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《神》の古具使い  作者: 桃姫
覇紋編 SIDE.D
253/385

253話:遺品

SIDE.HARUE


 私たちは、学園の敷地内を歩く。なぜか無駄に広く、道に迷いそうではあるんだけど、案内の2人のおかげで、まっすぐに学生寮へと向かっているらしい。ここで陽埜ちゃんに会って、ラニィさんの遺品を回収すれば、とりあえず一段落ってことになる。


 それにしても大きな学園。広いっていうよりも広すぎるってくらいだし、絶対にここの生徒は困ってると思う。棗君は、「右手にあるのが業務塔です。棟ではなくて塔なところが見た目をあらわしてますよね」と言って建物を紹介する。


 その言葉通り、業務塔と呼ばれる建物は塔のようにそびえたっていた。おそらく業務塔と言う呼称から職員たちの仕事場なのかと思ったけど、「あそこには色々な店が出店しているんです。大きな購買部、みたいなものですかね」と言っていたので、きっとそうなのだろう。なお、逸話として「なぜか、そんな事実は全くないはずなのに、鬼が出る、って七不思議があるんですよね。陳列棚が切り倒されるとかそんな噂が」と言う話があるらしい。


 次に「左手に見えるのが部室棟。様々な部活の部室があそこにあるんですよ。文化部なんかはあの中で活動しています。更衣室やシャワー室もあるので、部活終わりはあそこに人が集中するそうですね。僕は、まあ、無所属ですから」と笑って紹介された。

 大きな建物で、部屋がいっぱいあるのが窓の数で分かる。どれだけの部活があるのだろうか、と考えたが、分からないことを考えるのはやめた。ちなみに、「有名な部活動は……と言うか人数的には部活になってもいいのに一向に部活になる気配がないんですが《響乃歴史研究会》ですかね」と言ってた。真面目な部活が有名とは流石で、壁新聞とか歴史的な発見でもしたのかと思いきや、ものすごく言いづらそうに「あそこは、別名、百合(ゆり)の花園と言いまして、まあ、はい」と言葉を濁していたがそういうことなのだろう。


 その次が、「これが学生寮です」と簡素な説明をされたが、ここが目的地である。男子寮なのか女子寮なのかと聞くと、「ここは、男女寮が混合で階分けもされてません」と言われた。なぜなのかと聞いたら覇紋さんが「昔女子校だったせいで、無駄に広いからな。部屋は全て個室で、シャワーもトイレも完備だから分ける必要性もなかったのだろう」と返してくれた。


 と、言うわけで、現在、学生寮のエントランスにて、陽埜ちゃんを待っている状況である。覇紋さんが連絡済だから、しばらく待っていれば来るらしい。エントランスは、よくある感じの広いエントランスホールでここが学園の寮だとは信じられないくらい。高級なマンションとかホテルとかそんなレベル……といっても学生寮なのでシャンデリアや華美な装飾はない。ただ、そこがまた高級感、良いものである、という印象を強めている気がしないでもない。1階はホールとエレベータばかりで別に部屋はなさそうなので、おそらく2階からが寮生の部屋なのだろう。そんなことを考えていると、エレベータの扉が開き、中から学生と思しき人が出てくる。


 皆、どこか気品溢れるお嬢様のような人やどこかのお坊ちゃまのような人ばかりで、場違いなところにいる、と言う思いが強まって、居心地が悪かった。覇紋さんや棗君、希鞠さんはまったく気にしていないようだけど、ファーランドさんはやっぱり居心地が悪そう、と言うか私よりも居心地が悪そうな感じだった。まあ、私ですらまだ20代ですけど、ファーランドさんは30代ですし、そもそも異世界と言うだけでも居心地が悪いのに、この上学生寮で、しかも高貴そうな感じともなれば、それは、まあ、居心地が最悪でしょう。


 流石は金持ちばかりの学園。と、そんなことを考えていると、再びエレベータの扉が開いて、中から見知った顔の女性が出てきた。間違いない、あれは陽埜ちゃんだ。

 学園の制服を着ているのは、なぜかは分からないけれど、まあ、とにかく数年でそこまで容姿に変化はないので普通にすぐに分かった。


「覇紋、久しぶりね。それと、……あら、棗じゃないの。どうしたの、生徒会の用事でもあるの?」


 棗君は生徒会らしい。そして、ジロジロと、私たちを見回していく。私のことを見ると、視線を少し彷徨わせていた。


「それで、そちらの男の人がラニィの親族と言うことでいいのかしら?」


 ファーランドさんのことを見て、陽埜ちゃんがそう問いかけた。覇紋さんと私がそれに対して頷く。


「ああ、彼がラニィ・エル・リークスの兄、ファーランド・エル・リークスさんだ」


 覇紋さんの紹介に、陽埜ちゃんは、興味深そうにファーランドさんを見ていた。そして、とりあえず、ここに固まっていても邪魔だろうという話になり、仕方がないので、陽埜ちゃんの部屋に移動することになった。寮は9階建てで、陽埜ちゃんの部屋は410号室だった。なお、棗君の部屋は401号室で、ちょうど真ん中にあるエレベータホールを挟んで反対にある。


 希鞠さん曰く「401はPPというか、訳あり筆頭の御用達の部屋になっているみたいで、叔父もその部屋でしたね」と呟いていたことから、彼女の叔父さんもこの学園に通っていたようだ。ただ、部屋割は偶然だから、本当に偶然「401号室」に集まっていると覇紋さんが言っていた。


