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《神》の古具使い  作者: 桃姫
恋戦編 SIDE.GOD
280/385

280話:鳴凛とデート2

 マンションに到着したところで沙綾は、1人だけ別方向へと歩き出した。方角的には鷹之町と三鷹丘の中間くらいの辺りだろうか。しかし、別れ際、沙綾はこんな言葉を俺に残した。


「蒼の子……、あんた、運命と言う名の糸にぐるぐる巻きにされてるっぽいわ。でも、しっかりとその運命に向き合いなさい。ああ、それからこれは偶然にも時空の狭間で会った蒼の一族の関係者からの伝言よ、『蒼き血潮は、天へと……神へと至るとき、その時全てを変える』って、なんでも同時期に3人の【蒼】が覚醒するらしくてね……」


 3人の蒼……、俺と姉さんと……もう1人は誰だろうか。そう思ってから、はたと気づく。なるほど、もう1人とは、彼のことだろう。今にして思えば、天龍寺家で、あの話を聞いた時点で思い出すべきだったのだ。


「しかし、今回の一件、我々はほとんどうごけそうにない。これと同時に併発した、【第一未完成人形ノン・クリア・アインツ】の一件で出張しにほとんどの人員がそちらに向かっている。私もこの後行く予定だ。だから、頼みに来たのだ。この世界を救いたくば、戦うしかない、と」


 この言葉……、そうここで気づくべきだった。もう1人の蒼が動いていることを。全く異なる世界で、だが、【第一未完成人形ノン・クリア・アインツ】、【彼の物】の生み出せし人形たる彼女ら。その中でも【第一】を冠する【第一未完成人形ノン・クリア・アインツ】は、【黄金の林檎(ゴールデン・アップル)】を……【永久機関】を唯一持つ規定外の存在だ。そして、それと共にある蒼……火々夜燈火の言っていた、アオイ・シィ・レファリスだ。シィ・レファリス、信司(おれ)の子孫であり蒼紅と分かれたが、立派な蒼の一族である。


「なるほど、じゃあ、情報提供はアオヨ・シィ・レファリスか」


 俺の言葉に沙綾は驚いていたから図星だったのだろう。しかし、それに対して答えずに、沙綾は行ってしまった。そして、俺と先生と匡子は、マンションに入っていく。そして、マンションの入り口で、受付が俺たちの顔を見て、何かを思うところがあったのか呼び止めた。


「申し訳ありません。蒼刃のご子息の方ですよね」


 俺を見てそう言う彼女。父さんの関係者だろうか。そう思って疑問に思いつつも彼女の問いに答える。


「ええ、そうですけど、父さんの関係者の方ですか?」


 俺の言葉に、首を傾げる彼女。どうやら、そういう関係者ではないようだ。では一体彼女は俺を誰の子息だと勘違いしたんだろうか。


深鈴(みすず)さんのご子息ではないのでしょうか」


 深鈴……、蒼刃深鈴、【魔眼喰い】か。蒼刃の関係者となれば、俺とはあまり関わりが無いんだがな……。


「親戚ですね。少なくとも息子ではありません。しかし、深鈴さんとどういった御関係でしょうか?」


 マンションの受付が、蒼刃深鈴と関係があるというのが意外だったのでそんな風に問いかけた。


「昔……命を救われたのですよ。ケルペル……【帝昏(みかどくら)】から。己が枷を無理やり外してまで私を救い、彼女は、その日以来行方が知れず……」


 【帝昏】……確か、ヘルベゲンツ・ハーツァーの1つか。しかしケルペルと言えば、あの高名ある【天昏(あまくら)】だったはず。【天昏】、【痣昏(あざくら)】、【閑昏(しずくら)】、【燚昏(いつくら)】の4つの獄鎧武装ヘルべゲンツ・ハーツァー。それぞれに関するものがあり、【天昏(あまくら)】のケルペル、【痣昏(あざくら)】のベルガンド、【閑昏(しずくら)】のマーナーティス、【燚昏(いつくら)】のエンマ。それ以外には存在しないと聞いていた。


「【帝昏(みかどくら)】って、あのエルベゲンツ・ハーツァーのケルペル?!」


 匡子の声。エルベゲンツ・ハーツァー……?ヘルベゲンツ・ハーツァーじゃないのか?ッその疑問を読んでていたわけではないのだろうが、匡子が説明をする。


天鎧武装エルベゲンツ・ハーツァー……【帝昏(みかどくら)】のケルペル、【辿昏(たどくら)】のベルガンド、【猩昏(せいくら)】のマーナーティス、【轟昏(ごうくら)】のエンマの4つ。まさか、こんな世界に有ったなんて……」


