312話:ルラVS王戯SIDE.OUGI
SIDE.OUGI NISHINO(The Keyhole girl)
――はぁ……
私は、今目の前の状況に溜息を吐くしかなかった。相も変わらず私は運が悪いんじゃないかなって思うくらいに、突拍子もないことには慣れてたけど、……これはないわ。そりゃ、今までも、突然よくわからない空間に飛ばされることなんて何回もあったけど、誰もいないってどうなのよ。せめて誰かいなさいよ。そりゃね、いつも飛ばされた先にいるのが変態か変人だから文句は言ったわよ?でもさぁ、分かるじゃないの。誰も出てくるなって言ってんじゃないの、まともな人を出すように言ってんのよ。そのくらい察しなさいよ。無人の大部屋に1人で、しかも四方に扉があって、一か所だけ開いててあとは閉まってるし。何あれ、あそこに進めばいいの?それともあそこから何か来るの?せめて説明しろってのよ。何なのよ一体。下手に動くわけには行かないし、かといってジッとしてても暇だし、ホント、何なのかしら。こういう時に翔赫がいればいいのに、どうでもいい時にはいて、こういう時に限っていないのはどういうことなのかしら。いくら強くても役立たずって言っているようなものよね。いや、本当に役立たずなんだけど。うん、役に立ったことが滅多にない様な気がしてきたわ。いえ、別にゴミだのカスだの罵りたいわけじゃなくてね、あれもあれで、居れば便利……でもないけど、まあ、うん、そうね、……その……、うん、そう、まあ、……特に何もないわね。え、ほんと、ちょっと待って、自分でも驚いているわ。ここまで考えて何も思い浮かばないとか、え、いえ、ちょっとくらいあってもいい様な気がするんだけど、う~ん。何かあるかしら。う~~~ん、あー、むー。うー。
しいて上げるなら、そこそこ強い?これだけ悩んで結論がそれっていうのもどうなんでしょうね。しかも母さんの方が強いし、富嶽和尚とかヴァキマナハ先生とか雪丽老師とか北条師匠とか、翔赫の10倍強い人がいるからね。まあ、みんなおばあちゃんが一番凄いって言うんだけど。って、まあ、翔赫の悪口はこの辺にしておかないと際限なく続くでしょうし、今は、どうするべきなのかについて考えましょう。しかし、まあ、私服で街を歩いていたのに、戦闘服状態なのは解せないわ。戦闘服と言うと、野蛮なものを想像したり、肩パットだの青タイツだののイメージがあるかもしれないけど、そう言うのとは違うタイプで、どっちかと言えば魔法少女の変身かな。それにしては過激な衣装だけれど。
所謂、拘束具に近い感じのイメージを抱いてもらえれば分かるかな。体を無数のベルトが巻いて、胸元の錠前に全てが集まっている感じ。一応、ショーパン的なのはあるし、胸はサラシっぽくベルトが巻いているからいいんだけど。それにしても痴女よね。痴女っていうか変態?嫌よね。でも、この姿にならなきゃ力が使えないし、周りにいるのはさっき言った様な大人の男の人か女ばかりだったから特に気にしてないみたいだったし。気にしていたのは、それこそ翔赫なもので、……ああ、本当に、厭らしい目でジロジロと見てくるし、本当に、ねぇ。だから男は嫌なのよ。まあ、翔赫があれなだけかもしれないけど。
それで、これから私にどうしろと言うのかしら。この独りぼっちの空間で座禅でも組んで修行すればいいのかしら。そうじゃないならとっとと誰か出てきて説明をしなさいってのよ。言っとくけれど、説明っていうのはこの世の中でかなり重要なことなのよ。それっぽいこと言っても説明なかったら分かるわけないでしょう。だから、説明をしなさいっての。
壮大な音を立てて大きな扉がやっと開いたわ。やっとよ、やっと、どれだけ待たせるの。で、今度は何がやってきたのかしら。そう思って、扉の方を見ると、どうやら20人弱の集団のよう。え、私1人対して20人とかなくない?集団リンチ?いじめかっこわるい。
「えっと、姉さん、あれは……?」
集団の戦闘を歩いていた男……ん、あれ、どっかで見たことあるような……、気のせいかな。雰囲気は北条師匠に似てるけど、年齢も見た目も違うし、やっぱり気のせいでしょ。それよりも、その男が話しかけた女、姉さんってことは、姉弟なんだろうけど、あの人は……。
