321話:第十七階層・暗殺者の戦いSIDE.D
さて、と、次は誰の番かしらね。まあ、この感じから言えば、怜斗でしょうけど。まあどうでもいいけれど、……と思っていると、怜斗が何か気づいたみたいね。……ああ、そう言えばあたしにも見覚えがあるわ。ここは、……ラングバルデの迷殿。そう、あの時の地下迷宮よ。ってことは、この先にいるのは、龍か、魔法使いか、天才発明家か、一体誰が来るんでしょうね。怜斗の相手となると、あの時怜斗が戦ったのは、……誰だったかしら。別行動をしていたこともあって、あんまり記憶に残っていないのよね。
「怜斗、あんた、あの時誰と戦っていたかしら」
あたしの問いかけに苦い顔をする怜斗。何か嫌な奴と戦ったのかしら。特に覚えていないってことは、印象にも残らない雑魚だったと思うんだけど……。
「姉さん、次のここ、どこかに似ているのか?知っているみたいだけど」
紳司の問いかけに、あたしは、どう説明するか一瞬だけ迷うわ。だって、紳司の頃には第三都市が無かったんですもの。
「えっとね、第三都市っていうところの地下にラングバルデの迷殿っていう、発明王ビュルゼ・ベン・ホルモイアが創った地下迷宮があったんだけど、そこに似ているのよ。しかも、フルカネルリも関わっているって噂よ」
あたしの話に、紳司が微妙な顔をしたわ。フルカネルリってところに引っかかったんでしょうからね。フルカネルリは高名な錬金術師。おそらく【最古の術師】の中にもいるはずよ。
「フルカネルリか。どれほどの強さかが、記録があまりないから分からないが、強さで言えば強いんだろうな。しかし、そんな迷宮を創ったのは、いつだ?少なくとも俺の生きていた頃にはなかったぞ?」
まあ、できたのは、ウチの両親が生まれた頃、ぎりぎり、生きているか死んでいるかって頃合いだし知らなくても無理はないでしょうね。
「剣帝が8代とか9代の頃合いよ。それよりも、まあ、ここで重要になってくるのはフルカネルリよりも怜斗がその時に対峙した相手でしょうね。いるならそっちでしょうから。あたしの戦った相手が出てくる可能性もあるけれど、あんまりないと思うわよ。龍か貴族か、機械か、だもの」
あたしの言葉に、怜斗はやや困ったような曖昧な笑みを浮かべていたわ。それで、思い出す。あの時怜斗がなんて言っていたか。
「そう言えばあんた、『よくわからない魔術師に会ったが、逃がされたようなもんだったな』って言ってたわね。まさか……」
魔術師って言葉でまさかとは思うけれど、本当にフルカネルリとかち合ってたんじゃないでしょうね……?
「いや、そのフルカネ……とか言うやつかは分からんが、相当巧妙な技の使い手でな。俺の裏を取るなんて中々できることじゃないから、相当な使い手だってこと以外は……。少なくとも発明王ではなかった」
絶対とは言わないけど、おそらくフルカネルリよね。なんで、こう面倒くさい相手ばかり引き当てるのよ。厄介ったらありゃしないわね。それも、情報不足にもほどがあるっフルカネルリってのが一番厄介よ。せめてもう少し著名な人物なら、あたし等の現代知識でどうにかなることもあるんだけど。
「念のために、あんた、気を張っておきなさいよ。一撃でやられても知らないからね。おそらく、向こうは相当な手練れでしょうし、ちょっとやそっとで突破できるって考えないようにしなさい」
相手がフルカネルリってんなら当然のこと。【最古の術師】は、最初の世界から生き残っている、最強の錬金術師たちや魔法使いたちの集まりよ。当然、強いに決まっているわ。強くないわけがないのよ。それこそ、一世界の暗殺者と比べれば、断然向こうの方が強いわ。生きた年月が、積み重ねた月日が、圧倒的に違うもの。経験は何よりもの宝、という人が居るくらいに大事なもの。少なくとも、経験を積んだただの兵士と未経験の曹長じゃ、兵士の方が圧倒的に生き延びる術を知っているわ。
「分かってる。頭のいい奴は、強ぇ。それは俺がよく知ってんだよ。ただ、それでも、暗殺ってのは、そう言うやつらの裏の裏の裏までかかなきゃやってらんない職業なんだぜ。そいつはお前がよくわかってるだろ?」
ふん、格好付けちゃって。基本的にあんたの場合は、格上の暗殺では、結局見つかって乱闘になってたじゃないのよ。
「ま、あんたがそう言うならいいんだけど、それよりも、とっとと上がった方がいいかしら」
そう言って、階段を昇り始めるわ。一歩、また一歩と階段を踏みしめる。本当にあの迷殿に似ているわね。いえ、そのものを持ってきていると言っても間違いじゃないのかしら。業に合わせて形を変える。それがこの塔の特徴だもの。それは、階段も例外じゃないわ。
「もうじき、つくな。一応、武装も大体揃っている。短剣も持ってきているが……」
短剣ごときで、フルカネルリをどうにかできるかは保証できないわね。ま、そこはどうにかするしかないんでしょうけど……、ふふっ。
そうして、階段の終わりが見えてくるわ。さて、いよいよ、フルカネルリとのご対面と行こうじゃないの。話の通じる奴がいいんだけどね。ま、錬金術師なり賢者なりと呼ばれる御仁だし、話くらいできる……わよね?
