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《神》の古具使い  作者: 桃姫
終焉編
323/385

323話:第十八階層・異常種の襲来SIDE.D

 さて、怜斗の奴は上手くやっているかしらね。まあ、大丈夫でしょう。あれはあれで一応しっかりしたところもあるから。ま、抜けてるところはしっかり抜けてるんだけどね。それよりも、この先が問題よ。次は何がいるのかしら。怪獣でもいるのかしらね。そんなとき、上の階から咆哮が轟くわ。


――グォオオオオオオオオオオオオオン!


 まるで、地鳴りのような咆哮。ちょ、コレ、悪い予感が当たる最悪な奴じゃないの。それも、この感じ……、ただの怪獣とか怪物とかじゃないわ。あたし等特有の感覚で、分かる。間違いないわ。あれは、幽賊害蟲(ゆうぞくがいちゅう)紫雨(むらさめ)零士(れいじ)の世界に存在した化け物よ。本来、存在すべきではない異形の蟲。その中でも、特殊な存在。


「異常種……それも、世喰いッ」


 かつて、――かつて、前々世で、紫雨零士として敵対した、最悪の敵よ。師と……赤羽(あかは)音音(ねおん)と共に倒した最悪の化け物。空を覆うほどにデカく、世界を呑まんと落ちてくる。よりによってコイツがここで出てくるなんてね。


「姉さん、今のは……?」


 紳司がこっちに視線を送ってきているわ。今のが何か知りたいんでしょうね。まあ、教えてあげるわよ。でも、この業があるってんなら、本当に、ほとんど無関係で、このメンツなら、あたしか桜子、零桜華、辛うじてユノンってところよ。


「幽賊害蟲の中でもヤバイって言われる異常種……その中でも特にヤバイ存在。世喰いって呼ばれている奴よ」


 そう、その世喰いが世界に出現したのは、2度。黎明の王によって倒された1回目、そして、2回目は(あたし)師匠(ねおん)が叢雲流でぶっ殺したわ。だから、あたしの業の可能性は高いけど、このタイミングで、あたしの番が回ってくるかしら。ってことは、まあ、……


「桜子、零桜華、あんたたちの番、だと思うわよ。それも、とびっきり最悪の敵ってのが相手でね」


 あれを倒すには、相当な実力がいるわ。それこそ、そんじょそこらの鈍程度じゃビクともしないわ。あれと戦うなら万全を期さないと、明らかに負ける。そう言う相手。しかも、負ければ命はないでしょうね。


「世喰いっていうと、私達が、『死の音を奏でる者(おわりのうた)』と戦っているときに零士が戦っていた、あの異常種だね。最強の異常種と名高い、あれが出てくるなんて……」


 桜子がそう言っていたわ。まあ、そうね、規模と言い、破壊力と言い、最強の異常種としても問題がないと思うわ。尤も、あたしたちの居ない間に、もっとヤバイのが生まれていたら別だけど。


「よりにもよって、と言う部分が大半ね。父さん、あんた倒したことあるならコツとかないの?異常種に無策に突っ込むのは無謀すぎでしょ?」


 零桜華の言葉に、何か弱点あったっけ、って考えて気づくわ。あ、知らないわね。うん、弱点とかコツとか、特になかったわ。


「えっと、強いて言うならデカい攻撃で消し去ればいいんじゃないかしら?」


 実際、あたしと音音はそうやって殺したもの。てか、それ以外のことは知らないわよね。そもそも、確実に倒すために、遠くから攻撃をぶっ放して仕留めてるし。


「何の参考にもならないじゃないの。もっと、こう、攻撃パターンとか、どんな攻撃が効いて、どんな攻撃が効かないとか分からないの?」


 分かるわけないじゃないの。んな、ドンパチやってたわけじゃなくて、ほぼ仕留めることしか考えてなかったんだもの。つか、あんなのとまともに殺り合えるわけないじゃない。


「さぁ……たぶん、生半可な攻撃は大半が通じないでしょうけど、それこそ、魔法でも、雑魚だと通らず、【永久氷土】とまでは言わないけど【氷の柩】くらい使わないと殺しきることはできないんじゃないかしら。無論、完全詠唱の、って言う前提を含めてよ。各世界の人工的終焉の1つに数えられるだけのことはあると思うわ」


 始祖(はじまり)終焉(おわり)。【彼の物】が管理が行き届かなくなった世界に設けた(ふる)い分け。それは自然現象から人間、機械、病気、様々な形となって世界を潰しに来て、そこから生き残った世界のみを見ればいいという【彼の物】の作ったシステム。


「つまりは、普通じゃ絶対勝てない化け物ってことでいいのかしら?だったら、全力出してもヤバイってことになるけど?」


 零桜華の言う通りで、普通だったらやばいわ。だって、零士と音音でやっと倒せた相手を、零桜華と桜子で倒すのは相当きついでしょうね。零桜華は叢雲流も紫雨流も使えるからまだしも、桜子はどちらも使えないわ。つまり、必殺の切り札がほとんどないってことよ。いくら武器がとんでもない切れ味でも、直接ぶつけるのは難易度が高いし、危険も多くなる。それを斬撃として飛ばせたら、少しは余裕も出るんでしょうけどね。現状だと、桜子はかなり難しいと思うわ。


