320話:無貌の王VS輝&讃SIDE.SAN
SIDE.SAN
世界は光に満ちていました。あの時までは。あれは……私と光さんが仕事をしていた時の話です。要人警護として、ヘルフィップマンとか言う貴族の人を護衛して第五都市に行きました。商人に関する法案を出すとかで第五都市にやってきたようでしたね。面倒ながらに、仕事なので、見学が終わるまで、待機していたのですが、戻ってきたヘルフィップマンは言ったんです。
「この辺の商人たちが、近くにあるっていう『無名な有名』の根城の所為で苦労をしているらしいんだ。どうにかしてやってくれ」
完全に護衛任務の範囲外ですし、こちらは、お金を貰わない慈善事業みたいな感じでしたので……正確には王から斡旋される仕事をこなすのがメインと言う話ですが、別に彼に従う義務はなかったんですけどね。光さんはまじめですから、私と一緒に「無名な有名」の根城に乗り込むことになったんです。小高い丘の上にある遺跡を根城にしているらしくて、そこまで行くのは簡単でした。それは、もう、目立ちますし。本来、遺跡なんて、考古学者くらいしか行かない場所になっていましたし、剣帝王国……いえ剣帝大国として見ても、魔物がうろつくので観光事業などは流行っていないので、それで遺跡はすたれていました。当然、管理もされていないですけど、建造物跡だったり、壁だったりで目立ちはするので、場所は分かりやすいんです。
「ここって、なんの遺跡でしたっけ?」
光さんにそう問いかけたのを覚えています。でも、あの遺跡、後で知った名前は天法の神骸と言うそうです。
「さあ、俺も来たことがないからなー。燦ちゃんは、遺跡とか、九浄の関係で見て回ったりしないの?」
そんな会話をしながら、私たちは、遺跡の奥へと進みます。「無名な有名」と言う結社は、所謂、現在で言うところのテログループで、剣帝王国の現王を認めないとかの反発を起こした組織ですね。その中には、他国からの人間もいるようで、パーラクロイス王国の人間は既に確認済みでした。そして、テログループでありながら、実行犯を金で雇い、テロを起こしている、つまり、自分達自体はほとんど表に出てこないように活動している組織で、直接攻撃には弱いと踏んだんです。
「遺跡よりも信仰の強い場所は今ならいっぱいありますから」
会話を続けながら、剣を構えます。私は天羽々斬を、光さんはバルムンクを。そろそろ、敵が出てきてもおかしくない、と言うタイミングで、会話をしていても警戒は怠らないようにして。
そうして、タイミングよく敵たちが出てきたので、2人で一掃しました。さほど時間はかからなかったように思います。小一時間ほどで終えると、残っているのは、首脳たちだけになっていました。皆、逃げたんです。
「グッ……、なぜ、我々の邪魔をする。王国の犬めッ!」
いえ、王国の犬と呼んでいるなら、邪魔される理由、分かっていますよね、とツッコミたい気持ちを抑えながら捕縛しようとした、その時でした。地響きと共に、地面から、遺跡を割るように現れた、一人の女の人。
「我が眠りを妨げるのは、貴様らか?」
それは、強大な力を持った女性でした。白色の髪に、褐色の肌、大人っぽい体つきの女性。
「我は【十王将】が1人、【無貌の王】である!」
彼女はそう名乗りました。そして、その時、放った猛烈な【悪意】は、今……、上の階から流れ込むように伝わってきます。間違いありません、上には、彼女がいます。
「間違いないです。彼女が……上に居ます」
私の言葉に輝さんが頷いて、暗音お義姉さんや怜斗君、紳司さんはそれを確認していました。もう会いたくなかった化け物。
「【無貌の王】、彼女は強い。でも、讃ちゃん、きっと2人でなら、もう一度」
「ええ、もう一度倒せます」
いざとなれば、私には切り札もありますし、輝さんの為なら、この身の全てを賭しても戦い抜きますから。私の覚悟を見たのか、紳司さんが、私の方を見ていました。
「……もし、君があれを使うというのなら、俺は止めないし、輝君も止めないだろう。しかし、気を付けろよ。あれが失敗したとき、君の命は……」
……ッ、私の《古具》を知っているんですか?怜斗君にも真の力を話していないのに……なんで……?
