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《神》の古具使い  作者: 桃姫
終焉編
325/385

325話:第十九階層・剣王と剣帝の剣戟歌SIDE.GOD

 階段を昇っていく途中で、俺は、妙に懐かしい【力場】を感じることに気付いた。郷愁漂う、俺の脳裏をピリピリと刺激する【力場】。まさか、とは思っていた。だが、それと同時に納得する思いもある。あの日からずっと、そうなのではないか、と思っていた。俺と静巴の前に立ちふさがるならアイツしかいないとそう思っていた。だから、意外だとは言わないし、出会い頭に、一発殴ってやろうかと考えるくらいのものだ。


 だから、一瞬、静巴を見て、そして、静巴が頷き返すのを見て、前へと進む。それが俺とアイツと静巴の運命だろうから。だから、進む。会うために、再会するために、そのために、ここに居るのかもしれない。もう1つの【力場】の正体は分からないけど、2人のうちのどっちかだろう。たぶん、ウチと関係のない方だろうな、と思いながら、階段を上がっていく。


「紳司、今度の【力場】は誰のだか、分かるの?なんか、妙にあたしも感じたことのあるようなない様な感じの【力場】なんだけど」


 少なくとも、姉さんが直に会ったことはないはずだ。だが、それでも、……


「それでも懐かしいと思うなら、それは血筋と言うものだよ、姉さん」


 そう、そう言うことだろう。だから、ゆっくりと、ゆっくりと、階段を昇り、そして、次の階の入り口が見えたとき、一瞬だけためらった。だが、あいつが居るのなら怯んでいる暇もない。ただ、会うだけだ。いつものように……。


 階段を昇り切ったその先に居たのは1人の男と1人の女。どこか冒険者のような風情の格好をしているのは、コスプレか、さもなくば、勇者にでもなったんじゃなかろうか、と言う俺の勘が当たっていることを意味しているのだろう。覚悟をしていたであろう静巴が、それでも息を呑んだのが分かった。だから、俺は、敢えて、平静に、そいつに話しかける。


「よぉ、久しぶりだな、英二(えいじ)


 かつての友にして、静巴の……静葉の夫だった男、八塚(やつか)英二(えいじ)によく似た男にそう言った。そして、言ってから、思い出したが、


「あ~、いや、勇大(ゆうだい)英司(えいじ)だったか、今は」


 あの日、……とはどの日のことか、と言うと、夏休みに静巴とデートをしたあの日だ。新聞に書かれていた北海道での高校生3人の行方不明事件。あの時の母さんの言葉。それは今でも明確に思い出せる。


「そして、北海道の行方不明の件ですけど、七峰(ななみね)(しき)、遠縁の親戚過ぎてほとんど交流はありませんでしたが、それが行方不明者の1人です。そして、一緒に居なくなったのが姫咲(ひめさき)百合花(ゆりか)勇大(ゆうだい)英司(えいじ)


 そう言っていたのだ。だからこそ思っていた。あの時、おそらく、3人は異世界に行ったのだろう、と。そして、この塔のことを知ったとき……あるいは思い出した時、確実にこいつが俺の前に姿を現すと思っていた。静巴の業として、宿業として。


「へぇ、なんだ、僕のことも知っていたのかい?相変わらず聡いのか疎いのかよくわからないよ、君は」


 英二の……英司の物言いに、懐かしく思う。相変わらずと言うか、何と言うか、俺には厳しいよな、コイツ。


「……英司が、織以外にここまで言うのは珍しいですね。お知り合いですか?」


 英司の連れが、そう首を傾げて英司に問うた。英司は苦笑しているが、説明しづらいのだろう。特に静巴との関係が。まあ、苦しめ、それがお前の業と言う奴さ、はっはっはっ。なんて高笑いしたいところだが、俺もあんまり人のこと言えないからな。


「ああ、旧友みたいなものさ、そうだろ、信司(しんじ)。それと、静葉(しずは)


 その言葉に、うちの残りのメンツも静巴を見ていた。まあ、そりゃね、この感じ、俺と英司が親しく話してれば、さらに知り合いたる静巴にも注目が行くのが分かりきったことだ。俺は、肩を竦めながら、英司の連れの方を向いて言う。


「まあ、俺に関する説明は間違っちゃいないな。えっと、姫咲(ひめさき)百合花(ゆりか)だったかな、君は」


 俺の言葉に、英司の連れは、目をパチクリとさせて、意外そうにこっちを見ていた。どうやら名前を知られているのが意外だったのだろう。


「信司、君は、僕らをストーキングでもしたのかい?その調査力、ちょっと怖いくらいなんだけど。それとも、あれか、超能力とかそう言う類?」


 俺はため息をつきながら、あの日の新聞のことを思いだしながら、ついでに、やれやれとわざわざ口に出しながら、英司に言う。


「調べるも何も、あれだけ大々的にニュースになれば分かるっての。しかも、そのうちの1人は親戚だからな。調べれば簡単に情報が入ってくる。『北海道で3人の高校生が行方不明』として、勇大、姫咲、七峰って名前が公開されていたんだ。七峰は俺の母さんの……今の母さんの実家、その親戚筋だったからな。すぐに分かった。そして、その七峰織を調べたついでに、分かったのが、勇大英司って言う名前だったんだよ。そりゃ、分かるだろ。だから、異世界にでも召喚されて勇者でもやってんだな、って思ったさ。そんでもって、この塔のことが分かったら、『静巴の宿業』としてお前が出てくるってのも思ってた」


