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《神》の古具使い  作者: 桃姫
終焉編
299/385

299話:第六階層・騎士道の果てSIDE.GOD

 俺たちは、彩陽さんが階段を登り切ったところで、次の階へと続く階段へと飛ばされたのだった。そして、次の階へと向けて歩を進める。徐々に上の階に近づくにつれて、俺の脳裏にチリチリと焦げ付くような眩さがよぎる。まさに【聖】と言った感じの性質。でも、それは七星佳奈のような純粋な……神に選ばれたような【聖】ではなく、生まれながらの【聖】を身に着ける者で底上げしたような……。それに、気迫と言うか、威厳と言うか、威光と言うか、そんなものすらも感じる【力場】だ。


 それに、このまっすぐとした【力場】、この感じは、……そう、まっすぐで正しい、そんな性格を表すような……。そうだ、天宮塔騎士団の団員を相手にしているときのような、そう、騎士の【力場】なんだ。邪悪を一切感じない、聖騎士の力場。だが、これほどまでにまっすぐな騎士の【力場】はそうそうない。


 かの天龍騎士(ウィシュムガル)と称された騎士、ナナホシ=カナですらまっすぐとは言えない。だが、今、この先にいるのは間違いなく、まっすぐ、それこそ騎士道と言うやつを純粋に守っている騎士なのだろう。無論、ナナホシ=カナたちが騎士道を軽んじているわけではないことは分かっているが、それでも、騎士道を貫くのと騎士道を重んじるというのは差があるということだ。ある種、機転の利かない存在ともなるだろう、しかし、それでも騎士は騎士道を貫く者である、と言う考えをするものこそが、今、この先で待っている存在に違いない。そして、そう呼ぶに足る騎士がこの世界……いや、全ての世界においてどれだけいるだろうか。そして、誰の業であることができるだろうか。


 そこまで考えて、俺は、ある可能性に思い至った。しかし、その人物は、あの戦いで、ここまでまっすぐになっているはずもない。だが、この塔が次元を、時間も空間も超越していることは俺がよく知っている。だからこそ、あの戦いの前の、あの人物をここに呼ぶことも可能なのではないだろうか。つまり、それは、彼の騎士が戦いを経て彼になる前の、最も優しき時間を生きていた時の彼なのではないだろうか。あくまで可能性にすぎないが、それはこの先に実際に進んでみれば分かることだろう。だから、慎重に前に進む。



 そして、階段を登り切ったその先は、大きな湖のある不思議な空間だった。いや、ここは……まさか、アヴァロン?!9姉妹が取り仕切る幻の島につながったのか……?


 そこには、1人の騎士がいた。全身鎧で身を固めた騎士としか言えない人物。その男からは、はっきりと強さを感じる。それに、あの鎧……間違いない。


「旭日か……?」


 そう口にしたのはアーサー・ペンドラゴン。そして、それはある意味正解で、ある意味、いや、普通に言えば間違っているというべきか。俺は、数瞬、英語で問いかけるべきか、と迷ったが、この塔に呼ばれた以上大丈夫だろうと判断して、日本語でそのまま話しかけた。


「アーサー王……ですね。お初にお目にかかります」


 一応、目の前の相手は、一国の王、敬う気持ちを持った方がいいだろう。姉さんじゃあるまいし、流石に、王相手にも普段通りふるまうほど自分が大きな人間じゃないと思っているからな。尤も、刃奈にそんなことを言えば、「旦那(あなた)様以上にできた方など存在しません」とか言うんだろうがな。


「ああ、そうだが、そのように敬わんでもいい。我が国の騎士ではないだろう?騎士ではあるようだが、我が国の騎士の作法とはそれが違う。ならば、我を王として扱う必要もあるまい」


 そうあっけらかんと言ってのけるのは、王にふさわしい威厳を持った人物。ユーサー・ペンドラゴンが息子、岩に刺さりし選定の剣を抜き王にふさわしいと認められた者だ。その生涯は、カムランの丘で息子であるモードレッドと相打ち、側近にアヴァロンへと埋葬された。そして、雪織(ゆきおり)旭日(あさひ)と言う人物へと転生するのだった。そう、それが決まっていること。だが、今目の前にいるアーサー王は、そうなる前の、つまり、円卓の騎士たちが一つだったころの最も清きアーサー王だろう。


「では、お言葉に甘えて。しかし、アーサー王、俺たちはどうやら、このアヴァロンに迷い込んでしまったようだ」


「ふむ、しかし、普通ならありえんな。何せ、ここに入るには9姉妹の許可が必須だからな。それも無しに入ってくるとは」


 アヴァロンに住まう9姉妹、モルゲン、モロノエ、マゾエ、グリテン、グリトネア、グリトン、ティロノエ、ティテン、ティトン。この9姉妹が揃ってこそアヴァロンへの扉は開かれる。そして、さらに、9姉妹が揃って初めて発動できる限定結界《手の及ばぬ先へ(アヴァロン)》。このアヴァロンと言う地は、固く守られた場所であるのだ。

 アーサー王、後の存在である雪織旭日は、限定結界《遠き日の邂逅(キャメロット)》を持っているという。おそらく、《遠き日の邂逅(キャメロット)》で呼ばれる円卓の騎士やギネヴィアは、この頃のアーサー王に従っていた状態で現れるはず。


