263話:大事な話
連続投稿2話目。この話を先に開いた方は1話お戻りください。
「青葉君、と言ったか。君は、あれかい。王司君の息子さんか何かかな?」
鮮やかな紅の髪をした女性が、どことなく男性っぽい口調で、俺にそう問いかけてきた。たぶん、彼女が天龍寺深紅、先代天龍寺家当主だろう。にじみ出る【力場】が相当な強さだと教えてくれる。
「ええ、王司は父です」
俺の言葉に、天龍寺家一同が頷いていた。両親も祖父母も知り合いだということは知っていたので俺のことを知っているのはさほど驚きではない。
「と言うか、秋世姉。青葉の子息をひっかけようとしていたのか……」
そう言ったのは50歳くらいだろうか、そんな感じの男性だった。おそらく秋世の弟の秋文さんなんだろうけど、姉妹嫁娘がこんなに若いのに1人だけ年を取るのはどういう感覚なんだろうな。
「ち、違うわよ。と言うよりも、急に家族会議だなんて姉様、なにかあったのですか?」
秋世が秋文さんに否定を入れつつ、彼方さんに問いかけるが、彼方さんはチラリと、深紅さんの横の女性の方を見た。
「今日の招集をかけたのは私です」
そう言った赤みがかった髪を持つ女性。おそらく秋世の母、天龍寺紅紗さんだろう。公式発表では、夫の秋男さんはすでに亡くなっているそうだからな、この場に秋文さん以外の男性がいないのも納得できる。
「母様、なぜ、招集を?前回の会議からさほど時も経っていませんし、なにか、そんなに急がなくてはならないことが起きたのでしょうか」
秋世の問いかけに、紅紗さんが真剣な顔で、俺と秋世に、まず席に着くように、と言った。俺たちが席に着いたのを確認すると、紅紗さんが自分の背後に呼びかける。
「さあ、これで揃いましたが、貴方がやってきた意味を話していただけるんですよね」
誰かがいる。先ほどまで完全に気配を……【力場】を絶っていたが、この感じ、俺は知っている。深紅さん以外の皆が驚いていることから、2人以外は「彼女」のことを知らされていなかったのだろう。
「ああ、くくっ、つくづく縁があるな。この間の【最古の術師】と魔法少女独立保守機構の決戦以来かな。青葉紳司よ」
茶髪を揺らし、出てきたその女性。腰には連星刀剣が一振り、《五星剣》がさしてあり、間違いないと確信させられる。
「世界管理委員会No.5、篠宮液梨さん」
俺は、その名を告げていた。本当に縁がある。しかし、なぜ、彼女かここにいるのだろうか。
「あら、この人物をご存じ?流石と言うかなんというか、実在することも、前回の会議で秋世に知らされて初めて知ったほどなのですが」
俺も同じようなものなんだけど、その後の関わりが段違いで多いだけで。それにしても、そういえば、深紅さんも紅紗さんも世界管理委員会の実在を知らなかっただけで噂に聞いていたというのだから驚きだ。
「……む。そういえば、生まれたという報告を受けたときはさほど気にしなかったが、紳司と言ったか?オレの聞き違いでなければ、なんだが」
それがどうかしたのだろうか。俺の名前に何かあるのか。深紅さんの言葉で紅紗さんも何かに気付いたようだが、
「舞子、その娘の美園と婚約者の清二、その孫の王司と婚約者の紫苑、そして、曾孫の紳司……。クハッ、ハハッ、いや、失礼。そういうことか。なるほど、無双さんの言っていたのはそういうことかよ。まさか、本人に会える日が来るとはな、六花信司」
ッ、俺の前世の名前を知ってるだと……。どういうことだ。この人は、一体何者なのだろうか。
「まさか、あの……【幼刀・御神楽】を打った、ライア・デュースに刀を打つように頼まれた、あの六花信司だというのですか」
【幼刀・御神楽】やライアのことまで……。この2人は、おそらく、この【力場】のことも考えて、普通の存在ではないことは確かだ、それこそ、魔法少女たちとかその辺の存在と同種の……世界渡航が普通と考えているようなそんな人種の気配だ。父さんやじいちゃんなんかよりも何倍も濃い、異世界の気配を身に纏った、そんな……
「流石は元三門と副隊長。どこでその情報を手に入れたのかはしらないが、彼はおそらく通常の存在とは異なる存在だ」
三門と副隊長、その言葉で思い立った。時空間統括管理局。俺の前世の時代にできた組織。その中に烈火隊と呼ばれる組織がある。そこの隊長は「門」と呼ばれる。
「なるほど、時空間統括管理局の人間か。それも烈火隊。元、と言うことは現役じゃないんでしょうけど」
俺の言葉に、深紅さんと紅紗さんは苦笑を浮かべていた。そして、液梨さんが、静かに息を吐いて、俺の方を見ていた。
「まあ、いい、君にもいてもらった方が話が早いだろうからな。
私が天龍寺家の人間にコンタクトを取ったのは、もうじきこの世界に恐怖が訪れるからだ。本当は、No.0が訪れる予定だったのだが、少々彼女は病んでいてな。それで、この世界において、局の人間がまとまって動いているのはここくらいの物だったのでな。後で立原の家で舞子……君のところの中隊長だった彼女にも話を通しておこうと思っていたんだがな」
何やら、世界規模の話らしい。どんな話だろうか。舞子と言うのは曾祖母の名前である。
「恐怖が訪れる、ですか。まさか、【終焉の少女】がやってくるわけではないでしょうし」
紅紗さんの言葉に、俺はどう反応したものか困った。姉さんの前世の……前々世の妹だという彼女のことは俺も聞いているからな。
