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《神》の古具使い  作者: 桃姫
恋戦編 SIDE.GOD
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278話:由梨香とデート2

 そうして来た遊園地。俺の予想とは反して、客足はそこまで多くなかった。理由は、昨日までがパレードをやっていた日で、次のイベントは明日から、ちょうどイベントが何もない日と重なったからだ。しかし、逆にそう言う日を狙ってくる客や都合がつかず泣く泣く今日来た人、知らなかった人などで、普通に人はいるようだ。


 さてと、そして、一通りアトラクションを楽しむ。私服の由梨香と言う珍しいものを見ながら昼まで過ごした。


 由梨香の私服は、普通の私服であり、特にこれと言って特筆することはない。強いて言うなら、色味や派手さは少ないが、その辺が何とも由梨香らしいという服だった。黒のスキニージーンズで下半身のラインがくっきり見えるし、黒のインナーに白のオフショルダーのトップスという、シンプルさが逆に色っぽく見える。


「こういったものに乗ったことはありませんでしたが、中々に面白いものですね」


 そんな風に由梨香は言う。全く怖がった様子はない。かなり急なジェットコースターに乗ってもものともせず、シューティングゲームのようなアトラクションでもターゲットを的確に淡々と撃ち、ただ見て回る、と言うおおよそデートで男女が遊園地に行ったときにふさわしくないものだった。本当に面白いと思っていたんだろうか。そんな疑念が頭をよぎった。


「あれほどのスピードを体験するのは師匠に上空から地面にたたきつけられたとき以来でしょうか」


 ……シュピード、あいつの所為か。なるほど、もっとスピード感とスリリングのあるものを体験済みで、シューティングも由梨香の動体視力ならもっと早くても反応できるし、初体験じゃないからこうなのか。


 それにしても、混んでないとはいえ、並ぶアトラクションは並ぶな。これですいてるなら混んでるときはどれだけ待つんだよ。そんなことを考えながら、売店でチュロスを買い、フェンスに寄りかかりながら食べる。


「紳司様、食べこぼしていますよ」


 口の周りを拭いたり、服に落ちた食べかすを払いながら由梨香が笑う。その様子は輝いて見えた。やはり、コイツは根っからのメイドと言うかなんというか……。まるでメイドが天職のようであって、それに縛られているようでもある。中々に厄介だ。


 しかし、そこで、ふと、由梨香の視線が俺ではなく別の何かを見て固まっていることに気付いた。その視線はトイレの方向。最初はトイレに行きたいのかと思ったが、どうやら違う。トイレの前にいる男に目が向いているようだ。


「どうした、由梨香?」


 由梨香がなぜあの男を見ているのかが気になって、声をかけた。由梨香のことだから好みのタイプだったとかそう言うのではないだろう。


「いえ、知り合い……と思しき人物がいましたので」


 俺の方へと視線を戻す由梨香。しかし、いまだにトイレの方を気にしている様子がある。由梨香がここまで何かに気を取られるなんて珍しいこともある。

 そしても向こうも気づいたようだ。一度トイレの方を見てから、こちらに歩いて寄ってきた。トイレがいっぱいで空くのを待っていたのか、それともトイレから誰かが出るのを待っていたのか、どちらかだろう。


「そこにいらっしゃるのは、もしかして桜麻さんではありませんか?」


 好青年……と言うより爽やかな男性だった。おそらく、もう青年の範囲を過ぎているんではないだろうか。20代後半から30代前半くらいの男性だった。


「お久しぶりです、奢倉(しゃくら)さん」


 会釈をしあう2人。どことなく親しいというより、ギクシャクとした雰囲気を感じた。どういう関係だろうか。由梨香は、顔を上げると、男性の左手薬指に嵌った指輪に目を向けていた。


「再婚なされたのですね。おめでとうございます」


 由梨香の言葉に、男性は「あはは」とどこか乾いたような笑いをした。そして、申し訳なさそうな顔で頭を下げた。


「その節は申し訳ないことをした。君の人生に傷をつけてしまったようなものだから。本当にすまないと思っているよ。……ただ、キミも、いい人と巡り合えたようだ」


 そう言って、俺の方を見る。この会話、……おそらくだが、この男性の検討が付いたぞ。なるほど、それで由梨香のこの態度か。


「おっと、初めまして。奢倉(しゃくら)永徳(えいとく)と申します。昔はこれでも教職を目指していたんですが、諦めて、今は出版社で編集をしている者ですよ」


 永徳は、そう言った。へぇ、本の編集ね。ここは俺も名乗った方がいいんだろうな……。しかし、どう名乗ればいいんだろうか。学生だと言えば、きっと変な顔をするだろう。主人だ、と言っても変な顔をするに違いない。さて、どうしたものか。