「露出狂の変態か、痴女か、さもなければ……」
どっちでもないわっ!本当に嫌ね、この戦闘服。どうにかしてくれないかしら。割とキツキツに締め付けてくるし。この戦闘服を2時間使用した後に元に戻ると、体にばっちりくっきり跡が残るのよ。プレイ後みたいじゃないの、拘束プレイ?そんな趣味ないって。
「う~ん、まあ、さもなければと言うか、変態云々は冗談で、十中八九、王戯でしょうね」
え……、どうやら私の名前を知っているらしい。じゃあ、最初の変態だの痴女だのは言わなくてよかったじゃないの。なんなの。いじめ、いじめなの?いい加減にしないと泣くわよ。
「待ち過ぎで暇だったんだけど、と言うよりも、誰か説明をプリーズ。訳知り顔なそこの3人、特に。何か説明がないままバトルに突入しそうな予感がするんで、はよ、説明ください」
今までの経験から言って、こういう場所で話し合いになった試しはない。バトルだの試練だの、試験だの、大抵そんなもん。そして、それが終わると強制送還、結局何だったのかが分からない、と言う今までの経験を踏まえたパーフェクトな質問。それが今のよ。ドヤッ。
「ちょっとは黙ってなさいな【鍵穴】。あんたへの説明は、まあするから。それよりも、こっちに説明しなさい。あんた、いつの時間軸のどこの存在か。それしだいでは説明できる内容とできない内容がでてくるから」
時間軸?どこの存在?訳わからんちん。その説明をしろってのよ。単語の説明を。一般人が知らない単語をさも当然のように言わないでほしい。時間軸……はまだしもどこの存在って、どういう意味さね。出身、それとも育った場所?まあ、適当に答えればいいんだろうけど、時間軸……、なるほど、Z暦の方を答えろってことなのかしら。存在は……おそらくS番かN番か、S番なら番号、N番なら大体の位置、ってな感じでOK?
「時空暦は正確なところは分からないわ。何せ世界番号外で名無し世界だったから。大体は、近場の世界で言うとフェイデンスとかグラリディオ。出身は、地球の日本、鷹之町市、東町よ。現象時空時間単位も微妙だけど、私が生まれてから14年、翔赫に会って2年ってところね」
よく富嶽和尚と雪丽老師が報告で言っている内容をほぼほぼパクったから、結局よく意味わからんけど、向こうに伝わってるぽければいいよね?まあ、実際に伝わってるかどうかは知らんけど。ニュアンスよ。
「なるほど……てか、現役女子中学生なのね、あんた。ていうか、その時間軸だと【天姫】や【九源帝】とかが現存の時代じゃない。恐ろしいわね」
いや、恐ろしいわねじゃなくて、説明を!そう言えば、富嶽和尚のあだ名が【九源帝】で確か、偶に一緒に行動してる冴木さんだかなんだかが【天姫】って呼ばれてたような気がするけど。まあ、偶然よね。うん、偶然、たぶん、きっと……。ええい、もうどうでもいいわ。
「それで説明だけど、ここは運命の塔、いえ、黙示録の櫓とかいろいろ呼び名はあるけれど、まあ、昇る者の業に対する相手がフロアごとに呼び出される。つまり、あんたは、フロアボスとかゲートキーパーとかそんな役割なのよ。分かったかしら?」
私はモンスターかっちゅーの。てか黙示録の櫓ってぶっ壊れたって聞いたような……きのせいかな。まあ、いいんだけど。とにかく、私が倒すか倒されるかしないと帰れないってことでしょ。ひどくない?所謂、ダンジョン系のロープレとかの中ボス的立ち位置として召喚されるとか、いや、私がボス程強くないのは百も承知だけどさ、そりゃないでしょ。うん、なんで中ボスよ。それならいっそ雑魚モンスターの方がましだわ。諦めつくし。
「ビミョーな立ち位置過ぎて何も言えんわ。てか、思い出した、あんた、錠前の初開錠の時の青葉あ……あ……あんのん?アンノウン?とにかくそんな感じのヤツ!」
よくわからない名前だったけど、そんな感じの名前だったはずよ。うん、たぶん。「あ」から始まって「ん」で終わった気がする。曖昧な記憶、それはそう、覚えていられるほど強い記憶じゃなかったから。父さんは、「鍵と鍵穴がくっついている状態だから見た」って言うけど、よくよく考えると、鍵穴付きの鍵って、鍵を鍵穴に挿せないから意味ないのよね。
