


「――捻じって貫け、螺雷(ららい)!」


 っ、短い詠唱と共に、雷が直線状に飛んできたわ。この雷をよけても、叩き潰してもその隙をついて英司の剣が来るでしょうね。……でも、この程度のこと、ナナナで経験済みよ。次に来る攻撃が魔法か剣かの違いだけってのよ。


 だから、雷を英司の方へ弾いて、そのまま追うように突っ込む。雷撃は、英司がフィンガースナップで弾き消したけど、その閃光が目つぶしの代わりになるわ。


「ハァッ!」


 こっちから切りかかっても剣で止められたら雷が襲ってくるから、そのまま振りぬいて雷を逃がさないといけないわ。でも、すると、胴ががら空きになる。当然、振り下ろされたから、英司も立て直すのに時間はかかるでしょうけど、そのまま、胴に魔法でもぶちかまされたヤバイから、振りぬいた反動を利用して、右足で英司を蹴っ飛ばす。


「ぐっ……。


 ――弾いて撃ち抜け、水矢!」


 その魔法を唱えた瞬間、わたしに向かって水の矢が飛んでくる。それを一振りで全て弾き飛ばす。けど、これは……、いえ、まあ、剣で受ける以外選択肢はなかったんだけど、失敗と言うか、英司も策士と言うか、よくもまあ、頭が回るわね。これで、振りぬいてでも電気を流すのが難しくなったじゃないの。水は電気を通すってことでしょうよ。


「これで、……決めるッ!」


 英司が振りかぶって、上段から一気に振り下ろしてきた。マズいわね。でも、まだ、手は残っているわ。


「ハァッ!!」


 その瞬間、無意識だったわ。これは、わたしの意思ではなく、偶然に……、わたしの背から、右から紅の翼が、左から蒼の翼が、急に生える。瞳と反対になるような色合い。《紅天の蒼翼ヘブンズ・パラドックス》。


 それによって、偶然に、わたしの考えていたことをするまでもなく、英司が攻撃を外したわ。ったく、なんでこんな時に《古具》が発動するのよ。


「くっ、……【天冥神閻流】……奥義!」


 ここにきて、初めて、英司は【天冥神閻流】の名前を出したわ。今まで、その方の技を使っていたものの、名前は出さなかった。それは、八塚英二と勇大英司としての分別だったのかも知れないと思わなくもないけれど、それでも、この窮地において、英司はその名を呼んだわ。前世の感覚、それは、この窮地に……危機に思わず使ってしまう。一生使い続けたものを記憶が、覚えているんだもの、それは咄嗟に使うに決まっているじゃないの。


「一式ッ!」


 先ほどと同じ上段の構え。だけど、わたしはこの技を良く知っている。だから、わたしもあえて、このがら空きの胴に攻撃をしないわ。


尖魔槍(せんまそう)ッ!!!」


 英司は振り下ろしと同時に、踏み出した足とは逆の足を引き、剣を後に引く。通常、剣を振り下ろすときは、剣を持っているのと逆の方の足を前に出すわ。つまり、その逆の足を引けば、勝手に剣の振り下ろされる位置は後に下がる。そして、それをそのまま突き出してくる。それに合わせて、わたしも剣に思いっきり剣をぶつけるわ。


 雷撃が来る前に、剣を放る。これで、わたしは、得物が無くなった。けれど、それは、英司も同じよ。


「ぐっ」


 英司の勢いを、そのまま、わたしの与えた振動に混ぜて跳ね返したもの。剣を伝わった振動の所為で、手がしびれてしばらく剣は握れないでしょうね。ま、後遺症が残るほど強くはやってないはずだから大丈夫でしょう。


「ふぅ……久々に楽しめたわ。てか、尖魔槍は、知らない相手にやってこそ意味を持つって自分で言っていたじゃないの」


 あれは、振り下ろした後の突きで虚をつくものだから、それが来ると分かっていたら簡単に反応できるから意味がないって言っていたはずよね。


「あれ、僕、静葉に尖魔槍は見せたことないよ?技の名前と見せたら意味ないことは教えたけど」


 ……あ、わたしが知っているのは……


「あ~、信司にも【天冥神閻流】教えてたでしょ?そのせいよ。あいつ、ちょくちょく使うもの。それで、どんな技か知ってたんだわ」


 そう思うと、こっちが反則をしたような気分になってくるわね。ま、実際のところ、そう言うのは戦いには関係ないってか、そんな一発技を使う方が悪いんだけどね。


「チェッ、じゃあ、あいつの所為で負けたみたいじゃん。あ~、全く。馬鹿々々しいったらありゃしないよ。結局、ラブラブの力に負けたみたいなもんだし。これで、静葉を幸せにしなかったら、あいつをぶっ殺さなきゃ」


 英司は、そう言いながら、笑っていたわ。たぶん、わたしも笑っていたでしょうね。はぁ……久々だったわね。こんな感じ。


「どうやら、時間が来たみたいだ。じゃあね、静葉。――楽しかった」


「ええ、わたしもよ。それじゃあ、――またね」


 さようならは決して言わない。だって、これが最後じゃないから。また、会えるから。そうだって、信じているから。




 ――そうよね、きっと、また、みんなで……。紳司も英司も、ナナナもアルデンテも……

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