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《神》の古具使い  作者: 桃姫
覇紋編 SIDE.D
259/385

259話:すれ違う朱

SIDE.HARUE


 全てが終わった。眩い光の粒子となって、邪神は空へと消えていく。雪が逆向きに振っているような、そんな幻想的な光景に、あれだけ異形で禍々しいものがこんな神秘的に変わるのか、と感嘆しながら息をついた。(かたわ)らに、、先ほどまで上空で圧倒的に無双していた女性が降り立った。


 真っ黒なドレス、デコルテシースルーのそのドレスは、先ほどまでの鬼神の如き女性が扇情的に見えるほどに大胆だった。そして、結っている蒼色の髪と外国人のような蒼色の瞳。それらは整った顔立ちの彼女によくあっていて、その美しさは人形のようであり、誰もが手を伸ばすことを拒絶しそうな、そんな美しさ。


 こちらを一瞥して、彼女は闇夜に消えていく。まるで夢でも見ていたかのように、そこには何もいなかった。彼女が、覇紋さんの言っていた「青葉暗音」と言う人物なのだろうか。まあ、おそらくそうなんだろうが、それにしても強かった。


 邪神の徒を10体、軽々と倒し、そのまま、邪神を切り裂いてしまった彼女の強さは、私たちよりもはるかに強く、まるで御伽噺や神話のようなそんな強さ。彼女は、そんな強さを持っていて、されど、覇紋さんと同じ学生。なぜ、あれほどの力を持って、学生などと言う立場を保っていられるのか。普通は、もっと暴れたり、学校に行かずにいろいろとやったりしそうなものだけど。

 こうして、邪神との戦いは、幕を閉じた。7人目の勇者が、全てを終わらせてくれて、私たちの邪神との戦いは終わりを告げた。






 それからは、慌ただしかった。ヨーコさんの魔法でゲートを開いて、向こうの世界とつないで、第零師団の面々は帰っていった。私も彼らや世話になったものがいるということで戻ろうと思ったけれど、大事な人がいるなら、戻らなくていい、ずっとここにいれば、と言うことになったので、別れを惜しみながらもみんなを見送った。


 その後、陽斗と私の家を片付け、荷物を引き払い、覇紋さんの家に引っ越すことに決めた。荷物はそこまで多くなかったけど、陽斗の遺品や思い出の品なんかが多くて捨てられないものが多く、大変だった。


 そうして、2週間くらいかけて、引っ越しが終わった。その後、手続きなどを経て、私は、鷹之町第二高校の教師として赴任することになった。幸いにも陽斗と結婚する前の大学時代に教員免許だけは取っているので、問題はなかった。担当教科は英語。





 もう、8月の下旬、学校の始まりまであと少しと言う時期だし、鷹之町はよく知っているけれどその周辺の地理には疎いので、せめて学校が始まる前に、鷹之町、八鷹、三鷹丘くらいは知っておいた方がいいかな、と周辺を1人で散策してみることにした。もちろん覇紋さんには許可を取っている。


 バスや電車を少しだけ利用して、三鷹丘にやってきた。三鷹丘市は、三鷹丘学園などの大きな学園や企業などがあって、また、鷹之町市に近いこともあって、外国人留学生や外国人経営者などが多いことも特徴。この辺は、覇紋さんのテリトリーではないらしいけど、チーム三鷹丘と言うグループのテリトリーだから、よほどの馬鹿でない限り、大事を起こさないと言っていた。鷹之町は微妙にそのテリトリーの外であり、そこに根を張っている篠宮、九龍などの家が一応テリトリーとしていたが、今はその両家がチーム三鷹丘に加入しているために、手薄らしい。

 今回のような邪神の復活のような異世界からの危機も、三鷹丘市内なら「龍神」と呼ばれる存在が、時空間の移動の揺らぎを感知しているので起こりえないそうだ。


 そんなことを考えながら、三鷹丘市内を散策する。市内と言っても実際、全体的に広いので、市街地や中心地だけを重点的に回ることにしている。簡単に言えば、三鷹丘中央総合病院とか三鷹丘市立図書館とかその辺のこと。


 ゆっくりと、図書館の方へ向かって歩いていると、前から朱色の髪をした女性が歩いてきた。どうやら三鷹丘学園へと向かっているようだ。この道は、私と逆方向へ進めば、ほぼ三鷹丘学園への一本道。無論、その途中に家があったり、別の目的地があるかもしれないけれど。


 私がその女性を見ると、女性も私の方を見た。邪神復活の際にあらゆる赤に染まった髪は、今や元の桜色に戻っている。まあ、珍しい髪色だから見られてもおかしくないとは思っていた。だが、その視線は、どこか、髪の色を見ているというよりは、私の顔と雰囲気を見ているようにも感じた。


「なるほど、貴方も、また……。この地には何があるというのでしょうかね、【無窮(てんり)】さん」


 私ではなく、誰か別の故人に話しかけるように彼女は呟いた。この女性が何者なのかは分からないが、どうやら一般人ではない、と言うことだと思う。そして、その女性とすれ違い、そのまま別の方向へと足を進めた。


