314話:キリハVS十月SIDE.MAID
SIDE.MAID
わたしは、覇紋様をお守りするように階段を昇っていたのですが、途中で気づきます。この先にいるのは、どこかわたしに近い存在である、そんな予感がひしひしと伝わってくるのが感じ取れるからです。《千里の未来》で見ようとしても、何かに阻害されるように見えませんが、それでも、分かります。
「このかいは、わたし……(どうやら、この階はわたしの番のようですね)」
その言葉に覇紋様は頷きます。分かっている、と言うことなのでしょう。だから、わたしは、意識を、気配を集中させようとして、その時、胸の奥の何かを感じ取ります。
「……どうやら、やっと、時が満ち満ちた様子ですね。十月……、わたしと貴方は同じ存在。記憶の欠落、言語の欠損、それらすべてが、今、……」
わたしの中のもう1人のわたし。失った記憶と失った言語が、時を遡るかのように、わたしの中へと戻ってくる。これは……、そう、そう言うことですか。
「覇紋様……いえ、坊ちゃま。どうやら、時は満ち、まるで、決戦を機にしたかのようにわたしの力も戻ったようです」
覇紋様……坊ちゃまの目がわたしを捉えます。しかし、柔和にわたしは笑いかけると、今起こった全てのことを坊ちゃまに説明しました。
「坊ちゃまが能力を……《不死の大火》を失ったことで、対価となっていたわたしの記憶とわたしの言葉が戻ってきたようですね。それもこれも、あの人、いえ、まあ、この場合は彼、でもいいんですかね。とりあえず戻してもらえたようです。つまり、白咲鞠華と占夏十月のどちらでもある状態へと戻れたのです」
まあ白咲鞠華は、占夏十月のことまで知っているので、白咲鞠華に戻ったというのが一番正しいかもしれませんけれど。
「対価が戻った。なるほど。それでか。なら、俺の能力なんかの他の対価はどうなるんだ?」
「あくまで、坊ちゃまが自身以外の対価に払ったものを返してくださったんです。……そうですよね」
その張本人に微笑むと、チラリと一瞥しただけでした。照れ屋、と言うべきでしょうかね。さて、上にいるのがわたしに近い存在だというのなら、あとは戦闘力しだいですね。
「つまり、十月。いえ、もう鞠華なの?どっちにしろ、まあ、この先にいるのは、あんたの同類ってことはたぶんユリアの加護だから……」
わたしは今の状態ではどちらでもあると言えるのですが、どちらと言うべきでしょうかね。少し考えてから言います。
「戸籍上は、現在は十月ですから十月で構いません。それよりも、ユリアの加護と言うと?」
わたしの問いかけに青葉暗音さんは苦笑して、そして、紳司さんの方が答えてくれました。
「ユリア……【ユリアに悠か先を見通すことを許された者】だな。つまり、来るとしたら、キリハ・U・ファミーユだろうな。タケル、知っているよな」
キリハ・U・ファミーユ、その名に聞き覚えがあるようなない様な。何者でしょうか。その疑問を、紳司さんの呼びかけた相手の方を見て解決しようとします。
「ええ、ウチの管理事務長ですねぃ。魔法少女名は、魔法天女はいぱー∽はるかー。先天的に千里眼のような能力があったこともあり、CEOとも仲がよく、良い指揮官役だったって聞いましたぇ」
その言葉に、驚きました。まさか、魔法少女とは。魔法少女と言うからには魔法が使えるんですから、それ相応の覚悟もいりますよね。一応、ナイフなどは常備していますが、いざとなればあれの使用をすることになるかもしれませんね。
使ってはいませんでしたが、とりあえずと思い、準備だけしてきてよかったです。魔法と戦う時と言えば、こういった武器ですからね。
「鞠華、あれを使うのならば、間合いと狙いを気を付けるか、牽制にのみ使うかのどちらかにしてくださいね」
師に言われ、頷き返す。当然ながら、それくらいは分かっています。でも、これは、一撃必殺の武器と言うより、当たり所によっては一撃必殺にできる武器ですからね、殺す必要がないのなら、殺さないように間合いと、狙う場所、そして、牽制と言う手段に用いればこそ。
「それにしても、随分と階数があるよな。今までだと、一対一じゃなくなることもあったからな、そこまでだったが、今回は階数が多すぎる気がする」
青葉清二さんの言葉。それに対して、紳司さんが発現をします。まるで、この塔の構造を熟知しているかのように、この塔のルールを全て知っているかのように。
「今回は、塔が完全版なのもあるが、それ以前に、宿業を持って生まれた者が多すぎる。その業の多さが、階の多さにも繋がっているんだと思う」
