266話:静巴とデート2
昨日、秋世と来た場所と同じショッピングモールの1階、服屋を回りながら、俺と静巴はしばらくゆったりとしていた。フードコートの下、モニターの設置された休憩スペースの椅子に腰を掛ける。このスペースはイベントの時に用いられるが、何もないときはモニターとテーブル、椅子が並んである休憩スペースなのだ。
「いや~、まったりするのも悪くはないが、しっかし、割と混んでるよな」
特に何があるわけでもないのに結構混むのは秋世とのデートの時にも言ったように、夏休みだからと言うのに加え、外国人観光客が団体で買い物に来ていることもあるので、混んでいるように感じる。特に、この休憩スペースの前がバス停なので、そこを利用することもあってか、この周辺は妙に外国人の出入りが多いのだ。
「仕方ありませんよ。信司も三鷹丘に住んでいたら分かるでしょう?みんな、この辺に買い物に来るんですよ、休みはね」
まあ、三鷹丘から10分程度で電車で来れるからな。逆方向に20分か30分ほど行けば千葉市につくんだが、それだったらこっちに買いに来る方が多い。そもそも、基本的なものは地元でも揃うから遊びに行くって時に、お金のあまりない中高生が利用するのは近場になるんだよな。まあ、遠出する奴もいるけど。
つーことは、何か?明日からのユノン先輩やミュラー先輩もここに来ることになるのか。流石にそれは勘弁してほしいんだが。
「そうだ、飲み物くらい買ってくるか。何がいい?」
俺は静巴にそう聞いた。お茶か水だろう。それも紅茶かレモンティーだと思う。俺はそれに合わせればいいかな。
「なんでも構いませんよ。信司にお任せします」
にっこりとそう告げられた。ぶっちゃけ、女の子の「お任せします」や「どっちがいいですか」は当てにならない気がする。自分の中で答え決まってるのに聞いてくるし、まあ、静巴なら、大体の思考が読めてるからいいんだけどな。
「分かった。じゃあ、ちょっと買ってくる」
そう言って、自動販売機の元に行って、何があるか商品を確認する。正直言って、あまりいい品ぞろえではない。小さいサイズのコーラや水、お茶などがある感じだ。正直言って、もうちょっといろいろと並べてもいいと思う。
まあ、紅茶とレモンティーがあったので、その2つを買った。主観だが、自動販売機でレモンティーは割と500mlのペットボトルで売ってるが、ミルクティーは150mlの小さいサイズが多いと思うのは偶然だろうか。いや、おそらく偶然なんだろうが……。
その2つを手にして、俺は、静巴の待つテーブルへと戻ってきた。俺は、静巴に向かって、紅茶とレモンティーを見せて聞く。
「どっちがいい?」
残った方を俺が飲む。おそらく、レモンティーを選ぶんだと思うが、俺に気を遣う可能性もあるからな。
「じゃあ、レモンティーで」
ああ、やっぱり。ここで、俺は、ふと、思いついた。昨日学習した秋世の《銀朱の時》を使ってみよう。
誰も見ていない、気に留めていないのを確認して、俺は手に持っていたレモンティーを静巴の前に転移させてみる。
わずかな光量で、薄赤く光って、手に持っていたペットボトルが静巴の目の前に現れた。……これ、割と体力使うな。クッ、秋世はこれを消費無しに使えるとかズルすぎだろう。
「信司、これって秋世の……?」
こりゃ、実戦では、本当に緊急時の回避にしか使えなさそうだな。しかも疲労が残るとなると、結構分が悪い。俺の力が神の力ではなく悪魔の力とかだったらソロモンの72柱からバティンあたりの力を使えば瞬間移動できるんだろうがな。
「ちょっと学ばせてもらったんだ。俺の中にある【幼刀・御神楽】の自動学習能力を刃主一体で俺に体現させてるからな。何度か体感すれば、大体物にできる」
流石に全てを一度に学習することはできない。が、体感するたびに精度は増すだろう。何度か秋世の転移を体感すればさらに能力が向上する違いないんだが。
「なるほど、刃と1つになれる力ですか……。信司の物だと、もう、大半は回収済みなんですよね。残ってるのは【時雨落とし】くらいですか」
鋭いな。しかもその通り、しかし、あの子を回収するつもりはない。現役で、【血塗れの月】が使っているのだから。
「その通り。まあ、今の持ち主が思いっきり使ってくれてるだろうから、回収しないけどな」
