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《神》の古具使い  作者: 桃姫
恋戦編 SIDE.GOD
282/385

282話:イシュタルとデート2

 日用品を買いに近くのデパートに入り、いろいろなものを籠に入れるイシュタル。コスメやシャンプーなどからナプキンやタンポンなどの生理用品まで様々なものを買う。そういえば魔法少女たちも生理用品を活用するのだろうか……?永遠の少女だからまだ……いや、年齢的には微妙そうな人もちらほらいたが……。まあ、気にしないのが吉だろう。


 ともかく、ゆったりと、のんびりと買い物をする。あまり男の俺がいるのは好ましくない場所も多々あったが、仕方ないということにしておく。それにしても、イシュタルは荷物をかなりの量、買う癖があるのだろうか、同じものを何個かまとめて入れる。


 そう言う性分なのだろうか、それとも癖か、とにかくこうも同じものを買うのも珍しい気がするのだが。そりゃ、マニアがいろいろな用途のために複数買うようなこともあるだろうが日用品でこういったことをするのはないだろう。


「なんでそんなに買い込むんだ?」


 俺はイシュタルに問いかけてみる。イシュタルは「ああ、なんだそんなこと」と言って答えてくれる。


「別に意味はない……って言ったら語弊があるんだけど。私は、同じものを愛用する傾向にあるのよね。だから、買いだめておくのよね。ほら、発売中止とか取り扱わなくなったとかそんなことになっても大丈夫なように同じものを買っちゃうの」


 ああ、なるほどな。分からなくもない。例えばルーズリーフだったりノートだったり、自分が普段からコレと決めて使っているものがあるだろう。無地だったりドットが打ってあったり升目だったり、それではないと使いづらいこともあるはずだ。だから、買い置きしておくこともある。そう言ったことだろう。


「そういえば、だが、イシュタル」


 俺は、ここで、いままで聞きたかったことを聞いてみることにした。俺の声に、イシュタルがこちらを向く。


「何?どうかしたの?」


 小首をかしげるイシュタルに、思い切って聞く。個人的なことだから、答えてもらえるかどうかは微妙だけどな。


「なあ、なんでイシュタルと言う名前になったんだ?イシュタルってメソポタミア神話の女神だろ?」


 俺の言葉に、イシュタルは少しキョトンとした顔をして、笑い出した。何かおかしなことを言ったのだろうか。笑われるようなことは言ってないと思うんだがな。


「ああ、そのこと。実はね、このイシュタルって名前は、その女神とは何ら関係ないのよ。そもそも、ウチの親はメソポタミア神話なんて知らないし」


 そうなのか?でも、だったらどうしてイシュタルなんて名前になったんだろうか。偶然、にしては珍しい気もするが、当時の人間の名前なんて何が一般的ともいえないからな。


「当時の母の話によると、母を助けた人物の名前を取ったそうよ」


 へぇ、そう言うつけ方もなくはないだろう。しかし、どんな名前だろうか。そのままイシュタルなのか?


「レイキュリア=マイシュ・タルード。異術師だったらしいけど、何者なのかは分からないわ」


 聞いたことないが医術?医者か何かだろうか。と思ったが、どうやら医術ではなく異術のようだ。異なる術……。確か、イシュタルたち、【最古の術師】の主要メンバーは原初の世界とやらの出身者で固まっているらしい。しかも、イシュタルの頃には、他の世界に分岐していないとか。つまり、異世界人ではないということだが、では異術とは何だろうか。


「異術。異なる術、外法な術、歪な術、不思議な術。そんなものだにゃー」


 不意に背後に生じた気配に、俺は驚き飛びのいた。イシュタルも同様の反応を見せている。何者だろうか。そして、何だ、取ってつけた様な安易なキャラ付けをしたキャラのような語尾は。

 そう思いながら振り向くと、そこには曖昧な髪の色をした濃紺の眼の少女が立っていた。頭には、曖昧な毛色の猫耳もついている。なんだ、この地味にキャラが濃い奴は……?!


「おっと、これは失礼しましたにゃー。わたしは舞沙花(まいさか)(れい)というものですにゃー」


 舞沙花と言う猫耳少女は、おどけたように「ですにゃ」と笑っていた。正直に言ってうざい。この店のキャンペンガールか何かだとしたら確実に逆効果としか言えないできだ。


「舞沙花……それで、舞沙花とやら、俺たちに話しかけてきたようだがなにかようか?」


「どうなんですにゃー?」


「イシュタル、移ってる。そのウザったい口調を真似るのは辞めてくれ」


 妙な口調は1人でじゅうぶんだっつーの。はぁ……何なんだ、今日は。舞沙花とやらは相変わらず意味が分からんし。


「……概念に囚われんのにゃ?何者にゃ、こにゃつ。三神の弊害と言う奴にゃのかにゃ?」


 ぶつぶつと呟く舞沙花。何者なのだろうか。あの出現の仕方は常人とは異なるし、俺をもってしても【力場】が感じ取れない。


「まあ、いいにゃ。用があるのは、君たちじゃにゃいにゃ。わたしが用があるのはそっちにゃ」


 そう言って指さすのは、俺たちの背後。場合によっては幽霊でもいるのか、と聞き返すが、この場合、俺は誰かいる可能性も考えていた。そう、春秋宴だ。


「にゃー、久しいにゃ、ナリアん」


 なりあん……?春秋宴のどの文字とも合致しないその呼び名に俺は眉をひそめた。俺は、背後を確認する。そして、視界に入る青い髪と赤いマフラー。紛うこと無き春秋宴である。


