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《神》の古具使い  作者: 桃姫
終焉編
286/385

286話:プロローグSIDE.GOD

 カッカッとチョークで文字を黒板に書く音が響く。真面目に板書する者、寝ている者、様々いる。そんな普通の授業風景。50分で1コマと言う授業時間。そして、時間がゆったりと流れて……、止まった。


「え……?」


 そう声を上げたのは、雷鳴(らいめい)だった。雷鳴(らいめい)(みこと)がクラスを見渡して異変に気付いたのか、隣の席で寝ている茉雪(まつゆき)雪子(ゆきこ)を揺さぶり起こしていた。俺も、その異変には当然気づいていた。


――どうやら、その時が来たようだ。


 そう思いながら、静巴の方を見る。板書していたが、異変に気付いた静巴も同様にこちらを見ていた。


「おい、静巴、刃奈、秋世」


 俺は、この現状で、あの塔に挑む予定の面々に呼びかける。黒板に向かっていた秋世も、振り返り、異変に気付いていた。刃奈も当然の如く気づいていて、外を見ていた。


「ふぇあ……どうしたの、尊」


「寝てる場合じゃないですよ雪子さん!外、外見てください」


 雷鳴の言葉に茉雪も外を見て、そして、「ふぉあっ?!」と素っ頓狂な声を上げた。そう、三鷹丘学園の校庭には大きな塔が立っていたのだ。これこそが夢見の塔、黙示録の櫓と言われる運命の塔だろう。


「とうとう、この時がやってきたのね……」


 さて、姉さんには今の今まで黙っていたんだが、どうするべきか。こうなった以上、おそらく父さんたちが先に姉さんの方へ向かっているはずだが、どうなっているかも分からない。なお、緊急時には、じいちゃんがこちらに、父さんが姉さんの方に行く手はずになっていた。父さん曰く、「向こうの学校には親友(ダチ)の娘が通ってるから念の為」だそうだ。おそらく、篠宮はやてのことだと思われる。


「ちょっと、何なのよコレ!!」


 廊下を通して、ほとんど音のない世界にそんな声が聞こえてきた。天導だ。まあ、親のことを考えると動けて当然ってことだろう。と言うことは妹の方も当然動けるはずだ。


「秋世、放送室に跳んで全員この教室に集まるように放送をかけろ。この状況でも動ける生徒は、結構いるはずだ」


「げっ、マジ?前回も前々回も夜だったから考えてなかったけど、この地ならそういう子ともあり得るのよね。仕方ない、行ってくるわ」


 銀朱の光に包まれて、秋世は姿を消す。そして、しばらくの後に、校内に放送がかかった。秋世のバカみたいな声で、流れる。


『あ~、え~、天龍寺秋世です。ただいま緊急事態が発生しました。現状動ける人間は、2年A組の教室へと移動してください。繰り返します、天龍寺秋世です。ただいま緊急事態が発生しました。現状動ける人間は、2年A組の教室へと移動してください』


 そして、銀朱の光と共に、秋世が戻ってきた。すると、隣の教室のドアが開く音と共に、赤茶っぽい髪の女子生徒がこの教室に駆け込んできた。


「どうなって……って、うえっ?!さっきまで放送してたはずの天龍寺先生がいる!なんで?!」


 と、天導がオーバーリアクションを見せていた。それを皮切りに、次々と生徒たちが姿を見せる。ユノン先輩、ミュラー先輩、律姫ちゃん、茅風ちゃん、紫炎、それと面倒くさそうにやってきた七星佳奈、最後に由梨香と橘先生がやってきた。宴はいない。


「集まったか。少々事情があって……って、何人かにはもう説明してたよな。だから、説明してない雷鳴、茉雪、天導姉妹の4人に説明する。外のバカでかい塔は、俺たちを狙う奴らが呼び出したものだ。よって4人には関係のないことで、少々込み入った事情により、俺はあれに挑む。お前たちは、終わるまでに、ゆっくりどこか、人の居ない場所で4人固まって過ごしていてほしい。急にいなくなるのと、急に人が増えるのと、急に人が移動するのは、いなくなるのが、一番誤魔化しやすい。いたように錯覚していたけどいなかったのか、とは納得すけど、いなかったものが現れたり、場所が変わったりするのは納得しづらいからな」


 そうして、4人を納得させたところに、俺の教室に入ってくる人物が3人いた。1人は見知った人物。


「じいちゃん、やっと来たか」


 俺の言葉に、微笑を浮かべるじいちゃんこと青葉清二。腰には銀色の美しい剣を下げていた。件の《切断の剣(デュランダル)》、神の創りし偽聖剣。


「遅くなった。学校と言うことで、当事者以外の巻き込まれた人間がいることも考えて、戦闘に役に立たない2人を慌てて駆り出してきたんだ」


 そう言って、残りの2人が前に出た。その2人を見て、秋世の顔がパァと明るくなったのが見て取れた。どちらも美女ではあるがアホっぽい。


「エリナさん!久々李(くくり)さん!」


 秋世の態度を見る限り、おそらくじいちゃんと同年代の人間なのだろう。しかし、片方、神の長い方の女性は、どことなく妙な【紅の力場】を感じる。それ以外は普通の人間っぽいが……。もう1人は《古具》使いだろう。短髪の茶髪がかわいらしさを残している。しかしやはりアホっぽい。