 どうやら俺の知っている獄鎧武装ヘルべゲンツ・ハーツァーに非常に近い天鎧武装エルベゲンツ・ハーツァーと言うものがあるらしい。って、こんな話をしている場合じゃなかったな。


「すみませんが、彼女が今どこにいるのかは俺もつかめていないんです。力に慣れなくて申し訳ありません」


 そう言うと受付は、「そうですか」と残念そうにカウンターの向こうへと帰っていった。俺は、少し申し訳なさそうな気持ちで、エレベーターに乗る。


「青葉君、ご親戚でも居場所が分からないもの?」


 先生がそんな風に聞いてくる。そうは言ってもな……結構遠い血筋だからな……。ほとんど居場所が分からない。この世界にいるのかどうかすら不明だからな……。


「俺の家系は、結構遠縁の親戚が多くて蒼刃深鈴は、結構前の代でのつながりですからね、流石に場所までは……。蒼紅のように異世界か京都なんかがメインで活動している家もあれば、シィ・レファリスのように、完全に異世界の一族になっていて、ほぼ本家と無関係の状態の家もありますし。七峰や立原はまだしもそれ以前の関わりともなると俺の感知外ですから」


 よくわかっていなさそうな先生。それと、何気に、話を聞いていた匡子。まあ、立原家も多くの分家がいるのに、大半を立原が把握しているそうだから彼女からすれば、親戚は把握できていて当然と言う感覚なのかもしれないな。


「あ、もう着きますね」


 その言葉から間もなくエレベーターが停止して、ドアが軽快な音と共に開いた。上階2フロアが立原家の家であり、そこから下は貸し出しているマンションとなる。そのため、エレベーターは、最上階の部分はなく、最上階から1つ下の階で、その次は屋上となっている。そして、エレベーターが開けば、目の前に玄関があるホールとなっている。


「さて、と、インターフォンをならせばいいのよね?」


 匡子がそう言ってインターフォンを鳴らした。すると、ガチャリとドアが開く。そして、茶髪のスーツを着た少女。俺と同い年くらいだろうか。薄ら化粧をして、それでも秘書とかと言う雰囲気よりは匡子に似た雰囲気や気配を纏っている。歩き方とか、気配の欺き方とか、その辺は、匡子のそれそのものだ。


「匡子おばさん、それと……ああ、舞子氏の言っていたお客人ですね」


 左の肩が微妙に上がっている。……それにこの違和感は……、拳銃を持っているようだ。それも相当使い慣れているのだろう。心得もあるに違いない。先ほどドアを開けたときに左手で開くように開けた。それも身を引いているので脇が自然と開く。拳銃が取り出しやすい状態で、ドアを開けたのだ。


「ああ、青葉紳司だ、よろしく」


 俺はそう言って左手を差し出す。握手だ。左手をやや下で差し出させることで脇を閉め銃を取り出しにくくさせる。


「……厄介ですね。それに青葉……なるほど、そう言うことですか」


 何かを納得された。つくづく今日は青葉と言う名前について言われることがあるな。何なんだろうか。


「青葉暗音の関係者、と言うことですか」


 何だ、姉さんの知り合いなのか。どんなに不思議な人でも姉さんの知り合いと言われれば納得できるのが凄いところだ。


「姉さんを知っているのか?」


 俺の言葉に、ため息をつく少女。まあ、姉さんの弟ってだけでため息をつかれるのはなんとなくわかるからいいんだが。


「直接の面識が有るわけではありませんが、不知火家の御曹司とその恋人が響乃に来た時にちょっと話を聞く機会がありまして、『ありえない』と表現されていたのでんで」


 まあ、姉さんは「ありえない」、「理不尽」、「規格外」なんて言葉メッチャ似合うからな……。


「まあ、しゃーない。俺も諦めてるからな」


「弟さんが比較的まともなかたで安心しました。っと、それよりも中にどうぞ。舞子氏がお待ちですから」


 そうして、俺たちは立原家へと足を踏み入れる。華美な装飾はないのに、どことなく高貴さを漂わせる廊下。埃やゴミなどがほとんど落ちておらず、綺麗な状態だからだろうか。そして、廊下の奥にある扉を開くと、そこには広い部屋が広がっていた。そして、こちらを見るソファに座った女性。


