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《神》の古具使い  作者: 桃姫
終焉編
316/385

316話:緋葉&敬介 VS晴廻&覇紋SIDE.AKAHA

 わたしは、静かに目の前を見据えます。隣には愛しい夫、明日葉敬介さん。昔からわたしを支えてくれていた仲間にして、共に愛し会った夫婦でもあります。あの人達が、先へ進んでいくのを見送りながら、ゆっくりと昔を振り返りました。階段へと向かって、先頭を行く彼女の背は、まさにあの人の背中でしたから。


 全ての始まりは、あの日。烈火隊特殊医療隊の一員として働いていた頃の、まだ入り立ての新人だったあの頃のこと。怪我もしていないのに、特殊医療隊を訪ねてきた、茶髪で、とても美しい女性。


「あら、貴方はどちら様でしょうか?」


 そう問いかけると、彼女は、にっこりと笑ってわたしを見ていました。どことなく故郷の世界を思い出す、そんな雰囲気を持っていました。


「ああっと、私?私は■■■■よ。初めまして」


 まるでわたしを値踏みするかのように見ていた彼女の目がスッと緩み、優し気なお姉さんのような顔に変わった瞬間、わたしは、この人が信用できる人だ、と直感します。その頃は局に入り立てだったのもあって、彼女の身分を知りませんでしたから。


「■■さんですね。初めまして」


 握手を求めるように互いに手を出し合いました。流れるように2人が同じタイミングで出たので、どちらともなく笑っていました。そして、笑いながらわたしは名乗ります。


緋葉(あかは)です」


 そして、その時、奥に患者さんがいて、その対応をしなくてはいけないことを思いだして、わたしは彼女に言いました。


「あ、すみません。奥に患者さんがいらっしゃるので、そちらの治癒をする時間をいただいてもよろしいでしょうか」


 そう言って、彼女に断ってから、患者さんの元へと行きました。彼女は、見学するように着いて来て、わたしの後ろから様子を見ていたんでしたっけ。


祈りをささげる(キルシュ)


 わたしはわたしの呪文を唱えて、患者さんを癒します。確か、胸元に大きな傷があったんでしたね。肋骨も数本折れていましたし、それが肺に刺さって呼吸困難な状態にまで追い込まれていました。幸い、魔法で延命措置をしていたために、彼女と話す時間があったのです。

 延命措置までは他の方の仕事で、普通なら、そこで、別の人が丸々数日くらいかけて付きっ切りで回復魔法をかけ続けるのが基本でした。それがマニュアルだったからです。それを壊したのはわたしでした。

 魔力にものを言わせた回復魔法でしたが、それでも、数十秒で治すことができるんですよ。だから、あの時も、そうやって、治しました。


 その日の患者さんはもういなかったので、休憩に入ると、彼女はわたしの元へ寄ってきて、間髪を入れずにこういいました。


「キルシュって?」


 それはわたしの呪文。彼女は、その意味を問うてきたのでした。呪文に意味など求めることは、わたしの世界ではなかったので驚きでしたし、魔力の多さを聞かれることのほうが多かったので新鮮でした。まあ、彼女からしてみれば、わたしの魔力なんてそこまで凄いものではなかったのでしょう。


「え、聞こえていたのですか?」


 だから、そう返したんです。そこまで、この呪文の名称の意味に、くだらない話に興味があるのかが気になったからです。


「確か、意味はさくらんぼ、よね?」


 内心でドキリとしながら、彼女と話していました。世界が違えば、言語も違います。だから、今まで、その言葉の意味が理解できた人は局ではいませんでした。どこか故郷の世界を思い起こさせ、なおかつ言語が分かることにわたしは驚いたのです。


「はい、これに関しては、わたしの勘違いでして」


 内心をできるだけ出さないように、……と言うのも信じられる人でも、気を付けなければならないのが局のルールでしたから、創設から間もないと警務のような敵対組織からの密偵もいるかもしれませんし。と言うことで、できるだけ内心を出さないように言ったのです。


「昔、教会(キルヒェ)さくらんぼ(キルシュ)を間違えて覚えていたんですよ。神聖なイメージの単語を治癒の発動キーとして設定したんですけど、教会ではなく、さくらんぼになってしまったというだけです。だから、キルシュ、なんですよ」


 そう笑いながら、彼女のことを少しだけ探ろうと思ったんです。もちろん、彼女の素性が分かっていたらそんなことはしなかったでしょうね。


「それにしても、よく分かりましたね。私の勘が正しければ、貴方は、『日本人』だと思うんですが……」


 日本人、わたしの世界には存在していた人々のことです。わたしがやってきたのは、今は管理局が統治していない世界ですし、確か、この時管理している世界の中で「日本」と言う固有名称を用いてる世界はなかったはずですから。


「わたしは、昔、日本人の方に大変お世話になったのです。あ、といっても、同じ日本人化は分かりませんけどね。日本刀国がある世界が複数あることは否定できませんし」


 わたしの言葉に、彼女は柔和に、全てを見透かすように笑って答えてくれました。


「まあ、日本人なのは否定しないわ。私の世界で言うドイツ語に当たるわね。キルヒェとかキルシュっていうのは」


 ドイツ、聞いたことのない国でした。アルタリア共和国のアルタリア語だったんですよね。


「ドイツ、ですか?私たちの世界では、アルタリア語って言ったんですが……やはり世界の差でしょうか」


 もう、この時点で、わたしは、この目の前の女性を完全に信用していました。少なくともスパイとか敵になることはない、そう思わせるだけの人物だったのです。リーダーの資質があるというか、何と言うんでしょうかね。


