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《神》の古具使い  作者: 桃姫
恋戦編 SIDE.GOD
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264話:秋世とデート

 鷹之町市の中心にあるショッピングモールは、流石に夏休みだけあって大盛況だ。いや、夏休みじゃなくてもいつも混んでるんだがな。特に土日は混んでいることは多い。映画館も隣にあるし、ゲームセンター、それから服とか雑貨とか、いろんな店があるのでデートするのにさほど困ることはないと思う。鷹之町市の中でも特に空港に近いため外国人観光客も多いが、そんなもの、この辺に住んでいては一々気にしていられない。まあ、観光客というか買い物客だがな。


「それで、どこをまわろっか?」


 俺の問いかけに、秋世はまだ呆けたままだった。いい加減にしっかりしてほしいんだが、秋世だから仕方がないか。


「とりあえず、服とか……っつてもな、お前の来てるやつ、確か、ブランドのやつで一着十万位するやつだろ?バッグも高級ブランド、確か、財布も同じブランドのやつだったはずだし、イヤリングとかのアクセサリくらいしか見るの無いんじゃねぇの?」


 バッと俺の方を見る秋世。なんだ、さっきまで呆けていたのに急に反応がよくなったな。よすぎて逆に怖いレベルだ。


「よくわかるわね。男の子でそこまで服とかブランドに詳しいとは思わなかったわ。その辺は王司君とかも疎い子だったし」


 まあ、姉さんがいるから嫌でも詳しくなる。あの姉さんでも、女性ものの雑誌は買ってるし、あと、母さんがこないだ持ってた本にも秋世の服に似た様なのあったしな。


「まあ、な。それで、どうするよ。もっと向こうに行くと、かばんとかもあるだろうけど、それより奥になるとメンズのスーツばっかだしな」


 逆方向に進めば、女性向けの服なんかもあるだろうし、あとは眼鏡ショップとかスポーツ用品店もある。もっと奥まで行けば楽器とかの音楽関係、フードコート、裁縫、本屋、ゲームセンターなどがある。下の階に降りれば、他にもいろいろあるんだがな百円均一とか。


「別にどうでもいいわよ。でも、もうお昼だし、先に昼ご飯にしない?これよりも遅くなるとフードコート混むでしょ」


 微妙に庶民的だよな。まあ、先に飯にするのには賛成だな。いや、まあ、あまり腹減ってないけど。だって、朝食ったの9時だぞ。


「そうだな。つっても何食べるんだ?ラーメンとかそばとかハンバーガー、あとはたこ焼き、アイス、ドーナツとかだぞ?」


 確かそんな感じのラインナップだったはずだ。まあ、無難なのはハンバーガーだよな。普通に考えて失敗はないはずだ。そもそも、俺、外でラーメンとか食わないし、料理も基本母さんが家にいるから外で食べることは滅多にない。それこそ、パーティだのデートだのはこの年まで無縁だったからな。


「ハンバーガーっつてもあれでしょ、だったらそれでいいんじゃないの?アメリカにも普通にあったし」


 そらあるだろ。まあ、秋世がそれでいいなら、俺は文句を言わんが、こんな庶民的でいいんだろうか。別に庶民に憧れてたとかいう生粋のお嬢みたいなことは言わんだろうし。ましてや「このようなジャンクフードは初めて食べます」とか言う感じでもないからな。


「んじゃ、ここは私持ちで」


「いや、こんくらいなら俺がおごる……って言いたいが、そう言いだすといつまでも決着がつかない譲り合いが続きそうだから、普通に割り勘でいい」


 そう言う結論を出しながら、片方が買いに行って、片方が席を取るという効率はいいがデートとしてはどうなのか微妙な選択をした。


「それで、どっちが買いに行く……って、まあ私でいいわ。何頼むの?」


 この辺は秋世だからできる軽いやりとりである。俺はいつも通りの物を頼むとしよう。この辺も普通はデートならこじゃれたものを頼むだろうが、相手が秋世だからだ。いつものってのは、ミランダちゃんと会った日にも頼んでいた、


「チーズバーガー、ハンバーガー、ダイエットコーラのMサイズ、それぞれ単品で」


 この組み合わせである。俺は、妙に丸い穴の開いた赤い壁の近くの席を取ると、そこに座って秋世を待つ。エレベーターからも近く、近場にアイスの店とドーナッツの店が並んでいるので昼になるとちょっと空き気味になるからな、この辺。


「誰もいなかったからすぐに買えたわよ。ほら、ハンバーガーとチーズバーガーとダイエットコーラのMサイズ」


 そう言って、トレーごと渡して来る。秋世は、ダブルチーズバーガーのようだ。飲み物はなし。喉が渇かんのか、こいつは……。

 そうして、ハンバーガーを食べ終えた頃、秋世は、一息ついて、急にこんなことを言い出した。


「ねえ、紳司君。今日の話、いろいろ有った話、たぶん……おそらくだけど、つらい戦いになると思うわ。あなたが思っているよりも、ずっとね」


 9月にある【天兇の魔女】の襲撃の話だろう。俺と姉さんが狙われているっていう、あの話。だが、詳細はほとんど分からないはずだが、秋世はなぜ、そう断言できるのだろうか。


「今まで、清二さん、王司君と見てきたけれど、決まってそうだった。――高校二年の夏か、それより少し後に、大きな事件に巻き込まれる。

 そもそも、《古具》に目覚めるのが決まって同じように……運命であるかのように高校二年の時なのよ。そして、徐々に事件に巻き込まれて、この時期になると清二さんはダリオスとの戦い、王司君は白城王城との戦い、と死を覚悟しなくてはならないほどに危険な戦いに直面している。そして、おそらく紳司君、あなたも……」