「ようこそ、立原家へ」


 女性……立原舞子曽祖母ちゃんが、おどけてそう言った。そして、着席を促す。曽祖母ちゃんは、先ほどの少女に向かって言う。


「お出迎えありがとうね、希鞠さん」


 希鞠と言う少女が、「いえ、この程度なら」と笑う。ソファに俺と先生が腰を掛けた。匡子は立っている。


「先に、私の話、いいかしら。希鞠の現状報告だけなのでそんなに時間がかからないから先に済ませてほしいのだけど」


 匡子がそう言うと、曽祖母ちゃんは、机にあった資料を匡子に差し出した。匡子は資料をパラパラと見る。


「ええ、これがもらえれば十分だわ。じゃあ、これで。あ、希鞠、しっかりやんなさいよ~、あんたの母さん鈍くさいんだから、遺伝してないことを本当に祈るわ」


 そう言うだけ言って匡子は出て行く。希鞠は、「少し送ってきます。そのまま今朝の件で、本部の方へ戻りますから」と一緒に出て行ってしまった。部屋には曽祖母ちゃんと俺と先生が残される。


「改めて、ようこそ。私は立原舞子。紳司君、貴方にとっては父方の曾祖母に当たるわ。鳴凛さんにとっても親戚にあたるのよ」


 そう言って微笑む曽祖母ちゃん。そのまなざしに、どこか不思議な視線が混じっているように感じた。それがなんであるか、具体的なことは分からなかったが、とにかく曽祖母ちゃんは俺に何かを感じている。


「フフッ、六花信司。あの刀匠がこの子の中にあるのね」


 ッ!やっぱり俺のことを知っている。深紅さんや紅紗さんと同じだ。何かがあって、事前に知っていたとでも言うのだろうか。


「そういえば、前から青葉君のことを御存じみたいでしたけど、舞子さんは青葉君のことを娘さんから聞いていらしたんですか?」


 先生が聞く。娘さんとは美園ばあちゃんのことである。しかし、ばあちゃんも忙しくて異世界にいることが多かったはずだ。それでいて連絡が頻繁に取れたとは思えない。特に、俺が転生していることすらばあちゃんが知っているかも危うい状況で、それが曽祖母ちゃんに届いているとは思えない。ばあちゃんたちには、俺は伝えていないからな。龍神の部屋でも【王刀・火喰】のことを知っているという話をしても転生者であるとは言っていないからな。その後はばあちゃんには会っていないし、じいちゃんに会ったのはイシュタルの件の時だったが、あの時は戦ってすぐに分かれたしな。


「いいえ、その前からよ。かつて……、私がまだ若い頃」


 今でも十分に若いように見えるが、【力場】の感覚からすれば相当な年月を生きているはずだ。


「時空間統括管理局理事六華直属烈火隊の三番隊で中隊長をしていた頃の話よ」


 現在の三番隊は、この間もあった天導雷花さんが率いる組織であり、副隊長が天導風菜、中隊長が天導両花である。ほぼほぼトップを天導家が牛耳っているようなものだ。だが、その前は、確か……三番隊は1度しか代替わりをしていないから深紅さんたちだったはずだ。深紅さんが三門……隊長で、副隊長が紅紗さん。と言うことは、中隊長が曽祖母ちゃんだったのっだろう。そうすれば、この間、深紅さんも紅紗さんも知っていたことに納得できる。

 先生は単語の意味が分からなかったのか首を傾げていたが、俺は木にせず話を続ける。


「その頃に一体何があったんですか?」


 俺の言葉に、曽祖母ちゃんは静かに息をついた。そして、どこか遠くを見るような目で続きを話し出す。


「時に、紳司君は、刀を打ってほしいと頼まれたことを覚えているかしら」


 そりゃ、結構な人数に頼まれたからな。覚えてはいるが誰のことを言っているんだろうか。クシャルデ・コンコータに頼まれたのは烈火隊のできる前だし、可能性としては、レルかライアか……。


「それはレルのことですか、それともライアのことでしょうか」


 曽祖母ちゃんはそれを聞いてニヤリと一瞬笑った。何もおかしなことは答えていないはずだが……。


「やはり、血と言うものなのでしょうかね。でも、彼女の血統がこんなにも……あの人の血はこんなにもしっかりと受け継がれた。まあ、本当に蒼天の馬鹿(あのばか)よりはましなのでしょう」


 何かを納得するように、曽祖母ちゃんは頷いた。そして、言う。


「貴方は間違いなく六花信司です。それは、その当時を生きた私の知っている情報と一致しているから、と言うもので、もしも他人が成りすますために調べても分かる程度の知識ですが、《古具》に目覚めた程度の子供が異世界まで調べるのは不可能でしょう。