 そして、扉を開けて410号室の中に入る。扉は妙に厚く、頑丈そうだった。また、室内も寮とは思えないくらいに広い。普通にホテルの一室なのではないか、と思うくらいには広く、また、内装も凝っていて、エントランス同様華美ではないが、普通に良いものだと分かる。やはり、金持ちの通う学園なのだろうということを納得させられる。ただ、覇紋さんの話では、そこまでお金持ちではなくとも入学することはできるらしく、学力が高ければ学費も免除になる。それこそ、生徒会に所属していればかなり免除されるらしい。


「適当に座って。1人部屋だから対して座る場所とかは用意できないけど、まあ、その辺は勘弁して頂戴」


 陽埜ちゃんはあの頃に比べて、見た目はほとんど変化がないものの、どこか枯れたように、そして、口調も少し乱暴に変わっていた。まあ、仕方がない子とかもしれない。兄が死んだとなれば、相当心に来るものがあるだろう。それが普通と言うものだ。


「今、ラニィの遺品を持ってくるから、ちょっと待っていて」


 そういうと、陽埜ちゃんは、別の部屋へと言ってしまう。別の部屋、と言っても、簡単な仕切りがあるだけの空間で、所謂物置場みたいなものなのだろう。隔ているのも、簡素な壁で備え付けとは思えないから陽埜ちゃんか、その前に使っていた人が取り付けのだと思う。座る場所もあまりないので、私は立っているが、他の皆は、覇紋さんは椅子に、ファーランドさんは床に、棗君は壁に寄りかかるように床に、希鞠さんはベッドに、座っていた。


「これよ、これ」


 そう言って、段ボール箱ごと陽埜ちゃんが持ってきた。中には色々入っているようでガサガサと音を立てている。段ボールが床に置かれると、陽埜ちゃんがゆっくりそれを開けた。中には、ごちゃごちゃとものが雑多に詰め込まれているだけ。陽埜ちゃんはすぐに隣の部屋に消えて、もう1つ段ボールを持ってきた。それを繰り返すこと3回、5つの段ボールが床に並べられる。


 陽埜ちゃんが段ボールからいろいろなものを出し始めた。薄汚れた白衣が3着、ところどころに傷のついた防眼ゴーグル、真新しいけれど旧式のスマートフォン、読み古した医学書や歴史書、下着類から私服類などの衣服、向こうの世界で着ていたと思われる服、それから異世界の文字でつづったメモ帳など。


「この字、間違いない。ラニィの物だ」


 そう呟くファーランドさん。そして、そこに陽埜ちゃんが一枚の写真を差し出した。その写真には、私によく似た白髪の女性と陽斗、そして陽埜ちゃんが映っていた。どうやら幼いころの写真のようだ。仲睦まじく肩を寄せ合うその様子は、とても愛らしいもので、そして、今は、もう、この写真のように肩を寄せ合うことができないのだと思うと、陽埜ちゃんの心中も察せた。


「ああ、ラニィだ、間違いない。この笑い方、少しぎこちない、笑い方。母さんによく似ている。感情の出し方が上手く分からず、ぎこちない笑みを拙く浮かべる。本人だ」


 そう言って、写真を見ながら涙を流すファーランドさん。その様子を見て、棗君も希鞠さんも少しウルっと来ているようで、私も思わず泣きそうになってしまいそうになっている。そんな中、私は、ふと、気を紛らわすために、視線をメモの方へ向ける。何か書いてあるのではないだろうか、そう思って見た、そのメモで、私は言葉を失った。


「こ、これは……」


 私は、その内容に戦慄していると、陽埜ちゃんが、ファーランドさんに計らって距離を取っていたので偶然近くになってしまった。そのために、陽埜ちゃんが私の手元を見て、そのメモについて説明をしてくれる。


「ああ、それは、大事なことが書かれている、ってラニィが言っていたわ」


 そう、それは、本当に大事なことが書かれていた。大事すぎる内容がゆえに、思わず、目を見開いて、固まってしまいそうな、そんな内容。


「そんな、これが事実なら……、でも、そんな、そんなわけが……600年も前、ですよ……?!」


 私の小さな叫びに、思わず、全員がこちらを見ていた。ファーランドさんすらもこちらを見ている。


「どうした、君がそんな声を荒げるなんて」


 そう、覇紋さんに問われ、私は、メモに書いてあった内容を答えた。


「ラニィさんは、戦時中の事故でこの世界に来たのではありません。元老議会の1人の手によって、この世界への転移の実験台にされたのです。そして、私の転移も元老議会の方が原因の可能性が高い。メモには、いずれ、この世界の物を向こうの世界に送ることを考えている可能性もある、と書いてありますしね。

 戦時中を選んだのは、いなくなっても戦争で亡くしたということになるから、そして、私の場合は、転移したところで戦争に巻き込まれて死ぬ可能性が高いから、と言うことでしょうね」


 そこまでで、皆がだいぶ……特に蚊帳の外の状態の棗君と希鞠さんの顔がなに言ってんだコイツ、と言う顔になっていた。しかし、事体を飲み込んでいる覇紋さんとファーランドさん、陽埜ちゃんは、今の状況についてだいぶ深刻な顔をしていた。けれど、そこはまだ、問題じゃない。そう、問題はここから。


「問題は、その元老議会の1人の名前、その人物の名前は、この世界の歴史にもその名前があります。600年ほど前のフランスで処刑されていますが」


「600年前のフランス……100年戦争か?!しかし、処刑と言えばジャンヌ・ダルクだろうが、彼女が?」


 覇紋さんがそういうけれど、メモにある名前は違う。


「いいえ、違います。その人物の名前は、ジル・ド・レです」


 私はきっぱりとそう言った。その人物がどういう人物であったかはメモに明確に調べたであろうことが記されていた。

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