「その呼び方はよすべき」


 その言い方も紛うこと無き春秋宴のそれだった。だが、なぜだろう、彼女は、今、俺の知るそれとは別の……そう数日前に図書館で別れたときのそれに近く感じる。


「にゃっはっはー、ナリアんは、細かいにゃー。それとも、カナリんって呼ぶ?」


 宴に明確な怒気の表情が浮かぶ。正直に言って驚いた。宴がここまではっきりと感情に出すとは思っていなんだ。


「宴と呼ぶべきにゃ」


 宴にまで「にゃ」が移っている?!なんだこの舞沙花とかいう女は、女の語尾を「にゃ」にする菌でも撒いているんじゃなかろうか。


「ぐっ、ぬかった。このわたしが……。そもそも概念(そんざい)(ルール)に関与してくるのはよすべき」


 宴が悔し気に顔をゆがめた。そして、舞沙花は、笑っていた。猫耳がぴくぴくと動いている。何かを警戒しているのだろうか。


「まあ、いいのにゃ、そろそろ、【ナイトメア・ブラッディーズ】も来そうだし、わたしは要件をすませるのにゃ」


 舞沙花が何やら手紙を取り出した。何の手紙だろうか、と思うが、ぶっちゃけよく考えたら俺には関係ない気もする。


「キレイんからの手紙にゃよ。これで要件は済んだわけにゃけれど、1つ言っておくにゃ」


 指を立てる舞沙花。何を言う気なのだろうか。そして、真剣な話なのかもしれないが口調の所為でいまいち真剣みに欠ける。


「今、ナリアんがやっていることは、本当にやるべきことにゃのかにゃ?」


「黙れ!」


 宴が切れた。唐突過ぎる。今にもとびかかりそうな彼女に対して舞沙花はそれでも笑みを崩さない。


「今、あにゃたの行動は、まるで、……まあいいにゃ。でも、覚えておくにゃ。わたしたちは決して偏らないにゃ。公平だにゃ」


 公平って、じゃあ、猫だけじゃなくて犬も使ってやれよ。いや、そう言う話ではないだろう。


「黙れレイキュリア=マイシュ・タルード。そんなことは、概念の体現であるお前に言われなくても理解していると知るべき」


 ここで出たのが意外な名前、レイキュリア=マイシュ・タルード。先ほどイシュタルに聞いたのと同じ名前である。イシュタルの名前の元になったという人物、それがこれほどまでに変な人物だったとは。


「そっちもその呼び方はよすにゃー。もう、ずっと昔に捨てた名にゃ」


 ケタケタと、もとい、にゃにゃにゃにゃと笑う舞沙花。その瞬間に、にじみ出た何かが不気味で、思わず後ずさる。


「おっと、それではもう行くにゃ。ナリアん、気をつけるにゃ、この世界は、……」


「それでも世界は、調和を保っている。その調和こそが理と知るべき」


 2人は意味深な会話を交わして、互いに姿を消した。まるで掻き消えるように2人とも何の痕跡も残さずに姿も【力場】も気配もなくなったのだった。宴のように《存在の拒絶(ノット・ファウンド)》の《古具》持ちならまだしも、ただの人間があのように消えるわけがない。異術、一体何なのだろうか。


「レイキュリア=マイシュ・タルード、そういえば、母も、助けてくれた恩もあるけどふざけた人間だったと言っていたわね。なるほど、あんな人から名前を貰ったのかと思うと……なんかこうやるせない気持ちになるわね」


 イシュタルがため息をつきそうな顔をしていた。仕方ないか。てか、いつの間にかにゃーにゃー言わなくなっているな。宴も概念がどうとか言っていたし、あのにゃーにゃー語は舞沙花が関与していると思われる。


「そうだ、買い物の続きをしようか」


 俺は、いつまでも変な奴らのことを引っ張っていても気分がダレるだけだ、と思い、イシュタルを促した。イシュタルも軽く吹っ切って、買い物に戻る。





 こうして、夏休みの終わり間近の日が過ぎていった。イシュタルと、この後、家に帰って、のんびりして、そうして、次の日以降は特に予定が入ることもなくダラダラと過ぎていった。9月はもう直にやってくる。この胸騒ぎは、その9月の騒動に関するものだろうか、それとも……。


 決戦の日は着実に迫っている。それでも俺はのんびりと過ごした。別にどうでもいいというわけではないが、戦いまで気を張っていても仕方がないだろうしな。

 え~、遅くなりました。これにて「○○とデート」関係は終わりです。残り3話でこの恋戦編も終わりと言うことになります。

次は……■■■・■■■■■。

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