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《神》の古具使い  作者: 桃姫
恋戦編 SIDE.GOD
273/385

273話:紫炎とデート1

 昨夜のこと、律姫ちゃんや姫穿、丹月との食事を終えた後、無料通話アプリで、紫炎に「もしかして今日は『偽王の虚殿』とやらを探し回っていたのか?」とメッセージを送ったところ、「そうなんですよ」「訂正」「そうなの」「えっと、唐突だけど夏祭りに行かない?」とメッセージが連続投稿されてきた。わざわざメッセージまで正してため口にしなくてもいいのに。


 紫炎の言う夏祭りとは、この近所で行われる夏祭りのことだろう。別に大きな祭りではないから、京都の祭りとか見ている紫炎には物足りないというかコレじゃない感じがするのではないだろうか。規模で言えば鷹之町市で7月の第一金曜から日曜までの3日間行われる祭りの方が大きいし、人も集まっている。鷹之町市のケーブルテレビでは祭りの様子を中継するなどして、その様子を見ることもできるらしい。


 それに比べれば、遥かに規模が小さく神社の境内に出店屋台が並ぶだけで、神輿が通ることもない。そんな祭りなのだ。


 正直な話、高校生にもなって祭りに行くのはほとんど彼女のいるリア充のデートか、後はナンパ目的とか暇つぶしだろう。まあ、紫炎にちょっかいを出されないように、ナンパ目的のやつらを遠ざけるために、祭りの間は手でも握っておくか。そんなことを考えながら待ち合わせ場所につく。まだ紫炎は来ていないようだ。ここ最近、こんなことばかりなんだが、どうしてだろうか。生徒会のメンバーは、肉を食ったときに約束というか一方的に決められてしまったが、他の面々……律姫ちゃんや紫炎も狙ったように次の日に入ってくる。予定が被ることがないってのは少しおかしい気がしなくもない。


 それにしても夏祭りに姉さん以外と行くのは初めてかもしれない。街灯に寄りかかりながらスマートフォンをいじって紫炎を待つ。姉さんとは、毎回のように一緒に来ていたからな。最後に行ったのは中学2年のときだったか。それ以降は夏祭り自体に行ってない気がするな。

 暇を持て余していると少し年下だろうか、コテコテにメイクをした3人組の女子が話しかけてきた。


「お・にぃ・さん、おヒマ?」


 浴衣……と言うには改造された、最近は市販されていることも多い露出度の高い崩し浴衣だ。丈が短くミニスカートのようになっていたり、袖がブカブカとなっていたり、色も豊富で、普通の浴衣ではなく、ちょっとアレンジして今風にした感じのやつだ。胸元が大きく開いているので、目が自然とそこに向かう。茶髪の巻髪ちゃんが茶色、金髪サイドポニーちゃんがピンク、黒髪清楚ビッチ系ちゃんが黒ベースにピンクの花と帯の浴衣。


「ちょろっと、あたしらと遊ばなぁい?」


 ピアスやシュシュ、髪留め、ネイル、ブレスレットにアンクレットが目に付くが、それらや化粧を差し引いても十分に可愛い素顔だろう。むしろ化粧が品を下げているのではないかと感じる。どことなく、雰囲気的にはいい家のお嬢さんが反抗期思春期に無茶やってる感じがする。


「わたしは、マユミだよ」


「あたしはミヤ」


「私はヤヨイ」


 3人の自己紹介。知人に「ミヤ」と言う同じ名前の人間がいる身としては、たいして珍しい名前でもないし、同じ読みをする人間がいるのはおかしくないことだろうが、まさか、苗字まであそこまで特殊な人間じゃあるまい。あと「マユミ」「ミヤ」「ヤヨイ」でしりとりになっているな、などと言うどうでもいい感想を抱いた程度だ。


「俺は青葉紳司だ」


 勝手に自己紹介をされたが、された以上答えないわけにはいかない。俺の流儀に反するからな。だから、名前だけは答えておいたのだ。


「えっ……」


 ヤヨイと言う黒髪清楚ビッチ系の子が俺の名前に反応を見せた様な気がしたが、他の2人は俺にガンガン絡んでくる。


「そうなんだぁ~、シンジさんっていうんだぁ~。それで、あたしたちと遊ぶんなら、お祭りいこうよぉ」


 あまり絡まれても困るんだがな。それに紫炎を待っているところだし。てか、この3人、たぶんもう祭りに行って帰ってきたところだと思う。口に青のりついてるし。まあ、こういうのはあまり指摘するのはあれだろうから言わんが。


「わたしたちと遊べば、きっと楽しいですよ?」


 茶髪巻髪のマユミちゃんもそんな風に笑っている。まあ、そう言われても先約がある以上、誘いを受けるわけには行かない。だから断ろうとした、その時……


「あ、あの……青葉紳司さんって、あの青葉紳司さんですか?!」


 ヤヨイちゃんが少し興奮気味に、俺に聞いてきた。「あの」って言われ方はこの間の火弥さんたちと同じだが、一般女子に「王子さま」の噂が伝わっているとは思えない。じゃあ、どの「あの」何だろうか。


「あれ、ヤヨの知り合いだったぁ?」


 金髪サイドポニーのミヤちゃんは、「まずった?」みたいな顔でマユミちゃんと顔を合わせていたけど、ヤヨイちゃんはそんな2人言った。


「違うよ、けど、私、知ってるの。私たちの志望校の一般入試でトップだった人だよ。しかもウチの中学の先輩。双子のお姉さんと一緒に中学生で有名大学の数学の入試問題を全て正解できたとかの逸話が残ってるって、喜々とした顔で芳ちゃんが言っていたのを聞いたの」


