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《神》の古具使い  作者: 桃姫
恋戦編 SIDE.GOD
271/385

271話:律姫とデート1

 昨夜、ミュラー先輩と別れてから、無料通話アプリに律姫ちゃんからのメッセージが届いた。その内容は「せ、先輩。少しお願いが……。明日会っていただけませんか?」と言うものだった。可愛い後輩のお願い事だ、断るわけもなく、お昼に駅前に集合と言うことになった。



 駅前は昼前と言うこともありファストフードの立ち並ぶ駅前は結構人が通っていた。この辺の店は大体人でいっぱいになっているだろう。夏休みってのもあるが、普段でも会社員などがいて、この時間は混雑するからな。


 しかし、こうしてここで待っていると、最近、なぜかよくわからん人に会うことが多いからな……、今日はちょっと遅めに出て、割と時間ピッタリに来たんだが……まだ、律姫ちゃんの姿は見えない。


 まあ、少しすれば来るだろう。そう思って、壁に寄りかかりながら待っていると、目の前を見知った顔が通りかかった。これは、律姫ちゃんのお願いの件に関係あるのだろうか、そう考えながら話しかける。


「どうも、お久しぶりです」


 そう話しかけた相手は冥院寺(みょういんじ)姫穿(きせん)と、その夫の真柴(ましば)丹月(たんげつ)。修学旅行中に冥院寺家で会ったように、姫穿は律姫ちゃんの姉である。


「あら、貴方は、青葉紳司君じゃないの。こんなところでどうしたの?」


「ホンマやん。おひさー」


 2人が挨拶をしてきたが、姫穿の物言いからすると、ここで会ったのは偶然のようだ。と言うことは律姫ちゃんの頼みに彼女たちは関わっていないということになる。


「そっか、律姫達もこの辺に住んでいるんだったわね。偶然のバッティングってやつかしら……」


 姫穿はそう呟いたが、俺はその言葉に違和感を覚える。「律姫達」とはまるで律姫ちゃん以外にもこの地に住んでいるものがいるようではないか。


「ごっつ偶然やな。んで、自分、こんなとこで何てんの?」


 本当に何も知らないのだろう。俺はここで律姫ちゃんを待っているのだが、それを知っていたら何をやっているかなんて聞くはずがない。


「律姫ちゃんとデートの待ち合わせでして。もう来ると思うんですけどね」


 そう言って時計を見る。時計は待ち合わせ時間の10分後を指示している。姫穿は律姫ちゃんの性格を知っているからだろう、静かに頷いた。


「なるほど、あの子、デートに気合を入れ過ぎて、気づいたら時間ギリギリでなのに信号に全部引っかかるタイプの子だから」


 苦笑する姫穿。しかし、その言い方だと律姫ちゃんはまるで少女漫画の主人公みたいだな。まあ、女の子にはよくあることなんだろうし、俺のためにそこまで準備してくれてると思うと遅れたことに怒る気はなくなるよな。まあ、元々怒る気なんてないけど。


「それにしてもしっかりとラブラブしてるのね。こっちはこのアホがね……」


 別にラブラブしてるるわけではないんだがな。夏休み中もほとんど会っていなかったし。まあ、そんなことをわざわざ言う必要はないだろう。


「そだ、物はついでだけど、『偽王の虚殿』っていう言葉に聞き覚えはないかしら?」


 偽王の虚殿?聞いたこともないんだが、急に何の話だろうか。俺がその言葉について考えていると、丹月が笑った。


「聞いたことあらへんのやったら、それでええんや。でも、もしかしたら巻き込まれる可能性もあんのやから、ちょっとは説明したろうか?」


 巻き込まれる可能性があるだって?つまり、俺らにも関係のある話ってことだろうか。俺が聞き返す前に姫穿が言葉を返してくれる。


「そうね、今回の一件は司中八家の問題だもの。律姫との婚約関係がある貴方なら巻き込まれても不思議じゃないわ」


 司中八家の問題と言うと、また内部の問題だろうか。天城寺あたりがまた喧嘩ふっかけてきたとか、でも、だとしたら「偽王の虚殿」ってのは何だろうか。


「ああ、八家の問題ゆーても、内部の戦いやあらへん。実は、司中八家の創設者の言葉が見つかってもうての……、まあ、家が変わってるところもあるんやけど、『偽王の虚殿』ゆうんは、八家において、最も有用な、『奇跡』ってやつやねん」


 奇跡だと……それも八家において最も有用な、と言うからには凄いものなのだろう。しかし、「偽」と言う言葉が意味するのは「偽」つまり「本物ではない」。「偽王」は「本物の王ではないもの」と言うことだろう。それに「虚」、「虚ろ」と言う言葉は「ぼんやりとした」とか「さだかではない」と言うことを指す。「虚殿」とは何なのだろうか。


「かつて、九人の王がいたわ。それになぞらえて作られたのが司中九家。しかし、そのうちの一人は偽物だった。だからこそ『偽王』。そして、その王の築いた『神殿』も偽りにして虚像に過ぎなかったのよ。ゆえに『偽王の虚殿』。でも、その『偽王』を殺した八人の王は、後に認めたの。その時代の王は最も強き者にふさわしかった。その王が八人がかりで殺すことのできた偽の王、その力は間違いなく王を越えていると。だから、『偽王』の力を封じてそれを東の地……ここに置いたという言葉を元にここまでやってきたの」