「たぶん、私の心配をしているんだよね。でも、大丈夫だよ。私には、ミストルティン……ううん、デュランダルがあるから。だから、心配しないで。この子は、……貴方のくれたこの子は、最高の魔装武装だから。この子がいる限り、絶対に負けないよ」


 ったく、桜子は昔から変わらないわね。だからこそ、心配なんじゃないの。あたしを……零士を信用しすぎるから、もし、それで駄目だったときのことを考えないくらいに、新用途言うより心酔と言ってもいいくらいに、自分のことを信じず、零士をまっすぐにずっとずっと信じてきたから、だから、心配なのよ。


「零士も、私のことは知っているでしょう?最終的にあなたと同じところまで上り詰めたんだよ。追いかけて追いかけて。だから、私は、貴方の足元くらいには届いてるんだよ?だから、信じて」


 そうね、最終的には、Sランクとして認定されたけど、その後すぐに、副支部長になったから二つ名すらないし、認定されたことも認知されなかったけどね。(あたし)にふさわしくなるとか、そんな理由だけで、昇ってきたんだもの。本当に馬鹿よね。


「分かった、信じる。だが、もしものことがあったら……」


 あたしは大陸共通言語で、2人に言ったわ。2人は頷く。そう、分かっているのならいいのよ。でも、それでも……。


「……父さん、【宵剣・ファリオルーサー】は、持って行ってちょうだい」


「はぁ?何言ってるのよ。あんた、じゃあ、武器はどうするのよ。まさか素手とか言わないわよね……?」


 ウチの娘がいきなり馬鹿なことを言い出したわ。何言っているのよ。武器も無しに異常種に挑むなんて正気の沙汰じゃないわよ。それこそ、魔装籠手で害蟲どもと戦った瑠治じゃあるまいし、無理よ。


「違うわ。感じるのよ。上に……あたしの武器の息遣いがね。どーやら、【黒衣の魔剣(ブラック・セイバー)】じゃなくて【黒天の槍剣(マルチ・ブレイカー)】として、あたしの出番があるようね」


 確か、かつての零桜華の二つ名だったわね。異常種との戦いで武器が砕け散って、年も取らなくなったから別人として【黒衣の魔剣(ブラック・セイバー)】で活動していたらしいけど。この辺も、また、父親譲りなのかしらね。零士の運命と同じ運命を辿っていると言えなくもないのよね。


「まあ、そう言うのなら預かっておくわよ。てか、武器が復活してるなら、貰っちゃうわよ?」


 そう、貰うことが出来るのなら、一歩前に進むのよ。あたしの言葉に、零桜華は、肩を竦めながら、やれやれとでも言いたげな顔をして言うわ。


「ええ、良いわよ。尤も、復活しているあの2つがこの塔の中だけなら、勘弁してほしいんだけど、まあ、そんときゃそん時考えるわ。父さんのことだから何かあるんでしょ?」


 物わかりのいい娘で助かったわよ。さて、と、じゃあ、とっとと、やってしまおうじゃないの。進む足をあまり止めたくないからね。


「はい、じゃあ、コレ。大事にしなさいよ。一応、あたしのものだったんだから」


「その保証はしかねるわ。それに、あんたのものでも、最終的、今から、元の持ち主へと返るのよ。だから、少なくとも、あんたやあたしよりは大事にしてくれるんじゃないの?ねぇ……グラム」


 そう、この剣は……【宵剣・ファリオルーサー】。あたしの中にいる獣、宵闇に輝く刃の獣(グラムファリオ)の爪から作られた大剣。あたしの持っていた【宵剣・ファリオレーサー】が牙から作られた剣で、どちらも、元はグラムのもんだったってわけ。


「ああ、おかげで刃神の力が一気に回復した。かなり楽になったぞ」


 キンキンと刃がすれる音を立てながらグラムはそう言ったわ。そう、よかったわ。これで、あたしの《黒刃の死神(ブラック・エッジ)》の能力も多少は向上するはずよ。そのために回収したんだから。


「さて、とそれじゃ、とっとと化け物の元まで行こうじゃないの。ったく、まあ、あんまり見たくないものなんだけどね」


 害蟲自体、あまり見たい外見じゃないのにその親玉クラスとなると、かなり見たくないわ。でも、まあ、見て、通るだけのあたしたちはましよ。何せ、2人は戦わなくちゃいけないんだもの。そっちの方がよっぽど酷ってやつよ。


「うん、行こうか、零士。あの頃みたく、私が……私たちが、食い止めるから零士は好きなように戦いなよ。それが、一番だと思ってるから」


 その桜子の言葉には、桜子の思いだけじゃなくて、百合や璃桜、オルビア……みんなの思いが籠っているような気がしたわ。ええ、あの頃から、そう言う感じだったものね。あたしは……俺はみんなに支えられてきたんだ。だから、まっすぐに、俺は俺の道を進ませてもらうぜ、桜子。

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