 まあ、尤も、生まれ変わった青葉の血の方も相当濃いようですが。それとあの人の血も……」


 あの人……先ほどから何度も言っている。それが誰なのかは分からないけど、曽祖母ちゃんは、その人を大事に思って言えるのは間違いないようだ。無論尊敬と化の意味合いで、だろうけど。


「さて、あなたのことを知っている理由でしたね。あれは、白城事件……時空間統括管理局を揺るがす大事件の起こる前のこと。四番隊の隊長副隊長全員と私でお茶会があったの。そこで、あの人が、現四門から聞いた予言を言ったの。

『立原家は、いずれ、【幼刀・御神楽】っていう刀を手に入れるんだけど、この刀は、使っちゃいけないのよ。それを封印なさい。とある世界の日本ってところの山奥にね。そうすれば、いずれ、それを守護する者と、あなたの親類が結ばれるから。そうして、できた、その娘に、【幼刀・御神楽】と打かけの刀を託すことで、あなたの曾孫と、あと娘は、救われる』そして、その【幼刀・御神楽】を打ったのが件の六花信司であることもあの人は言っていました」


 また、あの人。誰なのだろうか。ここまで来たら、先代……もとい初代の烈火隊上層部の誰かなのだろうが、この中でまだ名前が出ていないのは、四門の霧羽未来、四番隊副隊長の霧羽千陰、二門の植野春夏、二番隊副隊長の茅風柚葉、そして一門の篠宮無双。

 この中で、おそらく、彼女が慕っている人物として名が挙がるのは二番隊の2人と篠宮無双。そして、おそらく、この場合は、篠宮無双のことを指しているのだろう。あの人、と言う言い方がどことなく故人を連想させるからだ。残りは全員、今も生きているはずだ。

 尤も、正確に言えば篠宮無双も死んではいないのだが、表現がとても難しい。体は死んでいるが、魂は生きている、と言う表現が適切だが、それも微妙に違うのだ。


「つまりは、その人……篠宮無双が現四門に聞いた予言で、自分の娘の孫である俺が、つまり曾孫である俺が、その人物ではないかと踏んだってことですか?」


 俺の言葉に、何やら楽し気に微笑む曽祖母ちゃん。何がそんなに嬉しいのだろうか。鼻歌でも歌いそうな、そんな雰囲気だ。


「ええ、そうよ。それにしても、……うん、確実に血ね。まったく、あの人は死んでからも随分と色濃くて困るわ」


 本当に愉快そうに笑う。それを俺の心の奥底で何が微笑んでいた気がする。さて、と、そういえばここに呼ばれた理由ってのは何だったんだろうか。この話だけじゃないだろう。


「それで、俺たちがここに呼ばれた本題は何ですか?」


 俺の言葉に、曽祖母ちゃんは「おっと、そうでした」と手を打った。そして、俺と先生を見て言う。


「9月、【天兇の魔女】の襲来はもうすでに耳に入っていることね。そして、その時は着実に迫っている。そんなときに、鳴凛さんは今のままでは役に立たないでしょうから」


 待てよ、そもそも、塔の出現中は《古具》使いなどの超常的存在を除いて、時が止まってしまうと聞いている。橘先生もその例外ではないはずではないのか?


「ええ、そうね、普通なら鳴凛さんも停止してしまうでしょうね。普通なら。でも、彼女の中の【力場】は今、【神刀・里神楽】の影響でどうなっているか分かるかしら」


 その言葉に俺は、先生の方を見た。そして、目を凝らす。ジッと見つめると、その中にある【力場】の淀みがよくわかる。まるで陰陽道の陰陽太極図のように2つの【力場】がせめぎ合い混じり合い、反発し合っている、そんな不安定な状態。


「でも、これが停止しないことと何の関係が?」


 俺の言葉に曽祖母ちゃんは少し困ったような顔をしながら、説明を始めた。


「私も聞きかじりなので詳しくは説明できないわ。ただ、疑似的に上位転身が発動している状態になっているらしいの。【力場】が混じり合ったり反発し合ったりすることで、増減を繰り返して不安定な状態だけれど、一段階上のクラスに。そうなれば、停止しない、と言うこと」


 なるほど、増減、をすること……つまり、それは常に動いているということだ。それが、力を生み出す。動くことで力を生み出すものはいくらでもある。しかし、それらには、別の動力源が必要になる。タービンを回し続ければ力は生まれるけれど、回し続けるには電気が必要になる。しかもその電気をずっと消費し続けなければならない。そして、その動力が最初の一回きりで済んでしまうのが永久機関だ。運動によって生じるロス、たとえばタービンなら、運動のエネルギーの他にも回転によって生じる摩擦や熱に変換して無駄に消費されてしまう。それが無ければ最初に入った電源だけで永久に回し続けることができる。それこそが永久機関であり、それが不可能とされる理由である。どんな状況でも必ずロスは生まれるのだ。