 デート中にする話じゃねぇよな。まあ、いいけどさ、父さんや母さん、それにじいちゃん、ばあちゃんがどんな高校生だったのかは知らないし、高校の時にそんなことをやっていたってのも初耳だが、しかし、命を懸けて、なぁ……。


「でも、じいちゃんも父さんもそれを乗り越えているんだろう?だったら俺も乗り越えるまでだ」


 不安はある。父さんは、サンダルフォン……【断罪の銀剣(サンダルフォン)】のサルディア・スィリブローがついていたし、じいちゃんは、聖大叔母さんがついていた。無論、俺にも最愛の刀達がいる。秋世の《銀朱の時ヴァーミリオン・タイム》も不完全ながらに学習した。おそらく距離、数に完全に制限がある限定的なものになるだろうが、緊急回避用に使えると思う。

 でも、決め手に欠けるのは事実だ。俺の手持ちは、全てが一撃必殺と言えるほどに威力が高いわけではない。《神々の宝具(ゴッド・ブレス)》による武器は、攻撃力こそ高いが、それでも必殺の一撃を秘めていない。俺の武具はあくまで倒すためにあり殺すためには存在していていないのかもしれない。ただ、神の武器の中にもまさしく殺すための物と言うのが無いわけではない。しかし、それを使えるかは分からない。


 姉さんは、あの《古具》は、姉さん自身が全てを「切り殺す」を体現できる存在になっている。だから、殺しうる力を持つだろう。


「紳司君、あなたは、話を聞く限り、歴代の……王司君や清二さんとはタイプの違う《古具》を開花しているわ。2人のは、固有の……だからこそ最強ともいえる力を持っていた。《死古具》と《聖剣》や《勝利の大剣(フラガラッハ)》なんてね。1つだから必ず強いというわけではないけど、おそらく、多様性が効かない分火力が高く設定してあるんだと思うわ。でも、紳司君のは多様性が効くわよね」


 その通り、姉さんのも多様性が効くと言えばその通りだが、姉さんの場合は「切り殺す」と言う概念に縛られているからな。だが、俺のは違う。神と言う概念にこそ縛られているが多様性……幅が広すぎる。だから、決め手に欠けている。


切り札(ジョーカー)、そう呼べるものが1つでもあなたにあるのなら話は別よ。でも、きっと、ないんでしょ?」


 流石はよくわかっている。そう、ない。武器も技もあるが決め手はないのだ。そして、さっきも言ったが、デート中にする話ではないだろう。


「俺の《古具》は確かに決め手に欠けるだろうな。だが……」


 一瞬、脳裏をよぎるイメージ、輝かしき剣、厳かな槍、龍王と呼ばれた神から奪われた棒、巨大な大槌、破壊をもたらす投擲武器、などなど。分かる、今の俺には、イメージしたものを呼び出せるだろう。

 《不敗の光剣(クラウソラス・ヌアザ)》、《必中の帰槍グングニル・オルディナ》、《自在の金昆(ニョイ・キンコボウ)》、《粉砕の大槌(トール・ハンマー)》、《必滅の投具(ブラフマー・ストラ)》。


「1つ1つが弱かろうと、数は武器になる。あらゆる神の力が、ぐるりと周りを取り囲んだら、おそらく、異常とでも言うべき力の持ち主でもない限り、負けることはないと思う。

 分かっているさ、今度の敵が、その異常と言うべき力の持ち主だということはな。でも、それでも、俺にはこの力しかない。神から貰った祝福しか」


 ゴッド・ブレス、神々の宝具、神々の祝福によってもらった宝具。全ての神の力を使うことができる力。


「ええ、分かっているわ。人が2つ目の《古具》に目覚めるような異例はないってことはね。でも、このままじゃあ、あなたは死んでしまうわ。

 死んじゃ、嫌なのよ……。今更生徒だからとか、子供を心配するのは大人の役目とか、人が死ぬのを見たくないとか、そんな言い訳はしないわ。あなたを……あなたを――愛しているから、死んで欲しくないのよ」


 知ってるさ、秋世の思いの大きさは。茶化しても茶化しきれないほどに大きな秋世の思いは、おおよそ俺に届いていた。俺も秋世が嫌いなわけではないし、その気持ちが教師が生徒に対して抱く愛情などでないことなど分かっていた。


「秋世、俺はさ……お前が好きだし、俺もお前に死んで欲しくないと思ってる。この感情はきっとただの愛情だと思う。嘘偽りなく、本当にだ」


 その言葉に秋世の眼に涙が浮かぶ。悲壮ではなく歓喜の。しかし、俺は、まだ、秋世を選んではいない。選びかねている、ともいえるだろうか。好きだが、決めてはいない。


「ま、そういうことだからさ。こんな暗い話はやめて、店を見て回ろうぜ。せっかくのデートなんだからさ」


 俺は秋世の手を取りそう言った。



 そうして、秋世と夜までデートをした。店を見て回り、夕食には、少し遠出をして夜景の見えるレストラン(仙台)で牛タンを食べて、そして、明日の静巴とのデートもあるからと言うことで、「ホテルに泊まろう」と騒ぐ秋世をなだめて、帰宅したのだった。

 え~、遅くなったうえに、デート話なのに肝心のデートがほぼ全面カットって……。まあ、本当はいろいろある予定だったんですよ。仙台の牛タンもその1つです。いや、ぶっちゃけ、仙台と牛タンである必要はなかったんですけどね?

 前々回の肉の話の続きって感じで、夕食も肉にしようってことになって、で、なぜか作者の適当な考えでこうなりました。

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