「あっ、会議の時間。アカハ、また会いましょう」


 別れ際の笑みは、十年来の友と錯覚するくらいに親し気な笑みで、思わず同性のわたしですらドキリとしてしまったのです。


「はい、また」


 そう返して、そこから、わたしと彼女たちとの日々は始まったのでした。長い長い、戦いの日々を送る彼女たちを、支えるのがわたしの仕事です。そして、起こった、白城事件。あの戦いで、わたしは死に、あの2人も亡くなってしまい、そして、契約により神へと昇ります。





 そうして、わたしは、甦ったのちに、ある事情から、この塔の天辺に……夢見櫓へと眠りにつきました。そして、アリスさんに解放されて、……そうして、今再び、今度は、昇るのではなく業としてここにいます。


 運命とは如何なものか、どうなるのか、そんなものはわたしにはわかりませんが、どうやら、この塔は、三神の運命を著しく吸い寄せているようです。さて、その三神の運命に引き寄せられたのか、そうでないのかは分かりませんが、やってきてしまった、わたしの血を引く目の前の彼女へと視線をやります。


「さあ、戦いましょうか。……と、言っても、わたしには戦闘能力などありませんけれど。貴方も知っての通り、肉体の枷を外すことで、限界を超えた力を使うことはできますけれど、元が元ですから強くないんですよ。だから、普通に戦ったら、わたしは100パーセント負けます」


 だから、わたしたちの戦いと言うのは、直接戦うことではありません。何も肉体勝負だけが戦いではないのですから。


「勝負のルールは簡単ですよ。――わたしを納得させること」


 それがルール。単純に言ってしまえば、わたしの気分次第で勝敗の決まる、至極不平等なルール。でも、それをクリアできたなら、向こうの勝ちなのです。まあ、正確に言うと、それではこの塔から解放はされないでしょう。でも、納得したら、ある方法を使って無理やり終わらせることができるんですよ。


「待ってくれ、何をどう納得させればいいんだい?」


 向こうの白い彼がそう問いかけてきました。せっかちですかね。でも、わたしは笑いながら、彼に言います。


「力の使い方について、ですよ。晴廻さん、貴方は、あの時、守るための力が欲しいと言っていました。では、なぜ、この塔へと昇ったのですか?」


 わたしの問いに押し黙ってしまいます。少し意地悪な聞きかたでしたか?


「わたしは、……別に世界を守ろうなどと考えて、この塔に上ってきたわけでも、敵を倒そうとこの塔を昇ってきたわけでもありません。守りたいものを守るために、守りたい人が昇ると決めた以上、それを守るために上ってきただけです。それで、この力が失われるなら、その時はその時、ですよ」


 はい、よくできました、と言っていいと思います。だから、わたしは、彼女に告げます。


「いいえ、それで、あなたの力が無くなってしまうなら、わたしなどとっくに無力でしょう。まあ、もとより、無力であることは痛感していますけど。なぜ、わたしが刀を背負っているか分かりますか?」


 そう、わたしの背には、1振りの太刀が背負われています。約束の、そして、贈られた大事な刀。三神が持つ象徴ともいえる武器、《緋王朱雀(ひおうすざく)》。


「武器だから、ですか?」


 ええ、そうですね。それは尤もな答えだと思います。


「でも、わたし、この刀を思う存分振り回すのには、ちょっとズルしなきゃいけないくらいの、そんなものなのに背負っているんです。それは、友の危機に駆けつけて、助けるため。わたしの信条は守ることですけど、それでも、かつては友のために戦場へ赴きましたし、戦わざるを得ない状況もありました」


 そう言って、敬介さんを見ます。懐かしいですね……。あれ(ズル)をするのは。髪の座へと至ってしまったわたしは、体が成長しませんでした。しかし、この身体では、思うように戦うことはできないのです。


「わたしが守りたかったもの、それは、……もう幻想でしかありませんし、その守りたかったものにも裏切られたこともあります。自分の守りたいものだけを守るというのは、正義ではないでしょう。自分の救いたいものだけを救う、正義ではないのかもしれません。でも、わたしは、それでも、守りたいものを守るためにこの力を振るいに行くこともあるでしょう。敵だろうと味方だろうと救いたければ救うでしょう。それが、わたしという、緋葉と言う人間なんです。だから、貴方はわたしによく似ている。いいえ、朱野宮も、姫野も、佐野もみんなわたしに似てしまっていると、本当に思いますよ。

 朱天さんのように日本を守るために戦うような、結音さんのように家族を守るために命を張るような、晴香さんのように愛する人の為に決戦に赴くような、そんな朱野宮の人間は、本当にわたしの子孫なんだな、とそう思います」


 だから、ズルを……体内の【力場】を身体中へと回し続け、一時的に、身体が成長するわたしのズル。


「だから、これからも、愛する人を守ってください。なぜ、でしょうかね。朱野宮の血には大きなものを守ろうとする国や組織を守ろうとする人が多く、姫野は家族を、娘や兄弟姉妹を守ろうとする人が多く、佐野は愛する人を守ろうとする人が多い様な、そんな気がしますね」


 さあ、《緋王朱雀(ひおうすざく)》、わたしと敬介さんの道を切り開きましょう。久々に全力で、使いますよ。


――斬ッ


 塔を次元ごと裂いて、空間に次元の穴を生みます。さあ、これで、わたしたちは元の場所に戻るでしょう。共に眠るあの地へと。


「では、また、あいましょう」

 え~、ぎりぎり、本日2話目です。

P.S.

 カクヨムの方も投稿開始しました。誰でしょうね、中旬に投稿とか言ったの。

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