 あれ、ウチの中学の後輩だったのか。俺が今、高校2年で、この子たちが中学3年ってことなら、俺が中3の時に1年生だったのか。なら、知っていてもおかしくないと思うんだが。


「そうなんだぁ……。そっかヤヨは中二で向こうに行ちゃっ(へんにゅうし)たからね」


 どうやらヤヨイちゃんとそれ以外の2人は中学が途中で違ったらしい。つまり、俺が卒業してからの編入だから俺のことを知らなくても無理はないか。あと、志望校ってことは三鷹丘学園に入ろうとしているのか。それに芳ちゃんとは芳叡(よしえ)芳乃(よしの)先生のことだろう。俺の頃にも「芳ぴー」とか呼ばれていたはずだ。


「それにしてもぉ入試トップってマジぃ?」


 X組と言うもっと凄い奴らがいるからどうにも言えんな。奴らは普通に俺よりも頭がいいはずだからな。リュインちゃんとかナナホシ=カナとか宴とかな。


「一般レベルだがな。三鷹丘学園を受ける予定なら知っているだろうが、X組と言う授業免除生がいるくらいだからな。俺はそいつらなんかと比べるとそこまで頭はよくないと思うよ」


 俺の言葉にあまりピンと来ていないようだが、まあいいだろう。そこまで詳しく説明する義理もないし、もし受かったとしても俺が3年の時に入ってくるなら、あまり接点ができないだろうからな。まだ、夏休みだからミュラー先輩もユノン先輩も学校に来ているが、もうじき、入試関係で忙しくなるだろうし、入試の終わった生徒は自宅学習期間に入るからな。

 そう、三鷹丘学園の自宅学習期間とは、一般的な高校で言う3学期の2月からみたいなものとは違い、入試で受かった生徒から取れる自主的なものだ。そのため、2学期の中盤には、高校で習うほとんどの授業の課程が修了していることになる。特殊科目がある所為でもあるのだが、7限まで授業があるのはそう言ったことも関係しているのだ。


 なお、生徒会の生徒は、基本的に《古具》関連で忙しくなって勉学に集中できないという事情から成績は考慮されるし、指定校推薦も受けられる権利がある。まあ、尤も、ミュラー先輩もユノン先輩も成績に関しては考慮なしで十分なほどに頭はいい。特にユノン先輩は、英語科目2科目以外が5段階評価で5だったはず。評定平均が限りなく5に近い状態だ。ミュラー先輩も現代文、古文、日本史を除いた科目が5。十分に成績優良者だ。


 っと、話が逸れたが、つまりは、2学期中盤以降生徒会に所属していた生徒は指定校推薦を受けた後自宅学習期間になる可能性が高いから学校に来なくなる。だから新1年生とは接点があまりないのだ。


「とりあえずちょー頭がいいってことでしょぉ?」


 いや、だから……あー、もういい。そう言うことにしておこう。一々説明するのが面倒だからな。


「そだ、連絡先(アドレス)こーかんしよっ」


 マユミちゃんがそう言うので、仕方なしに……おそらく交換しなかったらずっと引っ付いていそうだから、交換することにした。


「じゃあ、IDを教えてくれ」


「え~、メンドーだから読み取ってよっ」


 そんなやりとりをしながら連絡先を交換した。3人ともの連絡先を交換すると、彼女たちの苗字と名前の漢字がはっきりとする。


 大森(おおもり)(まゆみ)西園(にしぞの)(みや)北大路(きたおおじ)夜宵(やよい)。これが3人の苗字と名前だ。都宮(みやみや)美夜(みや)と違って、「ミヤ」ちゃんの名前がそこそこ普通で安心したよ。だがそれと同時に「檀」と書いてマユミと読む人はあまりいないんじゃなかろうか。いや、事実建築家とか芸能人にもいるんだが。あとヤヨイちゃんは苗字も名前も凄かった。北大路って、それに夜宵も珍しい。弥生と書く方が一般的だろう。


「あ、わたしの名前、檀って書いてマユミって読むんだよ」


 そんな風にマユミちゃん……檀ちゃんが言ってくる。檀とは木が入っていることからも分かるように木の一種だ。紫檀(したん)黒檀(こくたん)白檀(びゃくたん)などの種類がある。真弓と書くこともあって、昔は弓を造る材料にもなっていた。似た様な木がアルレリアスにもあったからな。


「へぇ、おっと、それじゃあ、俺はここで待ち合わせ中だから、お前らは家で勉強でもしてろ、受験生」


 そう言って、3人を追い払う。いつ紫炎が来てもおかしくないからな。あまりややこしいことにはしたくない。


「じゃあ、またコンドね」


「ではぁ~」


「それじゃあ、また、次の機会に」


 3人が去っていく。俺は一息つきながら、再び街灯に寄りかかる。そして、――


「随分とお楽しみみたいでしたね、青葉君」


 背後……耳元でそんな声がした。背筋のゾッとするような声に、思わず飛びのけざまに背後を振り返った。すると街灯の横に紫炎が立っていたのだ。怖ぇよ、幽霊か、お前は。


「別に楽しんではないんだが……」


「へぇ、連絡先まで交換しておいて、ですか?」


 紫炎の声は、ひどく冷たかった。……さて、どうするか。中々誤魔化せるようなタマじゃないぞ、紫炎は……。

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