 要するに凄い力を持った奴の力を封印したものがこの地にあるから司中八家が総出で奪い合うわけか。まあ、その力が手には入れば実質、司中八家最強へとなれるわけだから欲しがるのも当然だろうな。


「う~ん、心当たりはないですが、確かに巻き込まれる恐れがありそうですね。律姫ちゃんが遅れているのもそのせいかと思ったんですが、今のところ大きな戦いになりそうなほどの【力場】の変動は感じませんから大丈夫でしょう」


 戦いになるのならば、俺か姉さんが感知できるはずだ。そして、姉さんが動いて解決していないはずがないのだから、おそらく何も起きていないだろう。


「あなたがそう言うのならそうなんでしょうね。一安心かしら。まあ、もとよりあの子の心配はしていないんだけれど。あの子はきっと、まだ、貴方にも話していないでしょうから、こんなことを先に言ってしまうのはちょっと気が引けるんだけど、でも、それで、あの子との仲が崩れるよりはマシよね。

 律姫は……生まれつき、冥院寺の【殲滅】の力を多大に受け継いでいたのよ。それこそ、私なんかとは比べ物にならないくらいにね。触れただけで、物を崩壊させるくらいには、ね。久那さん……母さんは、律姫を産んだときに、【殲滅】の力で体の一部が使えなくなって、長期間、彼女のゆかりの主治医である、えっと、ヴュッヘンハルム=デスディドードと言う男に預けられていて、それで私や律姫は久那さんとはあまりうまくいっていないのよ。その間の面倒は帝が見てくれていたわ」


 なるほど、そう言う過去か、しかし、ヴュッヘンハルム、あいつ、まだ生きていたのか。魔族……いや魔人族だから長命なのは知っていたが、流石に驚きだ。


「そうですか、まあ、ヴュッヘンハルムの治療っていうのは、魔核移植による半魔化でしょうが、あのレルとヴェノーチェの子孫ですからね、耐性は十分でしょう。むしろ、普通よりも長命になっている可能性の方が高いですね。それにしても、【殲滅】でしたか。確か、相手の中に【力場】を作って広げることで内側から壊すものでしたよね?」


 ヴュッヘンハルム=デスディドードとは、人間と魔人のハーツである。そもそも、ヴェノーチェの生きていた時代には、レルの父がヴェノーチェの父である魔王ヴァルガヴィラを下した大戦争において純血の魔族はヴェノーチェを除いて全滅していたのだ。だから、自然と、その時代からいるものでも純魔族ではないものだけとなる。そして、やつは、魔王の幹部でありヴェノーチェとレルが婚約すると財務大臣となったのだ。

 魔族の父は兵隊だったが、人間の母は医者だった。正確に言えば医学者だったそうだ。その母は、魔族の性交……特にどうして人間と交わることのできるのかを研究していた。そして、ある日、負傷した魔族の兵隊を介抱して、その見返りとして性交を行い、無事に子供を得るという、少し異端な生まれをしている。まあ、そこはさておき、その医学者だった母の研究から、やつも医学の知識は大量にあったのだ。


「え、ええ、そうだけれど、あなた、本当に何者?久那さんとは何か関係がありそうだったし、どうにも怪しいのよね」


 訝しむ目でこちらを見る姫穿。俺は、それを気にせずに考える。【殲滅】とは、いわば風船に空気を入れることのできる力、または、空の容器に触るだけで水を注げる力、と言った方がいいか。空気を入れ過ぎて破裂、容器から水があふれる、まあ、そうした理由で、壊れてしまうのだろう。

 だが、普通の風船ではダメでも巨大な風船だったら?コップではだめでもプールだったら?俺のように通常よりも【力場】が形成できるような人間を相手に【殲滅】はどこまで力を発揮するだろうか。正確なところは分からないが、おそらくほとんど発動しないだろう。


「まあ、律姫ちゃんの【殲滅】の力は俺にはあまり効かないでしょうから大丈夫でしょう」


 その言葉に、姫穿は何とも納得がいっていないようだった。まあ、一族に伝わる力が効かないなどと言われたら納得もいかないだろう。


「効かないって、どういう理屈で?」


 不満そうな彼女に、その理屈を説明してあげることにする。別に、説明する義理もないんだがな。


「【力場】の総量を基準に考えれば、おそらく、と言う話です。貴方たちの一族と同様に、俺の一族にも【蒼刻】と呼ばれる力が伝わっているんです。それは、7つの【力場】を体内に形成することで、常人を遥かにしのぐ量の【力場】を形成できるんです。つまりキャパシティは常人を遥かに超えているんですよ。だから、この通常の状態に【力場】を形成されてもおそらく内側から崩壊する量まで届くにはおそらく数日はかかりますね。その間ずっと触りっぱなしと言うこともないでしょうから」


 【力場】が累乗されていくのが【蒼刻】。つまり、1つの【力場】から七乗分の量を出している……つまり、七乗分の量が入るだけの容器があるということになる。そこを1つの【力場】で満たすことは難しいだろう。


「……ふぅん、おもろい能力やな。よくわからんけど、とりあえず【殲滅】が効けへんねんやろ?」


 面白いで片付けられてしまった。丹月は分かっているのか、わかっていないのか、とにかくあっさりとそう言っていた。


「あれ、ね、姉さん、真柴さん?」


 そこに律姫ちゃんがやってきた。

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