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《神》の古具使い  作者: 桃姫
古具編 SIDE.D
27/385

27話:占夏十月の予知

※この文は、ひらがなだけで単調に表現される十月の文を普通調で漢字に直したものです。


SIDE.MAID


 わたしは、今でも思い出します。初めて、彼女、青葉暗音の未来を予知したときのことを。その頃は、1人でも多くの《古具》使いを集めようと、《古具》に目覚めている者、将来《古具》に目覚める者を予知で探していたのです。無論、覇紋様の言いつけで、ですよ?


 断じて、そんな覗きのようなことを趣味にしているわけが無いではありませんか。


 そして、瞳を閉じて、静かに意識を、現実から隔離させます。そうすることで、一度、余計なビジョンを全て排除するのです。青葉暗音と言う生徒だけに意識を全て向けることで、彼女のことを予知する準備が整います。


 ぼんやりと……ぼやけた視界のその先に見えるのは、眩い、光り輝く未来。全てに報われたように思ってしまう、そんなビジョンです。しかし、暫し行くと、瞬時に全てが暗黒に変わるのです。まるで、己が名前を体現するかのように「暗く」、そして、金属「音」だけが響く、おぞましい未来。


 わたしは、恐怖に慄きながらも続きを見るのです。すると、まるで、彼女の体を闇が縛り付けるように取り巻き、それと同時に視界には、ハッキリと刃だけが映るのでした。


 全てがぼやけて見える確定未来の中で、ただ一つハッキリと見えた「黒刃」に、わたしは、もはや見ていられなかったのです。


 ただ、その黒き刃の向こうに刃の神とも言えそうな全身から刃を生やした化け物と、もう一人、麗しい男女の姉弟が見えた気がした……。どこと無く、彼女に似通っているように見える女性と整った顔立ちの男性。


 そして、わたしは、意識を完全にシャットアウトし、気絶するのでした。





 夢、その様な幻想的なものを見ました。朧気(おぼろげ)ではありますが、確実に覚えています。


 蒼い髪をした暗音と言う生徒によく似た女性。服はどこと無くドレスとも洋服とも言える妙な服です。そして、最も特徴的なのが、その腰元に添えられた漆黒の鞘に収められた剣。剣ですよ。長さは、それほど長くありませんが、どこと無く、おぞましい気配が漂っています。まるで、その剣で何人もの人を切ってきたかの様な、怨念の様なものが感じられる気がしてならないのです。


 もう一人の若い男も蒼い髪をしていて、服はどこと無く覇紋様が着るようなスーツに近いものです。ただ、彼もまた普通ではありません。背中には大きな剣を背負っているのです。そちらの剣は、どちらかと言う神々しく感じるほどですね。


闇音(あんね)(ねぇ)、久しぶりだね」


 男の方が女性に話しかけました。闇音と呼ばれた女性は、柔和な笑みを浮かべると、男に軽く手を振りながら言います。


「久しぶり、(ひかる)。それにしても、あんたのその【バルムンク】は随分と目立つわね」


 どうやら本当に姉弟なのか、それに近い関係なのか、どちらかは分かりませんが、そう言った関係のようですね。


「目立つとしてもずっと持っていたいんだ」


 男は、悲しそうな目でそう言います。なにやら大事なものなのでしょうか?バルムンクと言う名前を聞いたことはあっても、どういったものかは知らないのでなんとも言えません。


「父さんの形見、だからね」


 女性もまた悲しそうな目をしています。どうやら複雑な家庭環境が垣間見えますね。


闇音(あんね)(ねぇ)、父さんと母さんの形見、だよ」


 男は、女性に、そう訂正します。早くに両親を亡くされたのでしょうか。わたしもどことなく共感してしまいます。


「ええ、そうね。二人の形見よね。……あたし達、蒼子(あおこ)さんに引き取られてなかったら、確実に死んでたのよね?」


 伏し目がちにそんなことを女性が言います。蒼子さんと言うのは、お二人の育ての親、わたしにとっての桜麻様の様な方と考えればよいのでしょうか。


「うん、だから、俺たちは生きていかなきゃいけないんだよ。蒼衣(あおい)父さんと火々璃(かがり)母さんのためにも、ね」


 そう言って、手を取り合う二人とともに、わたしの意識覚醒をします。

 正直言って驚きました。予知直後に、夢に引き込まれる、などという体験はしたことが無かったので……。

 ただ、どこと無く、わたしにも境遇が似ていて、青葉暗音に似ている女性……、その正体を心のどこかで気にしながらも、今のことは、心の奥底に秘めておくことを決意するのでした。






 また、篠宮はやてと言う生徒を予知したときもまた、通常とは異なりました。こちらの予知では、最初から、全てがクリアに見えたのです。青葉暗音のように「黒刃」だけがクリアに見えるのではなく、全てがクリアに見えるのです。まるで、この未来だけは、すでに不変(ふへん)普遍(ふへん)な絶対法則かの如く、くっきりと見えます。


 一人の少女が、視界に写っています。これは、篠宮はやての予知であるはずなのに、見える少女は、茶髪のショートカットヘアーの少女。正直に言って、わたしの予知で分かる未来は、せいぜい1年、それも1年先となると相当ぼやけて、何がなんだか分からない状況のはずです。しかし、こんなにもハッキリと少女が見える、と言うことは、妹さんでしょうか?


