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《神》の古具使い  作者: 桃姫
恋戦編 SIDE.GOD
283/385

283話:その女、元宮廷魔導師顧問

SIDE.NANANA


 あたしは、酔いを醒ますかのように、宵の空を見上げる。街外れのボロ屋とも思える場所に、ひっそりと暮らし、酒を飲むだけの生活。そんな怠惰な生活を始めたのはいつからだったか。少なくとも、あたしが覚えているだけでも100年以上前からだった。


 剣帝王国(アルレリアス)。この国がそう呼ばれるようになったのは、少なくともあたしがこの国に来てからだった。剣舞王国(アルレリアス)と呼ばれていたこの国に、友人と共に流れ着いたのはもう何年前かも思い出せない。友は死に、みんな死んだ。もう、あの頃からの友人で生きているのと言えばジーグレッド・ユリウスくらいのものよ。こういう時ばかりは、魔人であるあたしと人間たちの寿命の差と言うのが嫌と言うほど実感できる。


 今あたしが住んでいるのもかつての友人の家だった。もはや、そこにあったものはほとんどない。家具も物も、刀も、でも、思い出だけは確かにそこにあった。


 酒に浸かり、夢を見る。それだけがあたしの今の楽しみであり、それ以外にすることはない。この国の周辺に出る魔物なんて、ジーグレッドがいれば事足りるものばかりだもの。


 昔は……この国につくよりも昔は、好き放題暴れるだけでよかった。人間がどうだのと考えることもなかった。アルデンテやデュリオ、ヴァシュラインやナーガにイルミナ、あいつらと縄張り争いしながら勇者を追っ払って、そんな風に過ごして、退屈したら引退して、そんな日々だった。アルデンテが殺されて、みんな引退したりやられたりと同じ代のやつらが消えて、4代目だなんていわれる奴らが出てくる。

 そんな日々だった。それを変えたのが、サンゲツと言う男。そして、フタキ・スズ。この2人によってそんな生活は変えられて、そして、最終的にアルデンテ……2代目のアルデンテと言う友とともにこの国にやってきた。王に拾われて、そして、あいつらと出会った。


 酔いの所為か、無駄に過去の思い出を振り返っていると、そこに生き証人であるジーグレッドがやってきた。頼み事をしていたからその報告かしらね。


「頼もう!」


 バンッ、とドアを開ける。その声と音が頭に響く。後、ボロ屋なんだから扉壊さないように気を遣えってのよ。


「ナナナ殿、例の物は、無事に送り届けて参った」


 そう、ご苦労様、だったらもう帰っていいってのよ。そんな報告、後で手紙ででもなんでも寄越せやいいでしょうに。


 このジーグレッドに頼んでいたのは、件の2代目アルデンテの遺品が最近見つかったってことで、王に呼び出されて確認させられたことに起因しているわ。セーフクと言う伝統着らしいし、セートテチョウとやらも後生大事に持っていたので、家族の元へと届けてやるべきだと思ったからジーグレッドに頼んだのよ。


「それと、()の世にて、面白い御仁を見かけた」


 面白い御仁?どんな奴なのかしらね。ジーグレッドが面白いというのだから相当の変わり者だったのかもしれないわね。でもなんでそれをあたしに言うのかしら?


「この家の主にそっくりであった」


 その言葉に、あたしは、この家の主のことを思いだす。いけないわね、酒の所為かぼーっとしてる。まるで走馬灯のように、あいつらと出会ったときのことを思いだしていく。


 そう、あれは、よく晴れた日だったか、曇り空だったか、そんな天気は覚えていないほどの昔、剣帝王国(アルレリアス)宮廷魔導師顧問だったあたしは、魔導師筆頭のアルデンテ・クロムヘルトを連れて、任務に向かっていた。なんでも重要な護衛任務と言うことで、宮廷外の人間も護衛に加わるという話で、その時は、かなり怪訝な顔をしていたように思う。そも、あたしとまも……アルデンテがいれば、大抵の敵は敵ではない。サンゲツのようなチートと呼ばれる人間ではなかったが、それでも、十分すぎるほどに強い力を、あたしもアルデンテも持っていたのだから。


 そうして、その護衛の場にいたのは、腰に刀を携えた女と気だるげな表情をした男の2人だった。女の名前は七峰静葉。初代剣帝として名を馳せた最強の女。その横に並ぶのは妙に気だるげで刀も剣も振りそうにない男、六花信司。

 この2人が護衛任務のための外部協力者。はじめは、剣帝がなんだ、と思っていた。野蛮な剣士の中でも腕が優れているだけの女に過ぎないと思っていた。けれども違った。そう、その力は、まるで、サンゲツを見ているかのような、彼の言葉を借りるならチートってやつよ。勇猛果敢で無鉄砲、敵知らずな、そんな最強の女。それをそばで見守る男。2人の奇妙な関係を見ながら、最初の任務は終わったわ。


 それからも、ことあるごとに静葉とあたしは顔を合わせた。そして、仕事が終われば、静葉、あたし、アルデンテの3人で信司の家に上がり込み酒盛りをする。そんな日々の繰り返し。

 楽しかった、それはもう、ものすごく。しかし、日に日においていくアルデンテ、そして、人は死ぬ。最初に逝ったのは静葉だったわ。そして後を追うようにして信司が逝った。アルデンテは、信司が逝く前に励ますために鍛冶場を空間魔法を利用して作るように依頼をしてきたけど、結局無駄に終わった。