「俺は、青葉紳司です。学生ですが、由梨香とはこうしてデートに来るような中です」


 学生と言葉を濁している。高校生と言うよりはましだろう。大学生も学生だからな。桜麻さんと呼ぶことも考えたが、仲をアピールするなら呼び捨てで構わんだろ。


「そうですか……。しかし、青葉君は、由梨香の……あのことは知っているんですか?」


 それは、由梨香に向けて言った言葉だった。アレのことってなんだ。いろいろと浮かぶが、どれのことか分からない。


「師のことも、自分の力も、全てこの方には話しています。そして、この方はそれを受け入れてくださいました」


 ああ、シュピードのことと、《古具》のことか。確かに聞いている。しかし、永徳の表情を見る限りそれではないようだ。


「それではありません。メイドのことですよ。キミは誰かに仕えると言っていましたよね。そのことは……」


 ああ、そういうことか。普通に知っている。と言うか、知っていなくてはやっていけないことだろうな。


「ええ、当然。この方は主人ですから。このお方は、自分が仕えるのに十分すぎるひとですので」


 そう言う由梨香は、どこか嬉しさをかみしめるような、そんな表情だった。その表情に何か納得が行ったのか、永徳は苦笑しながら俺の方を見た。


「もうこれだけ話をすれば想像はついていると思いますが、僕は元々、彼女の婚約者でした。諸事情によりこちらの都合で別れました。心配していたんですよ。青葉君もご存じのとおり、桜麻さんは少々変わっていますから、相手が現れるのだろうか、って。でも、青葉君なら安心して任せられそうです」


 そんな風に言う永徳。まあ、なんとなく、真面目そうな男だ。しかし、任されるも何も、高校生の俺にどうしろと……と言う話になる。まあ、こちらも高校生とは言っていないのだが。


「えーとく、どこにいんの?」


 と、その時、女性用トイレから見知った……今朝知ったばかりの顔が現れる。そういえば、彼女も奢倉(しゃくら)という姓だったな。


平稿(ひらわら)さん。すみません知り合いと会ったもので」


 永徳が答えた。しかし、平稿……?俺の聞いた苗字とも名前ともペンネームとも違うんだが……。


「ちょっと、旧姓で呼ばないで。てか、名前で呼んで。……て、おや、少年?もしかして、三鷹丘駅で会った少年ではないかい?いや合縁奇縁とはよく言ったもんね」


 奢倉桜珂、巛良桜丙だ。……ああ、なるほど、平稿が旧姓と言うことは、平を「へい」と読むことで、「へいわらおうか」のアナグラム「かわらおうへい」で巛良桜丙ってことか。


「どうも、サインありがとうございました」


 全然敬っていない態度で、そう答える。しかし、また、偶然にもほどがある。そういえば、永徳が編集で、桜珂が作家、そういう関係なんだろう。そこから恋仲に発展したと考えれば納得できなくはない。


「青葉君と知り合っていたんですか、桜珂さん」


「えーとく、話聞いてる?呼び捨てでいいんよ、あたしのことなんか。てか、敬語もやめてほしいんだけど……」


 そんなやりとりをする彼らを見ていた。それにしても、由梨香の過去、か。聞いたことはあったが、詳細をそこまで聞いた覚えはないな。シュピードとどんな生活をしていた、とかも知らないな。由梨香は自分のことを基本的に話さないからな……。


「……と、由梨香、そろそろ、他のアトラクションを回ろうか。お2人とも、俺たちはこの辺で失礼します」


「では、またいずれ」


 俺と由梨香はそう告げて2人の元を去る。凸凹でありながらも、その凸と凹が上手くかみ合ったいい夫婦だった。


 そうして俺と由梨香は、そのあと、多数のアトラクションに乗り、三鷹丘へと帰った。あの2人があの後どう過ごしたのかは知る由もないが、きっと仲睦まじくやっているに違いない。





 さて、と、それはさておき、少し先の話になるのだが、俺は由梨香とシュピードの関係や日々について触れることとなった。3人しかいないスーパーメイド、その1人シュピード・オルレアナ。最強のメイドと名高き彼女と桜麻由梨香、そして、白咲鞠華と青葉紳由梨(しゆり)。脈々と受け継がれるメイドの魂の連鎖、それらが、どんなものなのか、俺は結局知ることはないんだろう。

 え~、できれば昨日更新したかった、と言う部分が見え隠れしています。昨日は11月22日、いい夫婦の日でしたからね。そんなわけで由梨香の話ですが、丸々次章に投げたシュピードの話は次章できちんと回収するはずです。忘れてなければ……。

 次は先生。

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