表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《神》の古具使い  作者: 桃姫
恋戦編 SIDE.GOD
284/385

284話:その女、元六大魔王

SIDE.NANANA


 アストラード。そう呼ばれる世界の魔界……かつて、魔神と神が事を構えていたころは魔界と霊界だったその世界にあたしはいた。【魔典の王者】、その称号と共に、魔界の南東に居城を構える魔王。そもそも、6代目……現在の六大魔王にはほとんど伝わっていないだろうけど、魔神と神が対立していた頃には六大魔王はいなかった。魔神の方が神よりも強かったから、それを補う、「つりあい」を取るために、六望星を呼び、魔神を倒した後に、六望星との釣り合いのために作られたのが六大魔王と言う概念だった。しかし、六望星は魔神との戦いで1人減っている。なら五大魔王でもいいのではないか、と言う話だけれど、すでに六望星と言う概念が先んじて存在しているために、それも魔神を倒すために散ったという英雄視される人物の穴を埋めないとつり合いは取れない。


 しかし、その1人の偉業が薄れ始めてきて、徐々に六大魔王の方が勝ってきて、それのつり合いのために、神は人族に異界からの召喚の方法を記した本をそれとなく渡して、雑魚を召喚することでつり合いを取ってきた。


 そして、あたしが3代目六大魔王の時の事、その時がやってきた。【魔導の王者】と呼ばれたアルデンテ・クロムヘルト。そいつが殺されたのよ。


「今、六望星と六大魔王の均衡が崩れ外れています。なので、殺させていただきました」


 それが、あたしと後の2代目アルデンテ・クロムヘルトとなる有珠山(うすざん)(まもり)との出会いだった。


 六望星……【串刺し勇者】ナオヤ・ササハシ、【犠牲の英雄】マサハル・ニイドウ、【煌光の騎士】イツキ・ミヤモト、【龍族の戦士】タツノ・シノミヤ、【無限の覇者】ハナ・ロクハラ、【流離の魔女】マモリ・ウスザン。神により集結した6人の人間。このうち、【犠牲の英雄】が魔神との戦いで失われている。


 まあ、尤も、その均衡の崩れにより、六大魔王が引退だのなんだのを始めて、結局、その責任を取る形で、彼女がアルデンテ・クロムヘルトを引き継いで、【魔女の王者】となった。そうしてつり合いをどうにかやりくりして行った中にあいつらがいた。


 あたしが引退して、代が何回も変わり6代目六大魔王が現役となっていた頃の話。【爆発の王者】ミュール・ヘル・ムルニラ、【最強の王者】アルス・ディル・デルタミア、【魔女の王者】アルデンテ・クロムヘルト、【破壊の王者】ヴェル・ヴィルヘルンド、【不死の王者】ヴァシュライン・ヴァンデム、【光喰の王者】ミュリエル=ヘンデクス。この面々が、6代目六大魔王。そして、その頃に勇者として召喚されたものの中に、フタキ・スズがいた。そして、そこから外れたアルスの元に突如現れたのがカグヤ・サンゲツ。世界は、この2人の出現によって乱れる。

 カグヤ・サンゲツ。夜は不死身で、しかも、その身体能力の高さは常軌を逸していたわ。【最強の王者】アルス・ディル・デルタミア、しかもその能力《超越の超越オーヴァーオーヴァーロード》を発動した状態に対して、それを昼間に一撃で下した。不死身でない状態で、しかも一撃であの世界で神を除いて最強の座に着く2人のうちの1人が下されたってのは驚き以外のなんでもないわよ。


「なるほど、こいつは驚きだ。俺にコレを使わせる存在がこの世界にいるとはなぁ」


 その言葉は、アルデンテが聞いた【無限の覇者】ハナ・ロクハラとカグヤ・サンゲツの戦いのときに、彼が放った言葉。そして、彼は、七枝に分かれる剣を自在に操ったという。一枝ごとに様々な輝きを放つ七色の剣。確か……【蓬莱の珠の枝】と言う名前だった気がするわ。

 他にも【爆発の王者】ミュール・ヘル・ムルニラの戦いでは赤いマント……【火鼠の裘】や、【光喰の王者】ミュリエル=ヘンデクスの戦いでの光を放つ器……【仏の御石の鉢】、【龍族の戦士】タツノ・シノミヤの試練の時の首飾り……【龍の首の珠】、極死鳥の子供の問題に使った貝殻……【燕の産んだ子安貝】などの数々の武具。そして、【月の力】と称する正体不明の極光。


 その強さは、次元が違った。常軌も異軌も全てを逸していた。あの世界で、あれと対等に持ち込める存在は神も魔神も含めていないと言っても過言ではない。さしもの静葉でもあれに勝てるかと言えばNOだと言えるわ。


「ここは私の顔に免じて引きなさい。さもなくば、分かるわよね、ヴァシュライン」


 これは人界に襲撃したヴァシュライン・ヴァンデムに対して、フタキ・スズがかけた言葉。人界に呼ばれて間もなくと言ったところなのにも関わらずヴァシュラインと知己を持ち、睨みを利かせた様は常人とは違うとヴァシュラインの部下は言っていた。当のヴァシュライン本人は、「あの人には手を出すわけにはいかない」とか「手を出していたら確実に討ち取られていた」と言うほどで、事実、その女は基本的に攻撃に参加しないけど、参加したら無双。2本の短剣で幾万の兵とてたやすく屠る。その武器と様子から篠宮無双のようだとも感じ取れる化け物。