 そして、アルデンテも死んだ。あたしは、その後、1冊の本を書き上げて、鍛冶場をそこに隠し、自分が死んだことにして、この家に……六花信司の家に住み始めたのよ。そうして、酒と思い出に溺れる毎日が始まったというわけ。


 長命と言うのはいいことのように思われ、誰もが不老不死を目指すけれども、そんなことはないのよ。いえ、きっと全員が不老不死ならばいいことなんでしょうね。でも、そうでないという時点で、取り残される。誰もいなくなって、1人ぼっちになってしまう。時代に取り残され、流れに取り残され、人に取り残される。そんな孤独な人生になる。それは長命でも一緒。普通80年程度しか生きないのに、1人だけ8万年生きたらどうなるかしらね。何度もの別れを繰り返し、悲しみを乗り越えられるならまだしも、途中でどうでもよくなる方が大半の反応じゃないのかしら。


「そう……もし、あいつにそっくりなら会ってみたいわね」


 思わず、呟いていた。死人との再会、それはこの世の理から外れる「ありえない」こと。神からそのルールの例外として認められているのは、(じぶん)達の力をこの世に成立させるために創った対の存在である【終焉の少女】と言う例外を除いて他にはいない。そして、そのルールの例外が、篠宮無双と言う人物らしい。この世界でも4代目剣帝となったとされる彼女。しかし、その時点で、死んでいたはずの彼女がどうやって剣帝となったか、と言えば、やっぱり転生したからなんでしょうね。


「それはナナナ殿、貴殿が数々の縁談を断ったのと関係しているのであろうか」


 ハッン、思わず鼻で笑いたくなるような話ね。どうやったらそんな勘違いができるのかしら。ため息しか出なくなるっつーの。酔いも一気に吹っ飛んだわ。


「んなわけないでしょ。理由はあんたと一緒で、長命なあたしと婚約したところで、あたしの方が長生きしちゃう、大事なものを失う悲しみっつーのは嫌いなのよ」


 ジーグレッド・ユリウスは半魔族としてこの世界の皇帝の血筋の中でも異端として生まれたわ。ジーグレッドの父、フィリップは妻との間に子を儲けた。しかし、そのあと、魔族に襲われて、そこで、気に入られたフィリップは魔族と子供を作ることになってしまい、そうしてジーグレッドが生まれた。正統後継だったフィリップと妻の間に生まれた子は魔族襲来の折に亡くなっており、妻もそこから病で他界し、皇族の血を明確に引く後継はジーグレッドのみとなった。でも、ジーグレッドは、後をつかず、傍流の分家に国を預け、そうして騎士となったのよ。尤も、信司は皮肉に「ユリウス皇」などと呼ぶこともあったけど、まあ、仲はよかったから、本人同士の何か取り決めでそう呼ぶようになったんでしょうね。他の人にそう呼ばれるのは嫌っているみたいだし。


「そうか……では、最近、この近辺を通りかかる旅人が、夜中に甘い声で誰かを呼ぶ亡霊が出るという報告はどういうことであろうか」


「アホーッ!」


 酔ったあたしが何をしていたのかは知らんけど、ああ、もう、ボロ屋なんだから外に声が漏れるのは当たり前だっつーの!


「どうして、そうも奥手なのだろうか。ナナナ殿ほどの度量がある人物を、あの御仁が受け入れぬわけがないと思うが……」


 あのね……そりゃ、独身男だったらほっとかないような美人だけどね、既婚者に言い寄れるかっつたら別よ。


「別にこの国では重婚も認められているのだ。帝国や聖国のように一夫一妻ではないのだし気にすることはないではないか」


 アホね。女ってのは、他人と比べられるのが嫌いなのよ。それも、自分の方が評価が悪いってのが特にね。尤も、静葉はそんなことを気にするような奴じゃあなかったけど。てかあいつの方が重婚済みだったけどね。


「あたしは、あいつらみたく仲良しこよしのワイワイしたのはできないのよ、昔からね」


 そう、あの頃から、いつもそうだった。仲間うちで楽しくやっていても、結局、あたしは……。


「昔、と言うのは六大魔王であったころということであろうか?」


 六大魔王、そう、かつてはそう呼ばれたというのはすでに言ったことね。そうそう、それで思うのは、何事もつり合いってのが大事ってことよね。それが崩れればバランスを失って世界が割れる。そう言うことをサンゲツから学んだのよ。あの頃は、全てがつり合っていた。かなり危ない状態だけれども「つり合っていた」から世界が成り立っていたのよ。六大魔王も六望星も、6対6。それが壊れ始めてからも、何とか均衡を保っていた。六望星が1人欠け、その枠を大量の雑魚で補って、それでもだめそうなときにアルデンテが兼任して、そうやって綱渡りのような均衡を保ち、それをたった2人が全て崩した。均衡も、そのルールすらも。


「そうね、あの頃から、あたしは、人の輪に入るのは苦手だったかもしれないわね」


 そんな風にあの時のことを……過去を思い出しながらつぶやいた。

 え~、ナナナ・ナルナーゼの話です。昨日のうちに投稿しようと思っていましたが、友人に誘われて1時半くらいまで一狩り行ってしまいまして……。

 もう1話ナナナの話が続きます。

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