290話:魔物VS女神騎士SIDE.GOD
SIDE.KANA(SEVEN STAR and WHITE KNIGHT)
魔物を掻い潜りながら進んでいく背中を見送りながら、私とマリア・ルーンヘクサは無数の、それこそ数が分からないほどのモンスターがこっちに来るのを感じ取っていた。モンスターたちで眼前が埋め尽くされた、そのとき、私の心境としてはため息を吐くしかなかった。なぜこんなことになっているのか甚だ疑問ですね。仕方が無くついてきたわけですが、まあ、この場を請け負った以上、果たさないわけにはいきませんね。そうしなくては騎士の矜持に反しますから。この埃は、私が騎士で会った証であり、信じる物。それを捨てることは決してない。この魂に立てた誓いが、約束がある限り……。
「上位転身……1st」
1段階解放されて聖気の増す私。ただ、今回ばかりは、本気を出さないと、かなりまずいようですね。マリア・ルーンヘクサを見やると頷くので、これは、全力を出してもいいってことでしょうね。
「2nd、3rd……」
徐々に金髪碧眼へと近づいていく私。完全な状態へとなるにつれて、塔が揺れる。自身の力を完全に把握しているわけではないから、分からないけれど、おそらく、それほどまでに莫大な力が私にはある。
「4th、……5thッ!」
そうして、全てのクラスアップが終了する。その瞬間、その聖気と聖圧だけで、周囲のモンスターは砂塵の如く消え去った。
――さあ、鏖殺の始まりです。
「喚装」
その言葉は、私の武具を呼ぶために必要な言葉であり、私の中でのスイッチの完全なる切り替えに必要な言葉。
「来よ、七つの星に連なる刀――連星刀」
異空間より私の刀が召喚される。そう、私が神から託された、その刀。連星刀剣が1つ連星刀が。連星刀剣の中で唯一の刀である、その武器。
「来よ、見えずの月――【聖鎧・新月】っ!」
不可視の鎧が、私の周りに現れる。如何なる攻撃すらも私に届かせない見えない鎧。火も、風も、水も、雷も、土も、全ての攻撃を受けきる最強の鎧。
「来よ、大きく欠けた月――【聖籠手・三日月】」
左右の手を守るように籠手が現れる。見えているのは手の甲を覆う部分のみ、されど、実際は腕全体を守っている。この籠手は、私の力を……筋力を底上げする力を持っている。
「来よ、半分の月――【聖鉄靴・半月】」
左右の足を守るように靴が現れる。見えているのは踝を覆う部分までだが、実際には、足全体……脚全体を覆っていて、脚力の上昇と、飛行能力を備えている。
「来よ、照らす満開の月――【聖兜・満月】」
不可視状態にしている兜が私の頭へと現れる。これで、私の全ての武装がこの場にそろった。そして、もう1つの力を、今ここに呼び寄せる。
「来よ、鏖殺万砕を司りし斧――《殲滅の斧》」
《死古具》の1つにして、私に宿った力。それをこの場へと呼び出した。斧と刀の併用。通常なら不可能でも、クラスアップ完全で、鎧を一式纏えば不可能ではない。
「ちょっ、聖気強すぎ……。カナ、あなた、どれだけ……。全ての神の神性の対になる量の魔性が私にはあるのよ?それを完全に上回ってるですって?!」
マリア・ルーンヘクサが驚いたような声を出しているけど、無視。このまま、全てを蹴散らす。雑魚は一片残らず消し去って見せるっ!
「ハァアアアア!」
斧と刀、二筋の斬光が空間に刻まれる。この階を満たす眩き聖なる、そして邪なる2つの閃光が全てを消し去った……はずだった。
――グォオオオオオオオオ!
まるで地響きのような咆号。そして、私の斬軌を光の奔流で掻き消した。馬鹿なッ、あの一撃を物ともしないなんて……!