「やっほー。えっと、そっちの4人が非戦闘員かな?あたしは月見里(やまなし)恵李那(えりな)。エリナお姉さんと気軽に読んでくれて構わないよー」


「えっと、わ、わたしは篠宮(しのみや)久々李(くくり)です」


 篠宮と言う姓に刃奈の方を見たが、刃奈はどうやら彼女のことを知っているらしくニコニコとほほ笑んでいた。


「そう、真琴の……、あの子の婚約者ね」


 なんとなく、そんな感じのことを呟いていたように聞こえた。ミュラー先輩とじいちゃんが軽く挨拶を交わして、静巴なんかは、念のために持ってきていた連星剣(ミツボシ)を取り出して、それを見た七星佳奈が寄って行って何かを話していた。ユノン先輩は塔を心配そうに見上げて、秋世がそれに対して話しかけている。2人が4人を連れていくのを見届けてから、俺は、じいちゃんに話しかけた。


「じいちゃん、段取りはどうなっている?《チーム三鷹丘》はどうなっているんだ?」


 俺の疑問に、じいちゃんは、自分のスマホを確認してから、俺の方を見て、答えた。


「ああ、王司達が暗音の方へと向かったよ。今、こっちには俺の代のメンツが向かっている。……っと、そうだ。秋世、アーサーを迎えに行ってやってくれ」


 秋世の方を向いて、そう言うじいちゃんに、秋世は、「はい、わかりました、場所はどこですか?」と言って、場所を聞いて行ってしまった。あの自称アーサー・ペンドラゴンを迎えに行ったのだろう。すぐに戻ってくる。そうして、ぞろぞろと集まってくる面々。

 その中には見知った顔も幾つかある。先のアーサー・ペンドラゴンをはじめ、ばあちゃん、氷室白羅さん、朱野宮煉巫さん、天龍寺彼方さん、深紅さんなど。

 ちなみにイシュタルたちは、母さんについて、姉さんたちの方へ向かって、そのままこっちに合流するようだ。


「まあ、自己紹介とかはまとめて後でだ、わざわざ2回に分けるのも面倒だしな」


 じいちゃんがそう言って、話を切り上げる。刃奈は、と言うと、じいちゃん以外の唯一の男である茶髪の男性を見ていた。何やら浅からぬ因縁でもあるような、そんな目と、そして、孫でも見るような温かい目の混じった妙な視線だった。


「……ああ、それはそうと、青葉清二さん、彼の世界、『狂った世界』では世話になりましたね。3つ目の扉の破壊、助かりました」


 刃奈がじいちゃんにそう言った。どうやら、じいちゃんとも浅からぬ何かがあるようで、刃奈も刃奈で俺との再会までに何をやっていたのか不思議な部分があるな。


「……ああ、あの世界の関係者か。まさか、こっちでも会うとはな」


 じいちゃんが何か感慨深そうにつぶやいた。しかし、さて、姉さんたちが来るまで時間がかかりそうだな。そう思って、塔を見る。すると、そこには、うっすらと人影がある。この止まった時間の中で誰だろう、と思って中止すると、青色の髪と、赤いマフラーの女生徒、それに、何かがいた。あれは……


「ん、どうかしたか、紳司?」


 じいちゃんが呼びかけてきたので、それに応じる。その際、チラリと外をもう一度見ると、そこにはすでに何もいなかった。


「なんでもない。それよりも父さんたちがいつ頃合流できるか分かった?」


 父さんたちが来ないことには、始まらない。特に姉さんだ。姉さんこそが、相手の目的であり、こっちの切り札でもある。俺は、今いるメンツを見渡して、確認のために声をかける。


「紫炎、タケルのやつは今日は学園に来てたか?」


 空見タケル。魔法少女だか魔法童女だかよくわからん全裸マントである。一応、彼女も戦力として数えていたので、この場にいないのは気になる。


「彼女なら、昨日から友人の家に行くって言ってていないよ?えっと、……愛藤さん、だったかな」


 そうか、なら、タケルもこっちにくるって考えても大丈夫だろうな。今は父さんたちと一緒に合流しているだろうか。


「なら、大丈夫だ。じゃあ、残りは、……律姫ちゃん、天姫谷は学園に来てたか?」


 天姫谷螢馬。学園に復学していたはずだが、この場に姿が見えない。別に裏切りとか敵対とかを想定しているわけではないのだが、あいつのことだから一人で突っ走らないかなと心配になっている部分はある。


「えっと、確か、実家に戻るとかで夏休みからまだ戻ってきてないです。なんでも実家の復興をしなくちゃいけないそうですよ?」


 ああ、姉さんがぶっ壊したんだっけか?まあ、いないのは運がいいのか悪いのか、その辺は判断できないけどな。とにかく、いない奴を気にしてもしょうがないか。


「じゃあ、想定していたメンバーは基本的に集まるってことか……」


 俺は塔を見上げる。この塔の天辺、そこで……、いや、今はその話はいい。いるんだ、この塔に、俺と姉さんを狙う魔女が。


「お、どうやらきたみたいだぜ」


 じいちゃんが言う。俺は校庭の方を見る。すると校門から入ってきている集団が目に入った。なるほど、やっと来たか。


「じゃあ、俺たちも校庭にでるか。ここに何人も集まるのは難しいだろうしな」


 とてもじゃないが教室に入る人数ではないだろう。その言葉をきっかけに、みんなが移動を始めた。

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