 三鷹丘市立図書館。かなりの蔵書を誇り、とりあえずよほど珍しい専門書でなければ、一般文学から参考書、ライトノベル、就職試験用問題、絵本などが多く置いてある。現在、棚に並べられているのは、入って右手に読み聞かせコーナーなどもある絵本が並べられていて、その奥にライトノベルや児童向けの本など。夏休みももう終わりだが、その名残だろうか、「夏休みの宿題に最適」と書かれたコーナーや「読書感想文のための課題図書」と書かれたコーナーなどもある。入って左手には一般文学書が並べられていて、その奥に専門書コーナー。カウンター前には雑誌や新聞、カウンターの横にはDVD視聴スペースがある。

 鷹之町市立図書館と比べると広くて、入ってすぐに階段があり、そこを上がれば休憩スペースもあるし、そのまま公民館にもいくことができる。なお、鷹之町市立図書館にはパソコンコーナーはない、検索用のパソコンが数台置いてあるだけだが、三鷹丘市立図書館には、パソコンも完備されているようだ。尤も、鷹之町市立図書館は隣接するように公民館があり、そこにあるパソコンを使うことができるので不便はしていないらしい。

 学校にある図書室の蔵書も、課題などに対して十分でないこともある。今の時代は、簡単にインターネットで検索できるため、特に不自由することはないが、時には専門書籍に頼らなくてはならなかったり、インターネットでお勧めの本や乗っている本が紹介されているだけだったりしたときに必要だから、これだけ充実した図書館があるのはいいことだと思う。


 三鷹丘学園と鷹之町市の高校では、図書館の蔵書の数的に言えば大体同じくらいだと言われている。尤も、三鷹丘学園は生徒のニーズに合った専門書などが中心らしく、難しい本も多いんだとか。一方の鷹之町市の高校は乱立している理由にも繋がるが、他の市と比べて空港と言う大きな収入源があるために、結構潤っていて、確か、当時一台200万くらいするタッチパネル式大型ディスプレイがとある市立中学校全クラスに配布されたとか。そう言った経緯もあって、立て直しや耐震補強、免震補修などをしても余った分の金が様々なところに流れて本なども潤った。で、小中学校でいくら本があっても、昨今は本離れが激しくなっていて、誰も読まないということから、高校生が読んでも不思議ではないような一般書籍は高校の方へと無償寄付された、と言う経緯があるそうだ。これは、これから先にお世話になる学校について調べたときに知ったもの。

 つまり、鷹之町にある高校には小中学校から流れてきた一般書籍が多くなるということ。だから、鷹之町系列の高校生は調べごとに図書室よりも図書館を使うので、こうして図書館を見て回っていた。


 図書館はもういいだろう、と次は鷹之町中央総合病院へと向かった。大きな病院は、普通の病院とは違って、総合病院である。内科、外科、眼科、産婦人科、耳鼻科があり、緊急の怪我人や大けがをした場合は大抵、ここに回されるそうだ。鷹之町市での急病人がここに運ばれるのはしょっちゅうで、ドクターヘリなどもあるために、少し遠方で起こった災害や事故などの病人が運ばれることもあるらしい。生徒がここの世話になる可能性も考えて見に来たが、大きな病院過ぎて、どこに何があるのかが分からなくなりそうだ。


――トン


 病院の前で病院を見上げていたら誰かにぶつかってしまったらしい。急いで謝らないと、と思い頭を下げる。


「す、すみません、ちょっとぼーっとしてて」


 私の言葉に、ぶつかった相手の女性は、ニコリと微笑んで、何も問題がないですよ、とでもいうように言う。


「ええ、お気になさらずに。私も大きな病院で驚いていて対して前を見ていなかったから」


 その女性は、どこか不思議な雰囲気を纏った高校生にも見える女性だった。服装からして、おそらく高校生ではないのだと思うし、高校生にしては大人すぎる対応だ。


「しかし、やはり、ここにはもう、いないようですね。ドラグナー」


 女性は私にペコリと頭を下げると反転してとっとと帰路についてしまった。その振り返る一瞬で、目が真っ赤に光を上げたような気がしたのは気のせいだろうか。


 まあ、いい。私もそろそろ病院を去った方がいいだろう。用もないのにうろちょろしていても迷惑だろうから。そう思って、次はどこへ行こうかと考える。

 三鷹丘学園を少し覗いてみよう。そう決めて、歩く。鷹之町中央総合病院から徒歩で15分くらいだろうか。住宅街を抜けるとそこに、大きな学園があった。鷹之町第二高校とは比べ物にならないくらいの広さ。流石に響乃学園ほどとまではいかないけど、十分に広い学園だと言える。

 流石に、無関係なものが中に入ることはできないだろうと思い、外周を一周して、そして、そのまま鷹之町へと向かう。


――ふわり


 桜色の髪が風に揺れた。でも、それは私の髪ではない。その髪は目の前を歩いてくる女性の髪。私と同じ桜色の髪をした三鷹丘学園の制服を着た女生徒。


 凄いこともあるものだ、と思いながら、すれ違う。桜色の髪の女生徒、覇紋さんに後で聞いた話によると、彼女は市原裕音さん。三鷹丘学園生徒会長だそうだ。そして、私と同じ朱色の……

(訂正)

話数表示が249話になっていたので259話に修正しました

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