306話:心臓の女王VS愛藤愛美SIDE.MIS
SIDE.MIS(Magical girl)
ついに、再び目の前に心臓の女王が見えた。そしてその重圧、まるで、全てを潰そうとする【力場】に、わたしは思わず目眩すら覚えそうになっちゃった。けど、くじけていられない。もう、みんなは次の階への階段へと進んでいる。そして、そっちに一切攻撃を仕掛けないってことは、読み通りわたしが業の相手見たいだね。だから、今回、わたしは全力で相手をする。負けようとも悔いが無いように……。
「上位転身!」
今回は真剣だから☆とか付けないで行くよ。最初っから全力全開フルスロットルで飛ばしまくるよっ!だから、だからっ!
「勝利と栄光の使者、魔法幼女うるとら∴ましゅまろん!参・上ッ!」
赤銅色の髪と勝利の魔眼。白スクにハイニーソ、ロングブーツに赤マント。これこそ、魔法幼女うるとら∴ましゅまろんなのです!
と、決めポーズをしたところで、おそらく、この相手に、魔法をいくら数十発ぶちかましたってきっとダメージが無いので、全力の一撃をぶつけて決めるしかないんだよ。分散するよりも一撃を叩き込む!
「【力場】収束、大規模【魔術回路】展開、【魔力】回路定格最大、上限解放、【頂】を設定……完了。【我が真名を捧ぐ】、装填、【神よ、見守りたもう】、顕現。全【魔力】、補填。
――【嶺の上に花は咲き開く】ッ!」
この技こそ、わたしが【嶺上開花】の名を冠していた所以。嶺……頂を設定し、そこに攻撃を当てる砲撃。その一撃は、おそらく、あの頃よりも強くなっているはず。だから、これで……!
――グギャアアアアンッ!
奇怪な音を立てながら、空間を歪曲させて世界を進んでいく。防ぎようのない一撃。絶対に当たる技。だから……!
心臓の女王……超巨大な西洋人形型悪鬼。手は2本だから攻撃は単調だけど、生み出す雑兵が厄介。でも、今回は、その雑兵がいないからッ、照準をきちんと合わせるだけの時間がある。だから、当てられるッ!
そして、着弾、命中を確認したよ。これなら……、いけたはずッ!着弾と同時に舞い上がった煙が徐々に晴れて、そして……心臓の女王の姿は健在だった。
「そ、……んな……。ダメ、なの……?」
あの頃よりも強くなったのに、それでも、届かないの……?わたしじゃ、あれに勝てないの……?
――ドクンッ
まるで心臓が跳ねるような、そんな音がした瞬間、心臓の女王がこっちに手と口を向けて、攻撃の姿勢を整えていたの。このままじゃ、死ぬ。死んじゃうッ!
死ぬの……?負けるの……?嗚呼、そう、負けて負けて……勝利の名を穢して、散っていく。先輩たちに、届くことすらなく、掠ることすらなく、――想い人と最後に会うことなく、終わる。
――ドクンッ、ドクンッ!
心臓が高鳴る。何だろう、この気持ち。分からない、けど、分からなきゃいけない気がする。負けちゃいけない、違う、勝たなきゃいけない、違う、勝てる。負けられないのでも、負けるのでも、勝たなきゃいけないのでもない、勝てる。負けるとか勝てるとか考えていた前提が間違っていたの。そう、勝てる勝てないじゃない、勝つ。わたしには勝つ以外の答えが存在しない。勝つ、勝つ勝つ、勝つんだッ!
視界に迫る攻撃が、景色が、全てが変わる。わたしは周囲を見回しながら、その白い空間を不思議に見つめたよ。どうなってるんだろう……。さっきまで、心臓の女王の攻撃が迫っていたのに。
「ついに……、ついに至ったのですねっ。ずっと、ずっとずっと、ずっとずっとずっと、ず~っと待っていました。愛藤愛美……いえ、マナカ・イリス・シューティスター。わたくしは、貴方様がここに来るのを待っていたものです」
突然目の前に、誰かが現れる。でも、認識できない。顔が分からない。見えているのに、分からない。誰、……なんだろう。
「わたくしのことはビタキとでも及びください。到達者様」
ビタキ……、ああ、それで、暗音ちゃんは、大瑠璃と言う奴だったらって言っていたんだね。どうやら違うみたいだけど。
「えと、大瑠璃さんっていうのは……?」
わたしの問いかけに、誰か……もといビタキさん、ビタキちゃん、よくわからないけど、下手に出る相手なのでビタキちゃん、そのビタキちゃんが言う。
「はい、知り合いです。ですが、どうしてその名前を……?もしや、外部での接触がおありでしたか?あの方は外部に出てる2人とは違って引き籠っていると思っていたのですが」
ビタキちゃん、大瑠璃さん、残り2人で4人。暗音ちゃんたちが言っていた人数とも一致するから、そうなのかな?