 そう、だから、第一階層で、静巴が残るって言ったのを止めたんだよ。まあ、尤も、別の理由もあの時はあったんだがな。


「おいおい、ニュースになってるって、僕と百合花と織のことが、かい?参ったな、あんまりニュースになると帰った時になんて言い訳するか考えるのが面倒なのに。まあ、どうとでもするんだけどさ」


 英司は金持ちだからな。どうにかしようと思えばどうにかなるんだろう。姫咲家も同じくらい金持ちらしいし、如何様にでもできるだけの権力が、政財力があるんだろう。ただの一般市民に生まれた俺とは大違いだな。


「えっと、それで、……貴方に関する説明は間違っていないと、おっしゃっていましたが?」


 おっとそうだったな。俺は、肩を竦めながら、姫咲さんの反応を見て、英司とそれなりの関係にあるのを悟る。まあ、イケメンで、高性能、自分と同じくらいの家の出、となりゃ、そりゃ惚れるだろうよ。


「ああ、まあ、その、なんだ、そこの馬鹿と静巴は、昔、結婚してるんだよ」


 静巴は横でため息を吐いた。あきれ顔をしているが、まあ、俺と英司と静巴はいつもこんな感じだったからな。いつものこととして認識しているんだろう。尤も、後ろの奴らには少し動揺が走っていたけど、一部、ライバルが減って歓喜してるやつもいるが、それは勘違いだぞ、秋世。


「け、けけ、けっ、けっ、けっこん?!え、英司、どういうことですか?!」


 おぉ~、見事なくらいに慌ててる。英司も苦笑と共に、こっちにちょっと起こり気味の視線を送ってきてるし。


「そのまま、さ。子供も生まれてるぞ?」


 俺の追撃に、姫咲さんは、英司の胸倉をグッと掴んだ。おぉ、凄ぇな。合気道か何か習っていたのか、掴むまでの入りが見事なものだ。まあ、掴んだ瞬間に力技になったから、自分から襲う方には慣れてないだろうけど。だから合気道。


「こ、ここ、子供!英司、貴方、私と同じ年で、あの子も同い年くらいなのに、子供ということは、わ、若くして、子供を……?!なんてことをしているんですか?!」


 英司の首が締まりそうになっている。ギリギリのところで、避けているが、そのうちアウトになるだろう。だから、英司は、慌てて弁明をする。


「うわっ、前世、前世のことだって。今はまだ清らかな身体だって!それに、静葉は、あいつとも結婚して子供産んでるんだって!」


 俺の方を指さしながらそんな風に叫ぶ。普通だったら「何言ってんだ、コイツ」って話ではあるが、こちら側の人間としては、父さん、母さん、姉さんの前例があるから、なるほどって状態がほとんどかな?


「ああ、そう言えば、自己紹介の時間がカットだったので言い忘れていましたね。わたしは、……って、この状況だと既にほとんどがわたしの名前を知っているはずですけれど、わたしは、花月(かげつ)静巴(しずは)。前世にてここの青葉紳司君と勇大英司君、それぞれの前世と結婚した初代剣帝、七峰(ななみね)静葉(しずは)というものです」


 英司が何かを言いたげな表情をしていたが、まあ、言いたいことは分かる。非常に分かる。だから、俺は、英司に「言えよ」と視線を送る。英司は肩を竦めた。


「気味が悪いくらいの敬語だね。鳥肌が立つよ」


 英司の言葉に、静巴は、英司の方を見た。それもあきれ顔。俺に向けるのと同じような顔で、ため息を吐きながら言った。


「あんね、わたしにもいろいろあんのよ。社会的地位とか、社交とか、そう言うもんのために、ずっと敬語で育ってきてんの。気味が悪いとか言われたくないわよ」


 ずっと変わらない、懐かしい、あの日々。ナナナ、アルデンテ……お前らもいれば、もっと、楽しかったんだけどな。たぶん、お前らは業として呼ばれることはないだろうけど、それでも来てほしかった。再会できるなら、再会したかったよ。


「うわ、静巴の口調が……、こんな静巴見たことないんだけど」


 と秋世が思わず口にしていた。ユノン先輩もミュラー先輩も少なからず驚いていたけど、まあ、静葉としてはこっちが素だろうからな。


「あら、秋世、失礼なことを……と言いたいところだけど、花月静巴として育ってきたわたしを見ていればそんなことを言いたくなるのは分からなくはないわ。こうして、七峰静葉の感覚があるからこそ、こんな喋り方になってるんだし、まあ、信司や英二の反応を見て分かる通り、こっちの方が昔なじみとしてはいつも通りのしゃべり方なのよ」


 そんな物言いで、肩を竦める静巴。まあ、相変わらずだから仕方がないんだが、英司も懐かしいものを見るような目で見ていた。実際、懐かしい。


「ふぅ、それでこそいつもの静葉だ。しかし、まあ、相変わらずと言うかなんというか」


 なんだよ、俺と静巴をみてニヤニヤしやがって。

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