305話:第九階層・過去の因縁SIDE.MIS
SIDE.MIS(Magical girl)
わたしは、上からの【力場】をひしひしと感じていたよ。うん、これは間違いない。こんなこともあるかも知れないって思っていたけど、やっぱり、出てくるんだね……。だとしたら、業の相手はわたしかたるとぱいか……。たぶんわたしだね。でも、あれにわたしが1人で勝てるとは思えないんだよ。
「なあ、姉さん、今度のは全く心当たりがないんだけど、姉さんの方は覚えがある?」
「ないわね、でも、人間とかじゃなくて異形系の何かってのだけは感じ取れるわ」
そう、相手は、人間じゃないの。最強最悪の魔物、わたしたちの敵にして、魔法少女独立保守機構の先駆け、魔法少女独立連盟が戦った敵。その名は……
「心臓の女王。まさか、人生で2度も会うなんてね」
魔法少女独立連盟……元々、世界魔法少女連盟とMS独立団っていう2つの組織の連盟なの。わたしは世界魔法少女連盟所属の魔法幼女。トップの魔法少女@国立睦月、通称【国士無双の睦月】。四天王の魔法少女ヴェルフール、通称【槍槓使いのヴェルフ】、魔法少女まう、通称【河底撈魚使いの舞魚】、魔法少女↑篠宮烈、通称【七対子の烈】、魔法少女清住清子、通称【清一色の清子】。この5人を筆頭に、次席でわたし、【嶺上開花使いの愛美】や他の面々が活躍していたの。
魔法少女がいる世界には悪が必ずいるんだよ。それが魔物、一般的には悪鬼って呼ばれてたね。それを退治するために、魔法少女たちは戦い続けたんだ。魔石をはめ込まれた動物とか人間とかが、下級の魔物として現れるんだけど、たまに突然変異することもあるんだ。それが中級や上級、そして女王級。
中級は無形悪鬼とか群鳥悪鬼とかで、上級が出入悪鬼、女王級が心臓の女王。
中級と言うと下級よりも少し強い程度だと思っちゃうけど、実際のところは、下級の10倍は強いし、それが群でいることが多いから正直に言うとかなり危険なんだ。MS独立団のリーダーだった【愛玩の淑女】魔法少女ドレッド=ファンドは無形悪鬼にやられちゃったし。
まあ、その無形悪鬼の登場がある意味での転機だったのかな?それによってうち……世界魔法少女連盟も、MS独立団も大きく戦力を欠いた状況になっちゃったの。だから2つの組織を統合して、協定を組んで、魔法少女独立連盟が発足したの。
無形悪鬼殲滅戦、出入悪鬼攻略戦、群鳥悪鬼殲滅戦、心臓の女王最終決戦、それらの難関をみんなで乗り越えた。けど、その後、トップ5の引退、そして、石眼の白蛇攻略戦。トップの5人が抜けた状態で行われたその戦いでは、多くの犠牲と石化者が出て、さらに人数を欠いちゃった。だからこそ、魔法少女普及活動をして、勢力拡大も図っているし、他にも画策してるんだよ。
わたしのいない間にも、いろいろあったみたいだし、歴史は動くからね。でも、だからこそ、わたしの業たる心臓の女王と戦わなきゃいけないんだ。しかし、わたし1人で、あれを倒せるのかな……?