「えと、暗音ちゃんから『裏をかかれた気分はどう?』と伝えてほしいって」
裏をかいたって、どういうことだろう。何か言われてたとか、それを欺いたとかそう言うことなのかな。よくわからないけど。
「暗音ちゃん……?ああ、あの御方のことですね。なるほど」
あの御方って、大瑠璃さんの時は「あの方」だったのに、暗音ちゃんの方が、位が高いのかな?基準が分からないんだけど。
「裏をかかれたとはいえ、本来の道筋に沿ったこと。故に、あの方はそこまで悔しがっていないとあの御方には伝えておいてください」
結局、裏をかかれたのか、決まっていたのかよくわからないんだけど、そんなことよりもここがどこかっていうのも気になるし……。結局何が起こっているかも分からないし。
「はぁ……分かりました。それで、わたしが至ったというのは?」
そう、至ったって登場したときに言っていた気がする。でも、それが何になのかは全く分からない。
「それは……【究極力場到達点】です。かつて、篠宮無双や蒼刃蒼天、国立睦月、希咲雪美、雨月茜、デュアル=ツインベル、春場祢祇、紅赫、霧山天狗、七星佳奈、数多の強き者たちが無意識的なり、意識的なりに通った道のこと。その中でも意識的に通ったものは数が少なく、そして、真に天に選ばれ道を通った者たちでもあるということでもあります。先に名を挙げた者でも、蒼刃蒼天やデュアル=ツインベル、七星佳奈のように無意識的に通った、つまりわたくしたちに会うことなく至ったものたちもいますね」
何か凄いもの……何だろうけど、前者と後者の違いがよく分からないし、至ったらどうだというのかも分からないんだけど……。どう解釈すればいいのかな。
「貴方は、至ったのですから、それを解放すればいいのですよ。さあ、感じてください。貴方の中にある【勝利】を……」
――ドクンッ、ドクンッドクンッ、ドクンッドクンッドクンッ
何、これ……。これなら、無敵。そんな気すらする。そして、白い空間が徐々に消えていくように見えたの。
「さあ、では、ご武運を。貴方ならば、愚神の理を打破することもできるでしょう。真の理に従い、天命を……」
ビタキちゃんの言葉と共に、白い空間が消えて、目の前に迫る心臓の女王の拳と口から吐かれる雷轟。そっか、そうだった!今にも攻撃が来るところだったんだった!でも、大丈夫。
「クラスアーップッ・オーバーチェンジッ!」
【力場】が跳ね上がる。そこからあふれ出る七色の光が、心臓の女王の拳も雷轟も弾き防いだ。そして、わたしの姿が変わっていく。赤銅色の髪は、頭の上で一房に結っていたのが、結が解かれ変わりに首元で2つに結うツインテール……もといおさげに変わる。服装は、白色のスクール水着から純白のドレスになって、靴も無骨なロングブーツからシンデレラのような輝くガラスの靴に、手は腕全体を覆うシルクのような手袋。そして、輝かんばかりの虹色の瞳と同じように虹色の宝石が埋められてた機械と混ざったような大きな杖。
これこそが、魔法幼女うるとら∴ましゅまろんの……ううん、魔法少女としての真のわたしの姿。魔法少女【勝利の女王】モード。
「愛と勝利の使者……魔法少女うるとら∴ましゅまろん【勝利の女王】モードッ!」
魔法幼女から魔法少女に、そして、【勝利の女王】として、わたしは、戦う。いえ、もはや、こうなった以上、これは戦いじゃない。なぜなら、わたしがこうなったらもう、勝利は確定事項だから。
「さあ、決めようか、【勝利の杖】ッ!」
わたしが杖を掲げると無数の魔法陣が周囲に展開されて砲門が解放される。全ての【魔力】と【力場】が集中して、魔法陣が莫大なエネルギーを発している。
「【深き愛は勝利を紡ぐ】ッ!」
全砲門から一点に目がけて【魔力】砲撃が放たれる。その気になれば世界そのものを破壊できるだけの一撃が複数の魔法陣から放たれ、心臓の女王に命中する。
そして、心臓の女王は跡形もなく消え去った。やっと、追いついた。わたしは、あの人たちへと追いつくことができた。
「これでやっと、わたしもCEOじゃなくてリーダーを名乗れるかな……」
え~、誰が《勝利》の古具使いの63話に出てきた【究極力場到達点】のことを覚えていましたでしょうか。あと、到達者は他にもまだまだいて、烈さんや緋葉、敬介君、紅蓮の王などトップクラスは大体そうです。
ただし、【終焉の少女】は、トップクラスですが該当しません。あとべリアル公とかも。