『おそらく、パスが開いてます』


 サト子がそう言った。なるほど【神魔刀・里神楽】とパスが繋いだままになっているから動力源があり、それによって増減を続けている。


「ふむ、と言うことは……」


 俺は、静かに集中する。パスを辿るのだ。すると最終的には俺にたどり着く。やはりと言うか、何と言うか。【神魔刀・里神楽】と俺はつながっている、と言うより一体になっている。そして、そこから【力場】が供給されている。よくよく見れば先生の中の【力場】もオレンジと蒼だ。


「なるほど、半分は俺の【力場】で形成されている。つまり、契約状態に近い状態にあるということですね」


 もう1つのオレンジの【力場】は先生固有のものだろう。しかし、橘家は龍を殺す力を失ったと聞いていたけれど、どういうことだ。龍殺しと【力場】は無関係なのか?


「そうね。蒼とオレンジ。蒼は貴方の、そしてオレンジは立原の【力場】なのよ。九龍を除いた龍殺しの一族は大半がオレンジ色の力場だわ。その特徴がもろに現れたのがヴァスティオンの一族ということ」


 ラ・ヴァスティオンの一族か……。でも、九龍だけは例外なんだな。あの先ほどまで車で一緒だった沙綾も例外と言うことになる。


「それでも、力が使えないのでしたら何の役にも立たないでしょう。だから、これを授けるために招いたの」


 そう言って曽祖母ちゃんが差し出したのは、1つのモノ。それを見て、俺は絶句した。あれは触れてはいけない、そう思ってしまうほどに、何かの憎悪が宿っている気がした。


「あ、あのぉ。これは?」


 先生も恐る恐る尋ねる。だが、俺にはそのモノの検討がついていた。しかし、それは俺の専門外だ。刀ではないし、ましてや剣でもない。しかし、分かる。


「フュヘルンベッザ」


 そう、そう呼ばれた武器がある。いや、そう呼ばれてしまった武器がある、とでも言い換えるべきだろうか。


「そうね忌憚惨燚(フュヘルンベッザ)。そんな風に呼ばせてしまったのよね」


 そう、それは、立原舞子が現役時代に使っていた武器……ってあれ、なんで俺はそれを知っているんだ?三番隊の中隊長だってこともさっき知ったはずなのに。


「正式名称、WS-450【天使の輪(エンジェル・ハイロゥ)】。時空間統括管理局の武器開発を担当する火野(ひの)海里(かいり)が手掛けた精神攻撃をする兵器と実装備を兼ねた試作品にして、危険すぎると言われた武器だ。特に、サルヴェガーツェ殲滅作戦の時に、敵の全員を戦闘不能にした状態で劫火で焼き払ったのは流石にやりすぎだった」


 ツラツラと俺の口から出る説明。自分でも驚いている。正直に言って知らない。俺の頭の中にない。でも知っている。不思議な感覚だ。


「よく知って……ああ、蒼天の馬鹿(あのばか)の知識、と言うことですか。ええ、間違いなく、その【天使の輪(エンジェル・ハイロゥ)】です。少し改良が加えられて、劫火は出なくなりましたが。その代り小銃として使えます。あの戦いは少しやりすぎたと反省していますよ、流石に」


 おどける曽祖母ちゃん。「そんな怖いものなのぉ」と震える先生。まあ、怖いものと言うよりも適切な使い方をしなければそうやって虐殺できるよってことだ。本来の目的は、対人戦にて相手を精神的誘導で導いてコンボを決めるものだったからな。劫火も目くらましとかの意味合いで入れていたのを勝手にチューニングしただけだし。


「では、はい、鳴凛さん。私のおさがりですが」


 そう言って【天使の輪(エンジェル・ハイロゥ)】を先生に渡す曽祖母ちゃん。




 この後、俺たちはしばらくたわいもない話を続けて、そのまま帰路についたのは夜遅くだった。

え~、配分を完全にミスって2話分です。と言うわけで鳴凛自身とはちっとも関係ない話が多かったですが、次章のための【天使の輪(エンジェル・ハイロゥ)】とかですね。ちなみにエンジェル・ハイロゥは天使の光輪と言う意味であり、真ん中で祈りを捧げて人類をどうこうできる兵器とは何の関係もありません。

 次はイシュタル

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