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《神》の古具使い  作者: 桃姫
終焉編
296/385

296話:真希VS雷無SIDE.LIME

SIDE.LIME(with Black Dragon)


 ったく、それにしても面倒なことになったわね。あー、もう、どうしてこうなったのよ。さっきまで糸使い(レヴァッサ)とケートを守りながら戦ってたじゃないの。首筋に手を当てれば、まだ血を吸われた時の牙の痕が残っているわ。ケートの温もりもね……。


 わたしが、夜威啓鳥と言う男にあったのは、糸使い(レヴァッサ)と戦いをして退けては戦ってを繰り返しているときのこと。偶然にも立ち寄った世界は、獣人と呼ばれる種族と人間が共存する世界で、どうやら重層崩界のようだったわ。重層崩界ってのは、重なり合う世界が存在している重層世界において、その世界の境界同士が崩壊して……普通はその重なり合う世界が反発し合って両方消滅するんだけど、稀にその重なり合い崩れ合った世界ができるとか美狗里が言ってたわね。

 まあ、とにかく、その重層崩界で、わたしは、ケートに出会ったわ。ケートはその頃、祖父を無くして、身寄りを無くしたところだったから拾ったんだけど、ケートは人間ではなかった。正確には、わたしがあった時点では人間ではなくなっていたけど、生まれは正常な人間であって、しかも第五鬼人種でもないタイプの珍しい吸血鬼になっていたのよ。彰と同じケースね。綺桐だけは生まれながらの第五鬼人種だったけど。


 とにかく、ケートは珍しい吸血鬼であり、なおかつ、《真祖》だったわ。真祖、世界ごとにいることもあるらしいけど、その真に真祖たる吸血鬼は、全部で50にも満たないと言われている。その真の真祖かはおいておいて、ケートは《真祖》だったのよ。

 でも、吸血鬼ながら、吸血経験のない。彰もそこは同じだったけど、わたしと彰は出会ったときに吸血行為をしているのよ。ケートは、であってもしばらくなかった。でも、糸使い(レヴァッサ)の一件の危機からわたしの血を吸って【夜天の王(ナハト・ケーニッヒ)】を開眼した。夜威は夜の一族だったから、まあ、分からなくもないんだけどね。


 綺桐とわたしが出会ったのは、無音を産んで、(あか)に預けてからすぐのことだったわね。仕事で訪れた世界で、鬼に襲われている第五鬼人種の鬼神がいた。その少年こそが夜威綺桐だったってわけ。しばらく面倒を見ながら力の制御とかを教えてあげたんだったわね。美狗里、郁里の姉妹にあったのもその世界だったわ。


 彰と会ったのは、そのあとだったわね。こっちは偶然立ち寄った世界のある町の路地裏を意識がもうろうとしたような状態で歩いてきたのが東雲彰だったのよ。彰もまた第五鬼人種とは別の吸血鬼だったわ。吸血衝動が抑えられなかったのか、倒れこむようにわたしに抱き付いてきたから、そのまま血を吸わせてあげたのよ。


 まあとにかく、そんなことをしながら3人の子供をまともに生活できる環境にまで導いたわ。綺桐は親戚の……西野の家に預けてきたし、彰は不安だけど1人暮らしできるくらいまでには成長してるはずだし、ケートは雪華堂(せっかどう)(あい)とかいう子がいるから大丈夫でしょう。……でも、彰は途中で投げ出す形になっちゃったからね、糸使い(レヴァッサ)の奇襲に彰を巻き込まないために行動してたから。


「あなたが、わたしの孫だっていうんだけど、まあ、わたしとしては実感がいまいちないわけ。でも、まあ、戦わなきゃいけないから戦うわよ」


 そう言って、おばあちゃんが手を宙にかざして、何かを呼ぶようにして、叫んだわ。それこそ、召喚の呪文かのように。


「だから来なさいっ、《翼龍の焔砲(カドゥケウス)》!」


 それは銃だった。銃身に絡みつく2頭の龍、つまりあの伝説の杖カドケウスがモチーフになってるのかしら。そいじゃあ、まあ、わたしも軽く相手をしてあげますか。


「――滑空の果て、赤く染まりし地平の彼方


 ――その先にある果てしない闇の荒野


 ――夢を喰らい、魔を産む者


 ――我が眷属よ、その姿を現さん


 ――使い魔召喚、【ヤミ】」


 黒く、黒い、そんな見た目の女が目の前に召喚される。いつ振りかしらね、この子を呼ぶのは。相も変わらず不愛想な顔して……、こっちを見てる。


「呼んだ……マスター?」


 呼ばなきゃ出てこれないでしょ、あんた。わたしの使い魔なんからさ。わたしが持つ眷属の1人、【ヤミ】。闇の力を司る魔界の幻獣……のはずだったんだけど、なぜか女の子として顕現した変わり者。