「おや、ようやくきた、と言うべきかい」
不敵な笑みを浮かべる男か女かよくわからない、微妙な存在。性別不詳。中性的と言うより、女であり男である。中間と言う意味ではなく、どちらでもあるような微妙な存在。こいつがフルカネルリ。そう言われると、その奇妙さが神秘に変わるわ。
「ようこそ、いや、僕も招かれた身だから、ようこそと言うのも違うかな。まあ、いいや。よく来たね。ゆっくり話でもしたいところだけど、僕の経験からするとそうもしていられないみたいだね」
あら、まあ、よくも勘が働くことで。まあ、それでこそ賢人と言う奴なんでしょうけど。さて、やっぱりこいつが相手なんだとしたらフルカネルリなんでしょうね。
「さて、僕は、フルカネルリ。【最古の術師】の錬金術師なんだけど、君たちは何者かな?」
予想通り過ぎてあっけないわね。まあ、そう言うことなんでしょうけど、あたし等が何者かって言われても、困るわね。
「【天兇の魔女】に命を狙われ、叛逆すべくこの塔を昇る者たち、だよ。フルカネルリ。そう言えば、前回の魔法少女独立保守機構と【最古の術師】の抗争には出張ってこなかったけど、それはどうしてだ?」
紳司が名乗ると同時に疑問をぶつけたわ。そうね、あの時、奴らの代表格で顔を見せたのはクリスチャン=ローゼンクロイツ、サンジェルマン伯爵、カリオストロ伯爵の3人。他のは顔を出さなかったわね。まあ、ジル・ド・レとかも顔を出してなかったみたいだし、その辺は個人の勝手だったんでしょうけど。
「ああ、件の抗争か。僕はその時、別のことで頭がいっぱいだったからね。どうせ茶番だと分かっていたし、顔を出す意味もないと思っていたよ。ま、妹のことで血が上っていたクリスや騒ぎ大好きのサンジェルマン、頑固なカリオストロは突っ込んでいったみたいだけど。あと、マーリンが珍しく顔を出していたらしいけど、僕からすればあいつも祭り好き……いや悪戯好きの奴だからね。まあ、そう言うわけで、よほどの馬鹿か、悪戯好きじゃないと参加しなかったんだよ」
まあ、そんなところでしょうね。そもそも、普通に言われている賢者や賢人があの程度のことに引っかかるわけがないんだもの。それこそ、クリスチャンのように妹を取られて冷静さを欠いているか、サンジェルマンやマーリンのように悪乗りする性格か、カリオストロのようにどんな状況であれ敵対するものを許さないような頑固でなければ出張ってこないでしょうね。
「それで、僕の勘だと、こういうところは一対一が基本だと思うんだけれど、僕の相手は誰になるのかな?」
怜斗が一歩進み出る。ってあんた、暗殺者なんだから最後まで息をひそめているのが定石でしょう?何でしゃばってんのよ。
「君は……?!へぇ、面白い。面白いじゃないか。あの時の……そう、七夜零斗とか言う暗殺者じゃないか!肉体は違うようだけど、その魂までは誤魔化せないよ。つまりは……転生ってやつかい!いやぁ……長年見てきたけれど、自然の摂理でそのように肉体を移りかえる例は稀だね。サンジェルマンのように自ら入れ替えているわけじゃなければ、滅多に見れないよ!」
しかし、まあ、稀代の錬金術師を喜ばせるほどに珍しい存在らしいわね。はてさて、どうしたものかしら。本当に、ただの短剣は通じそうにない相手なんだけど。こんなことなら、もうちょっと別の何かを用意させておくべきだったかしら。まず、結界に阻まれて届かないわよ?
「はぁ……、怜斗。ううん、零斗。こっちを向きなさい」
あたしは、仕方なく、プレゼントをしてあげることにしたわ。とっておきをね。
「ん、なんだよ、暗音。いや、闇音」
こっちを向く怜斗は、あたしよりも少しだけ背が高い。だから、両手で怜斗の顔をがっしりと掴んで、少し背伸びガチに唇を奪うわ。
「んっ……」
そして、怜斗があたしに合わせてかがみ始めたのが分かると、手を放して、腰に手をまわしなおして、再度キスをする。
「さ、あたしからのとっておきのプレゼントよ。絶対勝てる御まじないを含めてね」
ウィンクをしながら怜斗に言ってやったわ。ま、これで、負けたら承知しないわよ。顔を真っ赤にした怜斗は、あたしのプレゼントに顔を綻ばしたわ。
さて、とじゃ、あたし等は先に行くとしましょうか。
え~、少々事情があり遅れました。申し訳ありません。同窓会的なのに出席しなくてはならなくて、いろいろと準備をしたり、出席したりで、数日間パソコンを付ける暇もなかったもので。