「おかーさん!あれ、あれ!」


 騒ぐように少女は、誰かを引っ張っていますが、この視点が篠宮はやてのものだとすれば、引っ張られているのは篠宮はやてなのでしょう。しかし、「お母さん」と呼ぶ、と言うことは、篠宮はやての子供……ということでいいのでしょうか?


「もぅ、雷無!走っちゃダメよぉ~」


 そんな暖かい、わたしとはまるで違う、暖かな家族の光景に、わたしは、思わず涙が出そうになるのを堪えました。


 そこから、暗転。視界が一瞬暗くなると、様子が一変していました。こんな急なテンポの未来予知は初めてですね。


「いいわ、黒龍(こくりゅう)、あんたと契約を結びましょう」


 先ほどの雷無、と呼ばれていた少女が育った姿でしょうか、わたしとさほど変わらない年齢程度まで育っているようですね。


「ふむ、いいだろう。しかし、分かっているのか?お前は、その代償に、体内は悪魔と化し、力は魔女に匹敵する魔法力を内包することになるのだぞ」


 なにやら、怪しげな会話ですが……劇か何かでしょうか?それにしては普通の部屋ですね……。劇の練習にしては凝り過ぎでしょう。とぐろを巻いた黒き龍とその周囲に発生している暗い雲。到底、そんなものを発生させる装置はこの部屋にはありませんよ。


「分かってるわよ……。でも、そのほうが面白そうじゃない」


 にんまりと笑う彼女は、まるで悪戯っ子の様な雰囲気です。その言葉に、黒い龍は、ケタケタ、低い声で笑います。


「ふっ、面白い。どうなっても知らんぞ。一度契約してしまえば、例え、もう止めたいと言っても、止めることは出来んが、いいんだな」


 黒い龍の言葉にもものともせずに頷く彼女。これは、一体、何の予知なのでしょうか?







 そこでわたしの意識が現実へと戻されました。まるで、強制的に戻されたかのような虚脱感を覚え、わたしはぐったりとしました。







 この様な経緯があり、この学校の人物を予知していると、何かと特別な人間が多いことが分かったのです。


 奇怪で、それでも、世界に無くてはならないパーツ。それが彼女達の様な存在なのではないか、そんな風にも思えてしまうのですよ。まるで、世界を動かしている何かの手によって導かれているかのような、そんな不思議な。



 また、偶然にも不知火家の縁でお知り合いになられた京都司中八家の稲荷(いなり)家の関係者であられた蒼紅(あおべに)瑠音(るおん)様……もとい、瑠音(りゅうね)様によりますとそれらもまた、全てが繋がっていること、だそうです。


「かつて、僕……私の先祖は、神へと至ったのよ。まるで、夢見事の様なありえない会話よね?でも、それは、紛れも無い真実で偽り事ではないのよ。先祖……、かなり昔の先祖だけれど、名前は……、そう、確か蒼天(そうてん)と言ったかしら。蒼海空逆巻立之神あおみそらさかまきたつのかみというのが神としての名前だったと思うけれど。神としての能力は《創生》。固有能力に関しては、その子孫、ようするに私にも同じく引き継がれているのだけれど、《蒼刻(そうこく)》と呼ばれる力がね。そして、世界のどこかに、私と同じく《蒼刻》を継いだ者がいて、その者は、私と同様、何らかの使命を受けているでしょうね。繋がっているのよ、私も、その者も。私の母と【魔眼喰い】の蒼刃(あおば)深鈴(みすず)が繋がっていたように、ね」


 と、おっしゃっていました。正直に言って、ほとんどの意味は分かりませんでしたが、世の中には《古具》使い以上におかしな存在が居るかもしれない、ということは分かりました。


 蒼紅(あおべに)瑠音(るおん)様はちょっと特殊な方でして、体の中に二人の人間が居る状態にあります。瑠音(るおん)様と瑠音(りゅうね)様。覇紋様曰く、《コウ》龍王が瑠音(るおん)様、天狐が瑠音(りゅうね)様らしいのですが……。お二人が入れ替わられるときは、身体も男女それぞれ転換なさるそうです。直に触って確かめたわけではないのでなんとも言えませんが。


 わたしの出会ってきた方には規格外の方が多くいらっしゃるので、なんとも言えませんが、蒼紅(あおべに)瑠音(るおん)様はその中でも上位にいますね。尤も、桜麻様には(かな)いませんが。何でも桜麻様は、幼い頃にスーパーメイドと称される方に「メイド奥義43」他、所作を学び幼くして最強のメイドとなったと聞き及んでいます。全て自称でしたが。


 スーパーメイドの名前は、シュピード・オルレアナ、でしたか?何でもライア・デュースと言う貴族の方に仕えていたとか……。


 まあ、その辺の話は、わたしには理解できないのですが、覇紋様は広く精通なされているようで、よく分からない身分の方々もそれなりに本家の方も許容されているそうです。


 もともと、不知火家にはそう言ったものが多く集まることがあり、《古具》使いについても補助や支援をしていました。その関係もあり、三鷹丘と不知火は深く繋がっているのです。無論、同様に補助や支援をしていた天龍寺家、立原家、蓮条(れんじょう)家なども三鷹丘とは密接に関わっているそうですけど。他にも学園建設に手を貸していた南方院家や花月グループも三鷹丘学園には深い関わりがあるそうですが、《古具》などに関わってきたのは、つい最近のことだと聞きます。


 まあ、このように、この学校、いえ、この地域は三鷹丘を含めどこかおかしいところが多い、と言うのがわたしと覇紋様の見解です。

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