そんなとき、モニターに映っていたニュースで新しい話題に切り替わる。そのニュースは、駅前に落ちていた新聞にも載っていた、北海道での高校生3人の行方不明に関するニュースだった。なんでも学校に行っていたはずの生徒3名が昼休みの間に行方不明になったのだそうだ。
今のニュースでは、その行方不明になった生徒の苗字を公開していた。勇大、七峰、姫咲の3人。七峰ってウチの関係者何だろうか。その辺は母さんに聞けば何か分かるかもしれないな。
「勇大……、姫咲……。どちらも明治時代の名だたる華族だった家ですね。」
そんな凄い家柄なのか。しかし、どこかに引っかかる。姫咲ではない。勇大と七峰、この2家だけにはどうも引っかかって仕方がない。
「でも、そんな有名な家の人間が行方不明になった割には騒がれていないな。無論ニュースでは取り上げられているが、それ以上のことはあまり大きな動きがなさそうだ」
普通、大きな家の人間に何かがあるとゴシップ記事で脚色されまくって掲載されたり、ネットをにぎわせたりするものだ。
「情報統制と言うより、圧力でしょうか。完全に変な噂が立てられないようにあちこちに手をまわしているんでしょうね」
その辺は、流石は大企業の娘である。詳しいようだ。しかし、そんなことをしてまで情報を隠すのは家のためだけなのだろうか。なんかそれ以外のこともある気がする。それとなく母さんに聞いておこう。そう思って、静巴に断ってから母さんにメッセージを送っておいた。返信不要、家で詳細を聞くと書いておいた。
「どうにもいろいろありそうな事件だな。いや、自分の意思で失踪した可能性もあるから事件とも限らないのか。とにかく、裏がありそうだ」
俺はそう呟いてから、このくらいで休憩をやめて静巴と共に店内を回ることにした。
そのあと、夜までデートをして、晩御飯は、残念ながら静巴の都合により一緒に食べれないとのことなので、そこまでで解散した。
そこで俺は家に帰ると、母さんが待っていた。どうやら、昼に連絡した北海道の行方不明の一件だろう。
「紳司君、例の話とそして北海道の行方不明の話、その2つについて話します。少し来てください」
例の話というのは、9月に控えた、例の戦いのことだろう。それについても話があるということは、天龍寺家から話があったようだ。
「分かった」
俺と母さんは、リビングに行くと、母さんがお茶を入れて持ってきたので、椅子に座って話すことになった。
「それで、例の件ですが、やはり、暗音さんには秘密にしておいた方がいいというのが、青葉家の見解で、それに皆が同意する形となりました。本当は巻き込みたくはないですが、両名の関係者にも被害が及ぶ可能性も考えて、三鷹丘学園の生徒会や古具使い、そして鷹之町第二高校の古代文明研究部などの人間には、事件の際に同行していただくことになると思います」
もともと、全員が協力するようにする予定だ。それにしても、かなりの人数に
なるだろうな。
「そして、北海道の行方不明の件ですけど、七峰織、遠縁の親戚過ぎてほとんど交流はありませんでしたが、それが行方不明者の1人です。そして、一緒に居なくなったのが姫咲百合花、勇大――」
なっ、何だと……。そうか、そう言うことだったんだな。だから、俺は勇大と言う名前に、「勇者たる偉大な英雄」と言う意味を感じ、そして、引っ掛かりを感じたんだ。
「なるほどな、そりゃ、大した偶然ってもんだな。ってことは、本当に異世界にでも召喚されて勇者にでもなってるんじゃないかな」
あいつのことだ、有り余る正義感に身を任せて勇者として姫も一緒に行った女の子も惚れさせているに決まっている。
「どうやら、何か関係があるようですね。まあ、いいでしょう。とにかく、今日伝えたいことはそれで全部です」
「ありがとう、母さん」
俺は母さんにお礼を言うと考える。あいつのことだから無事だとは思うが、問題は菜なん峰織だ。こういった流れだと、おそらく、彼が主人公のようなポジションだろう。異世界に巻き込まれて召喚されて、勇者とは別行動をして無双する、そんな感じ。
「まあ、あいつは平気だろうし、七峰織もきっと大丈夫だろう」
そう結論を出したところに、無料通話アプリに通知が入る。発信者はユノン先輩だった。どうやら、明日はユノン先輩のようだ。
え~、久しぶりの投稿となりました。申し訳ありません、宿題にラストスパートをかけていました。さらにもう大学が始まるという。もう地獄ですね。単位も落としました。
夏休み前と同じペースくらいで更新することになると思います。