「行くわよッ、闇暗化(チムナター)!」


 闇を……【ヤミ】を纏う。わたしの髪は、漆黒と化し、千刃(せんじん)と化す一部の闇の刃が腕に顕現する。これが闇暗化(チムナター)。使い魔と融合する技の1つよ。


「チッ、何かよくわからないけど、とりあえず、ぶっ放すわ!」


 おばあちゃんが引き金を引く。銃口から飛び出したのはビーム砲もびっくりな光線の連射。1回しか引き金引いてないのに、連射になるのね。


「――我が身を守る盾と化せ


 ――影盾(えいじゅん)っ!」


 ただでさえ威力が低い状態なのに呪文短縮して、もっと出力の低い影の盾が生まれて、わたしを守るように展開する。そして、それにビームが当たって、影を吹き飛ばしたわ。威力はそこそこ。麗炎(りえん)ちゃん以下の火力ね。


「――穿て、千刃


 ――喰らい嚥下(えんげ)せよ


 ――影千刃(えいせんじん)


 無数の影が刃と化して、おばあちゃんめがけて飛んでいく。おばあちゃんは、わたしの攻撃を笑いながら、撃ち落とす。


「その程度?なら、こっちは本気でぶっ飛ばすわよ!」


 あちゃー、手、抜きすぎたかしら。なら、威力の低い影技しか持ってない【ヤミ】は辞めましょう。仕方がないから、一番威力の高い子で行ってあげましょうかね。


「――大海の果て、黒く染まりし深海の底


 ――その周りに広がる果てしない海


 ――全てを産み、包み込む者


 ――我が眷属よ、その姿を現さん


 ――使い魔召喚、【水転(すいてん)】」


 青色の髪にピンクの鱗の人魚が目の前に召喚されたわ。【水転】はわたしの使い魔の1人にして、ハルキュオネより召喚された伝説の人魚の孫らしい。伝説の人魚はかつて紅蓮の王と共に肩を並べて戦ったとかなんとか。【水転】って名前もわたしが付けたから、本名は別にあるって。


「行くわよッ、水海化(モーリェ)!」


 わたしの髪が水色に染まる。服で見えないでしょうけど、地味に、身体の一部はピンクの鱗に包まれているわ。


「ビームに対して水とかベタすぎないかしら?」


 おばあちゃんの挑発は受け流す。そもそも、熱光線と水で水蒸気を発生させて光を拡散させるってのも、光が弱くないと通じないし、どう考えてもあの威力の攻撃がそれで防げるわけないのよ。だから、水にしたのは、この子の火力が一番高いからってだけ。


「――爆ぜよ、水面


 ――空の恵みより得し神の雫


 ――波は打ちて、廻り、踊り狂う


 ――貫け、穿て、撃ち抜け、


 ――貫水槍かすいそう


 回転する水の槍が、圧力をかけられたように勢いよく、高速で飛翔する。空気さえも切り裂きながらおばあちゃんに向う。


「っ?!《翼龍の焔砲(カドゥケウス)》!」


 慌ててビームを放ち、散弾ではなく出しっぱなしにしてわたしの槍を薙ぎ払って相殺する。なるほど、やりようによっちゃビームの剣的なことにも使えるわけか……。割と汎用性高いのね。尤も、糸使い(レヴァッサ)の糸ほど汎用性が高くなくてよかったわ。


「《翼龍の焔砲(カドゥケウス)》、《全力解放(フル・バースト)》ッ!!」


 ……?!急激な力の高まり、これはまずい奴ね。水壁で……いえ、それじゃあ、威力が足りなくて突破されるわ。仕方がない、……いっちょやったりますかね。


「これで、決めるわッ!」


 おばあちゃんが叫ぶ。だけど、わたしは水海化(モーリェ)を解いていた。ここからは本気を出すべきだから、ね。使い魔には引っ込んでいてもらいましょうか。


「どうしたの?諦めたのかしら?」


 おばあちゃんのそんな言葉に、わたしは不敵に笑みを浮かべる。諦める?んなわけないでしょ。ここからが本当の闘いなんだから。


「さぁて、行きましょうか……。

 ――契約執行」


 ドクンと心臓が跳ねると同時に、わたくし……わたしの意識が切り替わりま……切り替わるわ。あ~、もう、丁寧語になる癖は、一応直ったはずなんだけどねぇ。まだ若干残っているのかしら。

 意識の切り替わりと共に、オレンジ色の艶やかな着物を着ているわたし。そう、これが、体内を悪魔化し魔女となった姿。今までは、悪魔の力を一切使用していなかったってこと。だから、どの魔法もメッチャ威力が弱かったってことなのよ。


 本来、わたしは、黒龍と契約した時点で、体内が悪魔化し戻ることはないはずなんだけど、なぜか制御ができるようになったのよね。局の方で改良したから以前よりも完璧な自我が保ててるし。


(何が保ててるし、だ。それにしても久々な気がするな、雷無)


 黒龍、ええ、久しぶり。黒龍は、今となっては、この姿になったときか、任意でわたしが呼んだ時にしか現れなくなっているのよ。


「それがあなたの本気ってわけ?」


「いんや、全然。本当の本気の時はクライマックスよろしく全使い魔と融合するわよ」


 全部盛りってやつよ、もしくはてんこ盛り。まあ、それを使うと、私自身、自損するし、消耗激しいし、威力デカいわりに命中度低いし、最悪だから使わないんだけど。


「それじゃあ、本気を出さなかったことを後悔して吹き飛びなさい、《翼龍の焔砲(カドゥケウス)》!!!」


 特大のビームがわたしの視界を埋め尽くさんばかりに迫ってくる。逃げ場すらないほどの大質量攻撃。弾幕とかいうレベルじゃないし、この地面も壁もメッチャ堅いから回避は不可能ってことかしら?