「分かっていますよ。あんな人相手に心中するつもりはありません。それよりもなぜ、私の《古具》のことを知っているんですか?まだ、祖母以外は知らないはずなんですが……」
私の言葉に、紳司さんは、少し苦笑するような感じでしたが、その理由は話せないということなんでしょうかね。そこで、考え込んでいた様子の篠宮刃奈さんがハッとしたように私を見ます。
「まさか……、まさか、あれを《古具》にしているんですか?!」
あれ……?どういう意味でしょうか。刃奈さんの言葉に、紳司さんは、やれやれと困ったように解説しだします。その動作が暗音お義姉さんに似ているので笑いそうになりましたが、それを堪えながら聞きます。
「《古具》っていうのは、まあ、神様が創ったものだが、初期に作られた一点物や特殊な事情で創られたものにはベースとなるものがあるんだよ。例えば、おばあちゃんの《古具》は神が武器を作る力、秋世の《古具》は夕暮れに世界に帰る力、……ていう風にな。それも、初期の初期、最初の《古具》は神の身近な出来事、今、言った様な事を元に創っていてな、讃ちゃん、君の《古具》もそう言ったものの一種なんだよ」
神の身の回りの出来事がベースに……つまり、その神の身の回りで、私の《古具》に近しい現象があったということですよね。でも、話に聞く限り、神の死因はこの塔で敵と相打ったこと、私の《古具》とは関係がないはず。
「ただ、《古具》が宿ったのは、君の前世にも酷似していたから、なんだろうね。《古具》は、その魂に惹かれあうから」
これは、私が得るべくして得た、とそう言いたいようですね。……っと、どうやら、目の前に現れたのは、九龍さんの時と同じ壁。私と輝さんしか入ることのできない空間、と言うことでしょうね。
「おっと、ここまでみたいね。ほら、馬鹿弟、できたお嫁さん、いってらっしゃい」
暗音お義姉さんが見送りをしてくれます。さて、気合を入れていきましょう。この戦いは、全力を出さないといけませんからね。手を繋ぎ、輝さんと一緒に一歩踏み出します。
踏み出した瞬間に、景色が変わります。あの時の遺跡の奥にそっくりですね。やはり、そう言うことなのでしょう。
「我の前に立つのは、誰だ?」
【無貌の王】が前に立っていました。だから、行きましょう、2人で。天羽々斬を構えて、相手を見やります。輝さんもまたバルムンクを構えていました。
「我が名、天浄の命を受け九つの世界を浄化する者の末裔にして、京山が主、九浄燦、またの名を京山讃」
「俺は、蒼き神が末裔にして、剣帝の血筋に連なる者、蒼刃光、またの名を鷹月輝だ」
前回と同様の名乗り、それに少し付け足したものを言いました。さて、名乗りを上げて、戦うからには、その名を賭しての戦い、負けるわけにはいきませんよね。まあ、もとより、負ける気などさらさらありませんが。
「とうとう、使う時が来たな、《星天の黄道》ッ!」
輝さんの《古具》。十二星座に連なる力を使える能力だと聞いています。羊座の第一・星金皮、おうし座の第二・星神牛、双子座の第三・星双剣と《ポルック》、かに座の第四・星殻盾、しし座の第五・星死鎌、乙女座の第六・星乙女、てんびん座の第七・星天秤、などがあるらしくて、私が教えてもらったのはここまでです。
「第八・星毒針」
輝さんのバルムンクを握っているのとは逆の手に、鞭のような不気味な物体が現れます。丸いものが節繋ぎでくっついているような……あれは、そう、まるでサソリの尾みたいです。なるほど、さそり座ですね!
「ほぉ、我に攻撃をする意思を感じる。それも、……小賢しい毒か?」
さそりの毒針、しかし、見抜かれているようですね。それに見切ったうえで、余裕があるようすですが、何かあるんでしょうか。
「我に毒は効かぬ。いや、基本的な異常には耐性がある、と言うべきか」
つまり、毒や睡眠剤のような通常とは異なる自体に体がなろうとすることに耐性があるということでしょうね。
「そして、これで、詰みだよ、貴様らは」
なっ……莫大な、闇の塊……?!あんなもの、人間が喰らえば、ただでは済まないですよ。仕方が有りません。こうなったら、……失敗するでしょうけれど、あれを使うしかないですね。私は、輝さんの前に出ます。庇うように、守るように。
「《愛命の超越》ッ!」
これが私の《古具》。これは、私の喰らったダメージや傷をそのまま相手にも転写する能力です。紳司さんの言っていた失敗と言うのは、傷の痛みに負け切って、先に私の命が絶たれるか、向こうの命と同時にこちらが尽きるか、と言うもの。私だけが生き残れば成功になりますね。……でも、これは……無理でしょうね。
「讃ちゃんッ!」
輝さんの叫び声……。先に、逝くことを許してください、私の愛しき……大事な人。
「ぐっ、小賢しい真似を、ダメージの反射か。だが、我の方が人間よりも何倍も丈夫だ!」
ええ、その通りでしょうね。ですが、ダメージを与えた状態ならば、輝さんならば確実に倒せますから。
「讃ちゃんッ、燦ちゃんッ!」
闇が遠のいていくような、闇に引きずり込まれているような、そんな不思議な感覚。これは、死の感覚。冷たい……死。あの時は、隣に光さんがいてくれたから……。
「第九・星蛇遣ッ!」
第九……?射手座……のはずですが、名前に射手座の要素はないですね。山羊座でもみずがめ座でも魚座でもない。何でしょう、この星座は……。何か、私を闇の海の底から引きずりだすように手が……この手は光さんの手?それと、誰の手?2人の手につれられるように、私の意識は浮上します。
「上手く、いったか……?」
輝さんの声。私は、生きている?そんなことがあり得るんでしょうか。いえ、現に生きているんですが。そして、何故でしょうか、体の奥底に、感じるものがあります。
「ほぉ、死ななかったのか、しぶといな」
しぶとい、とは違うんでしょうけれど、それよりも、この感じ、輝さん、行きますよね。私は一歩踏み出すと、輝さんも同時に踏み出していました。
「行きますッ」「行くよッ」
ほぼ、同時に叫ぶと、天羽々斬とバルムンクで【無貌の王】を突き刺しました。
「ゴハッ、これは……、だが、まだだ、まだやられ……」
その時でした、【無貌の王】の後ろからもう1つ天羽々斬とバルムンクで刺す人が……。
「光さん……?」
「燦ちゃん……?」
そう、それはかつての私たちでした。でも、どうして……。
「第九・星蛇遣、13星座の蛇遣い座に値し、死者を蘇生させるものだろう。だから、俺たちは甦ったんだよ。まあ、すぐに、お前らに同化するだろうがな」
一時的な魂の蘇生。それによって、……、じゃあ、私が生き返ったのも、同じ理由で、しかも肉体があるから完全な死者蘇生、と言うことなんでしょう。
「輝さん、光さん、これからも一緒に……」
「ああ、讃ちゃん、燦ちゃん、一緒に進んでいこう」
え~、事情があり、遅くなりました。申し訳ありません。