だって、あれは、烈さんでも、愛槍・御手杵を折ってでも戦い抜き、皆が死力を尽くしてようやく勝った化け物なんだよね。わたしは勝利の魔法幼女、だからと言って、勝てるっていう確信が持てないの。
「心臓の女王っていうと、魔法少女たちが元々いた世界でのラスボスみたいなもんだったか?なるほど、それが上にいるってのは面倒だな。でも、そうなると、業の対象は愛藤愛美さん、あんたか、それともタケル、お前か?イシュタルがいないから魔法少女の業で言えば、それくらいしか考えられないんだが」
紳司君の言葉。でも、タケルは……トリプルV、魔法童女ゆるたる∥たるとぱい、またの名をバンキッシュ・V・ヴァルヴァディアは、ヴァルヴァディア神家の名前の通り、わたしたちの世界でも特殊な出身なの。故あって、魔法童女となった存在で、心臓の女王最終決戦にも参加していたけど、それよりももっと別の業を持つべき存在のはずだよ。
ああ、別名のはずなのにヴァルヴァディア神家の人間なのは、空美タケルっていう方が偽名だからで、本名はバンキッシュ・ヴァニッシュ・ヴァルヴァディア。これと与えられた名前が合致する類稀な例だよ。
「たぶん、わたしだよ。あの戦いで先手だったのは【嶺上】隊だったからね」
要するに切り込み隊長みたいなものかな。普段は、【七対子】隊が先手だったんだけど、あの時は、ほぼ連戦で【七対子】隊の補給が不十分だったから。本陣の【国士無双】隊と【清一色】隊、後備の【河底撈魚】隊、補給に下がっていた【七対子】隊、遊撃の【槍槓】隊。基本陣形はそんなもので、他にいくつかの部隊が敵の後方へ回って挟撃する作戦。
「なるほど、とどめを刺したのがあんたとかそう言う流れ?」
暗音ちゃんの言葉に、わたしは首を横に振る。違うの、あの戦いにおいて、先手は心臓の女王の先兵に散らされ、【七対子】隊の補給の時間まで稼ぐことで精いっぱいだったからね。
「ううん、とどめは烈さん。愛槍・御手杵で致命傷を負わせて、総攻撃で体をバラバラにした後、魔槍・屠殺者で全てを毒と熱で消滅させたから」
だから本当に先手で雑魚を押さえただけなんだけど、それでも、わたしの業だっていうのはなんとなくわかってるから、だから、わたしが行かなきゃ。
「何とも魔法少女らしくない手で勝ってるわね。毒と熱って……」
あ~、そう言われればそうだけど、そもそも、それ以前に烈さんとか睦月さんとか基本的に武闘派が多くて純魔法派っていえば、わたしか、イシュタルか、カナデンか、はるかちゃんかくらいだったし。しほりちゃんもどちらかと言えばスビードアタッカーで、早さごり押しの戦い方だったし。
「よく考えると……うちって、魔法少女っぽい魔法少女がそんなにいないかも……?」
言われてみて気づいたけど、もしかしたら、わたしたちは魔法少女ではなくて魔法拳士や魔法剣士の集団だったんじゃないのかな?
「まあ、そんなことはどうでもよくて、それで、その化け物を倒すのがあんただとして、勝率はあるのかしら?勝ち目のない戦に……まあ、いくしかないんだけどさ」
うん、勝ち目は正直ないかもしれない。でも、戦うしかないなら戦うよ、それが、わたしの役目だというのなら。天命、故にわたしは、この地にいるのだから、ね。
「【勝利】、其即ち天命也。わたしは、勝利と愛と栄光の使者だよ。だから、……大丈夫だよ」
わたしは【イリスの愛を受けし者】、【アイシスに愛を捧げし者】、そして【アイリッシュの祝杯を浴びし者】。祝杯は【祝い事】、すなわち【勝利】と【結婚】、【勝利=愛】なの。だから、大丈夫。
「天命、ねぇ……。そう言えば……そう、そう言うことなのね。くくっ、それなら本当に天命かもしれないわっ!くふふっ、久々に面白いわね。そう、至るのね、【勝利】の使者。なら、あたしらは静観、もとい先に進ませてもらうわ。本当なら、その瞬間をその目で見たかったのだけどね。まあ、4つのどれが出てくるかは知らないけど、もし、大瑠璃だったら、あたしが『裏をかかれた気分はどう?』って聞いてたって言っておいてちょうだい」
4つ?大瑠璃?訳の分からないことばっかりなんだけど、どうすればいいんだろう。暗音ちゃんは何かを知っているのかな?まるで、この先で起こることを知っているそんな気すらする言い方。
「なるほど、そういう未来……。貴方も人が悪い。もっと適格なアドバイスもありましょうに、先輩なのでしょう?」
白い人の隣のメイドがそんな風に暗音ちゃんに言った。正直、喋ってるところを見た覚えがほとんどないからよく知らないんだけど、何やら、はるか先輩と似た匂いがする。
「あら、十分なアドバイスよ。どうせ貴方はアドバイスなんてしないんだから、してるだけマシでしょ、鞠華?」
鞠華……十月とか言う名前じゃなかったっけ?ぼそぼそとしゃべってた。でも、随分としゃべり方が違うような……。
「それもそうですね。しかして、その者、極地へ至る、ですか。しかし、それ刹那の解読でしょう。私見も入っているでしょうけれども、それを信じての発言ですよね。信頼なされているのですね」
「そりゃあ、長く見守ってきたからね。あの子が四門になる前から、なった後まで、たとえ魂だけだとしても、よ」
そんな風に、妙な達観をした2人の意味不明な会話は続きながらも、階段を昇っていく。かつて暴虐を尽くした魔法少女の怨敵のいるその階へと。
え~、少し遅くなりました。それと、今回もやや出ていますが、次回、《勝利》の古具使いの時の愛美の話を回収する予定です。たぶん、誰も覚えてないでしょうけど。地の文にあったアレです、絶対覚えてないでしょうけど。