「まあ、前世を持つ者がこんだけ居りゃ、当然でもあるけど、それだけじゃあないわね。どんな人間も、何らかのつながりがあるんだけど、そのつながりを辿ると近くに凄い人が居るってやつが多いからこうなってるんでしょうね。おそらく、まだまだ来るでしょうね。化け物どもが」
化け物……まあ、そうでしょうけれど。おそらく、これからの戦いこそが、本番……、あくまで、紳司さんと暗音さん以外は前座なのでしょうけど、それでも、ここからは過激になる、そんな気がします。いくら先が見えずとも、それだけは分かってしまうのも予知のせいでしょうかね。
さて、ここで、今回の戦いがどうなるか、と言う話をすると、戦いをする上で予知は無意味になるでしょう。予知者同士の戦いと言うのは結局そう言うことになります。相手の行動を予知して、それを予知して、さらにそれを予知する、それをひたすら繰り返すだけと言う、永遠に決着のつかない予知の繰り返しをするなら、直接戦うことになる、それだけの話です。それは相手も分かっているはず。
「じゃあ、行きましょうか」
暗音さんの先導の元、次の階へと進みます。そして、そこにいたのは、幼げな少女でした。魔法少女だからでしょうかね、年を取らないのも納得が行きますから。
「あら、これはこれは、ヴァルヴァディア神の化身さんですか。お久しぶりですね」
ヴァルヴァディア神の化身?よくわかりませんがそう言う存在のようですね。空美タケルさんが居心地悪そうに答えます。
「どうもッス。パイセン、死人なのに元気そうッスね」
「いえいえ、それよりも、わたしの後継者に会えたのは僥倖ですね」
さて、その視線がわたしに移り変わりました。どうやら、何が起こるかは分かっているようですね。
「さて、みなさん、お話ししたいことも山ほどありますが、今は御先に。ここは決戦場。彼女以外は、不要でしょう。青葉紳司さんとは一度じっくり話したかったのですが、またの機会に」
そう言って、皆さんを先に行かせます。さて、わたしは、この子を……師から教わっていない唯一の独学にして、師と対峙したときに、一時的にでも師を凌駕で来た武器。結局負けましたけど、この子はわたしの相棒です。さあ、出番ですよ。
「なるほど、近代兵器、と言ったところですか」
そう、わたしの相棒、トカレフちゃん。コストパフォーマンスと流通から言って替えが利きやすいものを武器にするべき。絶対に壊れないものがあるのなら別として、壊れるものを使うなら、それが鉄則です。
「私自身、攻撃系統の魔法は得意ではないんですけど、仕方がありません。
――来なさい、姫が守りし鉄槌の龍、《燚赫守龍》」
彼女を囲むように赤い壁のようなものが張り巡らされます。あれは銃弾では貫通できるかどうか……。さて、どうするか……。
「メイド奥義・番外『メイドは懐に忍び持つ』」
2本のナイフを取り出して、壁に向かって投げつけます。このナイフは特別製。あの壁くらいなら……。
「なっ、障壁に食い込んだんですか……」
そう、ナイフは壁に刺さった状態で止まりました。でも、そう、それなら十分です。なぜなら、ここから壁を壊す算段が付きましたから。
「トカレフちゃん!」
狙いを定めて、同じ位置に目がけて2発撃ちこみます。そう、狙いは、ナイフの柄。このまま、ナイフを押し込めるでしょう。
「このナイフ、解呪術式付与……それどころか、対魔、対物の仕様が完璧に整っているじゃないですか。こんなえげつないものをどこで……?」
よくわからないですが、このナイフはいいものと言うことでしょう。師の師から送られたものと聞いていますけど、正直言って助かりました。
「師の師より送られたナイフだそうですよ」
「スーパーメイド、シュピード・オルレアナ?!」
どうやら知っているようです。まあ、有名人でしょうし。魔法少女なら知っていてもおかしくはないんでしょう。
「と、言うわけで、壁は破りました。まだ、壁を張りますか?」
彼女は手を挙げる。お手上げと言うことでしょう。
「まあ、戦いをする気はなかったので、この程度でいいでしょう。元来、わたしは戦い向きの性能をしてないんですって。まあ、その話をはおいておいて、これから先、貴方の運命は過酷を極めるでしょう?だから、この言葉を贈ります。『先が見えるほどつまらない。けれど、つまるつまらない以上の大事なことも時にはある。その見境が付かなくなったとき、人は人として死んでいる』。と言うわけでグッドラック」
え、そう言うや否やいなくなってしまいました。え、これで、終わり……ですか?
え~、遅くなりました。ついでにカクヨムに投稿予定のもあります。てか、それが遅れの原因です。前回言っていた歴史物です。よくあるやつなので、使い古された設定ですが。詳しくは割烹にでも書きます。