 その本名は、ヴァシュライン曰く「デュアル=ツインベル」、「副委員長」だそうね。かつてヴァシュラインの祖父と共に世界を守っていたという最強の一角。


 その2人の化け物の登場により、世界のバランスは瞬く間に壊れていき、つり合いなんてものは無くなって、しまいには魔神の復活ときたもんよ。そして、その魔神すらもカグヤ・サンゲツは倒した。先ほど上げた力のいずれとも違う力を用いて、屠ったのよ。


 世界は平穏となったけれど、あたしは、その世界にいるつもりはなかった。魔族も人族も力を合わせて復興しよう、みたいなノリについていけなかったのよ。そうして、それは、アルデンテ・クロムヘルトも一緒だった。だから、2人でこの世界を出ることにする。仮にも【魔典の王者】であるところのあたしと、【流離の魔女】にして【魔女の王者】、そして《全魔法制御オールマジックライブラリ》の能力を持つアルデンテ・クロムヘルト、この2人が揃えば、大抵のことはやってやれないことはないわ。


 世界を越えて、あたしとアルデンテは、剣舞王国(アルレリアス)へとたどり着いた。そうして、王に拾われて、剣帝王国に名前が変わり、そうして、静葉と信司に出会った。


 そう、協調性のなさで言えば、あたしとアルデンテは折り紙付きだったわね。尤も、サンゲツもスズもハナも協調性はなかったけれど。そうね、正義感が無いと言い換えてもいいのかもしれない。スズもハナも正義感はあったから。サンゲツは……うーん、よくわからんわね。




 さて、と、まあ、そうこう語っては来たけれど、あたしとしては、だからこうして、今はここに1人ぼっちでいるってことにつながるのよ。アルデンテは、年を取るにつれて性格も丸くなっていったから、ツンケンしなくなったし、変わらないのはあたしだけ。変わろうとしても変われない。変わるきっかけすらないし。恋は人を変えるというけれど、あたしは恋をしたことが無い。だから、変わらない。変えられない。


 どんなことがあれば、あたしは変わるのだろうか。今なら、きっと、失ってしまった今ならば、きっと、再びあの時間に戻ることができれば、素直になれる、そんな気もする。馬鹿みたいに笑って、馬鹿みたいに過ごして、そんな日々を素直に過ごせる。このあたしが、こんな気持ちになるなんて、考えたことはなかった。でも、はっきり分かる。あいつらを失って、あたしは今「寂しい」と感じている。取り残された者は悲しみと寂しさを味わい続ける。それから解放されるには、やっぱり、死ぬしかないのだろうか。ねぇ、アルデンテ、もし、あなたとあたしの立場が逆だったらどうだったかしら……?


 気づけばジーグレッドも帰り、再び、月と星とあたしだけの静寂の世界が戻ってきていた。まだまだ夜は深い。そして、この悲しみ(よる)は……いつ明けるのだろうか。きっと、まだ、明けない。


 誰かは言った、「明けない夜はない」と。じゃあ、あたしの夜明けはいつ?死んだとき?それとも、この寂しさに慣れたとき?


 世界はあたしに優しくない。時は刻々と流れていく。人々の砂は、同じように落ちていく。寿命と言う砂の残量がバラバラでも、刻々と落ちていく量は同じ。ただ、あたしは、その砂の量が馬鹿みたいに多い、それだけ。


 それだけで、あたしはこんな思いを背負い続けなくてはならない。この思い出の場所に骨を埋めるために、ここで、こうして、酒に溺れる。







 そうして、夜明けはやってくる。まだ夜が明ける間際、太陽が、昇ってくる。流石に家の中に入ったあたしの耳に、ガヤガヤとうるさい声が聞こえてきた。旅人か何かだろうか、そう思って、無視を決め込む……と、コンコンと戸を叩く音がする。


 こんな時に訪ねてきたのはいったいどこの誰よ、そう思いながら、怪訝に思いながらも、あたしは、ドアを開ける。そう、ドアを開けたら、そこは夜の明けた世界だった。






――……ッ、おかえり




――ああ、ただいま

 え~、この話は、時間的には、終焉編の少し後になりますね。え~、別に、ナナナは死んだわけではありません。彼女の物語は、少し特殊な形になっています。別にナナナだけではなく、アルデンテもそうなのですが、彼女たちの設定を作るときに、ナナナに関しては、青葉の誰かと、アルデンテに関してはどうなるのか、と言うのは決めていました。尤も、《神》の古具使いに絡ませる気はそこまでなかったのですが。それこそ、青葉の誰かなら紳司でいいじゃないか、と言うことです。ナナナは今回の話で救われることが判明しましたが、アルデンテは……と言うと彼女のことはエピローグに用意しているので、今は明かしません。

 では、恋戦編、ラストは紳司サイドのラストヒロインです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