「暗音よ。あ・の・ん。名前くらい憶えておきなさい。まあ、おそらく、会ったのは今の時間軸のあたしではなく、未来の時間軸のあたしでしょうけどね」
そういえば、どことなくあの時より若干子供っぽい様な気がしなくもなくもなくもないわ。覚えていないから分からないけどっ!うん、勘と言うか言われたらそんな感じがするなーってことあるっしょ、あれ。思い込みってのは怖いわよね。それも曖昧なことほど信じちゃうのよ。人間の脳ってのは誤魔化されやすいのよ。
「でも、戦うって言っても、私の力、戦う系の奴じゃないわよ。まったく、こういうのは、富嶽和尚に頼みたいのに……」
私の愚痴に暗音さんとやらが反応を示す。何よ、変なことは言ってないはず。いや、変なことを言ったかもしれない、言ってないかも知れないけど。よくわからなくなってくるわよね。自分で何言っているか分からない時もあるし。
「富嶽って、富嶽玄静、やっぱり【九源帝】のことよね。てことは、朋ちゃ……朋華も……冴木朋華もいるのよね?」
あ~、確か、あの冴木さんも朋華って名前だったわね。これは、前に聞いたから覚えてるわ。間違いない、はず。うん、自信ないけど間違いないわ。適当だけど。
「ええ、居たわね。水色っぽい髪して、ちょっときつめで連節剣使うのが」
てか、いまだにわからないんだけど、連節剣ってどうやってあやつってるのかしら。鞭みたいにしても上手くいかないと思うのよね。
「あ~、昔は多節棍だったんだけど、鞍替えしたのかしら。でも、あの子は【帝神帝】と結婚したって噂を聞いたのに、相変わらず仕事ばっかなのね」
【帝神帝】ってなに、てかあの人結婚してたんだ。そこが一番の驚きだよ。てか詳しいわね。
「おっと、こんな世間話をしている場合じゃないわね。そろそろ、あたしたちは先に進ませてもらうわ。ルラ、あとは頼んだわよ」
なんか、1人を残して先に行く暗音さんとやらのご一行。昇る者の業と対応するってことは、この人は私と関係しているってことなのかな。でも、うん、全く心当たりナッシング。知らんわいな。誰、この人。てか、どのくらいの威力まで出していいんだろ。こういう時は大抵、誰かが助言するのに、今回はその役目もいないからどうしたものかしらね。
「《必貫の大鑓》ッ」
ぶ、ぶりゅ……ぶりゅっせる?よくわからんけど、馬鹿みたいにデカい馬鹿みたいな槍が馬鹿みたいに急に出てきた。馬鹿々々しいとはこのこと。え~と、あれを私にどうしろと?あ、ど素人の私にどうしろとってギャグ思いついた。って、んなのはどうでもよくて、いやよくなくてよ?
「えと、う~ん、こういう時って、切り札ってのはまあ、最後まで取っておくじゃない、普通。そう、普通。で、普通ってなんだろね?」
向こうの人は、槍を構えながらも首を傾げる。てか、いい大人が、んな子供かって、突っ込もうと思ったけど、その瞬間に殺されそうだから止めとこ。
「んで、私ってば、普通じゃないから切り札って、最初に使うのよ」
鍵と鍵穴が一緒になっているってことは、鍵で鍵穴を開けることはできないし、閉めることもできない。つまりは意味がないってもんよ。例えば、鉛筆の後ろに鉛筆削りがついてても先っぽは削れないし、ゲーム機から充電用の端子が出てても意味がないでしょ?そゆことよ。じゃあ、私はどうしたらいいか、っていうと。
「戦闘服の施錠を開錠。光明への架け橋、刻む印、その名、王の印、故に王印。4つの印の禁を破りて、封を解きて、錠を開けて、我が元へと集え。四方の門は開かれ、王の印は、我が身に刻まれる。――白天王印」
まず、戦闘服の錠前を私の鍵で開けて、全裸になると、ベルトが鍵になって、それが鍵付きの鍵穴の鍵になって、全てを解放できるってこと。そんでもって、切り札だけに、一撃の威力は半端ない。あ、終わったっぽい。どうやら、王印の一つが反応しているから王印の関係者だったのかな。知らんけど。興味もないしー。さて、と帰ってアイスでも食べよっと。
え~、雪は「シュェ」や「シュ」と読むこともありますが、あたしは「シェ」としてます。今回は、非常に読みづらいと思いますが、それが王戯と言うキャラの特徴と言うようなもので、彼女は長文+おふざけと言う感じです。あと、ルラがこの話、一言しか喋ってないんですよね。不遇すぎると思いますが、まあ、ねぇ。