「いや、それが敵にまわっても厄介だろうし、うちのNo.12あたりに任せてはいるが、それとは別だ。【滅びの刻を待つ者】が……【天兇の魔女】が世界を崩壊させるために動いているらしい」
俺の胸の奥でドクンと音を立てるように脈が打った気がした。だが、その正体は分からない。とにかく、話の続きを聞こう。
「しかし、今回の一件、我々はほとんどうごけそうにない。これと同時に併発した、【第一未完成人形】の一件で出張しにほとんどの人員がそちらに向かっている。私もこの後行く予定だ。だから、頼みに来たのだ。この世界を救いたくば、戦うしかない、と。今回の敵の標的は2名に絞られているだろう。その1人が君だ、青葉紳司」
俺は標的?つまり、俺を狙ってくるってことだろう。しかし、なぜ俺を狙ってくるのか。
「つまり、その一件で、彼が狙われているから、天龍寺家で守ればいいのでしょうか」
討華ちゃんがそんな風に発言したが、おそらく守るのではないのだろう。液梨さんは首を横に振った。
「守るのではない、返り討ちにするのだ」
やはりか。と言うか、守るだけなら、別の世界に……それこそ、安全であるはずの世界管理委員会と一緒に行動をすればいいだけだ。それをわざわざこんな扱いにするということは、敵に立ち向かわなくてはならない事情がある。それもこの世界で、だ。
「この三神に好かれた地で、君と暗音の2人を……その力を手中に収めようとしてくるはずだ。そして、彼女の邪悪さは、おそらく、実際に行動しなくては気が済まないだろう。No.0曰く、死んだ人間に執着し続ける妄執に憑りつかれた女らしいがな」
死んだ人間に執着する、か。俺や静巴のように転生したのでなければ、ずっと失い続けることになる。前世で静葉が死んだときの俺のように抜け殻になるか、それとも死んでないと思い込んで探し続けるか、俺が前者、天兇の魔女が後者なのだろう。
「この件は、《チーム三鷹丘》で行動することになると思いますが、彼方さん、通達はできますね」
紅紗さんが彼方さんにそう告げると彼方さんが頷いた。
「はい、この件は私たちもどうにかしようと思います。しかし、彼、清二君の孫の紳司君はともかく、もう1人の素性が分からないことには……」
そうか、そういえばだが、結局のところ、液梨さん以外から姉さんの名前は出なかった。ここでも姉さんは認知されていないんだろう。それが、夢幻の力と言うやつらしいのだが。
「その辺は後回しだが、青葉紳司、暗音には、決してまだこのことを話すな。あの無鉄砲さなら、1人でカチコミに行きそうだからな。話すのは、せめて、この世界で9月に入ってからにしろ。奴が動くのも、推測だが、この世界の9月の第2週だと思われる」
あ~、姉さんならあり得なくはないな。しかも止めても絶対に聞かないだろうし。まあ、仲間は中々に心強いし、姉さんチームがいれば俺たちも心強いから、個人行動は確かに慎んでもらった方がいいし、黙っておこう。
「分かった。しかし、当日の行動は、おそらく、チーム三鷹丘と三鷹丘の生徒会……いや、俺の仲間と言った方がいいか、生徒会じゃないのもいるし。あと鷹之町側の協力の大人数の行動になりそうだな」
しかし、姉さんチームの協力はあった方がいい。何せ、あの【終焉の少女】も仲間なのだから。
「暗音チームということか。そちらの戦力はどの程度だ」
えっと、姉さんのチームと言えば……
「鷹月輝、七鳩怜斗、恐山讃、不知火覇紋、占夏十月、染井桜子と言った《古具》使いと、あと……確か、先月末だか今月頭だかにいろいろと有ったっていう佐野晴廻。あと、青葉零桜華と【終焉の少女】だ」
途中まで知らない名や知っている名(主に不知火など)などについて考えていた一同が、最後の【終焉の少女】に全て意識を持っていかれたようだ。
「待て、【終焉の少女】、だと。……まあいい、お前たちに驚くのはもうやめる。何があっても驚かんさ。まあ、と言うわけで私は、世界を渡るとするさ」
そう言って液梨さんは消えてしまった。残された天龍寺家の面々は、驚いたような顔をしてぼけーっとしていたが、どうやら、話はこれで終わりのようだ。ならば、まだ午前のうちだし、時間はたっぷりあるな。
「さて、話は終わったようだし、あとは、彼方さんや深紅さん、紅紗さんにお願いできますよね。ほら、秋世、行くぞ」
呆けている秋世を引っ張ると、秋世は、ポカンとした顔をしていた。
「行くって、どこに」
こいつは何を言っているんだろうか。
「どこって、デートに決まってんだろ。そう言う約束だったじゃないか。嫌なら別にいいんだが……」
「うわっ、行くって、嫌なわけないじゃない。と、と、言うわけで、これにて私は失礼します。姉様、母様、叔母様、あとはよろしく頼みました」
え~、遅くなって申し訳なかったのですが、これは話の区切りがつかなかったので7000文字程度なら1話として投稿しようと思っていたのですが、8000文字越えたので2話に分割しました。その関係で連投です。
今回、デートだけではなく、家の話を挟んだのは、むろん、次の章への物語と言うこともありますが、秋世だけ家を掘り下げていないんですよ。前世とかにも関係しているわけではありませんしね。
市原家は京都編で、ミュラーの事情は聖剣編で、静巴は前世の話をあちこちでしているのに秋世だけ何もないのは少しあれだったので、それに次章で急に深紅さんたちが仲間面で「よう、オレは天龍寺深紅だ」とか出てきても急に誰だコレってなるじゃないですか。そんな感じです。なので秋世のデートは次の話からですね。