「カナ、あれはジョワユーズを喰らった魔物よ、普通の攻撃は効かないわ!」
ジョワユーズってナポレオンの戴冠式にも描かれている剣のこと?確か、フランスでの王位継承の象徴だったとか。
「ナポレオンの頃のは既に象徴としての擬剣よ。本物はシャルルマーニュが死ぬ間際に、誰かに取られたくない一心で魔物へと与えたわ。そう、ローランはデュランダルを誰にも渡したくないと壊そうとして壊せなかった。だから、シャルルマーニュはそれを回収できた。しかし、そこでシャルルマーニュは考えたのよ。自分の死後、これは誰が使っていくのだろうか、と。万が一敵の手に渡れば、自国が大変なことになる。だから、彼は考えた、どうやったら、デュランダルもジョワユーズも敵の手に渡さずに済むか。
そうして、魔物に喰わせることに思い至ったというわけ。そうして、食わせた魔物こそが、あそこにいるビュシャリオン。別名を魔喰。目合ひが転じてその呼び名になったらしいけど、その名の通り、喰らったものと1つになる性質を持っているのよ」
まるで解説のような長い言葉を攻撃をよけながら語るマリア・ルーンヘクサ。その身のこなしは流石としか言いようがない。
「それで、そんなのを相手にどうしろっていうんですか!」
私の怒声に、マリア・ルーンヘクサは笑う。何がそんなにおかしいのか。そして、彼女は、大声で、高らかに、まるで祝詞のように、その言葉を言う。
「我が名を持って願い奉る。時空、時間、次元、それらを覇せし我の名を持って、開け――時空の門」
その言葉と共に、眩い光のゲート、そして、そこから放たれる圧倒的な物量の斬撃。その神がかった領域の業を私は知っている。鳥肌が立つのが分かる。
「如何な絶望を前にしても、前を向くのが騎士である、そう教えたわよね、カナ。わたしの騎士」
そして、光のゲートをくぐってきたのは、私の……私たち騎士団の団長、女神騎士を冠するファルテア=シー・クラーツだった。
「ハッハッハ!情けないな筆頭騎士!」
そう笑い声をあげながら愉快そうに言って出てきたのは七蛇騎士のシュラード・エース。1人で夜通し宴会をするほど酒と宴が好きな次席騎士。
「そうだ、ナナホシ。この程度の敵はとっとと片付けなくてはな!そして、早く……早くショウギの勝負をしようじゃないか!」
将棋盤を持っていないかと心配になる発言をしたのは蠍龍騎士のドラリット・セルム殿。将棋を教えて以来どっぷり嵌って何かにつけて勝負に誘ってくる三席騎士。
「ホントはー、わたしも戦いたくないのよー。だって、剣を振れば筋肉はつくし、てか、走っても歩いても筋肉はつくしー。でもね、来てやったのよ。感謝しなさいよ、カナ」
不敵に笑う彼女は獅子騎士のリエル・ソラルシエ。本当に、感謝してもしきれないですよ。こんなところまで、わざわざ……。
「フハハハハハハ!それでも我がライバルか!さあ、立て、そして突っ込め!ガハハハハ!そして来たやったことに感謝しろ!」
……。
「って、おい!狂犬騎士のトリューラ・バッズがわざわざ来てやったんだぞ!反応しろよ!」
…………。
「お前の扱いは相変わらず酷いな、バッズ。だが、ふむ、ナナホシ、お前はもっと筋肉をつけたほうがいい。そんな柔い見た目をしているからこんなのに苦戦するのだ!」
暑苦しいの2連発ですね!魔嵐騎士の筋肉……じゃないランドル・グルーラが笑う。
「フン、弱そうな敵だ。あれくらいなら造作もないだろう」
そう言って、目元を覆う仮面をクイッと上げたのは、海魔騎士のカグラ=ファンテス卿。相も変わらず海魔騎士は強気で、でも、それを可能にさせるだけの力を持っている。
「そうだ、早く終わらせて、俺の料理を食いやがれ!」
蠍人騎士のレンドラ・ジル。相変わらず、変な創作料理をしているようで何よりですよ。本当に変わっていない。まあ、作る料理はめちゃくちゃマズいのでお断りしますけど。
「さあ行くぞ!デッグクックよ、進め!」
翼牛騎士のシューラック・ビュッファとその愛馬……愛馬であってるんですか?いえ、馬とは呼び難い何か、まあ、とにかく私にもなついているデッグクック。
「とっとと蹴りをつけなくてはならんな!今日はデートの約束があるんだ!」
そう言ったのは毒蛇騎士のィエラ・アゥリュー。いい加減名前が呼びづらいので改名してほしいんですけど。イエラと呼ぶと怒りますし。
「この剣舞大会2位の実力を存分に見せてくれようぞ!」
魚人騎士のグラッシュ・バーズが高らかに言ったけれど2位……結局優勝できなかったんですね。
「そう、僕たちあなたを助けるためにここに集ったんです!カナさん!」
そして、最後の1人は意外過ぎて、思わず声を……涙を漏らしそうになった。そこにいたのは、愛しくてやまない、私の……。
「レイジ……」
レイジ・ヴァルフィス。新米騎士で、私の後ろをひょこひょこついてくるだけだった、彼が、随分と強くなっているのが感じ取れる。
「カナさん……」
思わず見つめ合う私とレイジ。気恥ずかしい空気が流れる中、マリア・ルーンヘクサが怒声を飛ばす。
「ラブコメってる場合じゃないわよ!そろそろ、ファルテアの攻撃から回復したビュシャリオンの攻撃が来るわ!」
ラブコメってません!と声を返す間もなく、眩い光の奔流がやってくる。それをどうすればいいのか、と、考えた瞬間、団長が前に出た。
「ここで、とっておき、ラークリアが秘宝、バビロンの盾!」
ラークリア帝国に伝わる14秘宝の1つ?!ラークリア帝国はかつて、バビロニア領だったから、バビロニア系の秘宝があってもおかしくはない。でも、あの盾は、皇帝の許可が無くては……。
「ふふっ、貴方の救出のため、と言ったら皇帝は快く許可をくれたわ」
でも、使用するには、皇帝のほかに14ある騎士団の総意と14騎士団、それぞれに伝わる秘宝の貸し借りの許可がいるはず。だって、うちの騎士団にあるのは盾ではなく……
「ええ、従王騎士団、白薔薇騎士団、赤薔薇騎士団、黒薔薇騎士団、天道騎士団、聖典騎士団、神奏騎士団、英雄騎士団、勇者騎士団、瑠璃色騎士団、紅姫騎士団、蒼宮騎士団、桃姫騎士団、うち以外の全13騎士団の総意の上で、この盾を使っているのよ」
そんな……私なんかのために……。あの中の悪い3薔薇騎士団まで。ラークリア帝国は全部で15の領地に分割されている。そのうち王領を除く14の領地をそれぞれの騎士団が統括していた。そして、騎士団同士はそこまで仲が良くない。特にその中でも白薔薇騎士団、赤薔薇騎士団、黒薔薇騎士団の3薔薇騎士団は血統主義の塊なので仲が良くなかった。
「持ってきているのは、盾だけじゃありませんよ」
そう言って、呼び出したのは、巨大な弓、弩だった。しかも、あれは、伝説におけるティアマトの心臓を射抜いたというマルドゥクの弓!