炎魔(えんま)来たりて――縛炎(ばくえん)の、


 火炎(かえん)逆巻(さかま)く――業龍(ごうりゅう)の地、


 紫炎(しえん)燈炎(とうえん)桜炎(おうえん)――色とりどりの炎、


 集約する冥府(めいふ)の王へ――届け、


 太陽の弓は――吾が手のもとへ……


 冥界太陽王の弓(アポロン)!」


 この魔法は、確か風使いを倒した時に直感で覚えた魔界式魔術だったわね。あとでわたし以外にもこの術と全く同じ術を使う人がいるって聞いて驚いたもんよ。


「射て、放て――業炎の弓矢!」


 そして、弓矢に付与(エンチャント)する威力強化の術を唱えて、燃え盛る炎の弓やを撃ち放つッ!


――ゴゥウウウウ!


 空間を、ビームを、空気を、世界を、全てを燃やしながら火の鳥の如く炎が広がり進むわ。この弓矢は、麗炎ちゃんの力を僅かにでも込めることで、麗炎ちゃんの最終奥義フェニックスの小型版を再現できる。

 フェニックスの根源は、死と再生。つまりはエネルギーの循環。この魔法の火の鳥は、周囲のエネルギーを殺し、わたしの物として再生するわ。


「ぐぅッ!」


 膝をついたのはおばあちゃん。わたしは無論、ピンピンしてる。勝負あったわね。通常の状態へと姿を戻して、おばあちゃんに笑いかける。


「まあ、いい勝負だったわよ。ここまで本気を出したのは未来ちゃんとの戦い以来よ。まあ、糸使い(レヴァッサ)はもっと手ごわいし、他にも強いのはゴロゴロいるでしょうけどね」





 そう言って、くるりと後ろを向いた瞬間、わたしの姿は、別の場所にいたわ。ここはどこかの学校の屋上かしら。

 どっかで見た様な……、そういえば、この地形、商店街に、柊公園、住宅街、山、間違いないわ。ってことはここは私立鑑冶学園しりつかがみやがくえんね。


 満月の昇っている空を見上げながらため息をつく。ここに戻ってきたってことは、……


――ギィイ


 予感と共に、背後を振り向いたとき、そのドアがそっと開かれた。茶髪に、気怠そうな表情、独特の雰囲気、それはあの頃から全く変わっていない姿。


 わたしに気付いたのか、あの子は、眼を見開いて、混乱したように、そして、興奮したように、眼を何度もこすった。吸血鬼のあなたが、この夜で、わたしの顔を見間違えることも、ましてや眠気で寝ぼけていることもないでしょうに。


「――久しぶり。元気だった?」


 久々の再開にしては我ながらあっけない言葉を投げかけてしまったなぁーと思う。でも彼は、久々にご主人様に会えた犬が如くわたしに飛びついてきた。そして、胸に顔を埋める。


 その頭をそっと撫でて、空を見上げた。




――ええ、そうね、【満月の夜に、君と】……再び出会うことができた。




「さぁ、聞かせてちょうだい、わたしがいない間にあったことを。君の家で、ってあ~、もう、わたしの服も何もかも、なくなってるかな?」


 正確な日数は分からないけど、わたしはこっちだと結構な時間、ここからいなくなってしまっているから。捨てられてても文句は言えないけど。


 ぶんぶんと首を横に振る彼。って、胸に顔を埋めたまま首を振るなっての、そうそう外れることはないけど、フロントホックブラだった万が一のこともあったかもしれないわよ、これ。まあ、普通のブラなんだけど。



 まあ、取っていてくれているなら嬉しいことこの上ないわね。さあ、じゃあ、行きましょうか、【東雲家】へ。だから、そんなに泣かないで、男の子でしょ、――彰。

 え~、雷無も彰も設定が固まっているキャラなので、話が進むのなんの。真希倒した時点で普段の1話分に達しているのにもう1話分くらいかけそうでしたが、あくまで彼女と彼の話は蛇足ですので。

 【悪魔でも魔女】と【満月の夜に君と】と言う2作品からのゲストキャラでしたが、【満月の夜に……】と言う題名で一時期このなろうにも投稿していた【満月の夜に君と】はマルチエンディングでして、この話はトゥルーエンディングにつながっているようなものです。

 では、次は、本当は第四階層だった予定の第五階層でお会いしましょう。

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