「まあ、かくいう我も、気が付けばアヴァロンにいたのだがな。蛮族との戦も控えているし、早くここから出たいのだが、9姉妹のいずれの反応もないのだ」


 それは、この塔のルールがあるからだろう。さしもの彼の9姉妹すら、この塔の運命力には抗えないということか。しかし、ならばこそ、やはり戦うしか解放される道が無いと言うことだろう。


「王よ、ここは、……アヴァロンとつながってしまったある場所には、ルールがある。騎士らしく一対一で戦い、決着をつけねば出られないのだ」


 俺の言葉に、アーサー王は「なるほど」と言い、木陰においていたものを取り出して来る。それは、彼の王が使っていた武器たち。穢れ無き白金の輝きを持った槍《聖槍・ロン》、さらに美しい銀色の剣。《聖剣》ではないものの、その精度は鍛冶師である俺がよくわかる。あれがおそらくセクエンスだろう。カリバーン、もしくはエクスカリバー……はないようだ。


「ならば、我は全力で受けよう。して、誰が相手だ?」


 ならば、この地で……ここで戦うべきなのは、俺たちの中ではただ1人。同じ名を冠する者だろう。だからこそ、それが分かっているからこそ、おそらく自分から前に出てきた。


「オレが相手になろう。いいよな、セイジ?」


 長い金髪をはためかせ、美しい顔立ちの女性。そんな女性から出るとは思えないほどに、ひどく重たい声だった。《聖王教会》のアーサー・ペンドラゴン。ミュラー先輩の件で話したこともあるが、あの時は女口調だった。今は、男口調で、どことなく深紅さんにも似通った雰囲気である。……まあ、口調だけだけど。


「ああ、構わないが……、まあ、相手的にもお前が出るべきだろうしな。任せる」


 じいちゃんは、アーサー・ペンドラゴンにそう笑って言った。俺は、何も言わない。しかし、《聖剣》が無いとはいえ、あのアーサー王に勝てるんだろうか。《聖槍》もあるし、何より、相手は《聖鎧》と《聖兜》で身を固めている。


「ああ、任された」


 アーサー・ペンドラゴンの手には、黄金に煌めく《聖剣》が握られている。あれは……そうだったな。なるほど、だが、それがどこまで本物(・・)に通じるか、だな。《コールブランド・エクスカリバー》……《Collbrande. EXcalibur》、ゆえに、《C.E.X》などと呼ばれているが、実のところを言うと、《Collbrande. Excalibur.X》、《コールブランド・エクスカリバー・クロス》と言う名前なんだけど。


「ほう、その剣、実にいいものと見た。精霊より授けられでもしたのか?」


 アーサー王の言葉に、アーサー・ペンドラゴンは、ニッと笑っていた。そして、《C.E.X》を掲げながら言う。


「神より授かった《聖剣》だ。名を、《コールブランド・エクスカリバー》と言う」


 アーサー王は、それを聞いて、「ほう」と感嘆の声を漏らした。そこに驚愕は見られない。同じ名の剣に驚きを覚えないのか、と俺は少し困惑した。しかし、アーサー王の言葉で全ての謎が解ける。


「我が選定の剣……カリバーンと、精霊より授かりしエクスカリボールに語感が似ているな……」


 《選定の剣(カリバーン)》を龍神が修復して《黄金の剣(コールブランド)》として、《聖王の剣(エクスカリバー)》と言う2つの剣と無理やりに交わらせたことによって生じたのがあの《聖剣》だ。そして、カリバーンはコールブランドと、エクスカリバーはエスカリボールからエクスカリボールと名前が変わって定着した名と言われている。つまり、このアーサー王の頃は、そう呼ばれていたということか。まあ、それらの原典は《カリブルヌス》なんだが。


「我が手にあるは、《聖槍・ロン》、そして愛剣セクエンス。この鎧は、《聖鎧・ウィガール》、この兜は、《聖兜・ゴスウィット》だ」


 アーサー王は、そう言った。聖なる力を感じるそれらの武具。本物はやはり次元が違う。それに対してどこまで食い下がれるか、ってところが勝負の分かれ目だな。


「決闘は神聖なもの。そこにギャラリーがいるのもおかしいだろう。アーサー王、俺たちは、先に進ませておう。構わないな?」


「ああ、構わぬ。確かに、大勢で見守るものではないだろうな決闘と言うものは。行け、騎士とその仲間たちよ」


 俺たちは、まっすぐに進んでいく。その背中に、アーサー王が1つ疑問の声を投げかけてきた。それは、純粋に騎士としての問いかけだったのだろう。


「――騎士よ、貴殿は如何な騎士団の所属だ。それだけ問うておこう」


 その問いかけに、刃奈がクスリと笑う。俺は、振り返らずに、ただ立ち止まりアーサー王に応える。


天宮塔騎士団(レクイア)と言う、誇り高き騎士団さ」


 俺の言葉に、おそらく深紅さん辺りは疑問を覚えたのだろうが、空気を読んでか口を出すことはなかった。



「そうか、良い名だ。――覚えておこう。我は、円卓の騎士。貴殿も覚えておいてくれ……と言わずにも知っているかな」



「ああ、知っている。だが、改めて――覚えておこう」



 あくまで振り返らずに、そして、俺は再び歩み始める。

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