「射抜き散らせ、神殺しの弓」
ティアマトは数多の神の親であると同時に、私たちの騎士の号にもなっている11の魔物を生み出している。その神々の母を殺した弓であるならば、あの魔物を殺せるに違いない。
――ギュルゥウウウ
奇怪な回転音と共に空気を切り裂き、魔喰へと迫る矢。そして、魔喰に大穴が開いた。けれどすぐに再生が始まった。
「団長、全然だめだぞ!」
そう、全然効いていない。団長は、ため息をついて、そして、団長の気配が変わる。弓をランドルに放り投げ、そして、時空間より巨大な武器を取り出す。
宙に舞う団長。浮遊能力、使えることは聞いていたけど、実際に見るのはじめてだった。そして、人間の頭身を遥かに超える長い剣。あれは……
「面倒ね。もういいわ、せっかくだけど秘宝も何も使わない。これで蹴りをつけましょう」
そう言った瞬間に、団長の持つ剣が輝きを放つ。あの剣は……、一体。
「あれは、まさか、そんな……。嘘でしょ。なんで、ファルテアがあれを持っているのよ?!」
マリア・ルーンヘクサのそんな声が聞こえた。マリア・ルーンヘクサすらも驚く代物だというんですか、あれは。
「喰らい尽せ、――【失楽園】」
――ゴォオオオオオオオオ!
そうして、剣が一閃振るわれて、魔喰は完全に消え去った。残ったのは1本の剣。あれは……おそらくジョワユーズでしょう。
「さあ、終わりました、帰りましょうか」
団長が笑顔で告げた。……でも、私は……。まだ、ここに残らなくてはならない。それが約束だったから。
「カナ、貴方も彼女たちと共に戻っていいわよ」
マリア・ルーンヘクサから告げられた衝撃の言葉。え、帰っていいんですか、でも、3年間って。
「真面目に学生生活を送ってたから刑期短縮よ」
私は囚人か何かですか?まあ、いいですけどね。鎧を……クラスアップを解除する。そして、息を吐いた。そう、終わった。
――すべてが終わったんですね。
「違いますよ、カナさん。始まるんですよ!僕らの騎士生活が、また」
「ええ、そうですね。でも、あの頃のように、後ろをひょこひょこついてこないでくださいね」
私の言葉に固まるレイジ。でも、私は笑って言う。
「今は、もう、隣を任せられますか、私の隣をしっかりと歩いてください」
「――はいっ!」
ひとしきり笑う私とレイジ。そう、これからは、みんなと共に、再び、あの戦乱の世界で騎士として生きるんですね。
「少しいいかしら。レイジ・ヴァルフィス……いえ、無刀礼侍、無刀颯風の息子。貴方のお母さんにこれを渡してほしいの」
マリア・ルーンヘクサがポケットからスマートフォンを取り出して携帯型ソーラー充電器をレイジに渡した。レイジはよくわからなさそうに受け取っていたけれど、どういうことでしょう。
「貴方は来ないの、マリア」
団長がマリア・ルーンヘクサに言う。すると彼女は、笑みを浮かべてこういった。
「私の今世はこの世界に骨を埋めるとするわ。愛しき兄のいる、この世界に。さあ、貴方たちは行きなさい。カナ、後のことは私がやっておくわ」
「……皆さんに、よろしく伝えておいてくださいね」
「ええ、じゃあ」
――私は、光の向こうへと、あの世界へと足を踏み込んだ。
え~、ユウカなんかを除く女神騎士団の失楽園のキャラクター集合で、しかもタイトル回収までしてしまいました。なんてこった。えっと、タイトルが魔物VS佳奈ではなく女神騎士だったのは、結局屠ったのが女神騎士様だったからなんですが……ここまで書いてですが、まさかあとがきから読んでる人なんていませんよね?まあ、いいんですけど、とりあえず、そう言う事情でタイトルがこうなっています。




